【インタビュー】現代型ジャズギタリスト・竹内勝哉とは? 音楽人生と1stアルバムに込めたアイデンティティ

ポスト


◾️今の僕はオリジナル曲を書いて演奏したいという気持ちが強い

──じゃあ、Bob is Sickの活動をされている頃から、同時進行でジャズに惹かれていった感じだったんですね。

竹内:そうです。ただ、バンドをやりながらだとやっぱり時間の制約があったので。活動終了後の2017年からですね、ジャズにどっぷり浸かれたのは。

──そこからは気持ちをスパッとシフトチェンジされて。

竹内:ソロギタリストとして活動し始めました。とはいえ、今までロックの現場しか経験してこなかった人間なので、ジャズシーンにおける繋がりが上も下も横もいっさいない状態からのスタートでしたけどね。そんな僕を見かねて、清水さんがセッションに誘ってくださり、年代の近いミュージシャンを紹介していただいたりとか。そういうところから始まって、少しずつライブをするようになっていったのかな。

──バンドからソロに転身するのって、簡単なことではないだろうなと思います。ましてや、竹内さんはジャンルも大きく変わりましたし。

竹内:いやー、そうでしたね。実際にジャズの界隈で活動してみると、ぜんぜんやることも違いました。リハーサルというものがすごく少ないことに驚いたり。スタンダードを演奏する場合は、ライブ当日に曲を決めてちょっと合わせたら、すぐに本番って感じなんですよ。そもそもリハーサルがないこともあります。

──ロックやポップスのライブでは考えられないようなことが。

竹内:びっくりでした。これまではセットリストをしっかり決めて、ライブの前にはそのメニューをたくさん練習して、なんならMCの内容を固めて、アンコールのことも考えるのに、そういうのがないのは。もちろんオリジナル曲の場合は相応のリハをやりますけど、それでもロックバンドに比べたら量は圧倒的に少ないです。

──そうなんですね。

竹内:演奏の中身に関しても、始め方や終わり方が決まっていなかったりして、その瞬間のインスピレーションで弾いてみるようなノリが、わりと当たり前にあります。曲尺もプレイヤー次第なので、どれくらいソロを続けるとかも本番になってみないとわからない。

──まさにアドリブですね。そういう演奏は体験してみてどうでしたか?

竹内:すごく楽しかったです! それまで僕がやってきたライブはやっぱり再現性に重きが置かれていたというか、“演奏を間違えるのは良くないこと”とされてきた。でも、ジャズは“間違えるかもしれないけど行ってみよう”がアリなんですよね。結果、思ってもみなかった面白い展開が生まれたりするので。

──ソロになってからは、どんなことから始めていったんでしょう?

竹内:ライブでよく取り上げられるジャズの定番曲を練習して、それを誰かとセッションしてみて、うまくいかないという経験をして、演奏の呼吸を徐々に知って……みたいな感じですかね。ギタリストじゃないんですけど、チャーリー・パーカーのサックスとか、クリフォード・ブラウンのトランペットとか、トラディショナルなビバップ(モダンジャズ)のスタイルもかっこいいと思うので、ギターでコピーしました。あとは、先輩ミュージシャンのアドバイスから改善点を見つけたり、自分が聴いたことのない音源を教えてもらって勉強したり。

──いろんな試行錯誤の末に。

竹内:そういったことの繰り返しで変わっていけた気がしますね。最近はロックやポップスのフィールドで活動するジャズミュージシャンも多いですけど、僕みたいに20代半ばくらいまでロックバンドだけをずっとやっていて、急にジャズの世界に飛び込むというのは、やっぱり珍しいケースだと思います。そんなどこの馬の骨だか知れない自分を、清水さんの他にも、トロンボーン奏者の餌取雄一郎さんがギタリストとして使い続けてくれて、演奏の場を与えてくれたのも大きかったです。

──ソロギタリストの活動を始めて約6年になるわけですけど、自分の変化を実感できた時期は?

竹内:コロナ禍かもしれないです。家に籠っていたときは、まるで学生の頃に戻ったみたいに練習がめちゃくちゃできたので。曲もたくさん作れましたし。世の中的にしんどい時期ではもちろんあったけど、自分にとっては悪いことばかりでもなかったなと。

──オリジナル曲はいつから作り始めたんですか?

竹内:実はバンド活動の合い間にひっそりと作っていたりもして(笑)。今回のアルバムに入っている「886」は、2014年頃にはできていました。「Interstellar」もソロを始めた時期のライブからやっていますね。スタンダードを中心に据えて活動するスタイル、そのリスペクト精神も好きなんですけど、今の僕はオリジナル曲を書いて演奏したいという気持ちが強いです。

──そして、すべてオリジナル曲で構成された初のソロアルバムができました。

竹内:ようやくリリースできるなという感じです。もっと早く出したかった気持ちが本当はあって、コロナ禍がなければと思ったりもしますけど、その間でレベルアップできたことを考えれば、今のタイミングで出せてすごくよかったですね。これまでの自分を詰め込むことができました。

──ひとつの集大成的な作品に。

竹内:なりましたね。僕が影響を受けた音楽をうまくクロスオーバーできたというか。スウィングするリズムの曲もあれば、ロック的なフィーリングの曲もあるので。尺を決めずに弾くようなソロセクションとか、ジャズの自由なところが感じられるアドリブも随所に入っています。

──アルバムタイトルの『Yoi/宵』は、“日が暮れて間もない頃”“夕方から夜中までの間”という意味ですよね。

竹内:はい。曲が出揃ったとき、どちらかと言えば太陽が昇っていない時間のほうが似合うような、昼よりも夜っぽいアルバムだなと感じたんです。底抜けにポジティブな音楽というわけじゃないし、僕もめちゃくちゃ明るいタイプの人間ではなかったりするので(笑)。リード曲の「Interstellar」も夜中に作りましたし、自分のカラーを表すとしたら『Yoi/宵』かなって。

──「Interstellar」は夜中っぽさがありますね。SF映画の『インターステラー』にインスパイアされた曲だったりするんですか?

竹内:……と思うじゃないですか。実はぜんぜん関係ないんですよ(笑)。曲を作ったあとに映画は観ましたけどね。もともと“宇宙みたいなものを表現したい”という欲求が昔から漠然とあったので、ちょっと暗いトーンのリフを切り口にイメージを広げていった感じです。



──1曲目に収められたSE的な「Lift Off」と2曲目の「Interstellar」が繋がっているような作りになっていますね。

竹内:初のアルバムであることを踏まえた「Lift Off」=“発進”という曲を冒頭に置いて、パブリックドメインの無線交信音声を使いつつ、スペースシャトルを打ち上げる感じのアレンジにしました。そうすると、「Interstellar」で宇宙空間を飛んでいる画がより鮮明に浮かぶなと思って。

──「Interstellar」は、どこか不穏なムードから始まって、各楽器がスリリングに絡む展開もあり、後半には音色が明るさを帯びていったりと、場面が切り替わっていくような印象を受けました。

竹内:リフものがけっこう好きなんですよね。この曲もピアノリフから始まるんですけど、コードをあまり変えることなく、自由に演奏できる余白を作って、テーマとなるメロディにはあえておかしな音も入れながら、サビは3拍子で疾走感のあるキャッチーな作りにしたり。やっていてとても楽しい曲なので、リードにしました。
この記事をポスト

この記事の関連情報