【インタビュー後編】アメノイロ。、新作『風吹く窓辺が見守る朝に』にメンバー個々の覚醒「限界突破の1枚です」
広島・尾道で結成されたアメノイロ。が、5月17日に通算4作目となるミニアルバム『風吹く窓辺が見守る朝に』をリリースした。先ごろ公開したメンバー全員インタビュー前編では彼らの誕生前夜から現在までのストーリーを中心に話してもらった。そして後編では、ミニアルバム『風吹く窓辺が見守る朝に』の制作過程や個々のこだわりなど、アメノイロ。サウンドの中核に迫る。
◆アメノイロ。画像
アメノイロ。は2022年5月にリードギターの木村洸貴が脱退。寺見幸輝(Vo, G)もギターを弾くボーカリストとはいえ、リードギタリストの脱退はバンドにとって大きな痛手とも思える。だが、彼らはメンバー脱退を心機一転のチャンスと捉え、音源制作の取り組み方をそれまでとは変えることに。安田拓生(B)と本多隆志(Dr)は、曲にどう向き合ったのか。そして新境地を切り拓いたバンドはどんな新作をここに誕生させたのか。活き活きした表情で3人は語ってくれた。
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■明日を迎えるときの肩の荷を
■少し下ろすことができたらっていうアルバム
──ミニアルバム『風吹く窓辺が見守る朝に』は、ギタリストの木村洸貴さんが2022年5月に脱退後、3人で作った初作品です。ギタリストが一人いなくなった影響は大きかったですか?
寺見:まず今までと一番違うのは、制作における割り振りで。以前は僕が8割ぐらい考えて、みんながそこに味付けをプラスしていくというスタンスだったんです。でも今回のミニアルバムは僕が5割ぐらいで、アレンジはメンバーに一度投げようって。
本多:きむ(木村)が脱退して、バンドが新しくなっていく過程で、心機一転、今までとは作り方を変えてみようっていうのもありました。
寺見:メンバーそれぞれの色というか、 (安田)拓生じゃないと弾けないベースフレーズであったり、(本多)隆志じゃないと叩けないドラムのアプローチであったりというのが、今回は一番入っていると思います。
安田:うん、みんなのエゴが入ってる。エゴイストな感じです(笑)。
──いや、それがバンドとしての武器にもなっていくわけですからね。このバンドの、このメンバーでしか成しえない個性というものに。1曲目「愛してた」からしっとり聴かせるだけじゃなくて、アグレッシヴな側面もあって、演奏の熱量もあふれ出ている。
寺見:今回が一番話し合いましたね、作る段階で。作っては一度壊し、そしてまた作り直して。その繰り返しで。
──今まではアコギを弾きながら歌詞を膨らませるというのが作曲スタイルだったじゃないですか。今回もスタートラインはそこからだったんですか?
寺見:そうですね。でも今までは弾き語りから作って、PCでベースやリードギターまで入れてたんですよ。そのデモ音源を聴いてもらって、“もっといいアレンジがあれば足してほしい”って感じだったんです。ただ、それだと形があまり崩れないというか、曲のイメージがそのまま固定されちゃうんで。今回は、曲の1番以降は作らないとか、展開を作ってから歌のメロディを考えようって感じで制作しました。
本多:以前より僕らの責任も重くなりましたし、そのぶん責任感も強くなりましたけど、やっぱり楽しかったですね。
安田:自分が“こうしたいな”ってアイデアもフレーズもけっこう詰め込める制作方法だったので。寺見がデモを持ってきた段階で、まだできていなかった部分を隆志と相談しながらアレンジしたりして。それも楽しかったですね。
本多:“こういうのもあるよ”ってアプローチして、それに対して拓生もアプローチを考えて。そういうやり取りも楽しかったです。
──だから、演奏面で手の込んだアンサンブルがそこかしこに見受けられるんですね。歌を聴かせるとなると、リズム隊は支えるだけになりがちですけど、特にアルバム後半の曲はベースラインの動き方がけっこうなもので。むしろ、ベースで歌ってる。それがメインのメロディと絡み合って、ダイナミクスも生んでいるという。
寺見:むちゃくちゃしっかり聴いてくれてますね。
安田:ベースアプローチまで理解してくれて(笑)。
──ドラムの音使いやアプローチも、それぞれの粒立ちや音色を活かした繊細さ。それがメロディや歌詞の情景に彩りも添えています。
本多:5曲目の「ダイアリー」は繊細な音使いが必要とされたので、レコーディングで一番時間を掛けましたね。シンバルの鳴らし方ひとつ、スティックのタッチひとつに。
寺見:僕の趣味かもしれないですけど、音数が少なければ少ないほどいいというか、そこにロマンが生まれると思っていて。そのおかげで誰が何をやっているのか分かりやすいのかも。音を幾つも重ねて録るっていう手法は、ドカンと聴かせたいところぐらいですね。
──歌詞のストーリーなどは全員が共有しながらアレンジを進めているんですか?
安田:細かい説明を受けながら共有するということはないんですけど、寺見がデモと一緒に歌詞も送ってくれるんで。デモを聴いていたら、仮歌の歌詞も耳に入ってくるじゃないですか。それを聴きながら、“これはこういう歌なのかな”とか“この歌詞はめっちゃいいな”とか、勝手に自分のイメージも膨らむんですよね。寺見の書いた歌詞に対する各々の解釈が、メンバーごとにあるんじゃないかな。それで、“ここはもっとエモくしようかな”とかってイメージからベースフレーズを考えますね。隆志もそうでしょ?
本多:うん。歌詞はいつもいいなと思っているんです。聴いた人それぞれが解釈できるような歌詞を寺見は書いていて。ストレートじゃないのもいい。敢えて歌詞が生まれた背景とかは寺見からは聞かなかったりして、自分なりにイメージを沸かせたりしてますね。
──初めて歌詞を書いてみたとき、「コンセプトなどは考えなかったのに失恋の歌になっていた」ということをインタビュー前編でおっしゃってましたが、今ではそういった歌を書こうと意識している面もありますか? それとも言葉に向かっていると、自分の中から自然にあふれ出るのが今もそういった物語なんですか?
寺見:イメージが湧きやすい日常的な情景は、わりと自分が見てきたものからで。その自分が何かを書こうかと思ったとき、一番心が揺れるのが失恋ソングなんです。
▲L to R:安田拓生(B)、寺見幸輝(Vo, G)、本多隆志(Dr)
──ちょっと踏み込んだ話を聞いていいですか、いったい何人にフラれたの?っていう。相手との生活の音だったり、相手との会話内容までイマジネーションできるぐらいの歌詞でもありますから。
寺見:いや、何人にフラれたんだろう…(笑)。相手はこう思っただろうなって想像も一応あって。“たぶん相手の気持ちはこうだ”というのとかをヒントに、フィクションとして広げてます。
──かわしますね、うまいこと(笑)。
寺見:ええ、フィクションです(笑)。恋愛というのは、たいていの人がすると思うんです。ハマる歌って結局、“なんでこんなに自分のことがわかるんだろう”って歌詞が多いと思うので。そこで共感してもらえたらなと思っています。
──メンバーと共同生活していて、本多さんや安田さんからそういう話を聞いたりも?
寺見:聞きますね。
本多:聞かれるというか、自分からそういう話をしちゃうこともありますね。
安田:ひとつ屋根の下で一緒に生活してたらバレますよ、敢えて話をしなくても(笑)。
寺見:そういう話がまた歌詞を書くときの栄養になったりしますね。こういうことがあったという出来事を、けっこうそのまま使えたりもするので。
──今後、曲ごとにヒントになった恋愛をしたメンバー名をクレジットに出しちゃうとかね(笑)。
寺見:作詞、作曲、元ネタとか。“歌詞の元ネタ=本多隆志”とか入れなきゃ(笑)。
──でも失恋だけじゃなくて、アルバム後半は気持ちを幸せにしてくれたり、温かくしてくれますね。
寺見:幅広いかなと思います。失恋であったりとか、ダラダラしちゃう日だったりとか、そういった心境や状況になってしまっている自分自身を、アルバムを通して肯定できたらなっていう。これを聴いて、明日を迎えるときの肩の荷を、ちょっと下ろすことができたらなっていうアルバムです。
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