【インタビュー】神はサイコロを振らない、『心海』に貫くエゴとアート「コンセプチュアルなアルバムを」
神はサイコロを振らないが9月27日、2ndフルアルバム『心海』をリリースした。収録された13曲にひしめき合うのは想像を絶する完成度を求めた4人の才能だ。TBS系ドラマ『ラストマン−全盲の捜査官−』の挿入歌として起用された「修羅の巷」でその名が加速度的に知れ渡り、知名度や話題性という面で突出した存在となっていることは、誰もが認めるところだろう。しかし注目すべきは周囲に起きている様々な事象ではなく、『心海』というアルバムで聴くことのできる圧倒的な音楽性に尽きる。
◆神はサイコロを振らない 画像 / 動画
“心の海”を意味するタイトルは、自身の心の奥底にある精神に潜り込むような制作過程に由来するという。それゆえ深海ではなく、心海。加えて、「告白」を除く12曲の心情が3曲ずつの4つに分かれて“喜怒哀楽”を表す結果となったことも『心海』というタイトルに集約される。前述の「修羅の巷」、Rin音とコラボ「六畳の電波塔」、asmiをゲストに迎えた「朝靄に溶ける」、そしてNintendo SwitchのアクションRPG「FREDERICA (フレデリカ)」主題歌「Divisionなどの既発曲に、新録曲を含む全13曲は柳田周作(Vo)曰く、「POPSを模索し、突き詰めたROCKの究極体」だ。
全20曲を収録したそれまでの集大成とも言える1stフルアルバム『事象の地平線』から約1年半、新たな地平を切り拓いて深く海へと潜り込んだ2ndフルアルバムは、鮮やかなまでに成長を遂げて唯一無二のアートを放つ。柳⽥周作、吉⽥喜⼀(G)、桐⽊岳貢(B)、⿊川亮介(Dr)に制作秘話を訊いたロングインタビューをお届けしたい。
◆ ◆ ◆
■曲の書き方が本当に変わりましたよね
■お客さんに届けたいから表現している
──2ndフルアルバム『心海』、前作よりもさらに音楽的な広がりを感じさせる作品であると同時に、大衆音楽としてのポップスを明確に目指しているからこその葛藤も音楽に出ていて、素直で、愛おしさのある作品だと思いました。完成後の今、みなさんが感じていることを聞かせてもらえますか?
桐木:自信を持って「いいアルバム」だと言えるものができたなと。完成した直後は“やりきった!”という感覚になりました。
黒川:今回の収録曲の中で一番先に配信した「六畳の電波塔」リリースから1年以上経ってますけど、1年かけて音楽的にも人間的にもすごく成長できたと思っていて。いろいろな経験をちゃんと経たからこそ、完成したアルバムだと感じています。
柳田:僕はもう、“3枚目のアルバムはどうしよう”と気持ちが切り替わっているかもしれない。ミックスやマスタリングも含めてアルバムの制作を終えるまでは、毎日のように収録曲たちを聴いていたので、完パケ後にはもう過去の作品になっちゃっているんですよ。次のアルバムでは神サイというバンドをどこまで面白くできるだろうと考えながら、最近は今まで知らなかった音楽もなるべく聴くようにしています。
吉田:自分も、次のステップについて考えちゃってます。ライブでこのアルバムを表現するために自分はどういうことをしようかとか、考えることが前に前に進んでいっている感じがありますね。
▲柳田周作(Vo)
──配信シングルをコンスタントにリリースしつつ、ある程度曲数がたまったら新曲を加えてアルバムにまとめるというのが、メジャーデビュー以降の神サイの制作スタイルになっています。今作の方向性を決めるうえで鍵になった曲はありましたか?
柳田:アルバムの最初に収録されている「Into the deep」と「What's a Pop?」ですね。実はこの2曲は少し前から温めていたんですよ。前アルバム『事象の地平線』をリリースして、制作が一旦落ち着いた……とは言えないけど、合間合間で曲を作っていた時期に、2つで1曲というイメージで作った曲で。“『事象の地平線』がベストアルバム的な作品とも捉えられるぶん、次はコンセプチュアルなアルバムの要素を強くできたらいいな”と思いながら作っていました。
──確かに、「次はコンセプチュアルなアルバムもいいかも」と以前のインタビューでも言っていましたよね。
柳田:今ってサブスクで単曲で聴かれることが多いと思うし、コンセプチュアルなアルバムを作るのって時代の流れに逆行しているのかもしれないですけど、ここは自分のエゴを貫きたかったんです。
──配信シングルのインタビューの時から何となく感じていましたが、今回のアルバムを聴いて、“ポップスとは”とか“自分たちの音楽を大衆にいかにして届けるか”というのが、ここ1年の神サイの課題だったんだろうなと、改めて思いました。
柳田:この1年、“人に伝えるとは何ぞや”とか“どう言葉を紡いだら想いをちゃんと受け取ってもらえるだろう”と葛藤することは多かったです。分かりやすい歌詞を書いたから大衆に受け入れられるかというと、そうとは限らないですし。「夜永唄」が大衆に向けて書いた歌かというと、むしろその逆だし。とはいえ、書き下ろしとなると、キャッチーさや分かりやすさを求められる瞬間もあるんですよ。だけど、完全に世間に迎合した曲だったり、自分たちらしさを出さずに書くとすれば、“だったら僕じゃなくていいじゃん”という話になるわけで…。そんな感じで、自分の中でもすごく向き合ったし、戦ったし、たくさん話し合いました。
──売れ線を狙うのではなく、自分のリアルをつらつらと綴っていたら、いつのまにか自分の見えないところで受け取ってもらえていて、たくさんの人に共感してもらえていた。そういう在り方がポップスとして最も美しいんだという話を、以前インタビューでしてくれましたよね。そう考えると、答えは柳田さんの中にずっとあったんじゃないかと思いますが、それでも悩むことは多かったですか。
柳田:そうですね。たぶん今のシーンに迎合したものを出したら、その曲が世間に受け入れられたにせよ、受け入れられなかったにせよ、妥協してしまったという事実に後悔すると思うし、めっちゃ悔しくなると思うんですよ。それだったら、ありのままの自分から出てきたもので勝負したい。そう思う一方で、神サイというバンドを存続させるには、花火を打ち上げ続けなきゃいけないというプレッシャーもあって。メジャーデビュー以降、たくさんの人が力を貸してくれているのに、花火を全然打ち上げられていないんですよ。僕は毎回“ヤバい曲ができた”と思っているけど、世間の評価はなかなか比例しない。だからチャンスが来るたびにプレッシャーを感じていたし、いろいろな人の期待を背負っている中で、自分のエゴをどこまで貫いていいんだろうかという葛藤がありました。
──そうなんですね。
柳田:例えば「What's a Pop?」はめっちゃ悩んでいる時にできた曲だし、「スピリタス・レイク」もギリギリの精神状態で作った曲だし…でも迷いだけがあるわけじゃなくて、結局、楽しみながら音楽を作っている自分がいて。曲を書いている最中はしんどいことももちろんあるけど、完成した瞬間の達成感とか喜びとかがデカすぎて、全部帳消しになる。だからここまで続けられてるのかな。それに、書き下ろしだろうと何だろうと、自分たちらしさはもちろん、ライブのことを常に考えながら曲を作っているんですよ。それってつまり、“お客さんにこうやって聴いてもらいたい”とか“お客さんにこう届けたいからこう表現したい”と考えているということで、僕はお客さんのことをずっと思っているんだな、と。
──だからこそ、このアルバムは「告白」という曲で終わる。
柳田:そうですね。“♪君に歌っているんだよ”というのはまさにお客さんのことだし…そう考えると、曲の書き方が本当に変わりましたよね。お客さんに届けたいから表現しているし、リスナーの存在が最優先になってきている。その辺りの変化はまんま歌詞に出ていると思います。
◆インタビュー【2】へ
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