【レポート】Shinya (DIR EN GREY / SERAPH)、1年振りのコンサート。華麗なタッチでピアノ演奏初披露
Shinya(DIR EN GREY)のソロプロジェクトSERAPHが2月24日、東京・神田スクエアホールで<Shinya Birthday Event - SERAPH Concert 2023「Sea of Serenity」>を開催した。ここでは、イベントのオフィシャルレポートをお届けする。
◆<Shinya Birthday Event - SERAPH Concert 2023「Sea of Serenity」>コンサート写真
昨年に引き続き2年連続で開催されたSERAPHのコンサート。コロナ禍での空白期間を除き、2月24日にはSERAPHのコンサートに足を運ぶ、というのが最早ファンにとってはお馴染みになっているだろう。
開演前の会場では紫やオレンジ、夜明けを思わせる照明と鬱蒼と茂る枝葉。はたまた珊瑚にも見えるシルエットがゆったりと壁面を揺蕩っており、まるで海中に沈んでいるかのような錯覚に陥る。
ライブコンサート開始直前の会場内は期待混じりの緊張感が張り詰めている場合が多いが、この演出により非常にリラックスした状態で開演を迎えることになった。
開演と同時に映像が流れる。公演告知のティザー映像でも観た海岸、そこにShinya(Dr)と分割された画面にもう1人のSERAPHメンバーであるMoa(Piano,Vo)が現れる。2人とも別々の場所にいるのであろうか、左右に向けて歩みを進める。そして邂逅を果たすのだが2人の目線は交わらない、しかしながら同じ方向、水平線に浮かぶ太陽が燃ゆる天を見上げている。これは日の昇る朝焼けなのか、それとも日の堕つる逢魔時なのだろうか。今回SERAPHがどのような物語を提示してくれるのか、その期待に高揚感を感じざるを得ない。
映像に続きSERAPHの2人が登場。今回はドラムとピアノに加えヴァイオリンの姿も見える。そんな三重奏で始まったのはフェリックス・メンデルスゾーン作曲の「ヴァイオリン協奏曲ホ短調 作品64」。3大ヴァイオリン協奏曲と呼ばれるドイツのロマン派音楽を代表する傑作である。
一曲目にいきなりクラシック、しかもヴァイオリンが主役とも言える曲を選曲したことに度肝を抜かれる。しかし、驚くべきはそれがドラム、ピアノとの三重奏として完璧なアレンジになっていることだ。全体でのハーモニー、ヴァイオリンソロからのドラムとピアノのインといった構成の妙。そしてこの曲が産まれた時には想定されていなかったであろうドラムのアレンジには特筆すべき点が多々あった。ヴァイオリンの細かなフレーズにはタム回しでハーモニーを奏で、後半の盛り上がりではビートを刻む。ドラムという楽器がこんなにも表情豊かな楽器だったのかと気付かされる。それらそれぞれが主役として際立っており完全なSERAPHの音として完成されていた。
いきなり凄いものを観せられた、と余韻もままならぬまま続くは「Lovshka」。深い雪の森、雪原の映像と共に始まる。そしてここでもサプライズ、なんとヴォーカルのメロディをMoaではなくヴァイオリンが奏で始める。映像の美しさも相まり、荘厳かつ極上のシンフォニーを浴びせられる。
Moaのヴォーカルが入り「Reisn」を歌い上げる。人間とは何か、命の尊厳を問うこの曲はコロナ禍が落ち着きつつあり、心の余裕ができた今となってはよりメッセージの解像度を高く感じることができた。続いては雨を意味する「Lluvias」だ。SERAPH公演では何度か聴いた曲だがこの日は少し表情が違うように感じた。今までは“あなたが泣く時は寄り添って泣こう”という歌詞の通り、慈愛に満ちたメッセージを受け取っていたが、今回はむしろ“勇敢に生き抜いて”と雨の中でも前に進まなくてはいけない生命の強さを静かに、重く伝えようとしているように感じた。
そして“海底の深淵に忘れられた都市の記憶”がテーマの「Abyss」。激しさと妖艶さが入り混じり、テクニカルなドラムフレーズからの間奏ではバスドラ主体の力強いビートといった聴きどころの多い曲であるが、歌詞では“セラフを記憶せよ”のメッセージが非常に印象的である。
思い返せば「Lovshka」から「Abyss」までの流れはまるで天から雨を伝い海へと続いているような流れになっていた。天と大地、そして海を繋ぐのは雨。それはまるで天使が地に、そして海に舞い降りて来たかのように思えた。前回の公演タイトルは“廃墟の痕跡”と訳せる「Spuren des Ruins」。そして今回のタイトル「Sea of Serenity」は“静寂の海”を意味する。滅亡した世界の新たな始まりは生命の根源たる海から始まっている。今回のテーマは“新たな始まり”なのではないだろうか。
さて、「Majesté」では再びヴァイオリンがメロディを奏でる。耽美で華やかな楽曲であるが、ヴァイオリンが主旋律を奏でることによって一層舞踏会の雰囲気が醸し出されていた。舞踏会を途中で抜け出しガーデンへ、そしてまた舞踏会に戻りフィナーレへ。実際にそのような経験をしたかのような錯覚に陥った。
夢心地の中Shinyaがマイクを持ち話し始める。物静かな印象を持たれるShinyaだが、静かながらにきちんと笑いも取るMCも彼の魅力である。
海岸での映像撮影時の話や、メンデルスゾーンの楽曲を演奏した際の苦労話などを語り、次の曲へと移った。
ShinyaとMoaの2人構成になり続くは「Sauveur」。「Majesté」と同じく宮殿での舞踏会を想起させられるが、「Majesté」が威厳のある厳かな会だとすれば、こちらは軽やかな三拍子に加え、目まぐるしいコード展開と転調によってより優雅で華やかな会である。その表情の変化を違和感なくスムーズに受け入れられるのもSERAPHの表現力のなせる技だろう。
そして波のさざめく音の中Shinya、Moaが退場する。心地よい凪のような時間を感じるも刹那、その波音に合わせるかのようにハープが音を奏で始める。ヨハン・フィリップ・クリーガー作曲の「メヌエット」だ。まるで神聖な物語の導入のような、深い海に沈むいくつもの魂を安らげるような優しげで蠱惑的な音が会場を満たしていく。ヴァイオリンが物語を語るかのようにゆっくりとその音色を重ねていく。
ハープを加え、カルテットのスタイルで始まったのは「Uisce」。先ほどまでの静寂な海から徐々に不穏さを増し緊張感が高まる。Shinyaのドラムがインすると同時に急展開する楽曲は、時折Moaのフルートも轟き、まるで荒れ狂う波のように激しさを増していく。そしてまた海は静寂さと激しさを繰り返す。繰り返される自然の脅威、そして“痛みを思い出して”とMoaが歌い上げる。人知の及ばぬ厄災も、人の過ちも繰り返される。全てを見透かされるような鋭いメッセージが突き刺さった。
そのままカルテットスタイルで「Destino -Sea of Serenity ver-」へと続く。Moaは歌わず楽器隊のみで奏でられたが、主旋律をハープとヴァイオリンが弾いたかと思えばピアノが同じく主旋律を響かせる。4つの楽器が渾然一体となって見事なハーモニーを創り出した。
オープニングと同じロケーションでの映像が流れ、淑やかに始まったのは「Génesi -Sea of Serenity ver-」。SERAPHで唯一リリースされている楽曲であり、ファンにとっても馴染みのある曲だが、こちらも特別なアレンジで演奏されていた。少しスローなテンポでそれぞれの楽器が情感たっぷりに奏であげる。聴き馴染みのある曲もアレンジ1つで新鮮な表情を見せてくれる。リリースされているバージョンではピアノが余韻を残しつつ曲が終わるのだが、今回はShinyaのドラムで締めくくったのも大きなサプライズとなった。ドラムの残響が心地よく空気に溶け込む中、本日2回目となるMCが始まった。
「恒例のグッズ紹介を前でやります」と、いつもドラムの位置からは動かずにMCをしていたShinyaがステージ前方に移動し話し始めた。どうやらイヤーモニターをワイヤレス化したことによって移動が可能になり、前方でのMCが可能になったとのこと。持ち前のユーモアたっぷりにグッズを紹介した後に「今日は大人な感じのSERAPHをお送りしているんですが皆さんどうですか?」と問うと会場からは大きな拍手が。来年の開催について触れた部分では「来年2024年の2月24日は、僕の好きな24という数字が2つも入っているのでやってみたいです」と前向きな姿勢を見せてくれた。
そしていよいよ最後の曲へ、とShinyaは何故かドラムには戻らない。会場全員が不思議に思っているとなんとShinyaがピアノに向かう。一気に騒めく場内の空気を他所にShinyaはピアノに、Moaはフルートを持ってピアノの前へ鎮座する。観客の聞こえぬ悲鳴が響く中、Shinyaのピアノによりラストナンバー、「Kreis」がスタート。私も含め全員が度肝を抜かれた。何せShinyaが長いキャリアで初めてピアノをステージで演奏しているのだ。今回の公演ではサプライズの連続であったがここにきて最高のサプライズである。しかも彼の持ち前の美しい演奏スタイルはピアノでも存分に発揮されている。繊細かつ華麗なタッチで「Kreis」が彩られ第一部のコンサートは終演を迎えた。
前回のSERAPH公演では、滅亡した世界で人々はどう生きていくのか、と強く問いかけられるような公演であった。しかし今回は天から降りてきた熾天使SERAPHが、我々を静かの海に誘い、癒し、創造への活力を与えてくれる一夜となった。全ての生命の根源たる海、この美しい世界を産み出したのもまた海なのだ。ここから始まる新たな世界へのヒントをSERAPHは与えてくれた。
さて、続く2部ではお馴染みの“Shinya Special Talk Event”が行われた。詳しい内容は会場に足を運んだ人のみのお楽しみであるが、一部内容を紹介しよう。恒例の質問コーナー、謎解きコーナー、Shinya自らが作成したShinyaクイズなど盛りだくさんであるが。中でもShinya本人も驚くサプライズがあった。なんとDIR EN GREYのDie(G)がバースデーケーキを運ぶという演出だ。
会場にいたファンはもちろん、何も知らされていなかったShinyaは驚きのあまりステージ端に逃げる動揺っぷりだ。その後の2人のやりとりは会場にいた人のみぞ知る、ということにさせて頂く。
こうして特別な一夜は終わりを迎えた。次回の開催にも期待が高まるばかりである。
撮影◎ Lestat C&M Project
■<Shinya Birthday Event - SERAPH Concert 2023「Sea of Serenity」>セットリスト
会場:東京・神田スクエアホール
Opening. Overture lll
01. Violin Concerto in E-moll Op.64 - Felix Mendelssohn
02. Lovshka
03. Reisn
04. Lluvias
05. Abyss
06. Majesté
07. Sauveur
08. Menuett in Fis-moll - Johann Philipp Krieger
09. Uisce
10. Destino -Sea of Serenity ver-
11. Génesi -Sea of Serenity ver-
12. Kreis
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