凄みを増した新作で戻ってきたメロディックロックの雄
凄みを増した新作で戻ってきたメロディックロックの雄 |
Fastballがプラチナを突破したラストアルバム『All The Pain Money Can Buy』をリリースしてからの2年間に、ポピュラー音楽の世界ではいくつかの重要かつ一部の人々にとっては混乱させられるような変化が起きていた。 テキサス州オースティン出身の3人組が商業的なブレイクを果たした前作のフォローアップ作に取り掛かるために隠遁していたとき、白人ラップメタルバンドの大軍とティーンポップのセンセーションがチャートを席卷したのである。 古き良きメロディックロックは供給不足に陥ってしまった。ラッキーなことに、Fastballがぴかぴかの新作『The Harsh Light Of Day』を引っ提げて戻ってきた以上、その状況にはピリオドが打たれた。 問題なのは、このバンドの復帰がポップシーンの光景を再び変えるのに何か役立つのかどうかということである。 マンハッタンにある瀟灑なレコード会社のオフィスに陣取ったギタリスト/シンガーのMiles Zuniga、ベーシスト/シンガーのTony Scalzo、ドラマーのJoey Shuffieldは、賢明にもその点に関する明言は避けたが、現在のアメリカのヒットメーカーたちについて意見があるのは確かなようであった。 「チャートを支配している新世代の連中にガッツがあるとは思えないね」とZunigaがコメントする。 「Vanilla Iceのことを思い出させるんだ。まるで誰も親権を主張したがらない継子みたいさ。みんなが“俺はアイツはきらいだった、レコードなんて買ったこともない…”って言うようなね」 Scalzoが付け加える。 「みんなが否定したり、笑いものにしたりしてるけど、何年も経ってから“ほんとはね、実はBay City Rollersに熱中してたのよ、告白するけど!”なんて言うのさ。将来になって同じようなことがずっと大規模に起きるかと思うと非常に悲しいね」 「可処分所得で消費される使い捨ての音楽と呼んでいるんだ」 ZunigaはBackstreet Boysや'N Syncといったアーティストについてそう言った。 「彼らの音楽を聴いている人々の大半にとって大きな意味は持っていないのさ。もちろんティーンエイジの女の子には、大きな意味があるんだろうけどね。だけど、1週間で150万枚とかのレコードを売るほど、10代の少女は数多くいないから、他の人々がそうしたアーティストを買っているに違いないんだ。僕が不思議に思うのはそうした人たちのことなのさ」 一方のScalzoは希望を残している。 「中には本物の才能があるいいシンガーがいることは否定できない。彼らが曲作りの技術を会得したらどうなる? 僕たちがBackstreet Boysや'N Syncから誰かシンガーを雇って、自分たちの書いた曲でリードヴォーカルを歌ってもらったらどうなるだろう? 試してみたいね」 Zunigaは否定的だ。 「そんなの売れやしないよ。連中にとっては大幅なキャリアの後退になるだろうな」 「いや、それぞれが個性を発揮して頭角を現わすヤツが出てくるのを見守ろうじゃないか。Robbie WilliamsやMelanie Cの例に見られるように、ブレイクアウトを果たしてりっぱな仕事をしている。イギリスの連中にできるのなら、アメリカでも誰かがやってくれるさ」 そんなブレイクアウトが起きるのを期待するとして、話をFastball自身のニューアルバムに移そう。 前作からのセミラテン風スマッシュヒット「The Way」のような明らかなヒットをフィーチャーしていないという事実は、すでに気の利かないコメントを量産しているという。 「一部の連中から“前のアルバムほど取っ付きやすくないよね”なんて言われてるよ」とZunigaが笑いをこらえながら話してくれた。 「だから“前のアルバムは君が買う前にビッグヒットが出ていたからだよ。それもアルバムの1曲目に入っていたから、確かに取っ付きやすかったわけだね!”と応えてやるのさ」 「完全に吸収するまでに何度も聞かなくちゃいけないというのは嬉しいことなのさ」とShuffield。 「だって、それは長い間ずっと聴いてもらえるということだし、それだけ心に印象が長く残るということだもの」 『The Harsh Light Of Day』が単なる曲の寄せ集めではなく作品全体として聴かれるべきだという意味で、真に“アルバム”と呼ばれる作品であるということを明らかにしておくべきだろう。よく練られた曲順と巧妙な曲間のつなぎによって、アルバム体験の価値は増している。 「アルバムの曲順はA&Rスタッフと一緒に考えた」とZunigaは説明する。 「話し合うたびに激しい議論となって、行きつ戻りつの試行錯誤をくりかえし、すべてをやり直すこともあったよ。実際にレコードになったのよりも自分の好きな曲順があったと認めるのはしゃくだけど、あまりに多くの人が口を出してきたものだからね。実際にはほとんど同じ曲順なんだけど、2曲目は(ファーストシングルの)「You're An Ocean」じゃなくて「Wind Me Up」だったんだ。僕にとっては「You're An Ocean」の方がいい曲だったので、2曲目に何か意味があるとしても、その位置がふさわしいか確信を持てなかったのさ」 うまくできたアルバムの曲順というのは、シングル候補曲を後の方に取っておくべきだというZunigaの信念は、現代の古典ともいうべき名作をチェックしたときに試練を迎えることになった。 「人は間違いを冒すものさ。だから僕は“わかった、(U2の)『Joshua Tree』みたいなのを出して様子を見るよ”って考えたんだ。あの作品は僕にとって芸術面でも商業面でも彼らの頂点だったのさ。だから、僕はアルバムを聴き直して、残念なことに…」、ここで彼は大笑いを始めた。 「ビッグヒットは全部最初の方に入っていたんだよ。「Where The Streets Have No Name」で始まって、続けて「I Still Haven't Found What I'm Looking For」、次には「With Or Without You」と1-2-3なのさ。だから、「You're An Ocean」を2曲目に置いた方がいいんじゃないかと思うようになったのかもね」 Scalzoがメロウなハイトーンでリードヴォーカルを取る快活でフック満載の「Wind Me Up」と「You're An Ocean」の2曲は、こうした優勢ポイントから考えれば少なくとも両方とも勝者である。キャッチーなオープニング曲「This Is Not My Life」、陰欝な「Vampires」、そうぞうしい「Time」のような曲では、もっとざらざらしたしわがれ声のZunigaがヴォーカルをとっている。 これまでのFastballのアルバムと同様に、ScalzoとZunigaが曲作りとヴォーカルの役割を半分づつ担当したが、バンドがロサンゼルスでヴォーカルトラックを録音しているときにScalzoがひどい風邪をひいてしまうというトラブルに見舞われた。 「まったく歌えなくなっちゃって、風邪をひいたまま外へ出かけるのも怖いから、結局は2週間もほとんどホテルの中で過ごすはめになってしまったのさ」とScalzoは回想している。 「僕たちはそこで窮地に陥ってしまったんだ」とZunigaが付け加える。 「いつも僕たちは演奏を先に録音して、後からヴォーカルを入れるんだ。でもTonyの声が出なくなってしまって壁にぶつかったから、もうこのやり方はしないつもりさ。スタジオの時間は予約済みだったから、他に何もすることは残っていなかったんだ。今度からは何曲かは後回しにして、いつでも何か作業をできるようにしたい」 だが、Brian Setzer(マリアッチ風味の「Love Is Expensive And Free」でギターを演奏)や元The BeatlesサイドマンのBilly Preston(「You're An Ocean」に参加)といった何人かのスペシャルゲストと仕事をしたことは、メンバー全員にとって素晴らしい経験だったようだ。 後者の曲についてZunigaは「プロデューサーのJulian Raymondがずっと前から彼を使いたくて、呼びだすことになったんだ。『Let It Be』の屋上セッションに参加していたBillyはとってもクールだった。僕たちは“ワォウ、こんなチャンスは二度とこないような経験をしているんだ”って思ったよ」 「彼はナイスで愉快なヤツだ」、Scalzoが割って入る。 「とってもハッピーなんだ」 「それに仕事が速い」とShuffieldが締めくくった。 Zunigaは言う。 「僕にとって音楽を演奏するのは、アメリカ横断旅行に出るようなものさ。あちこちで足を留めて、さまざまな歴史的な名所をチェックしていくんだ。Billyのような人物とプレイできたのは、そんな経験にも匹敵することなんだよ。自分自身でちょっとしたロックンロールの歴史を書き上げたような気分だね」 ゲストスターによるハイライトの間には、入念なアレンジを施されたストリングスとホーンが随所に配され、全体を通じて様々なムードとスタイルが探求されている。 『The Harsh Light Of Day』は、これまでで最も野心的なFastballのアルバムである。 彼らは「The Way」の成功で手にした黄金のチャンスを活かして、しかも同じことを繰り返すのではなく、より高い芸術的レベルに到達するためにそれを利用した。 「僕たちが為し得たことを一言で言い表すのは無理さ」とZunigaは認めている。 「僕たちのマーケティングはやっかいだ。でも、僕たちのことを要約したり搾取したりするための簡単なアングルが見つからないというのは、ある意味じゃ僕らの取柄にもなっているんだ。それができればレコードはもっと売れたかも知れないけど、同時に僕たちに本当の関心を示そうとしている人たちに、僕たちがやっていることに対する注意をもう少し向けさせることにもなるのさ」 by Mac Randall |