【鼎談】須賀健太×荒牧慶彦×志磨遼平(ドレスコーズ)、「『奪われた僕たち』という作品の解像度が上がった」

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ドレスコーズの新曲「キラー・タンゴ」は、4月11日から放送がスタートしたドラマ『奪われた僕たち』の主題歌として書き下ろされた。

◆撮り下ろし写真

軽やかに躍動するリズムとメロディの向こう側から不穏なムードを漂わせる様が、とても印象的な仕上がりだ。「連続殺人を繰り返すピアノ講師と、犯行を記録するフリーの映像ディレクター」という2人を軸として展開する『奪われた僕たち』の物語に豊かな色彩を添えている。

今回、ダブル主演を務める堺洋一役の須賀健太、光見京役の荒牧慶彦、テレビ局のディレクター・櫻井幸司役で劇中に登場するドレスコーズ・志磨遼平が、このドラマと「キラー・タンゴ」について語ってくれた。

   ◆   ◆   ◆

■思っていた以上にメッセージ性の強い作品になりました

──『奪われた僕たち』は、荒牧さんが代表を務めているPastureとキングレコードの共同企画ですよね?

荒牧:そうです。キングレコードさんとお話をした際に「前にドラマを一緒に作ったチームとまた作りたいので、何かないですか?」ということになって、そこから企画がスタートしました。「僕が今までにやっていない殺人鬼をやってみたいです」というお話もしながら膨らませて、監督さんたちと共に動いていった感じでしたね。


──志磨さんはテレビ局のプロデューサー・櫻井幸司の役で出演していますね。もともと出演する予定だったんですか?

志磨:いえ、主題歌のお話をいただいたのが先でした。その後に「もしよければ、ちらっと出演しませんか?」と。

──須賀さんが演じているフリーの映像ディレクター・堺洋一を、かなりネチネチといじめていますね。

志磨:そうなんです。どうもすいません。

須賀:とんでもないです(笑)。

志磨:もっといやみなシーンも撮ったんですが、カットされていましたね。心を鬼にしてツンツンとつついたんですけど。

須賀:声を荒げるタイプの嫌な人ではなくて、チクチク刺してくる感じなんですよね。

志磨:はい。チクチクと。

須賀:そのシーンを撮ったのは序盤だったので、後半の撮影に活かせるフラストレーションになりました(笑)。僕の役は、そういうフラストレーションが根本にあるので。


──須賀さんにとって、待望の髭面の役でもあったとお聞きしています。

須賀:そうなんです。童顔なのもあって、なかなか髭を生やす役はないんです。そういう意味でも特別な作品になりましたし、俳優としてやっていく上での何かに繋がっていくのかなと思います。

──志磨さんはこれまでも演技のお仕事をする機会が何度もありましたが、撮影にどのような気持ちで臨んでいますか?

志磨:一生懸命やるのはもちろんなんですけど、どこか社会科見学というか……。

須賀・荒牧:(笑)。

志磨:「こんな風にドラマは作られてるんだなあ」って感激しながら参加しています。撮影を経験すると、ひとりで映画やドラマを観ている時も見方が変わって面白いんです。「このシーンはきっとこういう風に撮っているな」とかがわかるので。


──『奪われた僕たち』は、ドレスコーズのファンのみなさんが観たら新鮮な印象だと思います。こんなに嫌味な志磨さんの姿は、他ではなかなか観られないでしょうから。

志磨:須賀さんのファンのみなさんには嫌われそうでこわいです。

須賀:志磨さんが嫌われるとか、ないですから(笑)。

──(笑)。先ほど荒牧さんと志磨さんが「初めまして」と挨拶を交わしているのを見かけたのですが、今日が初対面なんですか?

荒牧:そうなんです。

志磨:一緒のシーンがなかったので。

──印象は、いかがですか?

荒牧:印象ですか? 優しそうな方ですね。

志磨:ありがとうございます。荒牧さんは、背がお高いですね。

荒牧:今日は、ちょっと盛っているんですよ(笑)。

志磨:ヒールの高いブーツを履いてらっしゃるんですね。

──志磨さんも背が高いですけど、何cmでしたっけ?

志磨:183cmです。

荒牧:僕は176cmなので。



──「キラー・タンゴ」を作る際、志磨さんはどのようにイメージを膨らませていったんでしょうか?

志磨:まずは脚本をいただいて読みました。決定稿になる前の段階ではあったんですけど、すでに「面白いなあ」と思いながら読みましたね。

──作る上でのとっかかりのイメージやテーマは、どのような感じでしたか?

志磨:ポップスで「殺人」というテーマを扱うことって、なかなかないじゃないですか。なので、この機会にじっくりと考えを巡らせました。なかでも、脚本に何度も出てくる「間接的な殺人」ということについて、ですね。そこをとっかかりとして作っていきました。

荒牧:「間接的な殺人」という部分は、脚本を書いた我人祥太さんのアイディアだったんです。最初の段階で決まっていたのはこの作品の世界観、「殺人をする僕がいて、それを健太くんが演じる堺が撮影する」ということでした。そこに我人さんが「間接的な殺人」ということを加えてくださったんです。

──殺人犯をフリーの映像ディレクターが記録するという独特な設定は、初期段階からあったんですね。

荒牧:そうなんです。例えば『DEATH NOTE』の夜神月も人を殺しますけど、あれはデスノートの力ですよね。そうではなくて人間が手を下した場合、どうなっていくのか? その影響力とは? そういうところから始まりました。あと、僕がピアノ講師というのも決まっていて、そこから我人さんが膨らませてくださったんです。


──ピアノ講師の役も初めてですか?

荒牧:初めてです。実際にピアノを弾かせていただきました。ドレスコーズの「スコラ」を弾いたんですよ。

志磨:ありがとうございます。

──「間接的な殺人」ということに関して、志磨さんはどのように捉えたんでしょうか?

志磨:自分が直接手を下さないまでも、無関係ではないということですよね。例えば、遠くで起きている紛争のニュースをただ眺めているのも、同じことなのかもしれないです。とても時事的なテーマとしても捉えられると思いました。空想の話ではなくて、「僕もあなたも無関係ではないですよ」というのは、強いテーマになると感じていました。

──「法の裁きに納得がいかないからといって、個人で手を下すのは許されるのか?」とかも、日常生活の中で考える機会があることだと思います。

荒牧:こういうのは、容易に解決できることではないですよね。人間の社会の中で必ず起こり得ることですし、生物の本能でもあるのかもしれないです。でも、社会的なテーマを込めたわけでもなくて、「こういう物語があったら面白いんじゃないかな?」というところから始まったんです。結果的に、思っていた以上にメッセージ性の強い作品になりましたね。

須賀:僕も問題提起をしたいというよりも、「観た時にどこか胸がざわつく」みたいなことを画に落とし込みたいと思っていました。この作品の中で起きていることを一番素直にキャッチする役回りが堺だと感じたので、登場する人たちの中で一番心が動いているべきだと思って演じています。


──「キラー・タンゴ」は、撮影の時点で既に完成していたんですか?

須賀:志磨さんと撮影で共演させていただいた時、この曲は制作の途中だと聞いていたので「どんな感じの主題歌になるのかな?」と思っていました。出演シーンの撮影が全部終わった志磨さんが帰る時、「撮影、頑張ってください。僕はいい曲を作ります」とおっしゃったのをよく覚えています。残りの撮影があった僕にとって、とても心強いお言葉でした。

志磨:いえいえ、とんでもないです。

須賀:後日、完成した曲を聴かせていただいたのは、撮影の現場でした。ストーリーや脚本のイメージからすると「激しいメロディの曲なのかな?」「ホラー要素を強くしたおどろおどろしい感じなのかな?」とか想像していたんですけど、想像を超える曲でした。

荒牧:意外だったよね?

須賀:はい。イントロを聴いた時点で驚きがありました。でも、不思議としっくりきたというか。曲を聴いたことによって『奪われた僕たち』という作品の解像度が上がったんです。意外性も含めてこの作品にとても合いますし、「キラー・タンゴ」によってこのドラマをさらに深めていただけたと感じています。

志磨:そう言っていただけて、嬉しいです。

須賀:「キラー・タンゴ」が一瞬流れるオープニングのトマトの映像も含めて、おしゃれですよね。「おしゃれ」という言い方が合っているのかはわからないですけど(笑)。あと、挿入歌でもドレスコーズさんの曲が流れるんですけど、そのシーンでの堺の鬱屈した感情ととても合っています。音楽、映像、僕らの芝居が上手くマッチしていたので、すごく嬉しかったです。

志磨:脚本を受けて曲を書くというのは二次創作というか、リアクションなんですよね。つまり作品を受け取る順番としては、僕は視聴者のみなさんと同じなんです。だから解釈は間違っているかもしれないですけど、自分なりのリアクションとして曲を作っています。なので、ご本人から「解像度が上がった」と言っていただけて安心しました。

荒牧:タンゴ調なのがすごく合っているんですけど、意外でした。これは、脚本を読んで思い浮かんだんですか?

志磨:最初はタンゴじゃなかったんです。曲を作ってから歌詞を書き、その後に「タイトルを考えよう」となって、なぜか「タンゴ」という言葉が出てきたんです(笑)。あんまり論理的な理由があったわけでもなく。

荒牧:感覚的なことだったんですね?

志磨:そうなんです。「タンゴ?」って僕も思って。メンバーには「とにかくこれはタンゴということになりました」と伝えて(笑)。「タンゴのつもりで演奏してみてください」と言ってレコーディングを進めるうちに、こういう形になっていきました。



──タンゴのイメージが根底にあることによって、却って不穏な雰囲気が醸し出されている印象です。

荒牧:そうなんですよね。光見は殺人に対して後ろめたさをまったく抱いていないので、その雰囲気がすごく出ていると思います。

志磨:ありがとうございます。曲を作る前に、制作のみなさんに「何かご要望がありましたら、おっしゃってください」とお伝えしたら、「いつも通り自由に作ってください。でも、どこか軽やかさみたいなものがあると嬉しいです」とのことだったので。あまり重く沈み込んでいくものにしないつもりではありました。

──歌詞は、複数の登場人物の心情、視点が盛り込まれていますよね?

志磨:そうですね。1番のサビは、被害者の視点です。でも、2番のサビでは加害者になっていますね。ふとしたきっかけでぼくらは被害者にも加害者にもなり得る、ということが言いたかったんでしょうね。おそらく(笑)。

──(笑)。犯罪、殺人とかは、もちろん許されない行為ですけど、そういう題材を描いた作品は、心を豊かに揺り動かしてくれますよね。ドレスコーズの曲にも、よく悪い人が現れますし。

志磨:僕は悪い人だからです(笑)。

荒牧:悪を描いたものに惹かれる理由の1つは、自分と違うからじゃないですかね? 

須賀:そうですね。

荒牧:普通に生活していたら知り得ない感情は、ドラマとかを通じてじゃないと、なかなか摂取できないですからね。おそらく、自分と違うから惹かれるんだと思います。

須賀:こういう作品で描かれる悪って、純粋にかっこいいというのもありますよね。あと、人間の繊細な部分が表れていると思います。罪を犯すというのは、実は繊細な感情の機微みたいなものがあって、僕もそれを表現するのが好きです。演じる側としても、そういう役をやらないと摂取できない何かがあるんです。技術がないと安っぽく見えてしまうジャンルでもあると思うのですが。

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