【ライブレポート】キッシン・ダイナマイト、11年半ぶりの来日公演でみせたスタジアム級の求心力
かつて日本には「ライヴハウス武道館へようこそ!」という名言を残したロック・バンドがいた。その言葉には、普段通りに楽しんでくれというオーディエンスに対する気持ちばかりではなく、自分たちが育まれてきた場所に対する誇りも含まれていたに違いない。そして実際、大きな会場でありながらステージとの隔たりを感じさせないライヴというのはこの上なく素晴らしいものだが、同時にその逆のケース、つまりライヴハウスでアリーナ/スタジアム的な高揚感を味わえる場合もあるように思う。
去る11月18日、東京・渋谷WWWにてキッシン・ダイナマイトの来日公演を観た。ドイツ出身の彼らは2013年2月には初の東名阪ツアーを実施しているが、今回の日本上陸はそれ以来となるもの。11年半前の彼らはまだまだ“期待の若手”に過ぎない存在だったが、以降の躍進ぶりには目を見張るものがあり、2018年発表の『エクスタシー』で初めて母国のアルバム・チャートでのトップ10入りを果たすと(最高7位)、続く『ノット・ジ・エンド・オブ・ザ・ロード』(2022年)は最高2位を記録。そして去る7月に発売された通算8作目にあたる最新アルバム『バック・ウィズ・ア・バング!』ではついに首位を獲得。いまや名実ともに同国を代表するロック・バンドのひとつになっている。
それほどの輝かしい実績を持つ彼らの来日公演の会場が数百人規模のライヴハウスというのは少しばかり寂しい気もするが(ちなみに前日の公演会場は大阪・THE LIVE HOUSE soma)、逆に言えば、今や母国での大型フェスでもメイン・ステージに登場するようになっているこのバンドのライヴを、親密な空間で堪能できる好機の到来ということでもある。そしてまさにこの夜のライヴからは、スケール感の大きなものがぎゅっと凝縮されたかのような濃密さが感じられた。つまり実際の公演規模を遥かに上回るスケール感を味わえたということである。
バンドはハネス・ブラウン(Vo)とアンデ・ブラウン(G)の兄弟を中心とするツイン・ギターの5人編成。2021年にアンディ・シュニッツァー(Dr)が脱退し、前作完成後に後任としてセバスチャン・バーグが迎えられているが、それ以外の顔ぶれは2007年の結成当時から変わっていない。ドラマーの交代劇が起きた時期や、ロードの生活を続けていく強い意志が感じられる前作のタイトルからもうかがえるように、彼らにとってもパンデミックは大きな痛手となっていた。なにしろ長年にわたり精力的にライヴ活動を重ねてきた彼らが2020年から2021年にかけての2年間を通じてステージに立った回数は、わずか12回にとどまっているのだ。しかし当然ながら、窮地を脱してからの彼らは本来のアクティヴさを取り戻し、「スタジアム・ロック復権」を命題として掲げながら力強く前進を続けている。
最新アルバムの表題曲にあたる「バック・ウィズ・ア・バング」で幕を開けたショウは、2曲のアンコールを含め、90分を超えるものとなった。トータル16曲の演奏曲のうち6曲はその最新作、4曲は前作からの選曲によるもので、基本的には“今”に重きを置いたプログラムが組まれていた。ただ、そうした中に「最近はあまりプレイしていないけど、日本に来たからにはこの曲をやらないとね」などと言いながら前作に収録の「ヨーコ・オノ」が盛り込まれていた点などからも、日本を意識した選曲がなされていたことがうかがえたし、第2作『アディクテッド・トゥ・メタル』(2010年)からの「ラヴ・ミー・ヘイト・ミー」、第3作『マネー、セックス&パワー』(2012年)からの「アイ・ウィル・ビー・キング」や「シックス・フィート・アンダー」といった、もはや懐かしさの伴う楽曲も散りばめられていた。その「アイ・ウィル・ビー・キング」の際にハネスが前回の来日時と同様に王様を思わせる赤いローブを羽織って登場した場面では、遠い記憶を呼び起こされるかのような想いを味わった観客も少なくなかったことだろう。
ライヴ全体を通じて何よりも感じられたのは、前述の通り「スタジアム・ロックの復権」を目指していることを裏付けるかのような、シンガロング必至のキャッチーな楽曲群の魅力の強さだ。フロアを埋め尽くしたオーディエンスはバンドから促されるまでもなくコーラスに加わり、手を掲げ、ジャンプする。ハネスは幾度も“念願の日本再訪”が実現した喜びを口にし、「mindblowing(驚異的/度肝を抜かれる)」、「speechless(言葉もない)」といった言葉でその気持ちを表していたが、長きにわたりこの機会到来を待ち焦がれてきたのはファンにとっても同じことだったはずだ。そうした双方の相思相愛の関係が、この夜のライヴをいっそう親密なものにしていたように思う。
その空気感はまさしくライヴハウスならではのものだったが、もっと大きな会場で観ているかのような錯覚をおぼえたのもまた事実だ。その理由が、彼らの楽曲の求心力の強さやスケール感の大きさ、エンターテイニングでサービス精神旺盛な姿勢にあることは間違いない。最後の最後には、お馴染みの組体操のようなパフォーマンスまで披露してみせた彼ら。敢えて言うならば、それは同郷の大先輩にあたるスコーピオンズの往年のたたずまいを彷彿とさせるものでもあった。ただ、ステージ上の5人の視線は、ライヴハウスのフロア全体のみならず、もっと遠いところにまで向けられているのだと感じさせられた。
この夜を締め括った「レイズ・ユア・グラス」を披露する前に、ハネスは声高らかに「Bring back stadium rock!」と呼びかけていた。次回はそんな彼らが追い求める理想により近い環境でのライヴを観てみたいものだし、逆に言えば、今回この規模でこのバンドを観られたこと自体がいかに貴重だったかを感じさせられもした。2025年の夏にはすでに欧州各地でのフェス出演も決まっている彼らだが、次なる日本への帰還の機会も早々に訪れることを期待したい。
文◎増田勇一
撮影◎Yuki Kuroyanagi
<キッシン・ダイナマイト@東京・渋谷WWW公演>
1.Back With A Bang
2.DNA
3.No One Dies A Virgin
4.I’ve Got The Fire
5.My Monster
6.I Will Be King
7.Yoko Ono
8.Queen Of The Night
9.The Devil Is A Woman
10.Love Me, Hate Me
11.Only The Dead
12.Six Feet Under
13.The Best Is Yet To Come
14.Not The End Of The Road
-encore-
15.You’re Not Alone
16.Raise Your Glass
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