Nathan Haines JAPAN LIVE Blue Note TOKYO 2001/09/29 ネイサン・へインズ (Sax,Fl,Vo) バネッサ・フリーマン (Vo) マーカス・ベグ (Vo) サイモン・コラム (Key) キャメロン・アンディ (B) ダニエル・クロスビー (Dr) ウィリアムス・カムババーク (Per)
M1: William's Song M2: Sound Travels M3: Illest Hobo M4: Long M5: Impossible Beauty M6: Wonderful Thing M7: Surprising M8: Aqua de Berbe |
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| “モダン・ジャズ・フュージョン”
ちょっと聞き慣れないこの言葉を自身の音楽コンセプトにしているサックス・プレイヤー、ネイサン・ヘインズが、秋の気配が深まる東京に降り立ち、ブルーノートのステージを踏んだ。これが彼の初めての来日公演。正直なところ、日本ではそれほど馴染みのないアーティストだと思っていたのだけれど、会場はしっかり満員。しかも、何やら熱い空気に包まれている。いや失礼いたしました。ジャズ通の人にとっては、かなりの注目株なのだということを実感。
ジャズ・ミュージシャンの父親の影響で、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンらの音楽を聴いて育ち、15歳の時にはジャズ・グループを結成して演奏していたというネイサン・ヘインズは、ニュージーランドの出身。ここから彼は、本場の空気に触れるためにニューヨークへ、そしていったん帰国してアルバム・デビューを果たすと、今度はその作品が好評だったロンドンに移り住み、現在まで活動の拠点としている。
この身のこなしの軽さ、バイタリティーの旺盛さは、やはり若さゆえ(まだ20代らしい) さらにそのロンドンにおいては、クラブ・シーンをリードする多数のクリエイターとコラボレイト。こうして独自のスタイルを築き上げたネイサン・サウンドの最新型が、6月にリリースされた2ndアルバム『サウンド・トラベルズ』ということになる。
それにしてもネイサン・ヘインズ、間近で見ると、写真以上にルックスがいい。仕立ての良さげなジャケット&パンツと細めのネクタイに身を包んだスレンダーな体に、知的で甘いマスク。その佇まいは、レディオヘッドのトム・ヨークをもっと渋く、紳士にしたような感じだ(想像つきません?)。
この日はやはり、『サウンド・トラベルズ』からのナンバーを中心にパフォーマンスされたのだけれど、とにかく目を(耳も)引いたのが、ネイサンがサックスに加えてフルートをも自在に操り、さらにはヴォーカルもできること。もちろん情報としては把握してはいたものの、実際に目の当たりにしてみると、やっぱりこれはスゴい。だって、1曲の中でサックス~フルート~ヴォーカル~フルートというふうに、ひとりパート・チェンジを何度もしちゃうのだから。そして、サックスでは血が脈動するような熱いヴァイブを、フルートでは繊細でエモーショナル、かつ空に舞い上がるような高揚感を、ヴォーカルではクールで透明感のある静謐な世界をと、それぞれでオリジナリティあふれるサウンドスケープを描き出してみせるのだ。これを生で体感すると圧巻。オーディエンスもその多彩なグルーヴに気持ちよく身を委ね、歓喜のレスポンスを返す。何ともホットで美しい光景だ。
ベネズエラ出身のパーカッショニストが叩き出すアーシーなビートと、キーボード(エレピ)が紡ぎ出すキラキラと瑞々しい音の波の上を、鮮やかに泳ぐネイサンのサックスとフルート、そしてヴォイス。それらが溶け合ったバンド・サウンドはスタイリッシュでハイブリッドだけれど、黒人ヴォーカリストを男女ひとりずつ加えての歌には、屈強なソウルとファンクが宿っていた。そう、彼らが鳴らす音楽は、洗練された都会の街並みも、雄大な大地も、まばゆい水辺の風景も、すべて映し出してしまうのだ。
“モダン・ジャズ・フュージョン”。ジャズというカテゴリーの束縛から解放された、自由でクールで近未来的なネイサン・ヘインズの音楽は、ジャンルを越境した新しいポップ・ミュージックとして、シーンにフレッシュな風を吹き込むことになりそうだ。 文●鈴木宏和 |
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