【レポート】長谷川白紙、<HAKUSHI HASEGAWA & COSMIC LAB presents “EPONYM 1A”>
今もっとも革新的で、もっともポップで、もっとも美しく、そしてもっとも鋭敏な感覚を持つ音楽家・長谷川白紙のイベント<HAKUSHI HASEGAWA & COSMIC LAB presents “EPONYM 1A”>を大阪で見た。
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凄まじく濃密かつ鮮烈な時間そして空間だった。間違いなく昨年見たベスト・ライヴであり、ここ数年の中でもっとも刺激的で超絶的な視覚・聴覚体験だったのである。
今回のライヴは長谷川にとって初の関西圏での自主公演だが、ただのライヴではなく、大阪を拠点に活動するCOSMIC LABとのコラボレーションであり、ボアダムスの∈Y∋がDJとしてゲスト参加するというスペシャル・イベントだった。COSMIC LABは2021年夏の<フジロック・フェスティヴァル>での∈Y∋との新プロジェクト“FINALBY()”の驚異のパフォーマンスで俄然注目を浴びたメディア・アート集団である。長谷川とも2021年6月に行われたフライング・ロータスのオンラインプログラム「THE HIT」で、コラボレーションを展開している。テクノロジーとアートを高次元で止揚する現代最先鋭のオーディオ/ヴィジュアル体験は比類なく斬新で刺激的なものだ。このCOSMIC LABが総合演出を担当、長谷川、そして∈Y∋の3者が、関西サブカルチャー・シーンを象徴するハコでもある大阪・味園ユニバースに集結したのである。
まず登場した∈Y∋は、アフリカやアジア、中南米あたりのトライバルでエクスペリメンタルな電子音楽が爆発的に分裂・変異・融合したような、見たことも聴いたこともない異形のダンス・ミュージックを展開。ノイジーで呪術的でカオティックなカットアップコラージュは、大阪の繁華街のど真ん中の古めかしいビルをこの世ならぬ異空間に染め上げていく。ほぼその場のイマジネーションのみで各種音素材を組み上げていく精密で複雑な即興ライヴと言っていいが、それに呼応して各種エフェクトを変化させながら完璧なヴィジュアルを作り出すCOSMIC LABの手腕も素晴らしい。∈Y∋のプレイは以前から何度も体験しているが、ここに来ての急激な進化はDJという表現そのものの変容と逸脱と成長を促すようで恐ろしいものがある。
45分間にわたって展開された圧倒的な小宇宙。だが続いて登場した長谷川白紙のプレイは、こちらの予想をはるかに超える凄まじいものだった。
まずは出音の途方もない大きさに驚く。「爆音」という言葉でも足りないほどの常軌を逸した大音量なのに、分離がよくどこまでもクリアで、しなやかで柔らかなので耳障りでなく、重低音の振動が全く歪むことなく心地よく響く音響の良さは特筆もの。
演奏された曲は新曲2曲を含め、全部で13曲。既存曲のほとんど全てがオリジナル・ヴァージョンよりはるかにテンポアップされ、新曲もハードでアグレッシヴ。変拍子のブレイクコアがほとんどガバのような狂気じみたスピードと音圧と音数の多さで放射され、ひたすら圧倒される。なんだこれは。こんな長谷川白紙は聞いたことがない! あれこれ考える間もなくカラダが揺れ、頭が振れ、足が動く。変則リズムのダンス・ミュージックは珍しくもないが、「あなただけ」のありえないほど超高速の過剰な音列の背後でポップでカラフルなアニメ調イラストが乱舞している衝撃は決定的で、今も脳裏を離れない。
COSMIC LABの映像は長谷川の音に合わせて事前に作り込んだものをリアルタイムでエフェクト処理していたようだが、一部の曲では演奏する長谷川の姿をキャプチャーして映像処理している。そのヴィジュアルの力は強烈で、かつてなくハードでタフでマッシヴな長谷川のサウンドと化学反応を起こして、アーティストの生身の肉体そのものが、音像そのものが発光体となったような鮮烈な一体感を醸しだす。凄まじい量の情報が狭い空間に高速で飛び交うが、そんな喧噪で過剰なカオスの中、ゆったりと舞うように踊る長谷川のシルエットと柔らかい声は、そこだけ時間軸が異なるように優雅でエレガントだ。
私は過去2回、長谷川のライヴを見ている。一度目は2021年7月東京・リキッドルームに於ける最初のワンマン・ライヴ<ニュー園 ショーケース>であり、二度目は同年11月、ASA-CHANG & 巡礼との対バンである。鮮烈なヴィジュアルと饒舌でカラフルなサウンドの融合で長谷川のしなやかに跳躍するポップネスと身体の躍動を際立たせ、オーディエンスとの幸福な一体感を浮き彫りにしてみせた<ニュー園 ショーケース>時とも、一転してピアノの弾き語りで、その繊細でヒリヒリした表現の核を剥き出しにしてみせた巡礼との対バン時とも異なる長谷川白紙が、この日の味園ユニバースでは確認できた。繊細な歌やメロディのディテールのニュアンスを共有したり味わうというより、ヴィジュアルや音響、さらには会場の雰囲気まで巻き込み一体化したエネルギーそのものに襲われ呑み込まれていくような圧倒的な感覚だ。長谷川の表現の最突端のさらにその先に突き抜けるような異界性を感じさせたが、一転してシンプルなピアノ弾き語りで語りかけるように歌う「シー・チェンジ」から「ユニ」へと続く本編最後のドラマティックな流れは、ここではないどこか、ではない今ここにある現実の美しさと優しさと愛おしさを見事に表現していて感動的だった。
アンコールは「愛してます」の一言から、「草木」の高速ヴァージョン。あっという間に駆け抜けた1時間のあとはまさしく夢から覚めたような感覚だったが、映画のようなエンドロールのクレジットの最後に「To Be Continued.」とあって、ということはこの長谷川とCOSMIC LABのコラボレーションは以降も継続・発展していくということなのだろう。生身の肉体を超え、音楽であることさえも超えて拡張していく長谷川白紙の世界。その先にあるものは、とても想像がつかない。ならば、とことん現場でその行く末を見続けるしかない。
文・小野島大 Photo by EL CURI-NHO
<HAKUSHI HASEGAWA & COSMIC LAB presents “EPONYM 1A”>
大阪・味園ユニバース
(大阪府大阪市中央区千日前 2-3-9 味園ユニバースビル B1)
OPEN 18:00 START 19:00
スタンディング 前売り:¥5,500
ドリンク代別
◆長谷川白紙 Twitter
◆COSMIC LAB オフィシャルサイト
◆∈Y∋ オフィシャルサイト