【インタビュー】Sing Sing Rabbit、「愛しさの中で」のMVを通して伝えたかった“信じる思い”

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香港を拠点に活動中。不思議な、でもキュートなうさぎのランプシェイド型のヘッドマスクを身につけているかと思えば、ヘッドマスクを取った瞬間カラフルなマスクをした見目麗しい女性としての姿へ。キュートなファッションアイコンとしての一面持つSing Sing Rabbit。

◆ミュージックビデオ

以前から彼女は、日本での活動にも勢力的だった。2022年も、「When Sing Sing Rabbit Meets」と名付けたコラボシリーズの一環として、香港の有名シンガー・endy jaugwokyinと「恋花」を日本語で歌唱、配信リリースをした。

そして今回、Sing Sing Rabbitが「When Sing Sing Rabbit Meets」の相手として手を結んだのが、KELLY CHEN 。日本でもシンガー、女優としての活動経験を持つ香港のスターだ。2人は「愛しさの中で」を広東語、日本語でデュエット。100万香港ドル以上の予算を投じて制作したMVは、「Prague Music Video Award」で国際賞(Best Music Video In Asia)を受賞。ブダペストで催された「International Music Video Award」では最優秀初監督ミュージックビデオ賞、最優秀衣装賞、最優秀プロダクション賞、最優秀VFX賞、最優秀アジア太平洋ミュージック・ビデオ賞の5部門を獲得した。同作品の魅力を来日中のSing Sing Rabbitに語ってもらおう。



   ◆   ◆   ◆

──「愛しさの中で」のMV、まるで映画並のスケールですね。まずは、どういった内容の作品に仕上げようとしたのか、その意図や経緯から教えてください。

Sing Sing Rabbit:最初に嬉しさとして伝えておくと、わたしにとって憧れの存在だったKELLY CHENがデュエット相手として参加してくださったことが夢のようで、彼女には本当に感謝をしています。「愛しさの中で」は、映像も含めて制作を進めていた楽曲でした。当初、わたしとプロデューサーのA.T.との2人で進めていたのが、「地球に住むわたしが演じるEMMAという女性が、願いごとを叶えてくれると噂される遥か遠くの星に住む人へ向けて思いを届け、その願いが叶う」という内容でした。KELLY CHENとの出会いは後々お話しますが、今回のプロジェクトへKELLY CHENが参加してくださることが決まり、MVの内容がさらに深みや広がりを持った結果、今回の作品が生まれています。

──設定も教えてください。

Sing Sing Rabbit: わたしは、崩壊寸前の地球に住むEMMAという女性と、KELLY CHENが演じるキャプテンKと一緒に宇宙船へ乗り込んだ、ヘッドマスクをかぶったパイロットラビットの2役を演じています。EMMANは、人類が絶望し悲嘆にくれる中、たった一人地球の再生への希望を持ち、それを強く信じ続けている女性。彼女は、願い続ければその夢を叶えてくれるスペーストライブの存在を知り、その人たちへ向けバイオリンの音色に乗せて思いを発信し続けます。その願いをキャッチしたのが、キャンプテンKでした。キャンプテンKは、希望を抱きながら一人砂漠を彷徨い歩いていたEMMAの前に現れ、その願いを叶えるのが、この物語の大筋になります。

──本当に壮大な物語ですよね。

Sing Sing Rabbit :物語の最後に、EMMAの願いを受け入れたキャプテンKが地球を綺麗な惑星に戻してくれます。作品自体は本当に短編映画のようになっていて。わたしがこの作品を通して伝えたかった思いであり、Sing Sing Rabbitとして表現していく上のテーマに据えているのが、「自分を信じること」と「夢を追い続けてゆくこと」。「愛しさの中で」のMVにも、「どんな絶望の淵にいようとも、叶えたい思いや願いがあるのならけっしてあきらめることなく追い続けてほしい」という気持ちを込めているから、映像を見た人たちにその思いが伝わったら嬉しく思いますし、そこで得たエネルギーを自身の力にしてもらえたらなと願っています。



──その気持ちが映像にも映し出されたことも評価を受け、「Prague Music Video Award」や「International Music Video Award」で賞をいただけたんでしょうね。

Sing Sing Rabbit:賞をいただけたことは、私たちクルーみんなの自信に繋がりました。でも、最初から賞を狙おうと思っていたわけではありません。今回のMVを制作するうえで、どうしてもいろんな人たちの力を借りなければいけませんでした。同時に、香港からでもハリウッド映画に勝るとも劣らないハイクオリティの作品を作りだせることを証明したかったんですね。香港から世界へという思いを持って集まった人たちの結晶となったのが、このMVでした。私たちは、作りあげた作品に自信を持っていますし、MVを見た人たちからもたくさんの評価の書き込みをいただいています。だからこそ、「他の国の人たちはどんな風にこの作品を受け止めるのだろう?」、それを知りたくてエントリーしたところ、嬉しい評価をいただけました。「愛しさの中で」の作曲はわたしが手がけましたが、MV自体の構想は、プロデューサーのA.T.が1年以上前から練り続けてきたものでした。制作の模様は、YouTube上にメイキング映像も乗せているので、ぜひご覧になってください。




──MVの中、カセットWALLKMANやいろんなレトロゲーム、タイプライターなど、懐かしい品々も登場します。そこには、どんな思いを込めているのかも教えてください。

Sing Sing Rabbit :キャプテンKとパイロットラビットが乗り込む宇宙船の一室に、レトロな品々ばかりを集めたコレクションルームがあります。物語の中では、そのコレクションと関連する要素としてカセットWALKMANも登場します。わたし自身カセットテープや再生機器には、両親の影響で幼少の頃に触った程度の記憶しかありません。今は音源も配信が主流でCDもどんどんレトロ化していっています。ネットを通していろんな情報が簡単に手にできる時代。それは、音楽も同じです。いろんなアイデアにしても、思い浮かんだときに類似したものがないかをすぐに調べることができるし、いろんなアイデアを参考にチョイスしていくこともできます。だけど、まだインターネットが普及していなかった時代は、その人が必死に考え抜いたものが唯一のオリジナリティとして輝きを発していましたよね。きっとあの頃の人たちは、今の私たち以上に想像力を豊かにしていたと思うんです。だからこそわたし自身はレトロな文化や商品へリスペクトを持っていて、その精神も伝えたくてパイロットラビットにその気持ちを委ねました。


──「愛しさの中で」は楽曲配信もしていますけど、4種類のカセットテープもリリースされています。

Sing Sing Rabbit :MVの中、EMMAがカセットWALKMANをいつも手にしているんですけど、彼女の願いを球体という一つの物質として受け止めたキャプテンK とパイロットラビットが、その思いをとある機器にかけて変換するんです。そこで出てきたのがカセットテープ。キャンプテンラビットは、以前、地球へ降り立ったときにカセットの再生機器を手にしていて自身のコレクションの中に加えていたことから、さっそくカセットデッキを取り出し、カセットテープになったEMMAの思いを再生するわけです。その一連の流れから「カセットテープとしても販売しよう」というアイデアが生まれ、今回のリリースに繋がりました。

──そんな経緯があったんですね。

Sing Sing Rabbit :日本でもそうだと思いますが、香港でもレトロブームが起きており、あえてひと手間をかけて楽しむことを若者たちがやっています。実際、そういうひと手間をかけたほうが好奇心を掻き立てますし、愛着も強くなりますからね。

──キャプテンKとパイロットラビットの関係性も教えてください。

Sing Sing Rabbit:彼女たちは、スタートライブという一族の生き残り。彼女たちの惑星の住人は、夢を抱くことをあきらめて滅んでしまいました。でも、夢を信じ続けた2人はこうやって生き残れり、夢を叶える力を持つ存在にもなっています。2人の姿にも、わたしが曲に込めた思いを投影しています。

──個人的に好きなのが、エンディング映像を終えたあとのアフターストーリーの中でキャプテンラビットがおちゃめな姿で歌っている姿がすごくチャーミングなのと、その姿をあきれた顔で観ているキャプテンKの表情なんですよね。

Sing Sing Rabbit :今回のMVを世代を超えていろんな人たちに親しんでほしいなと思い、ちょっとおちゃめなパイロットラビットの姿も入れました。本編中の彼女のボディランゲージにも、お茶目さと同時に、彼女なりのメッセージを詰めたので、細かい動きまで想像を巡らせて観ていただけたらなと思います。最後にパイロットラビットが歌う曲にも、いろんなメッセージを込めています。同時に、この物語の続きがあるのかな?という風にも匂わせています。本当にこの物語の続きを作るのか、それともこのMVを映画にしてしまうのか……。そこは、プロデューサーのA.T.がいろいろと頭の中で巡らせているようです。

──良ければ、MV制作にまつわるエピソードも聞かせてください。

Sing Sing Rabbit:エピソードは本当にたくさんあります(笑)。あの映像を作りあげるまでの準備にも相当の日数を費やしましたし。そもそもあの映像は、ハリエッド映画並の最新鋭技術力を誇るXR Studio Votion Studiosの協力がなければ、XR背景やアニメーション、砂漠での実写撮影などは不可能でした。その素材を作りあげるまでにも相応に日数をかけて、リハーサルだけで4日間、スタジオの撮影で3日間、他にも砂漠での撮影など、10日間ほどかかっています。 これは本当に裏話になりますけど、砂漠のシーンは上海から飛行機で移動しないと辿り着けない中国の銀川で撮影をしています。本当はドバイの砂漠で撮ろうとしていましたが、いろんな申請の手続きが複雑すぎて断念し、最終的に銀川へと決めました。


──そうだったんですね。

Sing Sing Rabbit :じつは砂漠のシーンは、わたしではなく、銀川の近くに住むわたしの友人にお願いをしました。彼女はわたしと身長と体型も変わらないので、他の作業をしていたわたしは香港に残り、撮影クルーたちが彼女のもとへ足を運び、砂漠のシーンを撮影しています。その撮影をしたのが、7月。しかも、彼女はセーター姿。 撮影後のお礼にと連絡を取り「撮影はどうだった?」と聞いたら、「めちゃくちゃ熱くて死にそうだった。もう二度とあの砂漠には行きたくない」と言ってました。そんな背景もあったうえでの撮影だったこともわかったうえで見てもらえたら、また違って見えてくるかも知れません。

──前作の「恋花」ではendy jaugwokyinと。今回の『愛しさの中で』はKELLY CHENとデュエットをしました。Sing Sing Rabbitさん自身、デュエットにこだわりもあるのでしょうか?

Sing Sing Rabbit:わたしは小さい頃から誰かと一緒に歌うのが大好きでした。主メロを歌うのはもちろんですけど、どうすれば綺麗なコーラスを入れられるのかなど、いろいろ自分なりに工夫をしながら歌うことを楽しんでいました。そういう背景もあったので「When Sing Sing Rabbit Meets」というデュエットシリーズを立ち上げ、最初にendy jaugwokyinと一緒に「恋花」を制作しました。その第二弾として制作したのが、KELLY CHENを迎えた「愛しさの中で」です・

──KELLY CHENは、Sing Sing Rabbitさんの憧れの人というお話でしたが、きっと、いろんな憧れの方はいると思います。その中で、なぜKELLY CHENだったのでしょうか?

Sing Sing Rabbit :じつは、わたしがSing Sing Rabbitとして活動をする前の時期、わたしの別名義でKELLY CHENに楽曲提供をしたことがありました。最初のご縁は、そのときになります。ただしそれ以降交流が続いていたわけでもなく、わたしはSing Sing Rabbitとしての活動をスタート。KELLY CHENは、まさにスターでありつつ、でも近年は家庭を第一にということでほぼ引退状態でいました。じつは、「恋花」でデュエットしたendy jaugwokyinが、彼自身の楽曲や主演映画を手にアワードへノミネートしていました。わたしもプロデューサーのA.T.も、デュエットしたご縁からその模様を見ていたのですが、その授賞式でendy jaugwokyinが受賞したところ、そのプレゼンターとしてKELLY CHENが登場。久しくメディアには出ていなかったこともあって、会場中の人たちが驚きの声を上げ、授賞式の中で、KELLY CHENが復活も宣言しました。その時点で、すでに「愛しさの中で」のデモ音源も、MVの構想も固まっていて、あとはデュエット相手を探すのみだったから、A.T.と「大スターのKELLY CHENがオファーを受けてくれるとは思わないけど駄目を承知で一度アタックしてみよう」という話をして、デモ音源と資料をKELLY CHENの事務所に送りました。

──へえ!

Sing Sing Rabbit :それから数日後、KELLY CHENのマネージャーからわたしへ、「あなたと話したい人がいるから、電話で話すことは可能?」と連絡がきました。「大丈夫です」と連絡をしたところ、電話をかけてきたのがKELLY CHEN。 彼女は「わたしに何をしてほしい? それを教えて」と、直接デュエット参加OKの返事をくれました。あのときのわたしは嬉しさから舞い上がってしまい、いまだに何を言ったのか覚えていません。ただ、電話を切ったあと、大空に向かって「わたしはKELLY CHENと一緒に歌えるんだー!」と叫んだことだけは覚えています(笑)。


──そこから、今の関係が生まれたんですね。メイキング映像を見ながら、互いに気持ちが通じあっているなぁとも感じていました。

Sing Sing Rabbit :わたしにとってKELLY CHENは今でも憧れの大スター。なのに、わたしと親しくしてくださっていることが本当に嬉しいんです。KELLY CHENと一緒に広東語バージョンのレコーディングを行なったときのことですけど、わたしが持っていたドリンクを見たKELLY CHENが「今度そのCMに出演するから、次回ドリンク持ってきてあげる」と言ってくださいました。その後、日本語バーションのレコーディングのとき、本当にそのドリンクを一箱持ってきてくださいました。あれだけの大スターなのに、一度した約束は絶対に守るところは本当に尊敬しています。

──昨年来日したときは、まだコロナ禍の時期でしたよね。今回来日して、日本の雰囲気も変わりました?

Sing Sing Rabbit :昨年は、みなさんとお会いするとき全員がマスク姿でした。今回はみなさんの表情をしっかりと見れることに、まずは一番の変化と喜びを感じています。今回のプロモーション活動の面でも、直接対面して行なう機会が増えていますし。渋谷のスクランブル交差点を舞台にした大型ビジョンでのMV上映や、宣伝トラックを走らせることなども、みなさんが外に足を運んでいるからこそ効果的な宣伝方法ですし、HMVさんと一緒に渋谷MODI内で行なっている、MV内で使用した模型や衣装の展示、カセットテープの販売や、ファンの人たちとのサイン会なども、直接お会いするからこそできること。そういう環境の中で、ふたたび日本に来れたのが一番嬉しいです。

──最後に読者の方にコメントをお願いします。

Sing Sing Rabbit :わたし自身、以前から日本の音楽が大好きで、日本の楽曲のカバー配信も行なっています。次は、ライブ活動という形で来日したいです。もちろん、将来的には他のアジア諸国でも演奏したいし、世界中をツアーして回りたいです。次は、ライブでお会いしたいです。

取材・文◎長澤智典


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