【インタビュー】Murakami Keisuke「今の世界基準で考えても間違ってはいないんだなと思います」
ジャンルを超え、国を超え、誰もが心躍るポップスを作りたい。シンガーソングライター・Murakami Keisukeの最新シングル「Dawn」は、同時代のグローバルなR&B、ファンク、ソウルミュージックと共鳴しつつ、日本の叙情を感じさせるメロディと、リスナーの共感を呼ぶ歌詞を載せた自信作に仕上がった。
コラボレーターは、今最も注目すべきプロデュースチーム・City Bossa(Renato Iwai & Elias Thiago)と、シンガー/ラッパーのgbだ。心地よい80'sリバイバルのシンセポップに乗せて華麗に歌う、Murakami Keisukeが目指すものとは?
──まずはこの話題から。Keisukeさんの大好きなハリー・スタイルズがグラミー賞の最優秀アルバム賞を獲りましたね(*インタビューはグラミー賞発表の2日後)。
Murakami Keisuke:獲りました。昔からハリー・スタイルズが大好きなので、おおーすごいな!と思いました。ただ、嬉しいと同時に、うまく説明できないですけど、焦りみたいなものも感じましたね。僕なんか全然横並びにもなってないですけど、自分とグラミー賞との距離をより感じたというか。
──そういう気持ちでいてくれるのは、むしろ嬉しいです。近年は日本人の受賞者も着実に増えていますし、可能性は実際にあると思うので。今回の受賞者で言うと、ハリー・スタイルズも、あとリゾもそうですけど、日本人に共感できるポップスとしてメロディがしっかり立っている曲が多い気がしますよね。
Murakami:そうかもしれない。メロディアスで、メロディにストーリーを感じられるものが評価されてますよね。こういう音楽がグラミー賞を獲る時代がまたやって来たなと思った時に、アメリカで流行る音楽って、何年かのタイムラグがあって日本でも流行るじゃないですか。だから手前みそなんですけど、僕が今作ってる音楽もすごく刺さる時代が来るんじゃないかな?って、ちょっと期待してます。
──Keisukeさんは同時代の、グローバル感あるポップスを作ってるなと思います。
Murakami:日本の流行りはもちろんある中で、世界規模で見た時にどういうサウンド感がいいのか。世界に直結はしていないまでも、そういうサウンド作りをしていきたいなということは、2022年から2023年にかけて考えるようになりましたし、前よりも新しいものを率先して聴くようにしてます。新譜が出たらとりあえず聴いて、理解できるように努めるとか。
──ひとつ前の配信シングル、2022年10月に出た「Midnight Train」はまさにそういうサウンドでした。あの曲は、リファレンス(参考楽曲)はあったんですか?
Murakami:あれは、それこそリゾの曲だったと思います。「Midnight Train」自体は3~4年前にあったんですけど、それをどうしたら今の人が聴きやすくて、自分もテンションが上がるのかな?と思って、当時聴いてたリゾの曲を「こんな感じにしたいんですよね」って、アレンジしてくれたRenato Iwaiさんに相談して、一緒にやっていきました。
──その時が、Renatoさんとは初めてでしたっけ。
Murakami:そうですね。2022年8月にお会いして、「Midnight Train」が初めてでした。
──Renatoさんの名前を僕は、さかいゆう、Kenta Dedachi、そういう人たちとの関係で知っていましたけど、どんなふうに知り合ったんですか?
Murakami:Renatoさんは映像関係の仕事もやられていた方で、ある時期僕の配信ライブのサポートで入ってくださっていたみたいなんですね。そこで僕のことを気に入ってくれたみたいで、インスタをフォローしてくれていたんですよ。僕もフォローを返していたんですけど、「あの人とこの人が同じ人だった」と気付いたのは、Kenta Dedachiさんのライブに行った時。ベースも弾けてマニピュレーターもやって、いいプレイヤーがいるなと思って見てたら、この人知ってるぞと(笑)。その後インスタのDMで「今日のライブ見てました」「近いうちに会いましょう」とか言って、それが叶ったのが去年の8月とかでした。
──それは奇遇というか必然というか。センスの合う人は繋がるんですね。
Murakami:Dedachiさんのサウンド感もすごく好きだったので。こういうサウンドいいよなーとか思ってた矢先の出会いだったので、すぐに「一緒にやらせてください」と言いました。本当にすごい人で、グルーヴが気持ちいいし、何より人としていい人なので、一緒にいて楽しいんです。
──Renatoさんはブラジル出身ですけど、やっぱり日本とは違うグルーヴの深さを感じますか?
Murakami:感じます。音作りに関してはレンジの広さとか、音を詰めすぎない感じとか、ロー(低音域)の強さとか、どういうことでこうなるんだろう?というのはまだ理解しきれてないところがあるんですけど、僕が好きな世界基準の洋楽のサウンド感になるんですよね。Spotifyとかで、今の洋楽の音と自分が前に出した曲を聴き比べた時に、なんでこぢんまりした感じになっちゃうんだろうな?っていうのが疑問だったんですけど、目の前で答えを見た時に「やっぱりやり方があるんだ」と思いました。でも、それがどうやるかはまだわかってないです(笑)。
──今度出た新曲「Dawn」も、確実にその延長線上にある音ですよね。「Midnight Train」から「Dawn」という、タイトルのイメージの繋がりも含めて。
Murakami:ジャケ写もなんとなく繋がりがあるんですよね。
──そこも含めて、ひとつの大きなプロジェクトの一環なのかなと思ってます。
Murakami:みんなで同じビジョンを描けているな、ということはすごく感じてますね。まだ世に出ていない、今作ってる曲も含めて、僕が作ろうとしているソウルミュージックという大きな流れの上に、全部乗っかっているのかなと思います。2022年3月くらいに今の体制でやり始めて、曲をたくさん書いて、自分なりにひとつひとつ納得しながら進んでいるんですけど、それなりのものを作るにはやっぱり時間がかかるんですね。今はとにかく自分が好きなものを作っているから、これを出したいというワクワク感と、どういうふうに届くんだろうという不安が一緒になった、ワクワクする不安があります。
──「ワクワクする不安」って初めて聞きました(笑)。でもわかります。
Murakami:自分のプロダクトに自信があるゆえの感情ですね。ずっとそわそわしてる感じです。
──その「Dawn」はいつ頃、どんなふうに作っていた曲ですか?
Murakami:「Dawn」は2022年の「Midnight Train」のすぐあとにRenatoさんと取り掛かった曲だったので、9~10月ですね。Renatoさんと出会って、一緒にやっていきましょうということになってから、新たに書いた曲です。その時感じていた「こんな曲書きたいな」というものがあって、メロディを先に書いてから一緒にアレンジしていきました。そのままだと今っぽいイメージがなかったので、今っぽいサウンドという意味で、それこそハリー・スタイルズの曲を聴いて、ヨーロッパ的なポップ、UKロックみたいな感じがいいですよねと言って、そのままだとアメリカのロックみたいになっちゃうところをUK寄りにするというか。
──ああ、はい。なるほど。
Murakami:イメージとして、そういうサウンドをふんだんに盛り込んだ感じはあります。80年代のリバイバルのような、そういうサウンドが今の自分にとって聴きやすいし、ノレるので。言葉で何て言えばいいかわからないですけど、ハリーの「アズ・イット・ワズ」みたいな、シンセサウンドと言ったらいいのかな。UKポップスの現代的解釈だし、サウンドの特徴で言えばシンセがふんだんに使われてて、そのビート感が今っぽさだなと。
──そこに日本っぽさも自然に入ってくるのが、より親しみやすく聴ける理由かなと思います。メロディの叙情とか歌謡を感じます。
Murakami:言われてみれば、ある気はします。いろんな意味で、リバイバルみたいなところはあると思いますね。和洋折衷というか。
──歌詞はどんなふうに、どんなことを伝えようと?
Murakami:歌詞は、gbさんというシンガーソングライターの方とご一緒して、英語と日本語のミクスチャーになってます。誰かと一緒に作詞すると、その人の軸で物事を考えるので、自分では出てこなかった情景が出てきたりするので、すごくインスパイアされましたね。
──gbさんとはどういうふうに知り合ったんでしょう。
Murakami:チームとして誰かと共作したいという話し合いの中で、デビュー当時からお世話になっていた音楽プロデューサーの方に紹介してもらいました。そしたら事務所の先輩のMay J.さんとは学生時代からの友人だったりとか、僕よりひとつ年上なんですけど、アメリカの学年で言うと同じなので、フランクにやりとりできました。
──音楽一家の生まれなんですよね。
Murakami:そうなんですよ。お父さんがクール&ザ・ギャングのメンバーだったという、すごいですよね。そういうバックグラウンドを聞くと、ハッとなりますけど、ご本人はすごく優しくて柔らかい物腰の方なので、すごくやりやすかったです。
──「Dawn」には、どんなメッセージが込められてますか?
Murakami:端的に言うと、クリエイティブなものを作る人がアイディアを下ろしてくる時の情景を描写した感じです。それを今回、ジャケ写では蝶々で表現しているんですけど、僕の中ではもっと崇高な、高次元の、人によっては神と呼ぶような、人間を超越した存在から授かるものという表現をしていて、創造の女神みたいな存在からアイディアをいただくというイメージです。でも女神は気まぐれで、できることを全部やった上で最後は神頼みみたいになるんですけど(笑)。それって音楽をやる人だけじゃなくて、会社員の方も含めて、クリエイティブなものに携わっている方は誰しもが経験することだと思っていて、夜明けが近づけばアイディアが浮かんでくるのかな、自分だけのオリジナルなものが出てくるのかな、と思いながら、悶々と作業にいそしみつつ、アイディアが下りてくるきっかけを探しているみたいな、一連の状況を描いた曲です。
──リアリティありますね。
Murakami:歌詞で見ると夜はまだ明けてないんですけど、実は「夜中に夜明けが来る」ということで、夜中にアイディアの陽が昇るから「Dawn」なんです。
──ああー。なるほど。
Murakami:たぶんこの曲を書きながら、歌詞の描写と同じような状態になっていた気がします。あとは語呂とか、耳ざわりとかを意識して、言葉が音楽としてグルーヴすることを意識して書きました。
──自分に言い聞かせてるような部分もありますよね。一度きりだ、流されるな、慢心するな、とか。
Murakami:書きながら、まさにそういう状況でした(笑)。書き始めた時は、女性を追い求める恋愛曲に聞こえてもいいなと思っていたんですけど、それは日本語オンリーだったらやってもいいけど、英語が混じったらより一層わかりづらくなるからということで、あえてダイレクトな言葉を使ってますね。
──耳に残ったのは、“wanna make you happy”というフレーズ。ここでの“you”とは?
Murakami:抽象的な感覚なんですけど、「あなたをハッピーにさせるからアイディアを下ろしてください」みたいな感じですね。「そのアイディアを使って世の中に貢献しますんで」みたいな、「ハッピーにするからお願い」みたいなことです。
──アーティスティックな悩みや、クリエイティブのリアリティを、ポップに表現するというか。重くならずに。
Murakami:もともと歌詞を書く時に、メッセージうんぬんというのはそんなに得意じゃなくて、情景描写というか、それも目で見てるものだけじゃなくて、感覚で感じるようなものを形に残すほうが好きなので。「Midnight Train」も、音楽体験という、絵では描けないようなものを音と言葉で表現していて、それが自分は好きなんですね。「Midnight Train」は音楽を消費する側の、僕も消費する側ですけど、音楽の楽しみ方というか、俺たち仲間だろ?みたいな感覚を歌っていて、あの曲に関しては作る側というよりは聴く側の気持ちですね。
──うまく対になってますよね。「Midnight Train」と「Dawn」の世界観は。
Murakami:ラジオに近い感じだと思うんですよ。ラジオはひとりで聴きますけど、孤独感がないのはなんでかな?というと、その先に人がいるし、同じように聴いているリスナーが日本中にいっぱいいるんだということも、なんとなく想像がつくので。「Midnight Train」は、音楽をひとりで聴いているかもしれないけど、僕らはみんな音楽ファンで仲間だよ、という曲です。
──リスナーには2曲合わせて聴いてほしいですね。そして今後の展開も楽しみです。
Murakami:今書いている曲は、愛を歌ったような曲もありますけど、でもだいたいはすごく抽象的な、エネルギーが爆発する瞬間の曲だったりとか、言葉で形容しづらい、説明が難しいような感覚が多いかもしれないです。
──そういうことを表現したい時期なんですね。創造の神秘や、エネルギーが爆発する瞬間を音にしたいというような。
Murakami:そうかもしれない。特に2022年からそういう時期が続いているかもしれないです。
──楽しみです。そして直近のライブ予定というと、3月7日のイベント<dub kiss~pop calling~>になりますか。会場は渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて。
Murakami:その日はRenatoさんたちとやる予定です。初めてご一緒するライブなので楽しみです。未発表の曲もいっぱいやるので、今年のどこかで出て行く曲たちも含めて、大盤振る舞いと言うと手前みそですけど、曲の大半は未発表曲になると思うので、早くやりたいです。
──まずライブでやっちゃうんですか?
Murakami:そうです。心機一転というか「こういうMurakami Keisukeで今後は行きますよ」という試金石になるような、そういうものを提示するライブになると思います。そして今作っているものが形になって、みなさんに聴いていただく日が早く来たらいいなと思います。
──そして、目指すはグラミー賞。
Murakami:そうですね(笑)。またハリーの話になっちゃいますけど、グラミー賞を獲ったから言うんじゃなくて、1D(ワン・ダイレクション)の頃からハリーの大ファンで、ソロになってから作る曲も大好きだし、年々彼が彼らしくなっていくというか、どんどんオリジナルになっていく中で、“やることなすこと全部タイプなんだよな。なんでだろう”と思っていたんですよ。たぶんやりたい方向が僕と似てるんだろうなと当時から思っていたんです。それが2023年グラミー賞を獲ったから、すごく嬉しさがあって、自分がやろうとしていることは今の世界基準で考えても間違ってはいないんだなと思いました。グラミー賞なんてまだ遠い先の未来ですけど、向いてる方向は間違っていないなと感じています。
Murakami Keisukeライブ<dub kiss ~pop calling~>
@渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
出演:Amber’s / Anly / BuZZ / PAPUN BAND (from Taiwan) / Murakami Keisuke ※ 五十音順
http://www.dmxweb.jp/weekendsession/archives/2455
◆Murakami Keisuke オフィシャルサイト
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