【インタビュー】琴音、幼さとしたたかさ・純情と激情・内省と反抗など様々な感情を圧巻の歌唱力で表現

■新しい人と出会う機会をどんどん増やしたい
■真っ白なところに出ていきたい。出会いのために

――「Heaven」もそういうタイプの歌だと思うんですけど、たとえば5年前にこういう激しい、シリアスな楽曲を歌うことは想像していなかったので、良い意味で驚きました。

琴音：ダークで、かっこ良い感じの曲ですよね。プライベートではこういう曲も結構聴くので、どこかでやる機会があるのかな？と思っていたんですけど、こんな節目の時期に、表現の幅が広がりそうな曲をやらせていただくことができて、ありがたい限りです。

――こういう、作詞家が書いたドラマチックな歌詞を歌う時って、役者っぽく入り込むんですか。曲の世界観の中に。

琴音：ほかの曲もそうなんですけど、設計図みたいなものがあって、歌詞カードにめっちゃ書き込むんです。「ここはエッジが効いている感じにしたい」とか、1フレーズずつ、場所によっては1文字ずつぐらいの感じで書くようにしていて、何年か前からそのやり方が自分に合っているなと思うようになって、今回もそういうふうにしたんです。なので、入り込むというよりは、入り込んでいる自分もいると言えばいるんですけど、ちょっと離れている自分もいるというか。



――じゃあ、役者よりは、演出家なのかもしれない。そうやって歌ってきた、大切な曲たちを集めた軌跡のアルバムが『成長記』。

琴音：収録曲のタイトルを見ると、タイアップがたくさん書いてあって、それを見ながら「この時はこうだったな」とか、一個一個思い出していました。この5年でちゃんと成長できているんだろうか？と思っていたけど、「意外と色々やらせていただいた私」と思いました(笑)。何もない5年間じゃなくて良かったなと思います(笑)。

――そして最後に入っている「成長記」という曲は、以前から歌っていた曲だと聞いてます。

琴音：15歳ぐらいの時にできた曲で、YouTubeに上げていたんですよ。ライブで歌っているものをそのまま撮って載せたんですけど、それが思いのほか、オリジナル曲の中では(再生数が)回っていて、アルバムに収録してほしいという声もあったんですけど、なんだかんだ機会がなくて。今回、「願い」をリアレンジして再レコーディングしないかという話もあったんですけど、それは新しくないよねということで、「成長記」も15歳の時にできていると考えたら、新しくないんですけど(笑)。せめて今までやっていなかったことをやろうということで、「成長記」はどうですか？と言いました。

――自分で言い出した。

琴音：そうです。「願い」はどうかな？という話が出た時に、「成長記」も候補の中にはあって。他にやりたい曲はありますか？ということで、どうせだったら「成長記」がいいですと言って、その場は一旦持ち帰っていただいて。しばらく経って、アルバムの題名の候補を何個かいただいた時に、6個中5個ぐらいに「成長記」という言葉が入っていて、これはもう入れることになったのかなと(笑)。よかったよかったと思いました。


――これは、そもそも15歳で、どんなことを考えて書いた曲ですか。

琴音：「成長記」という題名をつけた時のことが、一番鮮明なんですけど、曲を何曲か書いていく中で、その時その時で考えているもの、見ているもの、感じているもの、注目しているものが全然違うから、書く歌詞にもそれが出てくるし、たぶんこれからもそうなんだなということを、その年なりに思っていて。10代の自分が、これから20代、30代になった時に、「当時の私はこういうこと考えていたんだ」と振り返れるような曲が作れたらいいなと思って、その時考えていたこととか、自分の内省的な部分をよりたくさん書こうと思って書きました。

――15歳にして、客観的な目線が入っている感じがしますね。自分が成長して、変わっていくことを、すでに予感している。

琴音：そうですね。でもやっぱり、体感が大きいと思います。その頃作った曲をライブで歌ったり、家で練習したりしていても、時々思い出すんですよ。「この時こうやって、こういう気持ちで作っていな」とか、歌いながら、思い出しながら。なので、体感に基づく将来的な予想というレベルだと思うんですけど。

――ある意味、琴音さんが作って、歌ってきた曲は、全てがそれかもしれない。たとえば、5年前にお話しした時に、当時リリースされたばかりの「今」という曲について、「私もこういう時期があったなという成長記録みたいな曲です」と言っているんですよね。

琴音：そんなこと、言っていたんですね。



――そうなんですよ。だから当時も、今も、今後も、その時の自分の成長記録を曲にしていくということになっていくのかな？と思ったりします。

琴音：たぶん、そういうやり方しかできないんだと思います。自分の中にないものを一から作るのは難しいと思うし、そういうやり方が得意という人もいるのかもしれないですけど、私は基本的に自分が体験したものや、体験していなくても、本当に近しい人から聞いたものとか、そういうところから曲を作っていくのが得意なので。基本、そういうやり方を続けていくのかなと思います。

――5年前にお話しした時に、琴音さんは、歌手になるという夢はもう叶ったから、これから自分に何ができるのか考えているところです、という言い方をしていて。5年経って、新たな夢というか、目指すものは見えてきましたか。

琴音：うーん、でも結局、あんまり先に「こうなりたい」みたいなビジョンというよりは、目先のことになっちゃうのかもしれないですけど。今、イベントにめっちゃ出たいです。


――具体的ですね(笑)。でもそういうことですよね、叶えたいことって。

琴音：今年から、だいぶイベントが増えてきたんですよ。一時期はワンマンばかりの時期もあって、それって少し閉鎖的でもあるというか。でもお客さんは、ワンマンの方が好きと言ってくださる人が多くて。イベントは新しい人と出会えるし、演者さんとか、初めましての方との出会いがあるから楽しいみたいなことをSNSに書いたら、「私はワンマンのほうがいいです」という人がめっちゃいっぱいいて(笑)。

――それはそうでしょう。時間も長いし、いっぱい聴けるし。

琴音：そうですよね。ですけど、今はいろんなところへ出て行きたい気持ちもあります。学生という身分を卒業してから、特に思うことなんですけど、学校は行かなきゃいけない場所だから、行くじゃないですか。行ったら、喋れる友達もいるけど、よっ友ぐらいの人もいるし、普段喋ることもない、ただ通り過ぎる景色の中にいるだけの人とかも、いるじゃないですか。でもそれって全部出会いだったし、全部刺激だったんだなというのを、今すごく感じていて。

――ああ。なるほど。

琴音：今はイベントとかの機会がないと、新しい人と出会うこともできないので、そういう機会をどんどん増やしたいです。出会いだけがインプットではないんですけど、人との関わりはすごく刺激だなと思うので。ということを、学生ではない今気づくという、悲しい性(さが)なんですけど(笑)。もっといろんな場で、自分のことを知らないお客さんや、同業者の人たちや、関係者の人でもいいんですけど、真っ白なところに出ていきたいなと思いました。出会いのために。

――いい夢だと思います。そこは5年前と、はっきり変わった気がしますね。昔が後ろ向きだったとは言わないけど、今はすごい前向き。

琴音：本当ですか？　いや、でもやっぱり、何がやりたいかわからなかったんですよね、5年前って。歌手になる夢が叶ったから、というのもそうなんですけど、何をどこまで求めていいのかもわからなかったし、自分に何ができるかもわからなかったので。今も、わからないと言えばわからないんですけど、とりあえずこういうことがしたいな、ぐらいのことは思えるようになりました。それも成長なのかもしれないです。

――これからも、そういう歌をたくさん聴きたいです。あ、琴音さん、今こんなこと今考えてるんだ、というものがわかるような歌を。まずは、2025年1月のライブですね。1月19日のSUPERNOVA KAWASAKIと、1月26日の地元・NIIGATA LOTS。ここで5年間の成長記の、証みたいなものが、そこで見えるような気がするので。楽しみにしています。

琴音：ありがとうございます。頑張ります。

取材・文：宮本英夫


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