【インタビュー】超学生とヴィラン。そして新たな試行錯誤

◾️わかりやすいものをおしゃれに料理するのが一番かっこいいんじゃないか？

──「オーバールック」はドロドロとした狂気を描きつつもユーモアがあるので、そのあたりのギャップが超学生さんの好みにハマったのかもしれませんね。

超学生：てにをはさんはクールでありながら尖ったことをして、さらにメジャーシーンでもバリバリ通用する手法も取り入れる人ですし、ダークなサウンドでありながらキャッチーさもあって、そこのバランス感覚が「オーバールック」の世界観にハマっていると思います。あと、てにをはさんと「インキュベーター」を制作してくださったすりぃさんは、そのあたりのバランス感覚が近いんじゃないかなと思っていて。

──確かに、おふたりともダークなものをテーマにしてもポップネスを忘れないクリエイターという印象があります。

超学生：手法は違うけれど、おふたりとも敢えてポップな部分を入れることで狂気さを倍増させている気がするんですよね。「インキュベーター」で描かれているヴィランは他の5曲に比べると異質というか、狂っているわけでも信念があるわけでもなく、ただただ脅かしてくる敵というか（笑）。最初はもっと可愛い感じの曲だったんですけど、もう少しドロッとした雰囲気にできますか？とお願いしたらばっちりなものが返ってきたので、かっこいい歌にできたらなと思いましたね。

──ボーカルも新鮮でした。少年のようなピュアさもあれば、おどろおどろしい雰囲気もあって。

超学生：だいぶ苦しんだ録音ではありましたね。無垢さや純粋さを出そうとすると綺麗な歌い方になってしまうので、楽曲の世界観どおり圧倒的な敵として響くと同時に、ポップでキャッチーな歌にしたくて、いろいろトライした結果がこのテイクです。キャラクターがわかりにくいボーカルにすると、主人公の異端性が出ないなとも思ったんですよね。だからわかりやすく“ここはこんな歌い方をしてるんだ”と提示したかったんです。大袈裟な表現をどう整えるか、そのバランスはかなり苦労しました。



──『MAR6LE』のラストを飾る烏屋茶房さん制作の「Abyss-Over」は、TVアニメ『デュエル・マスターズ WIN 決闘学園編』のEDテーマです。こちらは邪神を復活させた主人公がモデルなのでしょうか？

超学生：というよりは歴代の『デュエマ』のヴィランたちをぎゅっと詰め込んだ曲ですね。『MAR6LE』の中ではいちばん光属性だと思います。というのも、烏屋茶房さんが月刊コロコロコミック的主人公に共通する幼さやあどけなさ、“頑張るぞ！”感をしっかり捉えてくださっているなと感じるんです。これまで歌ってきたヴィランとは全然違うタイプなので、『デュエマ』の世界にしっかり入り込んだうえで新しいアプローチをたくさん試しました。結果烏屋茶房さんがヴォーカルをすごく気に入ってくださったので、作曲者側の意図に添えて良かったなと思います。実際にOAを観て、ミックスやヴォーカルの課題も浮かんだので学びがたくさんありました。



──いま“課題”という言葉が出ましたが、『MAR6LE』を完成させて次のヴィジョンもいろいろと見えているようですね。

超学生： “わかりやすさ”を最近はいろいろと試していますね。しっかり見ないと気付かない、耳を凝らして聴かないとわからないものっておしゃれですけど、今は“わかりやすいものをおしゃれに料理するのが一番かっこいいんじゃないか？”と試行錯誤しています。だから前ならギリ聴こえない音を忍ばせて気付いてもらえたらいいなあと思っていたんですけど、最近は割と聴こえるようにして、それをおしゃれにできたらなって。

──見えないおしゃれに逃げない。

超学生：それはだいぶこれまでに試したので、一旦お休みでいいのかなって。せっかく工夫してみても、それが伝わんなかったら意味がないのかもと思っているところですね。だから『MAR6LE』は見えないおしゃれを作り込んでいるものもあれば、逆にめっちゃ見せようとしているところもあるので、転換期かなと思います。

──以前“やりたいことと好きなことは違う”とおっしゃっていましたが、今はどうですか？

超学生：やりたいこと＝好きなことになってますね。好きなことばっかりやっちゃってます（笑）。体育会系出身なのもあって自分を鍛えていきたいブームで、ミックスではやりたくないなあと思う工程も一生懸命やって。だからといってうまくいくとは限らないので、呻いたりしてます（笑）。2023年にたくさん挑戦をして、その末に見えたものがたくさんあったので、逃げずに全部頑張るモードです。体力ももっと必要だから毎日走ったり、今までは見た目が好きなマイクを選ぶことも多かったけど、最近はちゃんと音に合うマイクを選ぶようにしています。録音もなるべく一発で決められるようにちゃんと歌を練習をしたり。

──だいぶストイックなパンプアップ期ですね。

超学生：だから最近、気分転換にYouTubeショートをよく上げているんです。気の抜けたコンテンツで大きな反応をいただけることもあって、みんなはこういうものも面白がってくれるんだなという発見があったんですよね。僕は出す動画すべてをヒットさせる才能はないと感じているので、アウトプット至上主義でとにかくぽんぽんぽんぽん出して、喜んでいただけるものを見定めていくようにするしかできないんですけど。

──あれだけのものをあれだけの数アウトプットできるのも才能なのではないでしょうか。

超学生：やりたいことがたくさんあるおかげですし、それはいい曲をたくさん生み出してくれるVOCALOIDクリエイターの方々がたくさんいるおかげです。“声だけにするとどうなる”シリーズやアカペラシリーズは、リスナーさんからも“声だけだとこういうところまで聴こえるんだ”と楽しんでもらえたり、僕としても作り込んでいるものを聴いてもらえる機会にもなるのですごくうれしいので、本当にWin-Winすぎるんですよね。気の抜けたコンテンツと言いましたけど、1個1個ちゃんと敬意を持って向き合って投稿を続けていきます。

──今年の超学生はどんどん音楽マッチョになっていきそうですね。

超学生：歌ってみた動画も毎週投稿に戻したので、去年得たものを活かしつつ自分をどんどん追い込んでいきます（笑）。“超学生上達したな。良くなったな”と思われる、質の高いものをわかりやすく提示したいです。めちゃくちゃ楽しくてめちゃくちゃしんどい感じ、いいなって思ってますね。

取材・文◎沖さやこ