【インタビュー】感覚ピエロ、映画『ゆとりですがなにか』主題歌と結成10周年、秋月復帰を語る「僕らが生まれた理由の音を」
感覚ピエロがデジタルシングル「ノンフィクションの僕らよ」を10月13日にリリースした。現在彼らは同新曲を携えて、11月1日の渋谷 Spotify O-WEST公演を皮切りに約2年ぶりの全国ライヴハウスツアー<感覚ピエロ presents 10th ANNIVERSARY「感覚ピエロですがなにか」ツアー>を開催中だ。
◆感覚ピエロ 動画 / 画像
2016年放送のTVドラマ『ゆとりですがなにか』が令和の時代に映画化。当時のテーマ曲「拝啓、いつかの君へ」に続いて、映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』のために書き下ろされた主題歌であり、結成10周年一発目のタイアップ曲が「ノンフィクションの僕らよ」となる。
1年ぶりのワンマンとなった2023年7月の渋谷 Spotify O-WEST公演から、2022年1月より一時活動を休止していた秋月琢登(G)がステージ復帰。7月に結成10周年を迎え、ますます精力的な活動を展開している4人は意欲満々だ。秋月の復帰について、『ゆとりですがなにか』主題歌について、そして結成10周年について、横山直弘(Vo, G)と秋月琢登にじっくりと話を訊いた。
◆ ◆ ◆
■各々が自分を見つめ直して互いをリスペクトして
■やっぱりカッコいい連中だなと心から思える状態
──秋月さんがライブ活動を休止することを発表したのが2021年11月だったので、感覚ピエロは約2年間、サポートギタリストを入れた編成でライブを行っていました。みなさんはどんな気持ちで活動を続けていましたか?
横山:秋月はステージには立っていなかったけど、曲作りだったり他の仕事だったり、相変わらずずっと動いてくれていたので、“4人で感覚ピエロだ” “4人でバンド活動をしているんだ”という気持ちはずっとありました。
──バンドの活動自体を止めたくはなかった?
横山:もちろんその辺りのディスカッションもありました。バンド自体の活動も休止する/続ける/解散するという3択だったんですよ。当時はコロナの影響で音楽業界全体が先行きの見えない時期だったので、バンドの活動自体を止める選択肢も、なしではなかったと思います。だけど、僕個人としては“ここでバンドの歩みを止めてしまうのはすごくもったいない”と思っていたし、“歩み続けた先に何かあるかもしれない” “それを見てみたい”という気持ちのほうが強かった。そこからメンバーとのディスカッションを経て、バンドとしても“続ける”という選択を採りました。
──実際に歩みを止めなかったことで、見えたことはありましたか?
横山:同じ楽曲の同じフレーズでも、弾く人によって全然違うものになるんだという当たり前のことに気づきました。サポートギターのTAKEYAもバンドのことを真剣に考えながら僕らと向き合ってくれたんですけど、だからこそ、逆説的に痛感したんですよね。一人でも欠けたら、感覚ピエロの音楽は成り立たないんだと。そう気づけたのが大きかったです。
──では、秋月さんはどんな想いで復帰を決めたんでしょう?
秋月:2年間ステージに立たず、感覚ピエロというバンドを外から見ていたんですけど、“ああ、カッコいいバンドだな”ってしみじみ思ったんですよ。感覚ピエロ自体が10周年に向かう大事な時期だったというタイミングの面と、僕自身の気持ちの面が合致して、7月14日のライブで復帰しようと決めました。
──事前告知なしで、アンコールで登場したんですよね。久々に4人でステージに立った時、どんな感情が湧きましたか?
秋月:ゲリラみたいな感じだったし、僕が休んでいた2年の間にファンになってくれたお客さんもいるので、“こいつ誰やねん?”と思われへんかなという心配がまずあって。
横山:(首を振る)
──でも、お客さん、すごく温かかったじゃないですか。
秋月:そうですね。なので、すごく嬉しかったです。一度活動を止めた理由、こうして戻ってこられた理由をファンのみんなに自分の口から話す場をちゃんと設けたいと思っていたので、そういう時間をいただけてよかったなと思います。サポートのTAKEYAは、この2年間、メンバーのようにバンドに関わってくれました。自分はブランクがあるけど、戻ってくるからには彼を超えていかないとダメなので……そういう緊張感もありつつも、一番に思ったのは“ライブって面白いもんや”ということでした。4人でまた楽しく音を鳴らせて嬉しかったです。
──横山さんはいかがですか。
横山:“ギターの音、うっせーな”と思ったんですけど(笑)、思えば、10年前のあの時も爆音だったんですよ。そもそも僕は10年前に、秋月が前にやっていたバンドのライブをステージの下から観て、“カッケーな”と思ったから、秋月からバンドに誘われた時に“一緒にやりたい”と思えたので。久々にステージで一緒に演奏しながら、“これこれ!”という感覚とともに思い出したのは、その時のことでした。一発音を鳴らした瞬間に、自分がこのバンドをやっている意味を再確認しましたね。それはきっとお客さんにも伝わっているんじゃないかと思います。秋月が戻ってくると知らなくてもチケットを買って、感覚ピエロを応援しにライブハウスに来てくれた人たちに対して、“感覚ピエロが生まれた理由の音”を示すことができて嬉しかったです。
──YouTube動画『10周年を経て本音で気持ち語ってみた』内で、横山さんは「10年前の気持ちを取り戻した気がする」とおっしゃっていました。あれは、どういう意味合いで?
横山:まさに、今話したような意味合いです。そもそも感覚ピエロというバンドがスタートしたのは、メンバーそれぞれが、他3人のプレイやステージに対して“カッコイイな” “リスペクトできるな”という気持ちを持っていたからなんです。だけど、同じ共同体の一員として活動を続けていると、“もっとこうしていこうよ”という課題が見えてくるから、もちろんバンドの中でディスカッションが発生することもあるし、相手のプレイに対して“こうしてほしい”と自分の気持ちを押しつけてしまう瞬間や、ぶつかり合いも生じてしまう。そんななかで、10年前の自分たちが持っていた、メンバーのことをシンプルにカッコいいと思う気持ちを、どこか見失ってしまっていたような気がしていて。だけど10年目に入って、秋月が一回休むとなった時に、それぞれが自分自身を見つめ直して、お互いのこともリスペクトできるようになって、“やっぱりカッコいい連中だな”と心から思える状態に立ち戻れた。そういう意味合いで発言しました。
──そういうふうに気持ちが変化すると、制作中の会話も変化しますか?
横山:そうですね。直近の話なんですけど、ドラムとベースのレコーディングに僕は参加できなかったんです。レコーディングの現場に参加できなかったのはその時が初めてだったんですが、ベースの滝口(大樹)とドラムのアキレス(健太)に対して、“2人の好きなようにやってほしい。自分がいいと思うものを出してくれ”というふうに任せられた。それは、“だって、あなたたち、カッコいいから”という気持ちがあったからこそだと思うし、実際に上がってきたものもすごくカッコよかったので、“こうしてほしかったな”という気持ちは特に湧かなかったです。この2年間で僕らはそれぞれが“個”に立ち還ったんじゃないかと思っています。今回は秋月がライブを休むに至りましたけど、滝口やアキレスだって彼らなりに葛藤しているし、心がめちゃくちゃ強いわけではない。誰か一人が「俺、続けられへんわ」と言ったらこのバンドは終わってしまうから、続けていくことが一番難しいと思うんです。そんな中で、自分はこのバンドのために何をしていくのか、どういう存在であるべきか、どのようなメンタリティでそれを強く保ち続けるのか……というところにそれぞれが立ち還った。まずは自分の楽器や感覚ピエロというバンドに対して、それぞれがプライドを持つことで、お互いにリスペクトし合える関係を築くことができたんじゃないかと思っています。
──なるほど。7月14日のライブで久々に4人が揃った時、最初に鳴らした曲は「拝啓、いつかの君へ」でした。秋月さんが戻ってくるまでライブでやらなかったのは、“この4人で鳴らさなければ成立しない曲だ”という想いが特に強い曲だからですか?
横山:その通りです。僕たちにとってすごく大きな意味のある曲なので。
──完全無所属のインディーズバンドにも関わらずタイアップをゲットしたという面でも、当時話題になりましたよね。「拝啓、いつかの君へ」は、2016年に放送されたドラマ『ゆとりですがなにか』の主題歌でしたが、先日配信リリースされた「ノンフィクションの僕らよ」は、映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』主題歌。“再結成”後初の新曲が『ゆとりですがなにか』との再タッグとは、とてもドラマティックな展開ですが、“秋月さんが復活します”と“映画サイドからオファーが来ています”という2つの要素がある中で、諸々の物事がどんな順序で決定し、どのように噛み合っていったのかが気になりました。
秋月:「映画の主題歌を感覚ピエロに書いていただきたい」というお話をいただいたのは去年で、つまり、僕が復帰を決める前だったんですよ。その時点では、映画の公開日や“感覚ピエロが主題歌をやります”という情報のリリース日もふわっとしていて。この曲を聴いてもらえるのがいつになるのかもふわっとしている状況の中で、僕は曲を書き始めました。同じ時期に、「Break Together」(映画『ブラッククローバー 魔法帝の剣』挿入歌)の制作とかも入ってきてましたね。で、僕からメンバーに「そろそろ復帰したいと思っている」という話をしたのは、今年5月か6月くらいなんですよ。その時には映画の公開日は発表されていて、「7月29日に一通りの情報を解禁できそうです」という話だったので。僕ら7月28日が結成日なので、ちょうどぴったりだったというか、収まるところに収まったなという感じがあります。
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