【インタビュー】林部智史、カバーアルバム『カタリベ2』リリース「自分の軸がしっかりした今なら大丈夫だと思えた」
◼︎コンサートで皆さんと分かち合いたいから頑張れる
──100回以上オーディションを受け続けながら、夢を手放さずに前を向けた理由は何だと思われますか?
林部智史:はじめから簡単に合格できるとは思っていませんでしたし、僕が受けたオーディションは、求めている人材のビジョンも結構はっきりしているものが多かったんです。たとえば、EXILEさんなどもそうでしたから。ダメでも割と納得できる部分もあったんです。……そうそう。オーディションで中島みゆきさんの「糸」を歌わせていただくことが多かったんです。途中で解釈を変えて微笑みながら歌うようにしたら、合格をいただくことが急に増えて。歌って奥が深いなと思いました。そうやって少しずつ道が開けたり、可能性がつながったりしていたので、「次も頑張ろう」と思えたのかなって。自分の考え方が広がれば広がるほど良い方へ変わる感覚があったからやめられなかった……なんて言うと、ちょっとギャンブルみたいに聞こえちゃいますかね(笑)。
──歌詞や楽曲の解釈によって、歌の聴こえ方が大きく変わるんですね。
林部智史:そう思います。竹内まりやさんの「シングルアゲイン」を歌わせていただいたときは、強い気持ちを意識しました。最後の《やっと本当のさよならできる》は、竹内さんご自身の歌を聴くと、その後に本当に前に進んでいける感じが伝わってくるんですよね。でも言葉だけでは、悲しいのに強がっている……というふうにも受け取れる。僕が得意とする、いわゆる泣き歌で歌うほうが簡単かもしれませんし、そのほうが自分のカラーに近いかもしれないんです。でも、原曲への敬意を大切にしたいので、オリジナルが持っているメッセージはしっかりと伝えたいなと思いながら歌いました。もしも仮にそれが僕の思い込みであっても、カバーは特にふわふわした状態で歌うのが一番歌にとってよくないと思うので、自分が歌の中の主人公になり切って歌うように心がけています。
──林部さんは今回のようなJ-POPのカバーをはじめ、オリジナル楽曲や叙情歌シリーズ「琴線歌」など、音楽的に多彩な取り組みを続けていますね。
林部智史:J-POPのカバー曲をきっかけに林部智史を知ってくださる人もいるでしょうし、僕自身もカバーを通していろんなアーティストさんの曲と向き合うことで、気付きをいただける貴重な機会になっています。また、デビュー曲「あいたい」で作詞を手がけたのをはじめ、オリジナル楽曲は自分が歌手活動を続けていく上での生命線ですから、引き続き音楽的な挑戦を続けていきたいですね。30歳の節目から始めた叙情歌の旅は、「新しいことを始めよう」というところからスタートしたものなんです。僕の年代はゆとり世代と呼ばれて、学生のころに音楽の教科書から童謡や唱歌が消えたため、僕らは触れる機会がほとんどありませんでした。
──そうだったのですね、意外です。
林部智史:今までに「琴線歌」は第5弾までリリースし、50曲を超える童謡や唱歌を歌わせていただきましたが、恥ずかしながら7割以上は知らない歌でした。歌手として悔しいですし、そうした世代だからこそ、歌い継ぐことを目標にしたいと思ったんです。曲が生まれた背景や、曲の在り方などを少しずつ勉強していますが、すると近年ブームの歌謡曲の源をたどると童謡や唱歌だったりすることも多いなと感じます。歌手として、いい学びの機会になっていますね。それに、懐かしい歌を歌い継ぐことで、コンサートに来てくださる方々の世代感の橋渡しにもなれているのかなと。聴いてくださる方一人ひとりが情景を思い浮かべていただけるよう、自分の想いを乗せるのではなくできるだけフラットに歌うよう心がけています。
──6月から始まる全国ツアー<∞歌で編む 無限の物語∞>でも、いろんな世代の方に響く歌声が聴けそうですね。
林部智史:今年、デビュー8周年を迎えたこともあり、今年のテーマは∞(無限)なんです。僕にとっての無限とは何だろうと考えたとき、「無限の可能性」という言葉が浮かびました。主軸であるオリジナル楽曲は、僕の中から出てくるものなのである意味で限りがあると思うんです。でも、他の方の力を借りると可能性って無限に広がっていくなと。たとえば、NHKホールで開催した8周年コンサートで、話題の朝ドラから「ラッパと娘」というブギを歌わせていただいたのですが、自分の音楽性からは出てこないジャンルだなと思いました。実は、これまでカバーを歌う人というイメージを作りたくなくて、コンサートでカバー曲ばかり歌うことはためらいがあったんです。でも、8年が経ち、自分の軸がしっかりした今なら、逆に可能性を広げるためにカバー曲を中心としたコンサートをやっても大丈夫だと思えたんです。今まで以上に、自分の表現の振れ幅が広がるようなコンサートで、見てくださる方に楽しんでいただけたらうれしいですね。
──歌への探求心は衰えることがないようですね。どんな時に、歌い続けてきてよかったとしみじみ思われますか?
林部智史:僕はSNSをやっていませんし、いまは音楽番組も少ないためテレビに出る機会もあまり多くありません。そんな僕にとって、コンサートが聴いてくださる方とのつながりや、活動の広がりを最も実感できる場所なんです。楽曲制作では内に閉じこもって身を削るような感覚にもなりますが、それもコンサートで皆さんと分かち合いたいから頑張れるんですよね。生の歌を聴いてくださった方が目の前で笑顔になったり、涙したり…。そうした直接の反応を見られることが、何よりの励みですね。心を込めて歌った結果、来場してくださった方が「次のコンサートにも行きたい」と思ってくださり、少しずつお客様が増えていったという自負もあります。今回のツアーも精一杯頑張ることが、その先のコンサートにつながっていくのかなと思います。
──では最後に今後の目標や、この先挑戦してみたいことを教えてください。
林部智史:やはり、今年のテーマが「無限の可能性」でもありますので、自分の可能性をどんどん広げていきたいですね。既存の強みに頼っていると安定かもしれませんが、それでは可能性は広がらないと思いますから。昨年の活動テーマは虹だったこともあって、コンサートで「雨に唄えば」を披露したくてタップダンスを学び始めたんですよ。今回の『カタリベ2』は、選曲で攻めたものもありますから、コンサートの演出やテーマから今までにないチャレンジもあるんじゃないかなと。どんな新しい僕が見られるか楽しみにしていただきたいですね。そして、そうした取り組みが積み重なって、いつか将来的には林部智史という存在が他にはないジャンルになれたら……そんな壮大な夢も描いているんです。
取材・文◎橘川有子
写真◎小原聡太
『カタリベ2』
AVCD-63573 ¥3,400(税込)¥3,091(税抜)
配信リンク:https://SatoshiHayashibe.lnk.to/kataribe2_CD
【収録曲】
SUMMER CANDLES(杏里 / 1988年)
シングル・アゲイン(竹内まりや / 1989年)
PIECE OF MY WISH(今井美樹 / 1991年)
サンキュ.(DREAMS COME TRUE / 1995年)
誰より好きなのに(古内東子 / 1996年)
promise(広瀬香美 / 1997年)
桜の雨、いつか(松たか子 / 2000年)
I'm here saying nothing(矢井田瞳 / 2001年)
ほんとはね。(より子。 / 2002年)
名前のない空を見上げて(MISIA / 2004年)
NAO(HY / 2006年)
ハピネス(AI / 2011年)
※( )内オリジナルアーティスト / 発表年
※曲順未定、全12曲収録
<林部智史 CONCERT TOUR 2024 ∞ 歌で編む 無限の物語 ∞>
6月4日(火)17:00開演 千葉市民会館 大ホール
6月7日(金)17:00開演 カナモトホール(札幌市民ホール) 大ホール
6月13日(木)17:00開演 東京国際フォーラム ホールC
6月16日(日)16:00開演 シェルターなんようホール(南陽市文化会館) 大ホール
6月22日(土)16:00開演 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場
6月23日(日)16:00開演 福岡国際会議場 メインホール
6月27日(木)17:00開演 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(愛知県)
6月30日(日)16:00開演 とちぎ岩下の新生姜ホール(栃木文化会館) 大ホール
7月6日(土)16:00開演 NHK大阪ホール
7月7日(日)16:00開演 静岡市民文化会館 中ホール
7月12日(金)17:00開演 りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館) 劇場
7月15日(祝月)16:00開演 大宮ソニックシティ 大ホール
7月20日(土)16:00開演 東京エレクトロンホール宮城 大ホール
7月27日(土)16:00開演 相模女子大学グリーンホール 大ホール
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