【インタビュー】超学生、1stアルバム『超』リリース「“こんなこともできますよ”と知ってほしい」

■解釈が一致することを大事にしています

──これだけ1曲1曲にいろんな要素が詰まっていて、情報量もかなり多い楽曲群だと思うんですが、思った以上に聴き終えたあとの爽快感が強く、聴き疲れすることなくリピートできるのも、このアルバムの特徴かと思いました。

超学生：僕の歌い方は緩急が強いと思うんです。「Fake Parade」が如実だと思うんですけど、めちゃめちゃ激しく歌っているところがありつつ、急にハスキーな歌声に変わったり。そういう楽曲がアルバムには多いので、もしかしたらその緩急が爽快感を生み出しているのかもしれませんね。

──そう考えると、声ってすごく重要な要素ですよね。そういう意味でも超学生さんの声ってとても惹きつけられるものがあります。もちろん曲ごとに異なるとは思いますが、歌う際にもっとも気をつけていること、意識していることは？

超学生：僕は何よりも、歌の主人公になりきることですね。言い方が難しいですけど、解釈が一致することを大事にしています。

──「解釈の一致」ですか。

超学生：例えば「ルーム No.4」には常人とはちょっと違った感性を持つ主人公がいて、それがある日インターネットという世界を見つけて……というところからスタートするんですけど、僕の曲にはそれぞれキャラクターがいるわけです。そのキャラクターを歌で表現するときに、オタクの皆さんと解釈が違っていたら嫌だなと思うんです。普段の“歌ってみた”もボカロPさんが作った歌詞や世界観から外れないように意識しているのと同じように、オリジナル曲もそこの解釈がズレないように気をつけています。なので、歌詞に沿うように歌うのが一番大きいんですかね。音としてよく聞こえるのも大事なんですけど、歌詞の意味と歌い方がなるべく乖離しないようにすることが一番大事かもしれないです。



──だからなのか、歌詞がしっかり聴き取れて、言葉がちゃんと響く歌だなと思いました。このアルバムには既存曲に加え、3つの新曲も用意されています。新たに収録された「Let's go」「Give it to me」「ガトリングアジテイタア」は、アルバムのバランスを考えて用意されたものなんでしょうか？　それとも、単純に「こういう曲が歌いたい」ことを優先したんでしょうか？

超学生：完全に後者ですね。そういった意味でも、アルバムの道筋というのはほぼ考えていなくて、あくまでできることを1曲ずつやらせてもらって、それを最終的にアルバムにしていただいたという形なので。ほかの曲を見て「Let's go」みたいな曲を入れたほうがいいかなと考えたのではなく、やりたいことのひとつに「Let's go」の要素があっただけなんです。なので、新曲3曲はすべてそういった感じですね。

──でも結果的に、「インゲル」から「Let's go」以降の流れはすごくスムーズですよね。

超学生：基本的には楽曲のリリース順に並べているんですけど、例えば、最後の「サイコ」の前にメジャーデビュー曲「Did you see the sunrise?」があることも重要なんじゃないかなと思っているんですけど、あまり僕が言い過ぎるとそれが正解になってしまうので、聴いていただいている方にはこの順番にも何か特別な意味があるのかなと、一人ひとり見出していただければいいかなと。

──「Let's go」はアルバムリリースに先駆け、1月18日から先行配信が始まりましたが、すでにリアクションはいろいろ目にしているかと思います。この爽やかさは、過去の楽曲と比べてとても新鮮に映りますね。

超学生：僕の中ではかなりメジャーメジャーした曲になっていると思いますし、そこに違和感を覚える方もいれば「そういう超学生もいいね」と新鮮味を感じ取ってくださる方もいて。こういう新しい曲をやると、いろんな反応があって面白いです。


──個人的に面白いなと思ったのが、この「Let's go」や「Did you see the sunrise?」のようなメジャー後に発表した楽曲はロック／ポップスとしての王道感が強いはずなのに、このアルバムの中の1曲として聴くとその王道感がトリッキーに映るんですよね。

超学生：ああ、そうですよね。普段ボカロ曲を歌わせてもらっていることが大きいと思います。逆に、全部ボカロPで固めたアルバムもやってみたいですね。

──でも、1stアルバムということを考えると、「Let's go」みたいな表現、見せ方もあるんだよというのは全然アリですし、むしろこれまでの流れを考えた上でもいいフックになったと思います。ボーカルに関しても、「Let's go」での歌唱はほかとは違った味わい深さがあって、個人的にも面白かったです。

超学生：この曲のボーカルは自宅で録音したんですよ。最初のデモ音源の仮歌が英語で歌われていて、ブルーノ・マーズさんみたいにかなり爽やかな印象で、かつ重なっている声の数も多かったんです。コーラスだけで同時に8つぐらい鳴っているようなデモだったので、メインを歌い終えたあとは修行みたいな作業でした（笑）。それもかなりいい経験でしたし、いただいたミキシングに関してもあれだけ重なっていた声をこう処理するんだということが、いい勉強になったので。

──特にメジャー以降の作品は、今まで以上にいろんな方の意思も含まれるから、よりかつてない感覚や刺激もあるわけですものね。「Let's go」はミュージックビデオの映像もレトロ調で面白い仕上がりでした。

超学生：昔の清涼飲料水CMのパロディっぽいですけど、僕もお気に入りのミュージックビデオです。



──序盤、画面のアスペクト比も昔のアナログ放送時代のもので、そこにもこだわりが伝わります。

超学生：あれは一回やってみたかったんですよ。画質的にもガビガビなのは、いろんなアーティストさんが一度はやってみたいと思うものだろうし、このタイミングにやれてよかったです。

──その絵の中にスマホが存在しているという（笑）。

超学生：あのミスマッチ感がいいですよね（笑）。

──映像に関しても「Did you see the sunrise?」でのメジャー進出以降、以前とは違ったことにもトライできているのではないでしょうか？

超学生：そうですね。今後は「ルーム No.4」でやったように、オリジナル曲のミュージックビデオで、普段の“歌ってみた”みたいな映像表現もやってみたいなと考えています。

──そんなメジャー感の強い曲もありつつ、もうひとつのオリジナル曲「ガトリングアジテイタア」はこのアルバムのテイストにおいては、とても王道感が強い仕上がりです。

超学生：これはもう、曲に関してはまるごとcosMo＠暴走Pさんにお願いしました。昔から聴いていましたし、いつかご一緒できたらと思っていたので光栄でした。ミキシングもはるっとさんという“歌ってみた”界隈の方を多く手がけられている方にあえてお願いして、僕の細かい要望にもたくさん応えていただいたので、もしかしたら「ガトリングアジテイタア」が一番“歌ってみた”っぽい音と曲になっているかもしれないです。



──かなり濃厚な1枚になりましたね。本作をCDにするとなると、マスタリングによってまた音も少し変わるのかなと思いますが。

超学生：マスタリングは今回新たに森﨑（雅人）さんにお願いしたので、最終段階でより統一感を出していただけたのはありがたかったなと思います。

──そうか、そこも先ほどの聴きやすさの話につながるのかな。

超学生：そうだと思います。

──こういう名刺がわりになるような作品がCDとして世に放たれることになると、改めて「超学生というアーティストとは？」という根本的な部分と向き合う機会も増えるのかなと思います。現時点では、いろんな歌い手さんがいる中で超学生というシンガーならではの武器や魅力、強みはどういったところだと思いますか？

超学生：いろんな歌にチャレンジさせてもらっていますけど、一番反応がいいとかやっていてスムーズに録音が進んでやりやすいと感じるのは、人間の闇とか混沌みたいなダークさを前面に押し出した曲。僕自身の歌い方にマッチするのかなと思うんです。“歌ってみた”ではそういう側面を見せてきた一方で、今回のアルバムにはそういう曲があまりないんですよね。なので、今後はオリジナル曲でもそういった要素を強く打ち出してみたいですし、そういった意味では今回のアルバムにはまだ「超学生といえばこれ！」という曲はたぶん含まれていないと思うんです。今回はいろいろなことに挑戦させていただいたので、これを携えて「超学生のど真ん中って、こういう感じだよね！」ってこともそろそろやりたいと思っています。もちろん、「超学生といえば」みたいなことに挑戦するのはプレッシャーも大きいんですけど、それを上回るぐらい僕自身が楽しみになっているので、早く次の作品を作りたいですね。


──このアルバムをリリースした翌月、3月5日には日本青年館ホールでの＜1stワンマンライブ「入学説明会」＞も控えています。いきなりホール会場で、しかもチケットが即日完売という事実にも驚かされます。

超学生：本当にありがたいことですし、いろいろ期待されていることがひしひしと伝わってくるので、その期待されている部分にちゃんと応えつつも「え、こんなこともするの？」ってこともお見せできたらと思っています。

──ここまでの活動がかなり順調に映りますが、今日お話を聞いてみるとそういった事実を超学生さんはどこか俯瞰で見ているような印象を受けました。

超学生：本当にずっとそんな感じです（笑）。僕自身がいろんな反響を受け取っているというよりは、僕が作っている超学生というオブジェクトに対していろんな批評が集まっている感覚がずっとあるんです。この感覚は、ある意味、長く続けることにおいては重要なんじゃないかなと思っていて。インターネットだとより目にしやすいですけど、ネガティブな声があったとしても、それを僕自身に言われているというより僕がお出ししたものに言われているという感覚になれるので、意見として受け入れられる。改善できるところは改善したいと普通に思うし、ただの悪口だったら聞き流せるし。ポジティブな意見に関しても、どこか我が子を誉められているような感覚がずっとあるので、今後はもっと自分自身に染み込ませたいなと思います（笑）。

──でも、その距離感を保てたからこそ、初めてニコ動に投稿してから今日まで、10年にわたり活動を続けられたわけですものね。さすがに10年後、こんなことになっているとは想像もしていなかったと思いますが。

超学生：してないから、超学生なんて名前を付けられたわけですし（笑）。

──（笑）。もし10年前の自分の声をかけてあげられるとしたら、どんなことを言ってあげたいですか？

超学生：10年前の僕にはその頃なりに活動に対して悩んでいることもあったと思うんですけど、10年後には全部忘れているから気楽にやってくれと言ってあげたいです。逆に、もうちょっと慎重にやったほうがいいぞとも言いたいことがたくさんありますね。例えば、流行曲を避けるんじゃなくて、もうちょっと周りからのリクエストにも前向きに応えてあげたほうがいいぞって、言ってあげたいと思います（笑）。

取材・文◎西廣智一
写真◎いわなびとん