ちょっと脱線、Gutter(ドブ)なだけに
ちょっと脱線、Gutter(ドブ)なだけに |
Joe Jacksonの2ndアルバム『I'm The Man』の1曲目は、「On Your Radio」という怒りの勝利宣言だった。昔の恋人や学校の先生、仲の悪かった知り合いが聴いたら、レコードが1回転するごとに彼が成功したことを口惜しがりそうな歌だ。 そしてKinaもデビューアルバム『Kina』の1曲目、悪意のある「Girl From The Gutter」で、彼女の成功を信じなかった昔の仲間たちに猛烈なパンチを放っている。それはかならずしも悪態をつくだけの歌ではないが、彼女は「あんたの家が雑誌だらけになればいい/どのページにもわたしのでかい写真を載せてやる」と歌っているのである。 しかしKinaは、貧民街のドブで育った少女ではない。それに歌の印象とはちがって、彼女には、すさんだ感じがない。 「あまり説明しないでやるとインパクトあるだろうと思っただけなんです」と彼女は言う。 彼女のデビューアルバムには、さまざまなスタイルの曲が収録されている。アクースティック主体でリズミカルな「Girl From The Gutter」から、メロディーの美しい「I Love You」、そしてお好きにノってくださいの「Loser」まで。 このアルバムは、Kina本人やプロデューサーLondon Jonesでさえ、一言では形容しにくいようだ。 「レコード全体が、私たちの想像の産物みたいなものですよ」と彼女は笑う。 「プロデューサーは私と感覚が似てて、それにディレクションが上手いんです。はじめはキーボードやドラムで作った素材があっただけなんですけど、それに歌を付けて、楽器を乗せて、曲を組み立てていくんです」 Kinaは、1998年ロサンジェルスでJonesに出会った。 「私が本当に望んでいるサウンド作りを手伝ってくれる人を探してたんです。ああしろこうしろって押し付ける人じゃなく」と彼女は言う。 「会ったとき、彼の曲を2、3曲聞かせてもらったんです。そのときに、一緒にやっていこうと思いました。たしか3日後くらいにもう一度会ったら、次々にアイデアが溢れてきました」 彼女は、ずっとラッキーだったと言う(「いつも、いい時にいい場所にいたんです」)。けれど22歳になってロサンジェルスにやって来た彼女は、簡単に「発見」されたわけではない。 「本当は、なにかを変えたくてL.A.に来たんです」と彼女。 「ワクワクしましたよ。私、それまで飛行機に乗ったこともなかったんですから。一緒に大学に行ってた友だちが何人かロサンジェルスに引っ越すことになって、そのときに私も一緒に行こうよって誘われたんです」 Kinaはいろんな仕事をしたが、大切なオーディションがあるたび、辞めたり辞めさせられたりした。 「はじめにやった仕事は、メーキャップアーティストでした」 「舞台芸術を専攻してたってウソをついて、劇場部門に回されたんです。女優を担当しましたよ。あっという間に、放り出されましたね。そこは1週間しかいませんでした」 そんな彼女を、家族は遠くで見守っていた。 「家族は心配だったようです」と彼女は言う。 「母親は『おまえ、歌なんか歌えるの?』と言ってましたよ。だれも、私の歌を聞いたことがなかったんです。みんな、大丈夫かって言ってましたけど、応援してくれました。おばあちゃん以外は。おばあちゃんは、ちゃんとした仕事に就けと言ってました」 いまやKinaは、人気米TV番組『Tonight Show』にメインゲストで出演したり、全米の大都市をほぼ網羅するツアーを数回行っている存在だ。 けれど彼女はいまでも、おばあちゃんの影響下にあるようだ。 「(歌詞のなかに)すこし汚い言葉があるんです。それで(地元デトロイトのコンサートで)『bitches』という歌詞が出てくるところで客席を見たら、おばあちゃんがいるんです。『オ-、マイ・ガー!』って感じですよ」 Rob OConnor |