【インタビュー】TAKURO(GLAY)、デビュー30周年記念シングルに“らしさ”の本質「やっぱりGLAYは面白いなと思ってくれればいい」
◼︎今持っている言葉でより説得力を増したい
──もう1曲のタイトルチューンについても伺っていきましょう。
TAKURO:「シェア」はね、もう王道で、安心安全(笑)。
──いや、安心安全ですかね? 確かに、「whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)-」はラディカルな変化がはっきり分かる楽曲ですし、そこから続けて「シェア」を聴くとミドルテンポに近いし、イントロではピアノも聴こえてくるので、パッと聴きではGLAYの定番と思うリスナーも多いことでしょう。実際、自分も最初はそう思いました。ただ、ちゃんと聴くと、「シェア」もかなりブランニューな感じを受けましたよ。
TAKURO:曲自体はやっぱり5〜6年前からメロも詞もほとんどできてたんだけど、アレンジの方向性で迷って、しまっておいたんです。で、去年、ももいろクローバーZの玉井詩織ちゃんの曲を書くきっかけを亀田さんがくれて、詞と曲を渡したら亀田さんがシティポップにアレンジしてくれた。自分の曲がシティポップになるっていうのは今までちょっとなかったというか、デビュー以来ずっと試してきたけど、GLAYはシティポップにならなかった。どうしてもヴィジュアル系が邪魔をして(苦笑)。
──そう言えば以前のインタビューでTAKUROさんは「ずっとmaj7(メジャーセブンス)というコードを使いたかった」って仰ってましたよね?
TAKURO:そう。2ndアルバム『BEAT out!』の「Miki Piano」はmaj7ばっかりで、あれはもう完全に大沢誉志幸の「Cab Driver」をイメージしてるんだけど、メンバーを入れるとそうならないから、あの曲は俺と佐久間(正英)さんとで作ったんだよね。でも、徐々に皆の器が大きくなって音楽的な背景が広がっていくと、「バンドでもいけるかな?」と思ってきて。さらに試行錯誤していく中で、JIROのベースの表現の幅がより広がって、「今ならいけるんじゃないかな?」と思い始めて。で、自分が提供した玉井詩織ちゃんの曲を聴いて「あ、ほら、やっぱり俺の曲はそこそこシティポップに行けるんじゃない?」と確信した。なので、「シェア」のデモの段階では完全にシティポップで、「メンバーに嫌がられても断られてもいいからそうしようぜ!」って亀田さんと2人で作ったものを投げたら、意外にも皆、何も言わずにすんなり演奏してくれて、それが極上だったという。
──いや、何が驚いたって、TAKUROさんのギターのカッティングですよ。
TAKURO:いや、ずっとああいうことをやりたかったんだけど、幾分ロックバンドだったり、ヴィジュアル系だったりの作法があったから(笑)。
──あのギターはどう聴いても山下達郎「スパークル」。
TAKURO:そうね(笑)。
──しかも、歌詞には《FOR YOU》と出てきますからね。
TAKURO:まーね!(笑)。
──これは完全に狙ったなと。しかし、以前「青春は残酷だ」でHISASHIさんが弾いた、マイケル・ジャクソンの「Black or White」でのスラッシュ風のカッティングにも驚きましたが、「あ、GLAYはこういうこともできるんだ!?」という意味では、この「シェア」の方が新鮮で驚きは大きかったかもしれません。
TAKURO:そう。これは例え話だけど、「TAKUROが今日の晩御飯の素材として何か珍しい食材を持ってきたぞ」「どうする?」ってなったときに、それがどんな洒落た食材でも、これまでなら全部カツ丼とかカレーライスみたいなものを作っちゃってた。でも、いまは何とか洒落た料理ができるようになった……ていう感じかな。
──(笑)。合ってますよね、これ。
TAKURO:ね。絶対TERUの声に合うと思ってたもん。
──漠然と、シティポップはそのジャンルの人がやるもので、ロックバンドはロックをやるものだという感じでいましたけど、「シェア」はシティポップとロックが巧く合わさった融合点のような印象です。大袈裟に言うと、こういう方向にJ-POPを進化させるのも面白いなって思いますよ。
TAKURO:函館の雑草たちが好き勝手に伸びたら、シティポップ村に絡みついてったっていう話(笑)。
──様々な音楽をスポイルしないで聴いてきたからなんでしょうね、おそらく。
TAKURO:そうですね。特に10代の頃は井上鑑ワークスが、それこそ「ルビーの指輪」から始まって、自分のDNAにがっちり絡みついてるもんね。その後にBUCK-TICK、X、ZI:KILLにいったけど、ふっとギターを持ってポロンってやったら、Fmaj7から始まる……みたいなね。そういう自分と長いこと折り合いを付けられなかったんだけど、それこそメンバーの理解もあって、いまではすごく楽しく音楽ができてます。一昨年<UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY 2022>ツアーの時、「彼らのHOLY X'MAS」をお洒落に、それこそ小沢健二風なポップなアレンジでやって、それに拒絶反応が出なかったことが今回の「シェア」に繋がったのかも。
──<UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY 2022>はいいライブでしたよね。映像を拝見しましたが、あれは本当に良かった。
TAKURO:あれは本当に誇らしい仕事だった。子どもたちのコーラスとのセッションも、ロックバンドとしての矜持である世の中へのメッセージという意味でも、「GLAYってすごいな、ここに居られて誇らしいな」という気持ち。『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』の制作は30代に差し掛かった頃で、その時に起こったいろんな生活の変化、諸々の不安みたいなものを全部曲にはしてみたものの、演奏面や姿勢については経験を積み重ねたいまの方が絶対に正しく曲を理解できているから、「こんなチャンスを得られて良かった」と思いましたね。
──「シェア」の歌詞も、そんな風に積み重ねてきたものが出ているように思います。余白が多く、こちらの空想の余地も大きくなったように感じます。
TAKURO:これはね、知里幸恵の『アイヌ神謡集』の物語がベースになっていて、《銀の滴 降る降る》っていう歌詞なんて、その序文に出てくる言葉。近年は北海道に帰ることも多いし、自分自身のアイヌ文化への接近からいろんなことを学んでいく中で、アイヌ民族は本当に大変な思いをしてきたと知った。北海道の針葉樹が立ち並ぶ森なんかに佇むと、“人はここで電気がない状態で生きてたんだな”って、その凄さにもう脱帽するし、尊敬しかない。彼らは何もかも無駄にせず、己の信じる神と共に生きてきたんですよね。そんな人たちへ想いを寄せた曲。アイヌ文化への尊敬と憧憬、あとは悲しいこと、辛いこと、残酷……いろんなことがベースになっています。
──温かい言葉はより温かく、シビアな言葉はよりシビアに響く。コントラストがはっきりしている印象はあります。あと、具体的な描写はほぼないじゃないですか。でも、この歌詞の背景には大分深いことがあったと想像させる。時系列も1本ではないですしね。
TAKURO:うん。何百年だよね。それこそ民族が大陸から渡ってきたことを考えると。
──深い歌詞だと思って聴かせていただきました。
TAKURO:いま、世界中で紛争や戦争が起こっているけど……なんていうかな、 “そうであるべき”っていうことと、“そういうものだ”っていうことの、2つの真実がいつも降ってくるじゃない? 戦争はしないべきだと心から思うけど、戦争は実際にある。北海道の歴史にしても、本来なら先住民であったアイヌの人たちが『アイヌ神謡集』の序文にあるように、楽しく暮らしていければ良かった。けれど倭人たちが自分たちのルールでもって他民族の文化を変えてしまったという現実。そこでシェアできなかった人間の愚かさ、他者への不寛容みたいなもの──そういうことを歌っていきたいなと感じた。
──「シェア」の歌詞に出てくるワードは、それこそTAKUROさんが若い頃からずっと使ってきている言葉なんですよ。ワード自体には馴染みがあって、“作詞家・TAKURO”らしいんですけど、世界観は大分変わっている気がしました。
TAKURO:いまあるものを丁寧に使って人に伝える、ということを心がけていて。「シェア」は顕著かもしれない。今持っている言葉でより説得力を増したいんですよね。生活の面でも、ずっと英語の勉強を続けてきたけど、今年はそれをちょっと止めようと思ってて。ギターのテクニックも、新しいオブリガート、フィガリングは1回置いといて、今までやってきたことを丁寧に見直して組み合わせて1個の良いフレーズを作りたいと思ってる。
──例えば、《春のためらい》とか《命の瞬(またた)き》とか《言葉はきっとまだ邪魔になる》とか、あと《どうか叶えて欲しい/あの日の二人が見た/たった一つの夢のその続きを》とか。GLAYのアルバムを遡って聴いたら、どこかにこれらのフレーズはあったようにも思えるんですけど、その使われ方というか、その言葉の持つ意味は大分違うと思いますね。
TAKURO:そうですね。役者は一緒だけど、役が違うから。
──そう考えると、「シェア」もさらに大注目のナンバーだと思います。
TAKURO:自分の中では“バンドとして新しい武器を得たな”っていう感じがありますよ。特にリズム。間の取り方。空気の含ませ具合。アンサンブルが面白いんですよね。
──さて、カップリングの話も少ししましょう。C/Wは<QUEEN+ADAM LAMBERT『THE RHAPSODY TOUR』 in SAPPORO DOME>でのライブ音源で、「SOUL LOVE」「HOWEVER」「彼女の“Modern・・・”」「誘惑」というベスト選曲は、30周年記念シングルに入れるに相応しいものですね。
TAKURO:同じミュージシャンとしてQUEENに対して一番思ったのは、「多分ラストになるかもしれないジャパンツアーを本当に楽しく過ごしてほしい」「どの会場でも気持ち良くライブやってほしい」ということでした。
──そのこころは?
TAKURO:もし、TAKUROとTERUがいなくなって、JIROとHISASHIが新しいボーカリストとサポートメンバーを入れて「GLAYです!」ってツアーをやったら、きっとみんな「どういうこと?」ってなるだろうけど、俺は俺がいなくなってもJIRO、HISASHIが受け止めてくれるならGLAYの名前を続けてほしいと思う。でも、ジョン・ディーコンは「フレディ・マーキュリーがいないクイーンならクイーンじゃない」って言って参加しない。一方でアダム・ランバートは自分のキャリアの大事な時期をQUEEN+ADAM LAMBERTとして立っている。当然いいことばかりじゃないだろうし、心ない言葉もいっぱいある中で、でも喜んでくれる人たちのために自分を捧げるその姿勢……。泣けるもんね、その想いに。そんな彼らを前にして自分たちができることっていったら、「北海道に来て良かった」と思ってもらうことくらいなんだよね。だから不思議なもんで、レジェンドバンドとやるから緊張するとか、キッズに戻るっていうのは1ミリもなかった。一丸となるべく、パーツの一部になりたいと思った。
──このテイクには、感謝の言葉を述べているTERUさんのMCも収録されていますね。
TAKURO:GLAYのことを知らなくても、GLAYの曲だったら聴いたことがあるだろうしね。しかも、北海道だったしさ。当日は「これホームなの? アウェーなの?」って思ってたけど、そんな中で曲を並べたら、「GLAYちゃん、大丈夫、大丈夫。俺たちが引っ張るから任せとけ」って曲に言われた気がした。「イントロさえ弾いてくれればあとは大丈夫だから」みたいな。今まで自分たちが曲を引っ張ってきたと思ってたけど、あの時ばかりは曲にバンドが引っ張られて、守られている感じがあったから、何の不安もなくできた。
──実際、現場で見ていると、「さて、どんなものかお手並み拝見」って感じでステージを眺めていた人が「HOWEVER」からラストの畳みかける楽曲群でしっかり盛り上がっていたりして。
TAKURO:それはもう曲たちのお陰。
──最後はちゃんと一体感があったと思います。
TAKURO:それが自分たちが与えられた使命だったからね。ちゃんとクイーンのみんなが来るまでに会場を温めるっていう。
──あと、このライブ音源では、今更ながら「村山☆潤さんのキーボードがいい」とか、「HISASHIさんは体調が悪かったそうだけど、それにも関わらずいいギター弾いてるな」とか、そういう音像も改めて確認できますね。
TAKURO:村潤、いいよね? 村潤が入ったら村潤の個性で彩られる。メタル(=ハジメタル)の時もそうだし、誠さん(=永井誠一郎)の時もそうだけど。
──今回のライブ音源で言うなら、「SOUL LOVE」のサビのオクターブユニゾンの箇所、コーラスよりもキーボードの方が前に出ている印象があって、「ああ、こういうアレンジもアリかも」と思って聴きましたよ。
TAKURO:サビ? あそこはコーラスも入ってるけど、多分、村潤はそうやってんじゃないかな? 村潤はTAKURO、JIRO、HISASHIの音がないところに自分のパートを当てると思うけど、メンバーが好き勝手やりすぎて、一番おいしいところがガッツリ空くこともあるから(笑)。キーボードの人には本当にやり甲斐のあるバンドですよ。
──それもちょっと感じましたね。音源ではあらゆる音を重ねられますけど、ライブでの基本はギター2本とベース、ドラムなわけで、それ以外の音はキーボードがすべて兼ねているようなところはありますからね。
TAKURO:そうそう。弾き甲斐があるよね。カップリングはライブの面白さが詰まっていると思うよ。
──最後に。30周年ともなると、過去の再生産でも誰も文句は言わないし、祝ってくれるでしょう。でも、そうしないでGLAYはこのニューシングル「whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)- / シェア」で新たなところに向かったということは強調しておきたいところです。
TAKURO:いや、本当は20年前にやりたかったんだけど、下手っぴでできなかっただけだから(苦笑)。ようやくやりたいことができるようになって嬉しいなと思っています。
取材・文◎帆苅智之
写真◎田中和子
62nd Single「whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)-/シェア」
特設HP:https://www.glay.co.jp/feature/62ndsingle_whodunit
LISTEN:https://GLAY.lnk.to/62nd_Single_GJ
【発売日】2024年5月29日(水)
【形態】
GLAY EXPO limited edition[CD+Blu-ray+グッズ] / PCCN.00060 / 6,050円(税込)
CD+DVD / PCCN.00061 / 2,750円(税込)
CD Only / PCCN.00062 / 1,650円(税込)
【収録曲】
1. whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)-
2.シェア
3.SOUL LOVE(QUEEN+ADAM LAMBERT『THE RHAPSODY TOUR』 in SAPPORO DOME)
4.HOWEVER(QUEEN+ADAM LAMBERT『THE RHAPSODY TOUR』 in SAPPORO DOME)
5.彼女の"Modern・・・"(QUEEN+ADAM LAMBERT『THE RHAPSODY TOUR』 in SAPPORO DOME)
6.誘惑(QUEEN+ADAM LAMBERT『THE RHAPSODY TOUR』 in SAPPORO DOME)
【Blu-ray/DVD収録内容】
・Road to 「GLAY 30th Anniversary GLAY EXPO 2024-2025」
GLAY EXPOとは何なのか。メンバー撮り下ろしインタビューを交えたドキュメンタリー映像。
また、QUEEN+ADAM LAMBERT『THE RHAPSODY TOUR』 in SAPPORO DOMEや新曲レコーディングの模様も一部収録しており、デビュー30周年となるGLAY EXPOイヤーを、より楽しめる映像になっております。
【GLAY EXPO limited edition】
・GLAY EXPO ナップサック
【ショップ別予約購入先着特典】
GLAY Official Store G-DIRECT:オリジナルハンドタオル
Amazon.co.jp:ビジュアルシート
セブンネットショッピング:アンブレラマーカー
楽天ブックス:缶バッジスクエア型(57mm)
タワーレコード:ポケットカレンダー(ランダム1枚/全5種)
HMV店舗 / HMV&BOOKS onilne:オリジナルポストカード (ホログラム仕様)
TSUTAYA他上記以外の全国CDショップ:オリジナルステッカー
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