【インタビュー】エンター・シカリ、新作登場と共に新局面を迎えた4人が語る、“苦悩と葛藤、そして喜び”
▲撮影_増田勇一
先頃行なわれた<KNOTFEST JAPAN 2023>において、躍動感あふれるパフォーマンスでオーディエンスを魅了していたUKの4人組、エンター・シカリ。彼らにとって通算第7作となる最新アルバム『A KISS FOR THE WHOLE WORLD』が4月21日に発売を迎えた。同フェスの出演時にも披露された「(pls) Set Me On Fire」「It Hurts」「Bloodshot」をはじめとする全12曲が収録されたこの作品は、2020年4月に発表されUKチャートで自己最高となる2位を記録した前作『NOTHING IS TRUE & EVERYTHING IS POSSIBLE』以来となるもの。そうした流れを考えるとまさに“絶好調!”という感じではあるが、実はここに至るまでには相当な葛藤も味わってきたようだ。
◆ENTER SHIKARI 動画 / 画像
「なにしろ前作発表後、俺たちはずっと“無反応”を味わってきたんだ」と語るのは、ベーシストのクリス・バッテンだ。もちろんそれは、コロナ禍においてライヴ活動がままならなかった時期のことを指している。そんなクリスの言葉を受けながら、フロントマンのラウ・レイノルズは次のように語っていた。
「なにしろ最初にロックダウンになったのは、前作をリリースした直後のこと。だからせっかくアルバムを出したのにツアーもできないし、新たな曲を作る気分にもなれなかった。曲も書かない、演奏する機会もない……。そんな状態で俺たちはバンドをやってるといえるのか? みんな俺たちのことを憶えてくれているのか? エンター・シカリは人々から求められているのか? そんな自問を繰り返すことになったんだ」
エンター・シカリが誕生したのは2003年のこと。その前身バンドの始動は1999年まで遡る。20年を超える活動を経ながら自分たちなりのアイデンティティとポジションを確立できている自負のあった彼らにとって、コロナ禍での活動停滞は大きな痛手となった。そして、彼らが前向きな気持ちを取り戻す切っ掛けになったのは、やはりライヴだった。フェスや興行の日常が日本よりも早く復活しつつあったイギリスでは、2021年6月に<DOWNLOAD FESTIVAL PILOT>が開催され、彼らはヘッドライナーのひとつとして登場。そこでの経験がとにかく大きかったとドラマーのロブ・ロルフは語っている。
「俺たちのキャリア、自分自身のこれまでの人生において最良の瞬間だったし、これまでに味わったことのないほどエモーショナルな感動があった。自分たちと同じような感動をオーディエンスも味わってくれているといいな、と思ったよ。あれはパンデミック後の最初の大きなイベントだったわけだけど、閉ざされていた扉を蹴破って解放されたかのような気分だった。素晴らしいひとときだったし、なんかもうステージに出ていく前から涙ぐんでいたよ(笑)」
ギタリストのロリー・クルーロウもこの発言に同調し、「体験したことのない空気だった。フェスはいつも興奮するけど、これまで味わってきたものとは明らかに違っていたね」と語る。そしてラウは「ある意味、あれがターニング・ポイント的なものになった」と言い、次のように言葉を続けている。
「実際、あのフェスへの出演を契機に、また曲を作ろうという気持ちになれた。それ以降、ソングライターとしての自信を少しずつ取り戻すようにしながら作ってきたのが今回のニュー・アルバムなんだ。パンデミックが始まってからというもの、いつか音楽をまたやれるチャンスはあるんだろうか、という不安を抱えてきた。だけどあのフェスに出たことで、いちばん求めていたものをふたたび手に入れることができたわけだよ。そこから新たな力が湧いてきたんだ」
▲撮影_Lukasz Palka
この新作アルバムを聴いて、僕は、新たに何かが始まろうとしているかのような希望に満ちたエネルギーを感じた。そのことを彼らに告げ「バンドにとって新しい章の始まりということになるのでは?」と尋ねると、彼らの口からは「完全に同意!」「俺たちは不死鳥のように蘇ったんだ!」といった言葉が聞こえてきた。そしてクリスは最新作から先行リリースされてきた楽曲たちが好反応を得ていることについて、満足そうに語った。
「新曲に対するリアクションはとてもいい。最近、イギリスでは“曲を先行リリースしては、ライヴをやる”ということをいくつかの同じ都市で何度か繰り返してきた。オーディエンスからの反応というものに飢えていただけに興奮したよ。長期間のツアーではなくこうしたやり方を試してみたのは、さすがに20年もツアーばかりの生活を続けてきただけに、これまでに味わったことのないような新鮮さを求めていたからなんだ。結果、素晴らしい成果が得られたよ。それぞれの都市が盛り上がりを競い合うかのような感じにもなったし、新曲を出すごとにセットリストを変えていくのも楽しかった。なにしろ俺たちのアルバムも今作で7枚ということになるわけで、曲はたくさんある。ただ、長く続いていくツアーの中でちょくちょく曲順を変えていくことには無理がある。今回のような日程の組み方でやるのは自分たちが新鮮な気分で演奏するうえでも有効だった」
さて、今回のインタビューは当然ながら彼らの日本滞在中に行なわれたものだが、東京で過ごすこと自体が4人にとっては刺激的であるようで、ロブは興奮気味の口調でこんなふうに語っていた。
「東京に来るたび、初めてこの国にやって来た時の興奮が蘇ってくるようだよ。街自体がとにかく巨大で、めちゃくちゃ高いビルがたくさん聳え立っていて、その圧倒的な風景に伴う雑音とか匂いといったものにまで感覚が過敏に反応してしまうんだ。それが時差ボケと相まって、すごいことになる(笑)」
この言葉を受け、ロリーは「どこに行きたいかと尋ねられたら、いつだって“日本!”と即答するよ」と言い、ラウは「しかも大都会でありながらこんなにも安全な街は、世界中を探しても東京以外にはない」と言って笑う。残念ながら今回の日本滞在期間はとても短く、ライヴ自体も<KNOTFEST JAPAN 2023>での約40分間の演奏のみとなったが、当然ながら彼らはこの最新作を携えながらの単独来日公演の実現を強く望んでいる。
最後に、アルバム発売前から先行配信されていた「(pls) Set Me On Fire」と「It Hurts」のミュージック・ビデオについて触れておこう。前者は演奏シーンに歌詞が絡められたごくシンプルな映像、そして後者は摩訶不思議な意味不明さが伴う手の込んだもので、ラウが実際に見た夢が発想の基になっているのだという。前者について「リリック・ビデオの新しい型を発明できたんじゃないですか?」と告げると、彼は満足げな笑みを浮かべ、次のように説明してくれた。
「俺、リリック・ビデオって嫌いなんだ。たいがい退屈だからね(笑)。実は「It Hurts」のビデオ撮影にかなり費用がかかってしまったので、こっちは予算を抑えてリリック・ビデオ的なものにしようという話が出ていたんだけど、だったらそこに自分たちのパフォーマンスも絡めてハーフ&ハーフの内容にしようということになったんだ。ほんの30分程度の撮影だった。固定カメラの前で3テイク撮って、二回目に撮ったのを使っただけ。1日がかりで「It Hurts」のビデオを撮って、同じ日の最後に「(pls) Set Me On Fire」を撮影したんだ」
どちらも非常に強いフックを持った楽曲だが、アルバム『A KISS FOR THE WHOLE WORLD』には、さらに多様で意外性も持った実験的な楽曲が詰め込まれている。彼らの新たなチャプターの始まりに拍手を送るとともに、次なる日本上陸の機会が早く訪れることを願いたい。
取材・文◎増田勇一
■アルバム『A Kiss For The Whole World』
SO Recordings / Ambush Reality
https://lnk.to/ES-AKissfortheWholeWorld
01. A Kiss for the Whole World x
02. (pls) set me on fire
03. It Hurts
04. Leap into the Lightning
05. feed yøur søul
06. Dead Wood
07. Jailbreak
08. Bloodshot
09. Bloodshot (Coda)
10. goldfĭsh ~
11. Giant Pacific Octopus (i don’t know you anymore)
12. giant pacific octopus swirling off into infinity…
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