【インタビュー】「VOCALAND」再び。角松敏生が「やりたかったことをやり倒した」と語る1990年代の貴重な音像がノンストップリミックスで甦る
◼︎我々の年代にしか出来ないことがあると思います
──『VOCALAND REBIRTH』のサイトには《アナログ盤化などの制作に興味を持っていただけたらなお嬉しいのだが(笑)いつでも引き受けますよ(lol)》との角松さんのコメントが載っていますね(笑)。
角松敏生:はい(笑)。実際マルチで聴かないと分からない部分もあるんですよね。「Never Gonna Miss You」は今回もう一回全部マルチで聴いたんで、「あ、こんな音が入ってたんだ!?」みたいな発見があったりして面白かったですよ(笑)。
──それは一から音楽を創っている人ならではの愉悦でしょうね。
角松敏生:忘れちゃってることもありますけど、(原盤が)残っていれば、「俺、こんなことやってたのね!」みたいなところが分かるし、それがまた面白いですね。
──それでは、これは『VOCALAND REBIRTH』の内容からは若干離れた質問なのですが、「VOCALAND」シリーズを制作された1990年代後半から25年以上経ちまして、音楽の聴かれ方も随分と変わりましたよね? 現在はサブスクが主流となっています。この状況を角松さんはどのように捉えてらっしゃるのか是非とも伺いたく思います。
角松敏生:僕は、なるようになっているだけだと思いますけどね。サブスクは全然いいと思います。僕の作品ももっと出してほしい。僕の昔の作品の権利が昔の事務所のもので、いろいろ難しくて。ニーズがあっても出せないことを残念に思ってる。求めている人がいるんだったら、ちゃんと提供してあげたいですよね。もはや、CDって商売としては微妙な領域です。僕のお客さんは新作を支持してくれて、CDを買ってくださいますし、今回の『MAGIC HOUR 〜Lovers at Dusk〜』もチャートに入るくらいまで皆さんに買っていただきましたが、僕はCDを作ってもたいした儲けにはならないです(笑)。一銭にもならないというと言い過ぎですけど(笑)、コストをかけていいものを作るということができない。今はコストをかけないでもマスター音源は作れますからね。凝ってお金をかけてスタジオアートとしてのCDを制作するメリットがない。現状の音楽市場でコストをかけられているのなんて、アニメくらいですよ。
──そんな状態なんですか!?
角松敏生:それでも僕は、良い音にこだわってパッケージは作ります。僕は中小企業事業者で、“信頼出来る商品を必ず作り続けます”ということを一つの旗印としていて、それに対する一定の顧客数がいるから。これがちょっとでも変なことをするとお客さんとの信頼関係がなくなってしまう。そういう意味で、ちゃんとした作品を定期的に出して、それ自体がお金にならなくても、それに見合ったツアーをやることによってビジネスにしているという。それを続けていければいいなという風には思ってるわけ。そんな中で今の音楽業界の話をすれば、今の60代くらいの人ってサブスク否定派と肯定派が拮抗している感じがある。あと“アナログ盤を出して”って言う人も多いし。
──レコードで聴きたいという方もいらっしゃいますか?
角松敏生:うん。作るのはいいけど、「本当に買ってくれるのかよ!?」という疑問はあるよね(笑)。アナログをいい音で聴きたいんだったら、いい音が出るアナログ機械を持ってないとダメなんだから。なんで若い子たちの間でアナログ盤がブームになっているかと言ったら、それは“聴きに行く”という所作が新鮮だからですよ。ジャケットからレコードを出してターンテーブルにかけて、針を落としてスピーカーの前で聴く……という所作が新鮮なんです。それに対してサブスクは、音楽を聴きに行ってるわけじゃなくて、情報を与えられに行ってるわけですよ。ちなみに昔って、履歴書に“趣味:音楽鑑賞”って書くことがあったじゃないですか?
──ありました(笑)。今はその言葉自体、ほとんど聞かないですねぇ。
角松敏生:でしょ? そういう文化的な変遷があるわけですよ。だから音楽の聴かれ方がサブスク中心なのは仕方がない。でも僕は、例えば『VOCALAND REBIRTH』でミックスしてリファレンスする時、わかりやすく言えば、プロ用の高価なスピーカーでリファレンスすると同時にBluetoothのイヤホンでもします。今、僕はどっちかというとBluetoothのイヤホンのリファレンスのほうを信じてますね。当然マスターは良い音なんですよ? アナログ盤のように“聴きに行ってる人”がいたら困るから絶対にしっかり仕事をしてますけど、実際どんな聴かれ方をしてるか分かりませんからね。
──ちゃんと熱を持ってしっかりとしたものを作っていれば、どんな聴かれ方であろうと、リスナーには届くであろうという確信がある。だからこそサブスクもOKということですね。
角松敏生:皆、手軽に聴きたいんですよ。それに、海外の方はもうそれしか聴く手段がないんですよ。海外の人はCDプレイヤーなんか持ってない方が多数ですから。
──え、そうなんですか!? それは知らなかったです……。
角松敏生:そうですよ(笑)。今CDの市場があるのは韓国と日本だけだよ。アメリカの家庭でCDプレイヤーを持ってる人は少ないだろうねぇ(笑)。
──下手すると“これは何ですか?”っていう世代もいますか?
角松敏生:今インバウンドで日本に来てる外国人はCDを見て「可愛い! レコードのちっちゃいヤツだ!」って買っていくわけです。で、買っていっても聴くものがないっていう(笑)。
──とすると、サブスクに抗っても仕方がないというか。
角松敏生:そうそう。逆に言っちゃうと、アナログブームが来たように、10年後にCDブームが来るかもしれないよ(笑)。
──ああ、少し前にカセットブームもありましたし。
角松敏生:いやぁ、アレはどうかと思ったけどね(笑)。でも、やっぱりカセットテープはなくならないみたいよ、お年寄りのために。結局ツールとして大切だったてぇのは、やっぱりカセットは偉大だったってことだね(笑)。
──それでは最後にもう一つ質問させてください。これもまた「VOCALAND」シリーズを発表した1990年代後半の、あるインタビュー記事での角松さんの発言です。どうして日本が負けるのかというと、“外国のポップスの影響はあっても、自分たちの歌、自分たちの歌い方で表現するのが、本当のミュージシャンの姿”と仰っていました。そこで、5月にリリースされた角松さんの新作『MAGIC HOUR ~Lovers at Dusk~』です。このアルバムを聴かせていただいて、本作には現在の日本の音楽市場に対する角松さんならではの反骨精神があるのではないかと勝手に考えてしまいました。実際のところ、その辺はいかがでしょうか?
角松敏生:いや、反骨精神というより、どちらかというと、自分的には自由になれた感じです。もう自分がやりたいことをやればいいし、自分がやってきたことというのは、僕たちの世代にしか出来ない宮大工みたいなことだから、それを遺していけばいいんだって思ってるんです。
──ほう。
角松敏生:いま娘が中3で、彼女からもたらされる情報も自分と同列に消化しなければならない環境にいましてね(笑)。別に若ぶってるわけじゃないんですが、苦じゃないんですよね。もし昔の僕がその年齢でスマホとかのデバイスを持っていたら、多分同じことやっていたなって思うし。そんな中で思うのが、今の若い子たちが作っている音楽も「これは普通に俺たちもやってたよ」ということ。若い世代に無意識に継承されてるんですよ。今の若い子たちも駄々漏れしている音楽の中からいいもの、カッコいいと思うものを無意識に継承している。僕は新しい音楽はもう出てこないと思ってるんですけど、それと同じように、そういう若者たちの姿を見た時、否定すべき音楽も僕の中にはないなと感じました。
──これもまた同記事での角松さんの発言ですが、“バブル以降、経済はもちろん、文化的にも日本は負けている。大衆がスタイルだけの音楽を喜んでいるようじゃ、その内、韓国や東南アジアにも負けるんだろう”と。
角松敏生:それ、僕が言ってた? すごいじゃん(笑)! 例えば少女時代やKARAが出てきた時に“この人たちがやっていこうとしてるエンターテインメントはもうラスベカスに行ってるな”って思ったんです。わかりやすく言うと今の日本の感覚としてはちょっと過激にセクシーな表現をしたとしても、それを確固たるエンターテインメントとして観せていたから、いやらしくない。もっとわかりやすく言うと、日本でAKB48がムーブメントになった時の彼女たちのビジュアル面、視覚的な効果と、韓国のそれでは圧倒的に韓国の方が成熟してるんですよ。分かります? 大人の女性と子供の女性、という違いかな。どちらにもそれぞれエンターテインメントとしての素敵な魅力があるのですが、韓国は女性として見せ方の強さが成熟していた。まずもって、ビジュアルもさることながらそこに確固たる実力があった。ダンス力、歌唱力、それらの基礎基準値が非常に高かった。
──はい。それはよく分かります。
角松敏生:日本の方はわざと成熟させてない感じがある。でも、韓国はバンバン成熟させていくわけですよ。そのエネルギーポテンシャルっていうのは一種の国力なので、“これは負けるな”って思ったんです。あと、それと同時に思っていたのは、文化の差。ヒップホップにしてもロックにしても、ダンス、R&Bにしても発祥は欧米なんですよ。誤解を恐れずに敢えて言うならば、日本はアメリカと戦争して負けた国である一方、韓国はアメリカと一緒に戦って勝った国なんです。これはアメリカ文化の流入の仕方において大きな違いがある。英語の理解、発音にしても違うし、音楽の感じ方やリズムの取り方など、もともと歴史的に培ってきた経緯が違う。日本国内で言えば、沖縄もアメリカと一緒に暮らしてきた地域だから独特ですよね。本国のロックやソウルなどを間近に体感してきたDNAがある。沖縄から優れた才能が生まれてきた所以だとも思います。ま、でも最近はどの国も似たり寄ったりになってきた気もしますが(笑)。
──そういう側面もありそうですね。
角松敏生:そうそう、実はですね、僕の新譜『MAGIC HOUR ~Lovers at Dusk~』を韓国でマスタリングしたかったんですよ。昨年、一昨年と『MILAD』というダンスと音楽が連動した舞台を作ったんですね。その時のオーディションでいろいろなダンサーの動画を見たんですが、そこに貼り付いている音楽はやっぱりK-POPが多くて、とにかく音がでかいわけ。気になって当時小学生だった娘の聴いていたTWICEのCDを聴いてみたら、“何だ、これは!?”っていうくらい音圧がでかいんですよ。とにかくCDを作る時のキャッチの仕方は音圧なのでね。直前に聴いてたアーティストよりも音がでかいか小さいかは聴いている人の感覚に大きな影響をもたらすんです。音が悪かろうがどうだろうが、でかい方が勝つ。で、なんで韓国のポップスはこんな音デカイ?ってね。それを解明しようと思ったんだけど分からなくって、それならもう実際にやってみるしかないと思って、『VOCALAND REBIRTH』のマスタリングを韓国でやらせてくれ”って言ったんです。しかも、TWICEやってたエンジニアで(笑)。今回は時間がなかったので韓国に行くまでの余裕はなく、データのやり取りで仕上げました。
──そうだったんですね!
角松敏生:そしたらね、素晴らしいエンジニアだった。2種類のマスタリング音源が送られてきましてね。ノーマルマスタリングとEQコンプマスタリング──分かりやすく言うと、原音を大事にしたものと、エンジニアがちょっと手を加えたもの、その2種類。ちなみにEQとかコンプレッションなどの加工をしないと音圧はかせげない。しかし、そのかけ具合によっては元のバランスを全く崩してしまう。マスタリングはそこが難しいんですよ。彼は、元のバランスを大切にしたバージョンとEQコンプで派手にしたバージョンの両方を送ってくれた。どちらの音も非常に綺麗で、僕がTWICEを聴いて衝撃を受けたほどには音圧は上がってなかった。しかし、非常に素晴らしい仕事をしてくれたと思いました。僕は当初、今の若い世代が感覚的にマスタリングしてるのかと思ってたんだけど、そうではなかった。職人エンジニアとして見事でした。最初は「Never Gonna Miss You」と「May your dreams come true」だけだったんですけど、本編もこの人でやろうって話になったんです。
──なるほど。
角松敏生:その本編のノンストップリミックスのマスタリングに関して印象的なエピソードがあってさ。こっちから音源を送ったら、僕が仮にマスタリングしたヤツよりも音がちっちゃいものが上がってきたんだよね。僕がマスタリングしたヤツは、音をデカくするために一箇所音が歪んでたんだけど、そこは綺麗になってた。だから「このまま、あと2デシベル上げてくれ」って頼んだんです。そしたら見事に音がデカくていいものが上がってきて、素晴らしいと思いました。しかし、そのエンジニアは「厳密に言うとこれはちょっと歪んでるんですよね……」と言ってきた。僕は「わかっていますよ、でも、これはこれで大丈夫です、良い仕事をしてくれてありがとう」と言いました。彼はマスタリングエンジニアとしてちゃんと歪みを気にしていた。丁寧な仕事してますよね。今後は実際に会ってみて現場を見てみたいと思ったよね。今回の『VOCALAND REBIRTH』ではとてもいい経験をさせていただきました。
──日本も負けてられないですよね。
角松敏生:いや、日本も皆ちゃんとやってますよ。でも、“もうちょっとできる”っていうこと。何かね、日本って規制が多いんだよ。 “これはここまで”とか“これ以上やっちゃいけない”とか。おかげで平和なのかもしれないけれどね。しかしその規制を超えていくためにはどうしたらいいのか? そこに何か工夫が必要なのか? ……未だ分からない。
──これは私個人の感想ですけど、『MAGIC HOUR ~Lovers at Dusk~』は歌詞にしてもサウンドにしても演奏のノリにしても十分にカッコ良くて、“日本もまったく物怖じする必要はない”と感じたんですよ。
角松敏生:もちろん今や日本のトラックメイキングも海外と全然遜色はないです。今はもう洋楽、邦楽の括りもないし、皆ある程度のことはやれるとは思うんです。しかし、宮大工的な仕事は、我々の年代にしか出来ないことがあると思います。若い子たちが逆立ちしても出来ないことが僕ら老人にはやれます。そういうものは絶対に遺していかなければいけないし、継承していってあげたいと思います。
取材・文◎帆苅智之
『VOCALAND REBIRTH Extended Mix by TOSHIKI KADOMATSU』
品番:AQCD-77640
価格:¥3,080(税込)
ECサイトはこちら:https://vocaland.lnk.to/VOCALAND-REBIRTH
【収録曲】
01. Give it up / Rie Yoshizawa
02. Heart to you 〜夜が終わる前に〜 / Anna
03. Splendid Love / Sala
04. NIGHT BIRDS / Tamara Champlin
05. WHAT CHA DOIN’ / Pauline Wilson
06. DO YOU LOVE WHAT YOU FEEL / Chocolate & Leonard Tucker
07. ふりむかないで 〜Don’t Look Back〜 / Aki
08. さよならのプリズム / Keiko Ito & Kiyori Fujii
09. あの日のまま 〜When I doubt my doubt〜 / Hiroko Shidoh
10. THE TWO OF US / Pauline Wilson & Philip Ingram
11. サヨナラはくちぐせ / Rie Yoshizawa
≪Bonus Track I≫
12. Never Gonna Miss You 2024 Remix / Rie Yoshizawa & Toshiki Kadomatsu ※新Mix
13. May your dreams come true / Toshiki Kadomatsu & Rie Yoshizawa ※新録曲
≪Bonus Track II≫
14. Never Gonna Miss You 2024 Remix ~Female Version~ / Rie Yoshizawa
15. Never Gonna Miss You 2024 Remix ~MaleVersion~ / Toshiki Kadomatsu
16. May your dreams come true ~Female Version~ / Rie Yoshizawa
17. May your dreams come true ~Male Version~ / Toshiki Kadomatsu
【CDショップ特典】
・Amazon.co.jp:「メガジャケ」(CDジャケットを24cm×24cmに引き延ばしたカード)
・楽天ブックス:「アクリルキーホルダー」(5cm角)
・セブンネットショッピング:「アクリルコースター」
・全国汎用先着特典:「ロゴステッカー」
【「TOSHIKI KADOMATSU Performance 2024 “C.U.M” vol. 1」TOUR会場特典】
本商品をご予約もしくはご購入いただいたお客様に
各会場先着にて会場限定オリジナル特典(クリアファイル)をプレゼントいたします。
<TOSHIKI KADOMATSU Live in KARUIZAWA 2024 with Bipod & Strings>
13日(土) 開場:18:00 / 開演:18:30
14日(日) 開場:16:00 / 開演:16:30
料金:指定席:¥10,500(税込)/ 合唱席::¥10,500(税込)/ 立見:¥9,000(税込)
一般発売日:6月29日(土) 10:00〜
<TOSHIKI KADOMATSU Performance 2024 “C.U.M” vol. 1>
6月29日(土)北海道・函館市民会館
開場16:30 / 開演17:30
info:ウエス
info@wess.co.jp
チケット料金:全席指定 10,500円(税込)
・3歳以上チケット必要(座席は3歳未満でも要チケット)
一般発売日
・5月公演:3月16日(土)12:00〜
・6月公演:4月20日(土)12:00〜
◆角松敏生オフィシャルサイト
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