【対談 -連載最終章-】渋谷すばる × ドリアン・ロロブリジーダが語る選択と生き方、「じゃあ普通って何なんだろ?」
3人のドラァグクイーンを中心とした物語が描かれた映画『ひみつのなっちゃん。』が公開中だ。渋谷すばるが主題歌「ないしょダンス」を書き下ろしたことをキッカケに、日本を代表するドラァグクイーン、ドリアン・ロロブリジーダとの対談が実現した。
◆渋谷すばる × ドリアン・ロロブリジーダ 画像 / 動画
15歳の頃からこの世界で活動をはじめ、現在はソロアーティストとして歌を届ける渋谷すばると、ドラァグクイーンとして日々華やかな出立ちでステージに立つドリアン・ロロブリジーダ。全く異なる世界を生き抜いてきた2人が共鳴する想いとは? 初対面の渋谷すばるとドリアン・ロロブリジーダが、本音で向き合ったトークセッションをお届けしたい。渋谷すばる全3回の連載インタビュー第一弾、第二弾に続く、最終章となるものだ。
◆ ◆ ◆
■すごく狭いところで生きている感覚
■人と違うということって特別じゃない
──映画『ひみつのなっちゃん。』の主題歌を渋谷さんがご担当されたことで、今回のドリアン・ロロブリジーダさんとの対談が実現したわけですが。
渋谷:はい。映画のご縁で、田中和次朗監督や主演の滝藤賢一さんとも対談させてもらったんです。田中監督と滝藤さんとの対談を通しても、いろんなお話をさせていただいて、本当にいろんな気持ちをもらったんですけど、今回、ドリアン(・ロロブリジーダ)さんと対談をさせてもらえる機会ももらえて、本当に嬉しく思ってます。
ドリアン:こちらこそ、光栄でございます。こんな機会をいただけて、とても嬉しく思っております。今日はどうぞよろしくお願い致します。
渋谷:こちらこそです。本当に楽しみにしてました。知り合いにもドラァグクイーンは居ないので、実際にお会いしてみて、すごく華やかだなぁ、すごいなぁって思ってます。
ドリアン:ありがとうございます! こちらこそですよ! やっぱりすごい存在感だなって感じています。こんな言い方をしたら失礼かもしれませんが、 “テレビで観ていた人だ!”と感じちゃって。私なんてただの女装なので(笑)。 やはり、オーラが違うなって思いました。
渋谷:いやいやいや、そんなんは全然ないです! ドリアンさんこそすごい人間力やなって思いましたもん。スタジオに入って来られたときも、撮影してるときとかも、その場が明るくなるというか。
──分かります。花が咲いたみたいにパーッと明るくなりますよね。
渋谷:そう。ほんまにそう。すごいなって。
ドリアン:いやいや、こちらの台詞ですよ、それは!
──映画『ひみつのなっちゃん。』の物語の軸にドラァグクイーンという存在があったことで、今回の対談の流れになったのですが、この映画を通して渋谷さんは改めてドラァグクイーンやLGBTQ +というところと対面することになったんですよね?
渋谷:はい。『ひみつのなっちゃん。』は、オネエ仲間であるなっちゃんが突然死んでしまったことをキッカケに、バージン(滝藤賢一)、モリリン(渡部秀)、ズブ子(前野朋哉)の3人のドラァグクイーンがお葬式に参列するため、なっちゃんの地元である岐阜県・郡上八幡へ向かう物語で。オネエであることを知らない家族のために、なっちゃんの秘密を守り抜こうと、必死に普通のおじさんになりきる3人の様子が描かれた映画なんです。僕が曲を書かせてもらうときには、まだ台本しか上がっていない状態で、ビジュアルも全くなかったので、頭の中で台本に描かれている風景や背景を想像しながら読み進めていったんですね。ドラァグクイーンやLGBTQ +を題材にした内容ということで、正直、台本を読む前はそこがどう描かれているのか、少し心配になってたんです。心配……というか、上手く言葉に出来ないですけど、ちょっと構えちゃったというか……特別視しているとかそういうことではなく、どんな風に描かれているんだろうって思ったというか。
ドリアン:なるほど。
渋谷:でもお話は、歳を重ねて自分の容姿や踊りに自信を持てなくなってしまったバージンさんが、自分がドラァグクイーンになるキッカケとなったなっちゃんの死を受けて、いろんな人と触れていく中で、なっちゃんが自分にくれた小さなコンパクトに込められていたメッセージや、自分に残してくれたメッセージに気付くんですよね。改めて自分の生き方と向き合うことになるというか。本当に温かい映画だなって思ったんです。自分はドラァグクイーンでもLGBTQ +でもないので、全ての気持ちが理解出来るわけではないんですけど、ここに描かれていた、“すごく狭いところで生きている感覚”というところに共感したんです。自分も同じ感覚を持って生きてきた人間なので、自分の中ですごく重なるものを感じたんです。
──主題歌として書き下ろされた「ないしょダンス」は、まさにご自身のことを歌われているのでは?と思うほどにリアルでしたからね。
渋谷:そうなんです。すごく自分自身と重なったんです。ドラァグクイーンやLGBTQ +の方々みんながそうであるかどうかは分からなかったんですが、『ひみつのなっちゃん。』の台本を読んだとき、“すごく狭いところで生きている感覚”という孤独と、歌詞にも書かせていただいたんですけど、“じゃあ普通って何なんだろ?”っていうところを、とても強く感じたんです。
ドリアン:すごく分かります。すばるさんは、私達みたいに性的マイノリティではないけれど、“すごく狭いところで生きている感覚”で生きてこられたのかなっていう意味では、共通するところを感じます。周りにゲイとかレズビアンの方っていらっしゃいました?
渋谷:いました。元々女の子だったんやけど、男の子になった同級生が。でも、僕はそこまで特別視をしていなかったから、ほんまに何も考えんと接してましたけどね。
ドリアン:なるほど。すばるさんにとっては自然なことだったんですね。
渋谷:そうですね。特別な目で見るとかは全くなかったです。ただその事実をすんなりと受け入れてただけだったので。
──よく“カミングアウトする” “カミングアウトしない”という言葉を聞きますが、やっぱりまだ隠さないと生きづらい世の中ということなんでしょうかね?
ドリアン:そうなのかもしれないですね。日本もだんだん自由になってきているのは確かですが、制度が追いついていないところがありますから。それに、制度云々ではなく、やっぱり気持ちの問題で偏見というのはなくならないと思うんです。だからこそ隠したいと思ってしまう方も多いのではないでしょうか。
渋谷:人と違うということって、特別じゃないって思うんですよね、本当は。でも、人間って珍しいものとか、他とは違うものに対して、反射的に“え?”ってなるからね、絶対に。その反応は仕方ないことだと思うんですよ。でも、そこからちゃんと真っ直ぐに向き合って、それをしっかりと受け入れていけばいいことやと思っているんです。
──はい。
渋谷:特別視されるのが本当に嫌なんです、僕は。小さい頃からそういう周りの人とかに気を遣われるような生き方をしてきちゃったから、本当に大嫌いなんですよね。こういう仕事をするようになってからは、「コンビニとか行くんですか?」とか聞かれたりもして、“え? なんで? コンビニとか行くでしょ。なんでそんなこと聞くん?”って思ったりもしたし。たまたま仕事がこういう世界なだけで、僕も人間やねんけど…特別やないねんけど…って思ってたし。それに、自分はこういう世界に入る前からちょっと変わってたというか、小さい頃から自分でも周りに馴染めてない自覚があったんですよ。
ドリアン:この世界に入る前からですか?
渋谷:そうなんです。なんか変な目立ち方をする子やったんです。自分でも、“自分ってちょっと変わってんなぁ”と思ってて、自覚してたところもあったから。ずっと“普通って何なんだろう?”って思いながら生きてきたので。ここにきて、こんなにもそれについて語り合えていることが嬉しいんですよね。
ドリアン:本当にそうですよね。私もずっと“普通って何なんだろう?”と思って生きています。“私の普通は貴方の異常で、貴方の普通は私の異常”ということって、世の中に溢れていると思っているんです。だからね、み〜んな変だと思ってるの。み〜んな変!でいいじゃん!って。
渋谷:本当にそうかも。一緒であることのほうがおかしいですよね。だって、みんな違う人間なんやもん。1人1人違って当たり前なのに。なんで普通にしたがるのかな? みんな一緒にしたがるのかな? みんなと同じじゃないとダメ!っていうのはどうしてなんかな? 日本人だから?
ドリアン:みんな同じにしておけば、管理が楽だからね。そういうことじゃないかしら?
渋谷:あ〜。なるほど。そうすることによって良いこともあるのかもしれないけど、そうすることによってしんどい思いをする奴もいるよね、絶対に。後者の人達は少なくないと思うんやけどなぁ、俺。田中監督も滝藤さんも「ないしょダンス」の歌詞の中にある“じゃあ普通って何なんだろ?”っていうところにとても共感してくれていたんですよ。そう思っている人って案外多い気がするなぁって、今回改めて感じたことでもあったんですよね。
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