【ライブレポート】THE ORAL CIGARETTES、HEY-SMITHを迎えた対バンツアー最終日に「お前らと作った未来、絶対に手離さないからな！」

THE ORAL CIGARETTESの全国対バンツアー＜2MAN VS TOUR「MORAL PANIC」＞が3月23日、Zepp Haneda(TOKYO)公演で幕を閉じた。同公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。

◆THE ORAL CIGARETTES × HEY-SMITH 画像

＜2MAN VS TOUR「MORAL PANIC」＞ではHEY-SMITH、キュウソネコカミ、Age Factory、ハルカミライ、SPARK!!SOUND!!SHOW!!、coldrain、ROTTENGRAFFTYとオーラルのメンバーが信頼するライブバンドが集結。全国7都市でガチンコツーマンを繰り広げた。THE ORAL CIGARETTESが対バンツアーを開催するのは、2020年2～3月に予定していた＜COUPLING TOUR「Tonight the silence kills me with your fire」＞以来約3年ぶり。


3年前のツアーは新型コロナウイルスによる感染症拡大の影響により中断、最終的に中止となったが、今回のツアーは、コンサート開催におけるガイドラインが緩和されたことに伴い、不織布マスクを着用したうえで声出しが可能になるという喜ばしい状況の中での開催だ。その喜びをバンドとオーディエンスで分かち合うとともに、ツアーを通じて、ライブハウスシーンが確かに前進していることを現場から発信し続けた。

ツアーファイナルのゲストはHEY-SMITH。THE ORAL CIGARETTESの山中拓也(Vo/G)いわくツアー開催が決まってから最初にオファーしたバンドで、HEY-SMITHの猪狩秀平(G/Vo)に直接電話したところ、二つ返事で承諾してくれたという。




「やっほー！ ＜MORAL PANIC＞ファイナル、Zepp Haneda、始まるぞー！」──猪狩秀平

バンドで一発鳴らしたあと、猪狩の開幕宣言とともにHEY-SMITHのステージがスタートだ。満(Sax)、かなす(Tb)、イイカワケン(Tp)による明るいメロディが始まりを告げる1曲目は「Living In My Skin」。初っ端からバンドの熱量は高く、観客もテンションマックスだ。YUJI(Vo/B)が背に“5150”と入ったオーラルがグッズ化を予定しているユニフォーム風のシャツを着ているのも嬉しい。それにしても、細かいリズムを刻むギター＆ベースのバッキング、ホーン隊のタンギング、Task-n(Dr)のドラミングはなぜこんなにもぴったり揃うのか。ライブバンドとして名を馳せるバンドの地力を垣間見た気分だ。

セットリストが前日からガラッと変わっているのもヘイスミらしくて最高。そして次の曲が「2nd Youth」と分かった瞬間、観客が歓声を上げ、地面が大きく揺れた。「Not A TV Show」では「この現場は絶対にテレビでもインターネットでも体験できない。(親指を立て胸を指しながら)思いきりこの辺に刻んでってくれよ！」と猪狩。フロアからボーカル陣に負けないくらい大きなシンガロングが返ってくる。




MCでは、若き頃のオーラル山中が挨拶に来てくれたのが最初の出会いだったと振り返り、「拓也がこんな最高の舞台に連れてきてくれるなんて思ってませんでした」と噛み締めた。そんな想いを「こんな舞台を用意してもらったからには、やるしかないですよね？ 私はバンドの先輩としてこの役割を本気で全うしに来ました。お前らの覚悟はどうだ！」というアジテーションに変え、“速くて短い曲”を連投するターンに突入すると、当然フロアは大いに沸く。その様子に猪狩は「お前ら楽しむプロやねんな！やっぱりオーラルの意志を継いでる。尊敬に値します」と伝えていた。

この日のハイライトは、つい最近、大事な人がこの世を去ってしまったというMCのあと、「お前らの好きな友達、バンド、オーラルはいずれいなくなると思うわ。そうなった時にさ、大事な人にもらったパワーを自分のパワーに変えて、次の世代の光になっていってほしい。そういう歌を次に歌います」という言葉とともに披露された「Before We Leave」だろう。夕焼け色をバックに鳴るギターから始まるミドルナンバーで、ギターリフを合図にサビに入ると、倍テンになる展開がドラマティックだ。魂のこもった激しい間奏。その余韻の中、静かに歌い始めるYUJIのボーカルが表現する孤独。白い光を背負いツインボーカルが声を張るラスサビ。ユニゾンで歌う“This is my war”というフレーズ。目に涙をためながらでも前を向く人の美しさが体現されていた。



そして、拳を上げながら声を発する観客を「その10倍出せ！」と煽りながら、「一番最後の、大事な日に呼んでくれてマジで嬉しかったぜー！」と喜びを爆発させながらラストスパートへ。ラストは、「アルルの女」より「ファランドール」のメロディを引用したホーン隊のアプローチが印象的な「Endless Sorrow」。鉄板曲で盛り上げたあと、拍手を浴びながら6人は去っていった。

「ただいまより！THE ORAL CIGARETTESの！ファイナルだし遊ぶしかないっしょの回を！始めたいと思います」というこの日ならではの“4本打ち”からTHE ORAL CIGARETTESのステージがスタート。

1曲目は「BUG」。“自分らしく、自由であれ”と陽気な音楽で踊らせるヘイスミならば、声出し解禁ツアーだからこそみんなで歌える曲を多めに用意し、体力ゲージの最大値を超えた先でタガを外して楽しもうと提案するのがオーラルか。メッセージの連なりを感じさせるオープニングだ。それにしても中西雅哉(Dr)のドラム、出だしからすごい迫力だ。各地のツーマンで得た刺激がバンドをどれだけ成長させたのか、1曲目から早速伝わってくる。





「今日はファイナルなので容赦しません」──山中拓也

と山中が告げている間にもビートは途切れず、次の曲を察した観客が「オイ！オイ！」と声を上げる。そう、鈴木重伸(G)のカッティングが導く2曲目は「BLACK MEMORY」。“Get it up”とみんなで歌うのが定番だったライブチューン、冒頭から大きなシンガロングが起こり、ようやく曲が本来の姿を取り戻したような感慨に包まれた。マスクの内側で大きく口を開けているであろう観客も、そしてメンバーも嬉しそうだ。

そこからさらに「ENEMY feat.Kamui」で畳みかける。同期によりKamuiのラップが会場に流れる中、山中もマイクを取り、リアルタイムでラップを重ねていく。他アーティストのコラボからインプットしたものを着実に自分のものにしているのが頼もしい。



MCでは、HEY-SMITHのライブについて「めちゃめちゃ感謝してます。あの人たち、確実にお前らのこと、トばしにきましたよ」と笑いながら言及。さらに山中は、このツアーに呼んだ7バンドは「カラーもスタイルも違うが、ロックシーンを復活させたいというメンタルは一緒」であり、つまり“仲間”なのだと語り、感謝とリスペクトを言葉にした。また、「どのバンドも“オーラルのファンが最高だった”と言ってくれて、それが嬉しかった！」とファンに報告する一幕も。

その後、「これからもよろしくな。これからも(ロックシーンを)盛り上げてこうな。お前らに出会えてよかった！」という言葉とともに「出会い街」を披露した。メジャーデビュー年の2014年に発表された初期曲だが、リズム隊の揺るぎない強さからも、2本のギターの繊細な重なりからも、当時からの進化が感じられる。



ファンからの声を受けてセットリストに入れたという「STARGET」、あきらかにあきら(B/Cho)が被っていた帽子を投げ捨てて、ベースを掻き鳴らす姿も印象的だった「Red Criminal」を終えると、「お前ら最高すぎ！ めちゃめちゃファイナルっぺー！」と破顔の山中。際どい内容も交えたMCを「いい子ちゃんでいるつもりはない」「楽しいことは全部やっていく」と締めたあとには、欲望を吐き出す「カンタンナコト」で、自由にライブすることもままならなかった3年間ためこんだ鬱憤をバンドもオーディエンスも晴らしていく。

そして「自分の好きなものをまっすぐに信じてほしい」というメッセージを込めた最新曲「Enchant」が解放の音楽として鳴り響いた。心臓の音のようなビートに、生命力溢れるバンドサウンド。生き返ったような感覚を覚えた人も多かったのでは。山中の「お前の全力が見たい！」という発言に鈴木が渾身のソロで応えた「狂乱 Hey Kids!!」がハイライトと思いきや、まだまだ止まらない。息を切らしながら一人の観客の手を掴み、話しかける山中、何が始まったのかというと“次に演奏する曲をファンに選んでもらう”という前代未聞の試みだ。選ばれた「GET BACK」は鈴木が終始印象的なフレーズを爪弾いている曲だが、バッキングの山中も全力で、最終的にはピックを投げて弦を掻きむしる。


「バンドマンとしてギリギリを攻めたい」という気持ちでこのツアーに臨んでいたという4人。本編ラストのMCタイム。山中はふらふらになりながらもマイクに向かい、これから苦しいことがあった時、「あの時みんなで乗り越えたな」と＜MORAL PANIC＞のことを思い出してほしいのだと伝えた。

「この先、明るい未来しかないからな！ そんな想いと一緒に、ラスト1曲！」と本編ラストは「5150」だ。「全部お前たちで歌ってくれ」と観客に伝えた山中はシンガロングを漏らさず聴くためにイヤモニを外し、あきら、鈴木はスピーカーによじ登って、できる限り観客に近づく。「お前らと作った未来、絶対に手離さないからな！」と叫ぶ山中。アウトロに入ってもバンドの勢いはまだまだ増す。ステージに座り込みながら、全身全霊で掻き鳴らしているのは山中、あきら、鈴木の3名で、中西が精魂込めたドラミングできっちりと締めてくれた。4人の関係性が滲み出た、素晴らしいシーンだった。


止まない拍手に応えてのアンコールでは、「ライブハウスに慣れている人たちは、コロナ禍で初めてライブハウスに来たという人にも先輩としてやさしく接してほしい」「みんなで助け合いながらライブハウスシーンを盛り上げてほしい」と観客に伝え、メジャーデビュー曲「起死回生STORY」を披露。約1ヶ月にわたった＜MORAL PANIC＞のラストシーンは、会場全体での万歳斉唱だった。ライブハウスシーンはここからさらに盛り上がっていく。そんなことを感じさせてくれる希望に満ちたツアーだった。

取材・文◎蜂須賀ちなみ
撮影◎Ryotaro Kawashima