【インタビュー】今どきのバンドらしさと相反するハングリー精神を持つバンドYENMAのリアル

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昨年末からの「ロン・ロン・ロマンス」「走れ」「踊ラnight」の連続リリースで話題の3ピースバンド・YENMA。2014年に前身バンド“Charles”が「閃光ライオット」ファイナルに出場してから、メンバーの加入、脱退などの転換点を経て、今年7月の単独公演に向かって邁進している。

タイトルからして実に今風な楽曲、TikTokでの熱心な活動などから、今どきのバンドらしい印象を受けるが、その実態は思いの外ハングリー。これまでの活動を振り返って厳しい自省の言葉を語り、経済的な成功への情熱にはヒップホップ的な切実さを感じる。そんな二面性を持つYENMAに、これまでとこれからの自分たちについて話を聞いた。

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■キーワードは“白玉”の気持ちよさ

──皆さんの音楽的なルーツを教えてください。

池田光:ヴォーカル・ギターの池田光です。ルーツというと、子供の頃に父親のカーステレオから流れていた昭和歌謡になると思います。あの独特ないなたいメロディラインは、今の自分の作る曲の下地になっているところがありますね。初めて自分で「これいいな」と思ったのはコブクロでした。あと、中高生の頃にボン・ジョヴィにハマって、ずっとそれしか聴いてない時期がありました。

▲池田光

深澤希実:キーボード・ヴォーカルの深澤希実です。母親がクラシックのピアノの先生で、自分も3歳から習ってました。だからずっとクラシックで育ったんですけど……クラシック、ずっと嫌いで。小6で兄からBUMP OF CHICKENを教えてもらってからはギターロックばっかり聴いてましたね。クラシックの曲を全然練習せずにボカロ曲の耳コピばっかりやって叱られたりしてました。そのあと音大のジャズ科に進んだんですけど、ジャズを聴きはじめたのは進学してからです。

▲深澤希実

山本武尊:ドラム・コーラスの山本武尊です。ちょうど自分で音楽を選びはじめる時期、小5から中3までハワイに住んでたんですけど、向こうの男の子たちって本当にヒップホップしか聴かなかったんですよ。だから自分もそんな感じでしたね。カニエ・ウエスト、エイコンとかがトップだった頃ですね。で、日本に戻って高校に入って、ドラムを始めました。それがきっかけで本格的にバンド音楽を聴き始めましたね。レッド・ホット・チリ・ペッパーズとかグリーン・デイとか、洋楽のバンドを中心に聴いてたんですけど、先輩に日本のロック、ゆらゆら帝国やいろいろな邦ロックを教えてもらって徐々に聴くようになっていった感じですね。

▲山本武尊

──昭和歌謡、クラシック、ヒップホップと、本当に3人バラバラですね。それでいて、皆さんの作っている音楽は現代の邦楽シーンの潮流にしっかりとアジャストしたものといえると思います。池田さんは昭和歌謡からのコブクロ、ボン・ジョヴィというのが不思議です。

光:ボン・ジョヴィのギタリスト、リッチー・サンボラに憧れていたので、最初はリードギターだったんです。閃光ライオットに出たとき初めてヴォーカルをやってみたんですけど、そのときの景色が忘れられなくて今に至るという感じです。自分はヴォーカルのほうが合ってるのかなと思うんですけど、やっぱりボン・ジョヴィが大好きなので、ステージ上ではがっつりギターも弾いていたいという気持ちが強いです。

──今の音楽シーンではギターソロが減ってきているという話がありますよね。皆さんの直近のリリースもかなり今っぽい邦楽の作法で作られているといえるのかなと思うのですが、ギターソロの割合ってどうでしょうか?

希実:多いと思います。

光:そうだね。せっかく希実がキーボードでいてくれるので、任せられる部分は任せて、自分がギターを弾く時間をちゃんと持っておきたいなと。

──池田さんのメインギターはストラトキャスターですよね。こちらもやはり近年の邦楽シーンでは多く見られるものです。幅広い対応力があり、今風の小綺麗なカッティングにも適しています。

光:自分の場合はストラトを使っているのもリッチー・サンボラの影響ですね。本当に好きで、ボン・ジョヴィが。ただ、今日本でみんなが好んでいる音楽も大事に考えていかなきゃなと思っているので、おっしゃるようにチャカチャカ系の綺麗なカッティングもしつつ、ここぞというときにはギャーンと、という感じです。マーシャルのアンプの音をモディファイしたエフェクターを使ってるんですけど、それをゲインマシマシで思いっきりギターソロをやるのが好きなんです。



希実:それでいうと、クラシックのピアノってずっとソロなので、バンドをやり始めた当初はすごく苦労しました。クラシックに対してジャズやポップスのピアノの役割って本当に別物で、「いいピアニスト」と言われるポイントがまったく違うんです。バンドのキーボーディストとしてやりはじめた最初の頃、クラシックの感覚で弾いてたら「うるさい」って言われてしまって。音数が多くて指が回ればいいんじゃないんだ! というのが衝撃だったんです。バンドでは他の楽器との兼ね合い、それこそギターの邪魔をしない弾き方なんかが求められるんですよね。初めて組んだバンドメンバーから「白玉を弾く気持ちよさを覚えてほしい」と言われて、それをずっと意識してます。

※白玉:全音符のこと。音数の多いプレイでは全音符より短い音をたくさん鳴らすことになるが、全音符の多い演奏の場合は1つ1つの音符をより大事に聴かせるのに重きを置くことになる

武尊:最近は白玉の気持ちよさをわかってくれてると思いますね。

希実:うざ(笑)。

武尊:がんばってると思いますよ。

希実:お前覚えとけよ。

──(笑)山本さんは、バンドでの自分の役割をどう捉えているでしょうか。

武尊:そうですね、僕は手数が多いタイプのドラマーじゃなくて、どちらかというとシンプルで強いビートに憧れてます。もしかしたら最初に聴いていたヒップホップの影響かもしれないです。同じリズムをループすることによって人は踊るんだってことを体で覚えたというか。フィルがおいしいから踊るんじゃない、ビートがカチッとハマって、パートごとの音の配置のズレが繰り返し聴いてるうちに馴染んでいってグルーヴが出てくると思っていて……なんでずっとニヤニヤしてんの(笑)。

希実:別に。

光:なんか揚げ足取ってやろうって顔してたね(笑)。

武尊:俺も“白玉”っぽい話しちゃったな。

希実:師匠が今おっしゃった“ループで人を踊らせる”ってやつ、感銘受けました。

武尊:ありがとうございます(笑)。

──閃光ライオットへの出演、ベーシストの脱退など、様々な転換点があったかと思いますが、皆さんは今YENMAがいる地点をどんなふうに捉えられていますか?

武尊:「ロン・ロン・ロマンス」ができたのはバンドにとって大きい転換点だと思います。純粋にいい曲だなと思うし、うちの雰囲気が一気に変わったのってこの曲からだなと。それまではよくあるバンドサウンドだったと思うんですけど、ここからEDM感を取り入れた曲作りができるようになってきて。


光:僕も同意見ですね。もう1つ挙げるとしたら、一時期どうにも曲ができないときがあって、向き合い続けた末に「炎天下のサイダー」って曲ができたときに作曲家として一段階前に進めたような気がします。


希実:ちょっとバンド外の話なんですけど、私は兄とTikTokを一緒にやってて。

──お兄さんとのアカウント「ホストのお兄ちゃんと妹」には12万人以上のフォロワーがいらっしゃるんですよね。

希実:TikTokをやり始めてから考え方が変わったのは実感していて。より外側に目が向くようになったというか。今YENMAは前身のバンドを含めて5年目なんですけど、まあ売れてないですよね。売れないままここまで来たってこととしっかり向き合って、一気に何か変えていかないといけないというのは思います。そういうチャレンジの1つとして「ロン・ロン・ロマンス」みたいな曲があるのかなって。

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