新作『DR.YS & THE COSMIC DRUNKARDS』に込められた“宇宙の酒飲みたち”的思想とは…?
新作『DR.YS & THE COSMIC DRUNKARDS』に込められた “宇宙の酒飲みたち”的思想とは…? |
みうらじゅんの事務所に勤務しつつケンイシイの薦めで送ったデモテープがきっかけでベルギーのR&S傘下の「アポロ」レーベルから世界デビュー。以来、英NME誌で絶賛されるなどワールドワイドな評価を得る一方で、ポパイ、GROOVE、週刊アスキーなどでの文筆業から、パパパパフィー、タモリ倶楽部等のテレビ出演までマルチな活動をこなすDr.YSことサワサキヨシヒロ。 その破天荒なキャラクターは、例えばバリバリにテクノなクラブイベントでアメリカンロックや歌謡曲をかけてしまうといったDJスタイルにも象徴されるが、どんな活動にも真剣に取り組むのが真情である。 そして待望の新作『DR.YS&THE COSMIC DRUNKARDS』は、ファンタステイック・プラスチック・マシーンからクリス・ペプラー、あげくの果てはファンファン大佐こと岡田真澄まで、多彩なゲストを招きつつサワサキ氏の空恐ろしいまでの才能が爆発した快作である。これまではテクノ、ドラムンベースのイメージが強かった氏だが、今作はそんなジャンル分けもぶち破る唯一無比のドランカーズ・ミュージックの完成形といえるだろう。 |
サワサキヨシヒロ 「The Theme From The Cosmic Drunkards feat. 岡田眞澄」 のプロモーション・ビデオが観られます
| ――今回、ゲストが多数参加してますが、これはどういう経緯で? サワサキ: もう、何か、呑ん兵衛たちと言うか、要するに飲んだことある人たちをみんな呼んで来て(笑)、その人のとこに行って音録ってきた感じです。冗談で「100人参加にしよう!」とかむちゃくちゃ言ってて、まあ結局100人には満たなかったんですが。ただ、ゲストの音を録ってそのまま使うっていうよりも、一回持って帰って来てサンプラーで自分なりに加工したものをプログラミングして使ってるんですけどね。でも、やっぱりみんなミュージシャンだから個性は出るんです。ちょっとずつ、ほんのワン・フレーズをとりだして使ったとしてもフッと出るんですよね。 ――逆にそれだけキャラの強い面子がサワサキさんの元に集まったってことですね。 サワサキ: そうかも知れません。やっぱりギターウルフの「アチャー!」にしても、あの「アチャー!」は普通の人にはなかなか出せないし。あの「アチャー!」はセイジでなければダメ。だからこそすごいと思う。 ――あれはどんなシチュエーションで録ったんですか? サワサキ: こちらからハードディスクレコーダーを持ちこんで録ったんですけど、ちゃんとギター弾きながらやってもらったんです。差し出したマイクに向かって「アチャー!」って叫んでもらって。彼ら本当に気合入れてやってくれはるから(笑)。その「アチャー!」が出た時は「すごい、これはハマる!」と思って。で、ギターの部分は今回は使ってないんですけどまた別の曲で使おうと思ってます。 ――曲にあわせてプレイした訳じゃなくて、とにかく「自由にやってよ」みたいな感じだったんですね。 サワサキ: そうですね。例えば、3曲目(「爆弾魔と射撃手と占星術師」)はギターがいっぱい入ってて、それはAhh! Folly Jetの高井ちゃんに弾いてもらったものなんですけど、この曲のモチーフとなるループを10分ぐらいハードディスクに録って、それを高井ちゃんとこに持って行って、好きに弾いてもらったんです。そこからさらに自分がフレーズをサンプリングして再構築していった。だから仕上がりの音は本人からしたら「こんなフレーズ弾いたかな?」みたいな感じだと思いますよ。でもやっぱり正しく高井ちゃんのギターですよね。その辺はいろいろいじってもみんな個性は出るなあ、と思います。 ――ゲスト・ミュージシャンというと、レコーディングスタジオに招いて「じゃあお願いします」みたいなイメージがありますけど、それとは全く違って。 サワサキ: そうそう。ハードディスクレコーダーを持って出かけて行って、テレコ感覚で録って。リキッドルームとかでイベントをワーッてやってて夜中ベロベロの時に、俺がハードディスク持ってって「何かひとこと」「ウワーッ!」「はいオッケー、ありがとう、はい参加」とかそういう感じ(笑)。そういう、ドランカーズ思想と言うか。 ――そういう意味じゃサワサキさんはプロデューサーっていうか、囃し役的な意味合いも強いかも。 サワサキ: あっ、そういう場面ではそうかも知れませんね。「これでどう?」「いや、もっと飲んだ方がええ、飲んだ方がええ」っていう(笑)。その空気を録る、っていう部分では大きいかも。 ――フレーズうんぬんじゃなくて空気感が大切…。 サワサキ: うん、フレーズも込みで、すべて込みですよ。そういう部分が大きいと思いますね。 ――岡田眞澄さんもそのようにして来られたんですか? サワサキ: 岡田さんは違いますね。これは、曲がもう完璧に出来てた。で、仮歌とかも入ってて、そこで誰に歌ってもらおうかと思って、ゴージャスな雰囲気にバッチリハマる人いないかっていうところでいろいろ探してて。その時ファンタスティック・プラスチック・マシーンの田中知之さんも入ってミーティングしてくれて、そこで岡田眞澄って名前が出て、じゃあダメもとで頼んでみましょうかって感じで。 ――岡田さんというと俳優っていうイメージが強いですけど、歌も声が良くて上手ですね。 サワサキ: ミュージカルもやってはるからね。それにユーミンのアルバムでデュエットをしてて、声がすごくいいのを知ってたから絶対ハマるだろうなって思ったら、そのとおりだった。やっぱり人間、フェロモンみたいなものが出ますよね。 ――昔、青山通りで見かけたことがあるんですけど、革のロングコートを着てモデル風の外人女性と歩いてて“さすがに雰囲気違うなあ”と思いました。 サワサキ: もう、フェロモンが違いますね。普段もイメージと違わない感じで、大らかだし女性にもすごく気を遣う。プロモ・ビデオに出演してもらった時にもダンサーの女の子がいっぱいいたんですけど「照明大丈夫!? ちょっと熱いんじゃない?」とか声かけてて“ダンディやなあ、すごいなあ!”と。人間、フェロモンって大事ですよね。そこですべてきまっちゃう。 ――そういう意味では、今作はそれこそゲストの方のフェロモンが最大限に活かされた作品って感じがしますね。 サワサキ: そうそう、だから、うまく使わせていただいて、ってとこですね。でも、それに負けない自分なりの表現は出してるつもりですけどね。 ――サワサキさんがすごいのは、そういうユニークな試みにトライしても、どの曲も音楽的に完成度が高くてガッチリ構成されてる点だと思うんです。 サワサキ: いや、ちゃんと音楽的にやりたい気があるし、かと言ってグチャグチャにアヴァンギャルドなこととかも嫌いではないんです。バランス次第ですよね。だからモンド・ポップスとか、アクのないポップスばかり聴いてる人にとっては、かえってアクがあるのかも知れないし。 ――でも、凝ったコード進行とか、ポップスとしても通用する高い音楽性がありますよね。そこが他のDJ出身のアーティストと違うところかなと。 サワサキ: クラブ系ってところを通過はしてるんだけども、まあその前にバンドとかもやってて、プログレも好きだしアメリカン・ロックも好きとかあったからかもしれないですね。そういう部分を、いろいろ通過した上で出したかったから、DJとしての自分ってだけじゃなくすべて引っくるめて、っていうのはあったかな。フロアー向けだけではないじゃないですか、こういう作品って。でも、クラブに行くような若い人が「サワサキのアルバムが出たから一応買ってみようか」って買って「でも全然クラブ系じゃないよ」みたいな感じで、2、3回聴いだけで部屋の隅に置いといた。それが十年殺しみたいになったらいいなあ、と。あとで「ああっ、このアルバムすごかったんだ!」って気づいて。自分でもそういうアルバムがいっぱいあったから。例えばザ・バンドとか“何か渋いけどダルイなあ”って思ってたけど、いつのまにかむちゃむちゃまた聴きたいと思ってしまうような感じとか。『ホテル・カリフォルニア』とか、タイトル曲以外はそんなに聴かへんなあと思ってても、やっぱり後々、後半の曲とか「こういうことやったんか!!」って発見とかしちゃったりすることもあるし、何かそういうのが見えたらいいなと。かと言いつつもクラブな感じも入ってるし、いろいろ取っ掛かりはあると思うんですよね。 ――こういう音を聴いちゃうと、実はすごくロマンチックな人なんじゃないか…って言うと怒りますか(笑)。 サワサキ: いや、まあそうですね。未来志向、ロマン志向みたいのはありますよ。この21世紀になって…2001年ですよもう。花のワルツかけながら、宇宙船とかグーッと一周廻さなきゃいけないはずですからねえ。もう、クルマにタイヤなんてついてませんよ。本来だったら、そんな時代になってたはずですよ。僕らが子供の頃は未来に対してのロマンってあったわけじゃないですか。そういうのが、今になってみると全然なかったと。未来が未来じゃなくなった。『エヴァンゲリオン』みたいな感じ(笑)。あれはあれでおもろいんだけど、子供が観てロマンもなくてそんな現実を直視されてもなあ、みたいな感じでしょう? 結論は何やねんって言ったら結論も何もなしにしてしまうような、すっきりせえへんみたいな。まあそういう意味で今は『銀河鉄道999』とか『宇宙戦艦ヤマト』の時代じゃないんですね。あれがええんか悪いんかとか言われたら分からへんけども、希望に向かって歩いて行くとか、世の中に布石を打って行くとか、そういう一歩一歩進む感じって大事じゃないですか。 ――サワサキさん的にはクルマがピュンピュン飛び交う未来で鳴ってるであろう音、ということなんですか? サワサキ: いや、そういう具体的なのはないんですけども、宇宙に対するワクワク感というか「他の星に生命がいた!」みたいな感じ。あの、ペリー来航ってありますよね。日本が鎖国しててペリーが黒船で来て「はい、地球時代ですよ」ってなった訳じゃないですか。それが21世紀は、UFOがある時バーンと来て『未知との遭遇』みたいに宇宙人がバーッと降りて「はい、宇宙時代ですよ!」みたいになるかも知れないですよね。宇宙人がそれこそ高円寺辺りの飲み屋とかに来て「アンドロメダから来ましたぁ!」とか言って「あー、日本の酒飲め飲め、これは“一の蔵”ってやつや」とか言って。宇宙人は宇宙人で「アンドロメダの酒持ってきました。口に合うかどうか分かりませんが…」ってそういう時代があるかも知れない。それはめちゃめちゃ可能性としてある。いや、なると断言してもいい。そうなって来ると、いろんな価値観が変わって、新たな楽しみも出てくるし、まあいざこざもあるかも知れないけども、もしかしたらアンドロメダのおねえちゃん、めちゃめちゃキレイかも知れない。そのおねえちゃんを引っ掛ける音楽とかDJもやらなきゃいけない訳ですね。“COSMIC DRUNKARDS”っていうのはそういうことなんですよ。そこまで話が広げられるって言うか、いろいろ浮かんでくる訳です。“宇宙の酒飲みたち”っていうテーマから。 文●尾田 和実(00/12/11) |
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