【インタビュー】逹瑯(MUCC)、壮大なロックバラード「ソラノカタチ」にこぼれ落ちそうな日常感「特別じゃないことを歌いたい」
結成25周年を迎えたMUCCの活動が怒濤を極めるなか、逹瑯(Vo)はソロプロジェクトも動きを止めることがない。12月6日、J-POP界の異才・大島こうすけをサウンドプロデューサーに迎えたタッグ第三弾として、3rdシングル「ソラノカタチ」をリリースしたのだ。
◆逹瑯 動画 / 画像
1stシングル「エンドロール」、2ndシングル「残刻」という前二作では、凄まじく高密度で煌びやかな音の洪水に圧倒されたが、前回のインタビューで逹瑯本人が予告していた通り、「ソラノカタチ」はバラードとなった。前2作に比べれば穏やかなミドルテンポではあるものの、展開はドラマティックで濃密。何より、逹瑯の表現豊かでエモーショナルなヴォーカリゼーションが見事だ。シングル制作秘話に加え、2024年3月13日のリリースが発表された3rdアルバムの構想や、ソロとしては声出し解禁後初となるツアーに向けた想い、2023年末に向かい怒涛の日々を過ごす心の現在地を含め、じっくりと尋ねたロングインタビューをお届けする。
◆ ◆ ◆
■曲がすごくドラマティックで壮大な感じ
■逆に歌詞は日常感というか誰でもあること
──シングル 第三弾は、前回のインタビューでの予告通り、バラードになりましたね。逹瑯さんの歌声の素晴らしさに聴き惚れました。
逹瑯:ありがとうございます。
──前二作に続き大島こうすけ(作曲家、編曲家、キーボーディスト)さんとのタッグですが、曲づくりはいつ頃どのように始まったのですか?
逹瑯:結構ギリギリで、8月末とか9月頭ぐらいからだったと思います。「バラードの、こういうテイストの曲調がいいな」という俺のアイデアを基に、足立(房文/逹瑯のソロプロジェクトをサポート)がベーシックとなるスケッチを組んでくれて。そこから「あ、こういう感じになんだったら、もっとこうしたほうがいいな」「もっとこうできないかな?」というやり取りをしていきながら、大島さんに渡す段階ではしっかり出来上がったデモを今回はつくっていました。
──0から1の段階で逹瑯さんの中にあったイメージは、どんなものだったんですか?
逹瑯:バラードって幅がめっちゃ広いじゃないですか。ピアノがグイッと出てくるしっとりした静かなバラードもすごく好きなんですけど、アコースティックではそういうのを散々このチームでやっているので、“差別化があまりできなさそうだな”と思って。だから、しっかりと演奏が入っている、ロック系のバンドサウンドのバラードにしたいな、というのはありましたね。
──展開が起伏に富んでいてドラマティックですが、それも最初からあった構想ですか?
逹瑯:そうですね。最初、サビに置いていたメロディーがすごく良かったので、「これをBメロにしちゃったら、もっといいサビが来るんじゃね?」ということで、Bメロに繰り上げちゃったりとか。曲が進んでいくにつれて、“あ、別のサビが来るんだ?”という感じの展開にしていきたかったんです。あと、ガッツリとしたバンドサウンドで構築していく上で、大島さんと一緒にやったら絶対にストリングスが重なってくるんだろうな、という予想はできていたので、そこに合うような曲づくりというのはしてたかもしれない。
▲3rdシングル「ソラノカタチ」タワーレコード限定盤
──どこを切り取ってもサビのような強さがあるメロディーですし、5曲分ぐらいのアイデアが1曲に詰め込まれたかのような、贅沢な曲ですよね。歌詞のモチーフは今回、どのように生まれてきたのですか?
逹瑯:曲がすごくドラマティックで壮大な感じだったので、逆に歌詞はミニマムなこと、パーソナルなことを歌ったほうが良さそうだな、と思って。日常感というか、誰でもあるようなことをはめていきたいな、と。特別じゃないことを歌いたいな、という感じで書いていましたかね。
──例えば、“残した食事が生ごみに変わった”というフレーズは強烈なインパクトがあります。
逹瑯:Bメロ始まりなのは置いておいて、Aメロの導入、物語の始まりをどうしようかな?とずっと悩んでいて。日常感を持って書いていこうと思った時に、“すごくよくあること”を書きたくて、きっかけは分からないけどポンッ!とそのフレーズが出てきたんですよ。“これ嫌いだから”から“生ごみに変わった”までの言葉がはまった時に、“あ、このまま行ける気がする、この曲”と思いましたね。
──食事とか生ごみとか、大胆な言葉選びですよね。
逹瑯:誰が聴いても想像できる画がほしかったんです。あと、何かしらこの曲は映像を思い浮かべながら聴いてほしかったので。サビが壮大に広がっているから、Aメロはすごく具体的な、みんなが想像できるような食卓で、そのテーブルに座っている人は聴く人それぞれに違う人だけど、具体的な誰かが思い浮かぶだろうなって。そこがはまったからすごく気持ちよかったです。
──食べることは生きることと直結していて、綺麗事ではないですよね。そこに迫っていきたい、目を逸らさずに書きたい、みたいな想いもあったのでしょうか? 考え過ぎですかね?
逹瑯:全くないです(笑)。日常のふとした切り取りで。何となく一瞬モヤッとすることも1時間もしたらもう無かったことになって、思い出しもしないっていう。そういうことの繰り返し、という意味での日常感というか。でも、そこに何か問題提起をしたいわけではないですね。そこから入って、乗り物の中から空を見ている時、部屋でカーテンを開けて空を見ている時、そういう時の“今日の空、綺麗だな”という気持ちとか。
──なるほど。
逹瑯:空を見ている時って結構、1人の時が多いと思うんですよ。誰かと一緒にいたとしてもあまり会話が無いイメージがあって。でもその時って、自分の中ですごくいろいろなことをしゃべっているような感じがする。その時の心理状況、精神状態によって空の見え方って良くもなるし、悲しくもなるし、どんどん変わっていくから。見たいように見たい景色を見るなぁ、と。聴く時によって聴こえ方が変わっていくような、この曲もそういう歌になったらいいなっていう、漠然としたイメージはありましたね。思うことはたくさんあるんだけど、口に出さないほうがいいよなとか、別に人に言うようなことでもないなとか。そういう感情ってみんなあると思う。それを悪いとも思わないし、「それでいいんじゃないかな?」っていう曲にしたいなって。
──逹瑯さんご自身は結構空って見ますか?
逹瑯:うん。たぶん好きなんですよね。嫌いな人はあまりいないと思うけど。綺麗だし、雨が降るとなんか嫌な気持ちになるし。晴れているだけで気持ちよくなるし、感情を左右するもので。
──“ずっと言えない”には“癒えない”のダブルミーニングを読み取りましたが、解決しないことであっても、そういう気持ちが“ある”と受け止めるだけで癒されるというか。無かったことにせず、認めることって大事なんだな、と。そういう心情に寄り添う、優しい歌詞だと感じます。
逹瑯:無かったことになっていっちゃうものがすごく多いし、忘れていってしまうものも多い。でも、普段は覚えてないけどふとした時にパッと思うこと。それってネガティヴなことも多いと思うけど、“そういう感情を持ってていいんじゃない? 当たり前なんじゃない?”っていう。正解はないし、間違っているとも思わないし。そういう感情を持って生きている今の自分を肯定するのも大事なんじゃないかな?みたいな。
──そういうことを今回歌詞にしようと思った、きっかけや理由として思い当たるものはありますか?
逹瑯:いや、詞先じゃなくて曲先なので。曲をバッと聴いた時に“何を歌にしたいんだろうか?”というところから入るんですけど、そこで浮かんでくる映像とか空気感、匂いとかからどんどん輪郭がはっきりしてくるんですよね。“あ、俺はたぶん、この曲でこういうことを歌いたいんだな”というのがどんどん見えてきて、言葉になっていく感じなので。普段思っていることを歌にしたいぜ、という感じでもないんですよね。
──では、エモーショナルな歌唱も、曲がこういう歌い方を呼んだ、ということですかね?
逹瑯:うん。ここの歌詞はどういう心境かな? どういう描写かな?と思いながら歌っていく時もあれば、歌詞の内容は無視してサウンドとしてうまく起伏をつくっていこうという歌入れの時もあって。今回は前者でしたかね。
──何回も歌い直した箇所、いろいろなアプローチを試みたパートはありますか?
逹瑯:今回はMUCCのツアーの合間のレコーディングだったから、試行錯誤をしているような余裕もなかったです。“声が出るうちに録り切んなきゃ”みたいな感じだったので、それは結構大変でした。歌い出した時、あまり調子が良くなくて“今日、録れないかも”と思いましたからね。勢いでなんとかできるタイプの曲でもないし。でも、後半で声が出るようになってきて、いい感じで録れたので良かったです。
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