【インタビュー】S.I.、日本初レゲトンシンガーによる桁外れのおふざけと深い愛「明るい音楽で日本を照らしたい」

ポスト
no_ad_aritcle

■エロという人間の本能を刺激する音楽って
■絶対に必要なんじゃないかな


──笑える曲から胸に刺さる曲まで、それこそ1stアルバム『JAPATON』には老若男女に届きそうな人間味溢れる曲が収録されていますが、コンセプトってありましたか?

S.I.:まず、これまでリリースしてきた「不倫島」「聖なる夜に土下座をしてる」「ロック画面」「防波堤でカーセッ」「マスク外したあなたはブスでした。」といった5曲を入れたいというのがあって。

──既存曲5曲に、新曲8曲を追加した全13曲ですね。

S.I.:「防波堤でカーセッ」「マスク外したあなたはブスでした。」からS.I.のことを知った人のほとんどが、“ふざけた曲だけ”っていう認識だと思うんです。だけど、僕が伝えたいことは別にそういうことだけではなくて。世界が悲しい歌で溢れないように──音楽を通して明るい気持ちになってもらいたいということなんです。僕の音楽を届けるためにまずは、僕の人間性を知ってもらいたい。だからアルバムには、誰にでもあるようなふざけた一面から、実際に今、自分が考えてること、辿ってきた道程まで、アーティストとしてのS.I.を表現しました。それが『JAPATON』です。



──アルバムの入口として注目されるのは、やっぱり「不倫島」「防波堤でカーセッ」とかセクシーな曲だと思いますが、S.I.さんの中でエロと音楽は結びついたものなんでしょうか?

S.I.:いや、結びつけなきゃダメでしょ、絶対(笑)。最近の若い子たちって、女性に対して消極的というか、あんまりアグレッシヴじゃないですよね。そういう世の中になった要因のひとつに音楽もあるんじゃないかなって、本気で考えているんですよ。

──と言いますと?

S.I.:僕たちの10代の頃って、アホな曲やふざけてる曲が世の中に溢れていて、ミュージックビデオも過激だったじゃないですか。そういう音楽や映像にみんなが興奮したというか、性に目覚める感じがあったと思うんです。だから、エロという人間の本能を刺激したり表現する音楽って、絶対に必要なんじゃないかなって思います。

──そういう使命感があって「防波堤でカーセッ」みたいな曲ができたわけですね。ちなみにこの曲にリリックに描かれた“防波堤でカーセッ●ス”してる人とは、S.I.さんじゃないという。

S.I.:そうそう、僕じゃないです。聴いてもらえると一発でわかるんですけど。対馬に帰って防波堤で釣りしていたとき、浜に止まってる軽トラの中が見えちゃったんですよ(笑)。しかも、それが70歳ぐらいのおじいちゃんとおばあちゃんだった。福岡に帰ってそのことをプロデューサーに話したら、「曲にしましょう」って。でもね、年配の方がしてるのを目撃してしまう僕…そういう構図もすごく平和だなって思ったんですよね。

──この曲も含めて、ご自身の経験談を曲にしているんですか?

S.I.:ストーリーテリングとか、人のことを歌ったりするのって苦手で。基本的に実話しか書けないですね。“これは絶対みんな経験したことないよな”っていう自分の体験談をちょっと面白おかしく書いています。

──「聖なる夜に土下座してる。」で土下座している主人公はS.I.さん自身?

S.I.:土下座しました(笑)。クリスマスのちょっと前に僕の浮気が彼女にバレまして、ずっと不機嫌だったんですよ。で、クリスマスイブに写真を撮ってもらえるイルミネーションスポットが博多駅前にあって、一緒に行ったんですね。「ハイチーズ!」ってシャッターを押してもらう瞬間、彼女から「ここで土下座したら許す」と言われて、「わかりました」って土下座したんです。そうしたら、後ろに並んでいる人たちも街行く人たちも、一斉に僕を撮りだしたんですよ(笑)。僕はまあ、エンタメになるならいいかと思ったんですけど。


──それを曲にするところが、転んでもただでは起きないというか(笑)。回想入りのドキュメントタッチなリリックは笑わずにいられません。この曲に続く、「ロック画面」「俺もしてるからさ」という曲も、浮気について歌った連作になっていますよね?

S.I.:そうです。僕がまだ顔出ししていなかったときから、TikTokアカウント『S.I.の恋愛相談所』で、そのタイトル通りに恋愛相談をしていたんですよ。そこで女性の浮気心理みたいなものを知って、初めて僕が人のことを曲にしたのが「ロック画面」。それに対するアンサーソングが「俺もしてるからさ」なんです。

──浮気した女性を責めるわけじゃなくて、自分で落とすというか。この2曲でフリとオチが効いているというか。捉え方によっては優しいというか。

S.I.:嫌われるのは僕だけでいいんです。自分を題材にオチにしたほうがエンターテイメントになるなって思いました。

──そうした一方で、「Rival」はシリアス。この曲が示すライバルとはつまり…。

S.I.:そうです、自分自身に対して歌った曲です。路上ライブもそうなんですけど、ライブをやっていく中でプレッシャーに押しつぶされそうになる自分がいるんです。1日10回路上ライブをしても全く人が集まらなかったり、めちゃくちゃスベったり、失敗したり。そういうことを繰り返していく中で、“もうやりたくないな”と思ったり、“自転車に乗って手を振るのキツいな”って思う瞬間が、僕にもあるんです。

──脳天気にふざけてるだけではないわけで。

S.I.:でもね、そもそも僕が路上ライブでふざけたことをやっても、大半の人は興味がないんですよ。そう考えたら、“敵は人じゃなくて、自分なんだ”って悟ったんです。だから、「Rival」は誰かに対してではなくて、自分の心に対して書いた曲です。


──とても繊細な部分を感じる曲も印象的で、「旅立ちの日に」はお母さんのことを書いたリリックですね。

S.I.:僕が小学校5年生の時に両親が離婚したんですけど、父が作った大きな借金があって、母がそれを返済するために朝から夜遅くまで働いていたんです。僕と姉のお弁当を作る時間も学校に送り迎えする余裕もない。そんな生活でしたけど、母は「絶対に高校へは行ってほしい」と言ってくれて、高校進学することができたんです。でも、歌詞にも書いたように、中学の給食費すら払えなかったのに、高校の授業料なんか払えるわけないわけで。そう考えたら、僕が社会に出ることが一番の恩返しになるのかなって。そう思って高校を辞めて、家を出たんです。

──それは大変でしたね。まだ10代中盤のことですもんね。

S.I.:ただね、家を出て1年後ぐらいに実家に帰ったら、僕の部屋が全くそのままの状態で残ってたんですよ。姉に「なんで片付けてないのかな?」って訊いたら、「“この部屋だけはどうしても片付けきらん”って言いよったよ」って、母に感謝したと同時に“ああ、そっか…”とも思ったんですよね。というのも、僕は良かれと思って高校を辞めたんですけど、それが本当に正解だったのかわからない。そのときに初めて、母に対して曲を作りたいと思って、当時のことを思い出しながら書いた曲が「旅立ちの日に」です。

──おもしろエピソードとのギャップがありすぎて、同じアーティストの話とは思えないくらいの振り幅です。

S.I.:ははははは。

◆インタビュー【3】へ
◆インタビュー【1】へ戻る
この記事をポスト

この記事の関連情報