【ライブレポート】スピッツ、ツアー<HIMITSU STUDIO>武道館公演に少年のような心「楽しい夜にしてもらいました」
17thアルバム『ひみつスタジオ』を引っさげたスピッツの全国ツアー<SPITZ JAMBOREE TOUR '23-'24 “HIMITSU STUDIO”>。ホール&アリーナで計45公演。2023年6月にスタートしたツアーも始まってしまえばあっという間。振替になった公演を除く全日程が先日終了した。この記事では、2024年1月12日の日本武道館公演をレポートする。
◆スピッツ 画像
ペンチに挟まれたいちごのオブジェが目を引くステージには、中学時代の草野マサムネ(Vo, G)がエレキギターと同時期にほしくなったというスケートボード(ここでエレキを選んだからこそ、のちにスピッツが誕生する)や、ロボコンが好きだった草野少年の憧れが詰まったアルバム『ひみつスタジオ』のアートワークでおなじみのロボットなどが飾られていた。まるで自分の好きなものだけを集めて作った秘密基地のよう。“バンドが楽しくてしょうがない” “だからバンドをやっているんだ”といったエネルギーが詰まったアルバム『ひみつスタジオ』にぴったりのステージセットだ。“さあ、次はどんな楽しいことをしようか”と音を合わせる4人の心の弾みようは、スケボーやロボットに憧れたあの頃とおそらく変わらない。
「まもなく6年5ヵ月ぶりの日本武道館公演が開演いたします」という影アナに沸く客席。客電が消えて、いよいよ開演の気配。初めに登場したのは、三輪テツヤ(G)とサポートのクジヒロコ(Key)。しかし他のメンバーがなかなか出てこず、“何かあったのか?”とざわつく観客が手拍子や拍手をするなか、しばらくしてから草野、田村明浩(B)、﨑山龍男(Dr)が現れた。1曲目は、アルバム『ひみつスタジオ』のラストに収録されていた「めぐりめぐって」。「ライブの1曲目でやりたい」とメンバーも言っていた曲だが、確かに、バンドの自己紹介ソングともとれる曲を剥き身のサウンドで鳴らすオープニングは最高だ。要所のキメに合わせて、観客も嬉しそうに手拍子している。
なお、のちのMCによると、開演時に3人がなかなか出てこなかったのは、田村と﨑山がお互いのイヤモニを間違えてつけかえていたからで、三輪にも「待って!」と声をかけたものの届かなかったのだそう。メンバーにとってもファンにとっても前代未聞の出来事だったと思うが、こんなに長く続いているバンドでも初めてのことがまだあるのだから、バンドって面白い。“予想通りにいかないけど それでもっとワクワク”という「めぐりめぐって」の歌詞が奇しくも体現されるミラクルに、私たちリスナーから見えるところでも、見えないところでも、スピッツの36年には様々な出来事があったんだろうと想いを馳せる。それでいて、今も変わらない4人で、瑞々しいサウンドを鳴らしているのは奇跡と言えるだろう。“音楽が力になるのであれば”という気持ちが若き日のかたくなさを解くなど、変化もあったが、“ロックバンドである”というアイデンティティ、自分たちにとって大事なものはじっくり温め続けてきた。
「ワン、ツー、スリー、フォー!」と﨑山のカウントとともに始まったのは、初恋を歌った「ときめきpart1」。そして田村のベースソロへ。途中から思いっきり歪んだ音色に変化し、聴き覚えのあるリフが「けもの道」を導いた。バンドサウンドならではのジャキッとした感触が際立ったロック魂炸裂!といった感じの音像だ。ジャカジャーンとギターを掻き鳴らしながら人差し指を掲げる三輪は、ギターヒーローというべき佇まい。そこからさらに、シンバル4カウントをきっかけに「跳べ」へと展開。うねるグルーヴと心地よいテンポアップ、“飛びそうだ”と歌う前曲からの連なりも相まって、開放感が凄まじい。
たおやかでありながら確かな芯を感じさせるサウンドが、36年続いたバンドの歩調そのもののように思えた「紫の夜を越えて」を終えると、最初のMCへ。
「初っ端から何があったんだ!?っていう」──草野
「ホントだよ!」──三輪
と開演時の舞台袖で何が起きていたのか、前述したように観客へ説明した。ここに来て「﨑ちゃんの耳の穴は俺より大きい」(田村)という新事実が判明したと笑い合う4人。演奏再開は「大好物」からで、往年の名曲「チェリー」、ギターリフが印象的なロックナンバー「青春生き残りゲーム」が続いた。
ステージ上の4人はどこまでも等身大で、自分を大きく見せようという意図が一切ないようだ。MCは、「10年前の初武道館のときには、お手本になる人はいないかとTOKIOのライブDVDを観た」「今回は矢沢永吉の生配信を観た」という話題から、YAZAWAよろしく自分の名字を一人称代わりに言ってみたり、「チェリー」の歌詞を「栄光の架橋」(ゆず)や「オトナブルー」(新しい学校のリーダーズ)のメロディに乗せて歌ってみたりと、基本的に飾り気がない。演奏再開時にスイッチを大きく切り替えることもなく、言葉が音に変わっただけで、4人で楽しくコミュニケーションをとっているという点では地続きなのかもしれないと感じさせられた。
アレンジからも過度にドラマティックに仕立てようという狙いは読み取れないが、だからこそ滲み出るものがあり、かえってグッとさせられる瞬間が多い。例えば、「i-O(修理のうた)」「みなと」と続いたバラードブロックのラストを飾った「楓」では、ラスサビで草野の歌とアコギのみが残るというシンプルなアレンジで、寂しさと力強さが入り混じったような心模様を浮かび上がらせる。 﨑山のフレージングをフックとしつつ、1曲分の時間をかけてじっくりと熱量を上げていった「夜を駆ける」も、このバンドならではの豊かさに満ちた名演だった。
健やかなテンションで、誰に対しても扉を開きながら、4人が音楽を鳴らしているからこそ、リスナーは楽曲の一つひとつに安心して心を寄せることができる。バンドが曲数を重ねるほど、温かい時間が続いていく。スピッツでしか聴かない類の複雑なメロディによる歌い出しから、観客が笑顔で手拍子しながら飛び跳ねていた「俺のすべて」での光景はかなりハッピーだ。
本編最終ブロックは「美しい鰭」からスタート。そしてメンバー全員がボーカルをとる「オバケのロックバンド」である。“子供のリアリティ 大人のファンタジー オバケのままで奏で続ける”──4人が声を合わせて歌う、スピッツそのものを言い表したフレーズに、観客がテンションの高い歓声を上げて反応した。どれだけキャリアを重ねても、楽器を持ち始めたばかりの少年のような心を失わないスピッツのバンドサウンドは、それ自体が人生賛歌、生命賛歌であり、“お互いここまでよくやってきたよね”という空気を纏っている。だから、明るいのに泣ける。「甘ったれクリーチャー」「8823」「涙がキラリ☆」で本編は終了。
そしてアンコール。ライブのラストには「醒めない」が届けられた。
「みなさんに楽しい夜にしてもらいました。一人ひとり、全員に申し上げたいです。生まれてきてくれてありがとうございます。また武道館のステージに立てるように…武道館のステージに立てなくても、スピッツは続けていくので。忙しけりゃ忘れてもいいので、思い出したらまた会いに来てください」──草野
というMCからの、“覚えていてくれたのかい?”という歌い出しが心憎い。醒めないロック衝動、そしてリスナーの存在がスピッツの心を温め続けているのと同じように、このツアーでスピッツから受け取った音楽の数々が、きっと私たちの心を温め続けてくれるだろう。
取材・文◎蜂須賀ちなみ
撮影◎西槇太一
■<SPITZ JAMBOREE TOUR '23-'24 “HIMITSU STUDIO”>2024年1月12日@日本武道館セットリスト
02. ときめきpart1
03. けもの道
04. 跳べ
05. 紫の夜を越えて
06. 大好物
07. チェリー
08. 青春生き残りゲーム
09. 手鞠
10. i-O (修理のうた)
11. みなと
12. 楓
13. サンシャイン
14. 未来未来
15. 夜を駆ける
16. 俺のすべて
17. 美しい鰭
18. オバケのロックバンド
19. 甘ったれクリーチャー
20. 8823
21. 涙がキラリ☆
encore
en1. 僕の天使マリ
en2. 醒めない
■<SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”>
06月03日(土) 山梨・YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
06月06日(火) 埼玉・大宮ソニックシティホール
06月07日(水) 埼玉・大宮ソニックシティホール
06月09日(金) 栃木・宇都宮市文化会館
06月14日(水) 和歌山・和歌山県民文化会館 大ホール
06月15日(木) 滋賀・滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール
06月17日(土) 福井・福井フェニックスプラザ
06月21日(水) 宮城・仙台サンプラザホール
06月22日(木) 宮城・仙台サンプラザホール
06月29日(木) 北海道・札幌文化芸術劇場hitaru
06月30日(金) 北海道・札幌文化芸術劇場hitaru
07月04日(火) 新潟・新潟県民会館
07月06日(木) 石川・金沢歌劇座
07月10日(月) 広島・広島文化学園HBGホール
07月11日(火) 広島・広島文化学園HBGホール
07月15日(土) 青森・リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
07月17日(月・祝) 山形・やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)
07月21日(金) 北海道・帯広市民文化ホール(大)
07月23日(日) 北海道・コーチャンフォー釧路文化ホール(大)
07月27日(木) 熊本・熊本城ホール メインホール
07月29日(土) 宮崎・宮崎市民文化ホール
08月02日(水) 沖縄・沖縄コンベンションセンター劇場棟
08月03日(木) 沖縄・沖縄コンベンションセンター劇場棟
08月07日(月) 高知・高知県立県民文化ホール・オレンジホール
08月09日(水) 香川・レクザムホール・大ホール(香川県県民ホール)
08月10日(木) 岡山・岡山市民会館
08月17日(木) 群馬・高崎芸術劇場
08月21日(月) 鳥取・米子コンベンションセンター・BiG SHiP
08月23日(水) 兵庫・姫路市文化コンベンションセンター アクリエひめじ・大ホール
08月25日(金) 愛媛・松山市民会館・大ホール
08月29日(火) 三重・三重県文化会館大ホール
08月30日(水) 岐阜・長良川国際会議場メインホール
10月28日(土) 静岡・エコパアリーナ
11月11日(土) 神奈川・Kアリーナ横浜
11月12日(日) 神奈川・Kアリーナ横浜
11月25日(土) 福岡・マリンメッセ福岡A館
11月26日(日) 福岡・マリンメッセ福岡A館
12月05日(火) 兵庫・ワールド記念ホール
12月06日(水) 兵庫・ワールド記念ホール
12月19日(火) 愛知・日本ガイシホール
12月20日(水) 愛知・日本ガイシホール
▼2024年
01月11日(木) 東京・日本武道館
01月12日(金) 東京・日本武道館
01月16日(火) 大阪・大阪城ホール
01月17日(水) 大阪・大阪城ホール
■アルバム『ひみつスタジオ』
【デラックスエディション UNIVERSAL MUSIC STORE限定盤(完全限定生産)】
●2SHM-CD+1Blu-ray+グッズ:PDCJ-1140 ¥8,480+tax
●2SHM-CD+1DVD+グッズ:PDCJ-1141 ¥7,980+tax
※三方背ケース入り紙トレイ仕様
▼CD:Disc1
01. i-O (修理のうた)
02. 跳べ
03. 大好物
04. 美しい鰭
05. さびしくなかった
06. オバケのロックバンド
07. 手鞠
08. 未来未来
09. 紫の夜を越えて
10. Sandie
11. ときめきpart1
12. 讃歌
13. めぐりめぐって
▼CD:Disc2
01. ありふれた人生
02. 砂漠の花
03. スピカ
04. 大好物
05. あかさたな
※<Spitzbergen 30th Anniversary Tour “GO!GO!スカンジナビア vol.8”>より
〜M-1,4 2022.11.10収録/M-2,3,5 2022.11.12収録〜
▼Blu-ray / DVD
・美しい鰭 (Music Video)
・オバケのロックバンド (Music Video)
・讃歌 (Music Video)
・大好物 (Music Video)
・紫の夜を越えて (Music Video)
・烏滸がましい鰭 (Short Movie) -監督:松居大悟-
▼グッズ
ポストカードセット(予定)
※購入にはUNIVERSAL MUSIC STOREの会員登録(無料)が必要
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●SHM-CD+Blu-ray:UPCH-764 ¥5,280+tax
●SHM-CD+DVD:UPCH-7648 ¥4,780+tax
※三方背ケース入り紙トレイ仕様
▼CD
01. i-O (修理のうた)
02. 跳べ
03. 大好物
04. 美しい鰭
05. さびしくなかった
06. オバケのロックバンド
07. 手鞠
08. 未来未来
09. 紫の夜を越えて
10. Sandie
11. ときめきpart1
12. 讃歌
13. めぐりめぐって
▼Blu-ray / DVD
・美しい鰭(Music Video)
・オバケのロックバンド(Music Video)
・讃歌(Music Video)
・大好物(Music Video)
・紫の夜を越えて(Music Video)
【通常盤】UPCH-2256 ¥3,000+tax
01. i-O (修理のうた)
02. 跳べ
03. 大好物
04. 美しい鰭
05. さびしくなかった
06. オバケのロックバンド
07. 手鞠
08. 未来未来
09. 紫の夜を越えて
10. Sandie
11. ときめきpart1
12. 讃歌
13. めぐりめぐって
【カセットテープ】UPTH-1601 ¥3,000+tax
▼SIDE A
01. i-O (修理のうた)
02. 跳べ
03. 大好物
04. 美しい鰭
05. さびしくなかった
06. オバケのロックバンド
07. 手鞠
▼SIDE B
01. 未来未来
02. 紫の夜を越えて
03. Sandie
04. ときめきpart1
05. 讃歌
06. めぐりめぐって
【アナログ盤 (完全限定生産)】UPJH-9092/3 ¥3,980+tax
※アナログ盤のみ2023年5月31日(水)発売
※2LP (重量盤)
▼SIDE A
01. i-O (修理のうた)
02. 跳べ
03. 大好物
04. 美しい鰭
05. さびしくなかった
▼SIDE B
01. オバケのロックバンド
02. 手鞠
03. 未来未来
04. 紫の夜を越えて
▼SIDE C
01. Sandie
02. ときめきpart1
03. 讃歌
04. めぐりめぐって
https://lnk.to/himitsustudio_cd
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