ドリーミーなブリットポップと奇妙なフレンチテクノが全盛の今日、インディーズ系ロックの生き残りに疑いを持つ者はDinosaur Jr.の創始者でフロントマンでもあるJ. Mascisのニューアルバムを少しでも聞けば、多少は信念を取り戻せるかもしれない。マサチューセッツ州出身の伝説的ロッカーは、自身の古くからのあだ名を冠した親しみやすい名前のグループ、J. Mascis & the Fogを率いて、抵抗しがたいメロディとノスタルジックなギターリフにウォール・オブ・サウンド的なパンチを加えたのである。My Bloody ValentineのKevin Shieldsの協力を得てレコーディングされた新作『More Light』は、現時点におけるMascisのベストアルバムであり、初期からのファズ&グラインド的サウンドをうまく継承しながら、それを完全に成熟させ正確に実行するインディーズポップへと変換した。あいまいな形のまま忘れ去られようとしていたこのジャンルをどうやら寸前のところで救済できたようだ。 『More Light』をサポートするツアーでロサンゼルスのTroubadourに出演したMascisは、MinutemenのMike Wattをベースに、長年の協力者であるGeorge Berz(彼はDinosaur Jr.の『Where You Been』でタンバリン奏者としてデビューした)をドラムスに迎えてライヴを展開。インディーズポップの復活が間もないことをさらに証明してみせた。こうした才能ある旧友に助けられたMascisは、Creamの全盛期以来絶えて久しかったタイプの、留まるところを知らないパワートリオの底力を結集させてみせたのである。 Troubadourでの2晩の初日をこのうえなくラウドでエネルギッシュな解釈による「So What Else Is New」でキックオフさせたthe Fogは、高いレベルでスタートを切ってそれを維持し続けるという素晴らしく熱狂的なセットを展開した。『More Light』からの強力なカット(「Ammaring」「Back Before You Go」「Same Day」)を数多くフィーチャーしたほか、「The Wagon」「Repulsion」といった名曲を含む90年代前半におけるDinosaur Jr.のスラッカー賛歌を適度の織り混ぜていた。 しなやかな長髪の陰に隠れたMascisは、いつものように執拗なまでの静かさを保ちながらホットなフレーズを繰り出し、Berzは陽気な無鉄砲さでドラムを叩きまくる。WattはMinutemanのナンバーでブリブリいわせたほか、Iggy Popの「TV Eye」をパワーアップしたバージョンでは、ランバージャック(木こり)・ハードコアの王者として鳴らした頃に培った自信とエネルギーを漲らせてヴォーカルを担当した。 ショウ全体を通じてMascisは、これまでの彼の作品の中でおそらく最も一般受けしそうな最新アルバムから、最もキャッチーなナンバーを確実に選んでいた。しかし彼は、そうしたクリーンでポップなキーボード主体の作品(「Ground Me To You」「Waistin'」)を、彼自身がいつもからかっているオールドスクール型のロック大作っぽく変貌させていた。 このショウのクライマックスが、Funkadelicが'71年にリリースした『Maggot Brain』のタイトル曲のカヴァー、しかもエクステンデッドなバージョンであったことは疑う余地もない。Mascis & the Fogはこのグルーヴィな傑作を、3人組の白人男性としてはこれ以上望めないくらいのソウルを結集させて演奏したのである。セットが終わるころには観客のなかにいた頑迷なDinosaur信者たちも称賛の叫び声を上げ、ビートに合わせてヘッドバンギングを行なうほどであった。たしかにインディーズ系ロックはようやく救済されたようである。 |