【ライブレポート】keinというバンドが持つ確かな矜持
源泉掛け流しのごとく。keinが今宵この場にもたらしてくれた音たちは、ありのままでそのままだからこその熱さとある種の刺激を含むものになっていた。
◆ライブ写真
今をさかのぼること1997年に名古屋で始動し、瞬く間に音楽ファンのみならず同業ミュージシャンたちからも特別視されるバンドとして強い存在感を放つようになったものの、2000年8月に突如として解散したまま22年も伝説化していたkein。彼らがその長い沈黙を破り、現体制にて奇跡の復活を果たしたのは2022年5月のこと。
その後、2022年の夏には2000年に解散した日と同じ8月21日に、同じ場所、同じタイトル、同じ曲目で実施された名古屋ダイアモンドホールでの再始動ワンマンライブ<はじまり>で再びシーンの最前線で躍動するようになったkeinは、ファーストデモテープの再録作品『木槿の柩』を2023年1月にリリースし、それにともなったZepp DiverCity Tokyo公演を含む東名阪ワンマンツアー<木槿の柩>を開催。また、その後は2023年8月に1stフルアルバム『破戒と想像』を結成から26年越しで完成させ、再始動後初の全国ツアー<破戒と想像>も見事に成功させてきている。しかも、それらの実績を受けるかたちで2024年11月にはEP『PARADOXON DOLORIS』をもって、keinはなんとメジャーデビューまで果たすことに。この一件については、SNS上などでも大きな話題となっていたのでご存知の方も多いのでは。
deadmanやLOA-ROARでも活動中のボーカリスト・眞呼、lynch.のギタリストにしてリーダーでもある玲央、眞呼とのdeadmanにくわえてthe god and death starsやgibkiy gibkiy gibkiyでも活躍するギタリスト・aie、これまでにthe studsやHOLLOWGRAMをはじめとした数々のバンドでキャリアを積んできたベーシスト・攸紀 、そして再始動時にあらたに加入した101AのドラマーでもあるSally。名うての5人が揃ったkeinは、これまた温泉にたとえるならば万人受けする無味無臭タイプのサラリとした湯質ではなく、有効成分が濃厚で人にとってはピリリとした痛みさえ感じるほどの通好みな酸性泉、といったところになるだろうか。音楽的にも歌詞世界の面でも良い意味でクセツヨなだけに、そんな彼らが“今さらメジャーデビュー”をしたことの意義はとても大きく、keinは彼らだからこそ創りだせる異端な世界を愛する人たちからしてみれば、その孤高ぶりに深く沼ってしまいがちなバンドだと言えよう。
そして、そんなkeinが今回<TOUR '2024「PARADOXON DOLORIS」>のツアーファイナルとなった新宿LOFT公演・第2夜で提示してくれたのは、尊き通常運行の模様だ。先だってのEPについてのインタビューで玲央が「前回の<TOUR '2023 破戒と想像>で2000年代までのkeinをしっかりと消化することが出来たので、今回のツアーは本当の意味で5人が再始動することにもなりますし、この5人であらたに結成した現在進行形のkeinを見せていくことが出来る良い機会」と語ってくれていたとおり、新曲を出してライブをするというバンドにとってのいわば“あたりまえな動き”を通して、keinは過去という名の付加価値をまとった伝説的存在から、このたび真のリビングレジェンドへとメタモルフォーゼしたような気がしてならない。
狂気を感じさせる眞呼の高笑いと、重さと切れ味の鋭さをたたえたバンドサウンドが新宿LOFTの中に響きわたった「Puppet」を皮切りに、keinが冒頭から観衆の聴覚と意識をぐいぐいと呑み込むように完全支配していく様は圧巻で、新曲にして既にライブ映えするキラーチューンとしての威力を感じさせていたことに驚きを感じたほど。もっとも、今作『PARADOXON DOLORIS』に関しては玲央が「ライブのメニューも意識したうえでエネルギッシュな作品にしたいと思っていた」とインタビューで語っていただけに、keinとしては狙い通りの展開になっただけの可能性もある。
むろん、玲央とaieが阿吽の呼吸によるギターアンサンブルを聴かせてくれた「絶望」や、眞呼がパントマイムの要素を取り入れた秀逸なパフォーマンスと憑依的ボーカリゼイションで観る者たちを魅了した「Mr.」、Sallyの叩き出すエモいビート+攸紀の紡ぎ出すベースラインが曲に生彩を与えていた「Color」など、既存曲たちもおおいにオーディエンスを衝き動かすかのように盛り上げていたのは間違いなく、新旧の楽曲が絶妙に折り重なったセトリの流れもライブの充実度を高めていたように思う。
と同時に、ここであらためてふれておきたいのはkeinというバンドがことごとく生感覚にこだわっている点。今やDTMどころかスマホ1台でも簡単にデジタルミュージックが生み出せてしまうというのに、keinはレコーディング現場のみならず、ライブにおいても“同期”システムというものは使わないことをひとつのセオリーとしているため、リアリティに裏打ちされた彼らの剥き身な赤裸々バンドサウンドは、最大かつ最強の武器としてkeinをkeinたらしめている。おまけに、keinのライブでは基本的にMCらしいMCもほぼナシ。ただひたすらに痺れるようなロックバンドの生音を堪能させてくれる潔さから、keinというバンドが持つ確かな矜持を感じるのは何も筆者だけではあるまい。
特に、このライブでの本編後半では『PARADOXON DOLORIS』のリードチューンであるのにサビはないという斬新で最高にクールな「Spiral」、眞呼が初めてラップを導入したというファンキーでアグレッシヴな「Rose Dale」、音源を聴いた段階からライブの光景を思い浮かべることが出来た「リフレイン」と、新曲群がどれもこのツアーを通して磨き上げられてきたことがわかる音になっており、keinはここに来てライブバンドとしての進化も遂げたのだと確認することが出来た。
なお、そのことは彼ら自身も自覚していたのかアンコールでは2000年の解散前からファンに愛されてきた「keen scare syndrome」と「kranke」を聴かせてくれた一方、予定外のダブルアンコールについては「Puppet」と「Spiral」を再投下。最新のkein、現在進行形のkeinを<TOUR '2024「PARADOXON DOLORIS」>の締めくくりに提示することで、彼らはこの先の未来へ向けた布石を打ってくれたことにもなりそうだ。
keinがもたらしてくれる、ありのままでそのままだからこその熱さとある種の刺激を含む音たち。それはまさに源泉掛け流しのごとく、これからも必ずやあふれんばかりにわたしたちの心を満たしてくれるに違いない。
取材・文◎杉江由紀
『PARADOXON DOLORIS』
詳細:https://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=46471
配信リンク:https://king-records.lnk.to/paradoxon_doloris
【初回限定盤CD+Blu-ray】
KICS-94178/価格:¥5,500(税抜価格¥5,000)
収録内容
[CD]
1. spiral(作詞:眞呼/作曲:aie)
2. puppet(作詞:眞呼/作曲:玲央)
3. toy boy(作詞:眞呼/作曲:攸紀)
4. rose dale(作詞:眞呼/作曲:攸紀)
5. リフレイン(作詞:眞呼/作曲:aie)
[Blu-ray]
・「spiral」ミュージックビデオ
・「spiral」ミュージックビデオメイキング映像
・制作ドキュメント映像
【通常盤】CD only
KICS-4178/定価:¥2,750(税抜価格¥2,500)
収録内容
初回限定盤CDと同内容
メーカー特典:A5クリアファイル(対象店舗は10月下旬ごろお知らせ)
タワーレコードオリジナル特典:ステッカーセット(71㎜×80㎜)
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