【忖度なし】フェンダー「American Vintage II」シリーズはイケてるのか?

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フェンダーの歴史的モデルを当時の魅力そのままに復刻した「American Vintage」は1982年に登場以来、1985年にカスタムショップが誕生してもなお人気を誇り、30年を超える長きにわたって人気を博してきたシリーズだった。

個性あふれるヴィンテージスペックを年式ごとに徹底追及した各モデルは、世界中のマニアを虜にし、多大な賛辞を得たものの、いたずらにラインナップが増えるという避けられない宿命をも抱えることとなった。2012年にはさらなるグレードアップを果たしたものの、細かなスペックへの追求は、見過ごせないほどの価格高騰につながる危険をはらみ、カスタムショップとの棲み分けも曖昧になっていった。

そんな状況下、2018年に「American Vintage」を生産終了とし、新たにフェンダーが打ち出したのが「American Original」だった。それまでのピンポイントな年式スペックにフォーカスした細かなラインナップをリセットし、'50S、'60Sといったディケイド単位で特徴と魅力を再構成することで、現代のプレイスタイルにもマッチさせるギター群を打ち出したのだ。“実用本位の現実的なヴィンテージスペック"ともいうべきモデルが再設計され、ヴィンテージの魅力を存分に携えた最新鋭のフェンダーが誕生することとなった。


2018年に発表されたAmerican Original

「American Original」は多くのプレイヤーから歓迎されたが、一方でシンボリックな年式スペックに萌ポイントを感じるマニアには、物足りなさを覚えるものでもあった。そういうマニアに向けては、どんなリクエストにも応えてくれるカスタムショップが用意されているわけだが、年々価格高騰の一途をたどり、手が届かない高嶺の花になってしまったという事実にマニアは打ちひしがれた。かつての「American Vintage」にラインナップされていたようなヴィンテージ復刻モデルの入手は、現実的に極めて困難になってしまっていたというわけだ。

そんななか、2022年10月11日にさっそうと登場したのが「American Vintage II」である。マニアの悲痛の叫びに応えるかのごとく、その名の通りかつての「American Vintage」の第二弾として始まった新たな歴史のリスタートだ。

今回発表されたのはギター9モデル&ベース3モデルの全12モデルで、57ストラト/61ストラト/73ストラト、51テレ/63テレ/75テレデラックス/72シンライン/77テレカスタム、66ジャズマスター、そして54プレベ/60プレベ/66ジャズベというラインアップ。51テレ、57ストラト、61ストラト、66ジャズベには、左利き用も用意されている。


American Vintage II

さて、これらはどのような特徴を持ち、どんな魅力を携えてきたのか、ここではフェンダーを熟知した楽器店の腕利き6名を招集、トークバトルを行なった。楽器店のプロからみて、「American Vintage II」はイケてるのか? 遠慮なし・誇張なし・忖度なし、ただし溢れんばかりのフェンダーへの知識と愛情を携えて会話はスタートした。

登場いただいたのは、三木楽器の中尾氏と月山氏、ギタープラネットの吉岡氏と柳津氏、そしてイケベ楽器の西岡氏と牧氏、総勢6名の精鋭達である。


左から三木楽器の月山氏/中尾氏、ギタープラネットの柳津氏/吉岡氏、イケベの牧氏/西岡氏

──待望の「American Vintage II」、ついに登場しましたね。

西岡(イケベ楽器):これをずっと待っていました。2021年に「American Original」が生産終了になったあと、お客様に「次はどうなるんですか?」と聞かれていたのですが、何も情報がないので「絶対次が来ますから…」と言い続けていたんですよ。

──ずいぶん長い放置プレイだったようですね。

吉岡(ギタープラネット):いつもだと1月に発表があるんですけどね。

西岡(イケベ楽器):そうなんです。で、3月くらいには商品が揃って並ぶのが通例なので、お客様に「3月くらいには出てきますよ」と言いたかったところなんですけど…今回は震えましたね(笑)。

──ヴィンテージリイシューはフェンダーの一番人気シリーズですが、そもそもどういう歴史なんでしたっけ?

中尾(三木楽器):「American Vintage」が1982年に発売開始されて、2012年にはスペックチェンジを果たしながら2018年に生産終了になりました。そのあと「American Original」が発売されたんですが2021年に生産終了になった。そこから1年近く経ちますから、その間に多数のお客さんを逃してます(笑)。


三木楽器 中尾氏

──そもそも一番人気シリーズなのに、なんで1年もの空白期間があったんでしょう。

中尾(三木楽器):わかんないんですよね…僕らが聞きたい(笑)。

吉岡(ギタープラネット):作るの大変なんじゃないですか?

──今回は「American Vintage」の続編シリーズとして特定年代に特化した各モデルが発表されましたが、このラインナップはどのように感じましたか?

月山(三木楽器):ベースは意外でしたね。今まで1962年とかノンバインディング/3ノブのスペックがスタンダードでしたから、今回1966年のジャズベが来たというのにちょっと驚きました。

──1966年ジャズベの特徴は?

月山(三木楽器):この年にバインディング(ネック)がスタートして、ブロック・ポジションマークになっていくんです。なんですけど、バインディングにドットポジション仕様というあえてマニアックな仕様を選んだっていうのがおもしろいですよね。これは人気ありますよ。ブロックじゃなくてドットを好む人は少なくないですから。

──1966年にだけ生まれた、非常にピンポイントなスペックですよね。

月山(三木楽器):1966年に入っての過渡期の仕様なので、ヴィンテージでも少ないです。本当にピンポイントで、これまでの「American Vintage」にもなかった仕様ですね。


American Vintage II 1966 Jazz Bass

──フェンダー、やってくれましたね(笑)。同時に発表された1954プレベと1960プレベはどう評価しますか?

月山(三木楽器):1954プレベは、ようやく来たなというのがあります。ファンが多いんですよ。今まではMade in Japanやスクワイヤー、カスタムショップでしかなかったので、ようやく手の届きやすい価格帯のUS製レギュラーモデルが登場したので、期待値は高いですね。

吉岡(ギタープラネット):このベースと言えば、スティングですよね。

牧(イケベ楽器):マニアックですけど、ここが好きな人は多いんですよ。



月山(三木楽器):この頃のブリッジのサドルは樹脂…ベークライトなんですね。

西岡(イケベ楽器):ラウンド弦を張ったら結構消耗しませんか?

月山(三木楽器):結構固いので、そんなに言うほどへこまないんですよ。





──フラットワウンド弦が張られていた時代に設計されたベースで、現代のサウンド/音楽にマッチングさせるのは刺激的で思わぬケミストリーもありそう。

月山(三木楽器):当時はウッドベースからの流れで生まれたのがプレシジョンベースだったので、音的に高域はいらなかったんだと思うんです。サステインも短くていいしモコモコして当然みたいなところがあった。そこからいろんなマイナーチェンジが行われていったんだと思いますね。

吉岡(ギタープラネット):ということは、54ベースは横に抱えないで縦に構えて弾いたほうがいいね(笑)。

月山(三木楽器):そうそう、ヘッド裏にストラップピンがついているのは、ウッドベースの様にベースを立て気味に弾くときのためのものなんですよ。

──へぇ、それは知りませんでした。そして1960プレベは定番モデルで。

月山(三木楽器):これはド定番中のド定番。シリーズ名にVintageを冠するのであれば、外せませんよね。

吉岡(ギタープラネット):今回はカラバリもいいし発色もいいですね。

牧(イケベ楽器):いい感じに見える。1960年なのでスラブですね。



──ギターの方はどうでしょう。ストラトは1957、1961、1973の3ラインナップですが。

西岡(イケベ楽器):「American Original」では、'60Sストラトはトランジションロゴになっていて、ローズ&スパロゴのモデルがなかったのでどうしたものかと思いましたけど、今回は安心(笑)。

吉岡(ギタープラネット):61っていうのは安心感がありますよね。62だと仕様がめんどくさいから。

中尾(三木楽器):過渡期でいろんな仕様が混在してきますけど、61であればスラブ、グリーン・ガードの仕様で間違いないですからね。

──「American Original」のディケイドスペックから一変して、それぞれにかなり細かい仕様を詰めているように見えますが、その点はいかがですか?

吉岡(ギタープラネット):ピックアップはそれぞれ各年式ごとに全て違うんですよね。

中尾(三木楽器):それぞれ細かく出ましたね。定番のピックアップからテレキャスの63やストラトの73など今回はかなり細かいですね。

──今回70年代モデルがラインナップされたのも注目ですね。

吉岡(ギタープラネット):50~60年代と比べるとあまりなかったですよね。テレキャスターカスタムもありましたけど、あれはFSR(註:Fender Special Run。個々のディーラーのスペシャルリクエストに基づいて製造された限定モデル)でしたよね?

中尾(三木楽器):しかもあのときはワイドレンジPUもCuNiFe(註:クニフェ。1970年代ワイドレンジPUに使用されていた銅・ニッケル・鉄を配合した合金マグネット素材名で、そのまま当PUの呼び名として定着した。弱い磁力をカバーするためコイルの巻き数が多く、そのためにサイズも一回り大きいワイドレンジになった)ではなかったですよね。今回は「American Original」で復刻されたCuNiFe PUがそのまま搭載されたので、よりリアルなサウンドになったんじゃないかなと思います。


1972Thinline、1975Deluxe、1977Custom各テレキャスターに搭載されているCuNiFe PU

──この70年代テレを出したいからCuNiFeを復刻したのか、CuNiFeを復刻したからこのラインナップが登場したのか、どっちが先だったんでしょうね。

西岡(イケベ楽器):時期的にはピックアップが先に発表されましたよね。

吉岡(ギタープラネット):クリス・フレミングがDIRECTORS CHOICEを作っていたときに「CuNiFeを作っている」という発言があったので、あれは…2018年ですね。

中尾(三木楽器):以前からワイドレンジPUはありましたけど、CuNiFe素材にまでこだわったのは今回が初ですから、初期「American Vintage」よりリアルなサウンドになっています。

吉岡(ギタープラネット):今回、モデルごとに各ピックアップが選定されているのは、ニューアメリカン(2012年に発表された「American Vintage」のスペックチェンジ)以来じゃないですか?あのときの56とか59、65のPUはそのまま「American Original」で使われていましたけど、今回「American Vintage II」では全部違うPUが新たに搭載されていますよね。

──73のグレーボビンPUはどんなPUなんでしょう。

中尾(三木楽器):基本グレーボビンPUというのはエナメルコーティングのワイヤーなので、それを各年代ごとにどのように分けて違いがあるのか、リード線だったり、ターン数がどうなっているのかなどは外観だけでは判断が出来ないので、バラしてみないとわからないですね。



吉岡(ギタープラネット):今回、ネックシェイプも年式によってぜんぜん違うんですよね。

柳津(ギタープラネット):全然違いましたね。同じCシェイプと言っても1961“C"と1973“C"では全然グリップが違うんです。

──作り込みと細かいこだわりがすごいなあ。73ストラトだと重量が気になります。ヴィンテージでも軽いアッシュ/重いアッシュどちらもありますよね。

吉岡(ギタープラネット):いろんな個体差がありましたから、1973 Stratocasterも市場に出回ってみないとわからないですね。そこまでリアルということですよ(笑)。





中尾(三木楽器):70年代のモデルは上手く再現されていて完成度が非常に高いですね。ラージヘッドやパーツの質量、塗装の関係で基本重量は重めだったりもするんですけど、その分、派手でロックなサウンドですよね。50年代と比べるとサウンドの重心が低いところは再現されているので、モダンなジャンルにも対応できると思います。

吉岡(ギタープラネット):今回、新しいプレイヤー達に向けて設計されている印象がありますけど、どうですか?

中尾(三木楽器):そうですね。定番の年式に加えて更にバリエーションを増やした事によって選択肢は格段に広がりましたね。

──ギターの進化とポップス~ロックの進化は切っても切り離せないものですよね。CuNiFeハムバッカーの登場などは、よりハードになっていく70年代を象徴しているのかな。

中尾(三木楽器):そうですね。1970年代からCuNiFeハムバッカーを搭載したモデルが数多くリリースされていますから。

吉岡(ギタープラネット):今の若いミュージシャンって、オリジナリティを求めているというか、人とは被らないものがほしいという発想もあると思うんです。当時は人気がなくて数が少なかったモデル…実際、バースト・レスポールもその当時は人気が少なかったし、1970年代のモデルも当時はあまりウケなかったわけですけど、今改めて見ると「これ、みんな持ってなくていいじゃん」みたいな一周回った世代が増えていますよね。1970年代のギターも50年経ってヴィンテージとしての価値に変わっていくなかで、フェンダーがそれをきちんとリイシューしようと考えるのはいいですよね。1973年生まれの人って今では部長クラスの人で、病気も何回かして悪いとこを直しながら立派にやっているような世代ですから、そういう意味でもそこはリイシューの価値があるでしょう。


ギタープラネット吉岡氏

──50年も経過したヴィンテージには、満身創痍で実戦投入に耐えられない個体もあるので、新品でのリイシューの存在はありがたいです。

吉岡(ギタープラネット):自分好みに改造したっていいんですよ。1970年代のギターって、改造されたものがとても多かったですよね。ミニスイッチつけて7色トーンとか、ジャックのスペースにアクティブ回路を入れたりとか。

中尾(三木楽器):ピックアップもリワウンドだったり、他の物に交換されている場合が多いですよね。

月山(三木楽器):当時は中古楽器として安かったので改造もしやすかったんでしょうね。1970年代は今ほどヴィンテージという価値観はなかったから。

吉岡(ギタープラネット):1980年代のスタジオミュージシャンなどは、一生懸命改造して使ってたんでしょうね。それが今や立派なヴィンテージ扱いになるとリフレットもはばかれますから、こういうリイシューがいい。もはや1970年代のストラトもスキャロップできないですもん。

──理想のスペックにカスタムしていけるような余地を残してくれている点も、こういうリイシューの魅力かもしれないですね。

月山(三木楽器):まずギターとしての完成度が高いですからね。1982年にスタートしたときは、ざっくりとしたリイシューのイメージだったんですけど、2012年にがらりとチェンジして、中のコンデンサーの値まで当時のデータを取って合わせていくようになってから、一気に凄くクオリティが上がったんです。その後「American Original」で更にクオリティが上がっているんですよね。それで今回の「American Vintage II」なんですが、66ジャズベは今回が初めてだったのでまず触ってみたんですけど、グリップのフィーリングが当時の個体に近い印象を持ちました。結構細身なんですけど、カスタムショップはちょっと太めなので、この感じはなかなかオーダーできないんですね。これは薄くて細くていい。60プレベも同様に当時の個体に近いフィーリングを感じます。そういった意味ではさらに完成度が高くなっていると思います。


三木楽器 月山氏

中尾(三木楽器):昔はね、グリップも60年代ならC、50年代だったらVみたいにざっくりしてましたけど、こういうふうにリイシューしたっていうのは、USの精度もかなりあがった印象がありますよね。本気だと思います。

西岡(イケベ楽器):2012年のタイミングで各年式の特徴的な仕様とオールラッカーで製作されていて、そこからの「American Vintage」(New American Vintage)って最高だったんです。色も綺麗でサンバーストなんかも年式ごとに黄色の強さが違っていたり、バタースコッチもめちゃくちゃキレイでしたよ。でもその分高価だったし、まだカスタムショップもそれほど高くなかったので、あと5~10万円足してカスタムショップを選ぶお客様がすごく多かったんです。

──良くも悪くもカスタムショップとの差異がなかったのか。

西岡(イケベ楽器):私がカスタムショップを推していたのですが(笑)、当時の価格帯を考えると「American Vintage」はすごく良いギターでした。でも、カスタムショップがあるから売れない。その後「American Vintage」が生産完了となって「American Original」が発売されたのですが、下地がウレタン塗装になったことで価格が下がったんです。そういった流れだったので「American Vintage II」も下地はウレタンになっているようですね。


イケベ楽器 西岡氏

吉岡(ギタープラネット):でも73ストラトのヘッドストックって、ちゃんと飴色になっているんですよね。これもポリウレタン塗装なんですけど、わざわざこういうところを再現してくれていて、見た目の面ですごくいいリイシューになっている。それに昔のヴィンストってスイッチは3wayでしたけど、買ったその場で5wayに交換している人も結構いたんですよ。今のモデルはリイシューと言ってもちゃんと5wayですから、明らかにユーザーフレンドリーですよね。すごいマニアにとっては、オールラッカーじゃないしヘッドトップもラッカーじゃないし配線もどうとかってなるけど、でもそこは新しいジェネレーションに向けて提案してるものなんだと思います。


1973 Stratocasterのヘッドストックは経年によって焼けたような色合いが再現されている。

──確かにいくらリイシューだからって、使いにくい3wayは不親切に感じます。実用性も加味しながらリイシューを再デザインしているというわけですね。

吉岡(ギタープラネット):「American Vintage」は本当に新品のままタイムマシンに乗ってやってきましたみたいな色でしたけど、「American Vintage II」はみんなが思うヴィンテージのルックが再現されているので、コンセプトは「Brand New Again」ですよね。

西岡(イケベ楽器):「今の人たちが見るヴィンテージのイメージを持てるように、ネックを飴色にしている」というのもフェンダーのコンセプトによるものですから、そこはお客様にもきちんと伝えていきたいところですよね。ヴィンテージへの愛を感じますよ。

中尾(三木楽器):だから、ヘッドトップだけ飴色に着色するのも大事。見た目の雰囲気がありますから。



──NOSスペックではなくヴィンテージ感が演出されている点が、「American Vintage」と「American Vintage II」との違いでもあるわけだ。

吉岡(ギタープラネット):レフトハンドが充実している点もいいですね。今までサンバーストとかブロンドしかなかったけれど、今回はカラーラインナップがあって、そういう意味でもお客様の層が広がっていることを実感します。昔よりもレフティのマーケットニーズが認められていますし、今のフェンダーは男女比とかもシビアに捉えていますから、これからも楽しみ。

月山(三木楽器):「American Vintage II」はやっぱりクオリティが高いですよ。三木楽器ではヴィンテージも扱っているので、稀に全く弾かれてないものが入ってくるんですけど、ヴィンテージサウンドと言うよりは新品楽器の様なまだ鳴り切っていない音がするんです。その音のニュアンスに「American Vintage II」は似ているなと感じました。なので、弾きこんだら、化ける可能性もあると思いますよ。これを60年間弾きこむ人がどれだけいるかはわからないけど夢のある楽器です。

──弾き込んだもの勝ちですね。


ギタープラネット 柳津氏

西岡(イケベ楽器):今回モデルカラーが増えた点も嬉しいですね。「American Original」は機種もカラーも限られていたんですけど、今回はヴィンテージ系を求める方にはとても紹介しやすいしおすすめしたい。

吉岡(ギタープラネット):ジョン・フルシアンテが好きなんですという人にドンズバのスペックでオススメできるギターが「American Original」にはなかったですもんね(笑)。

西岡(イケベ楽器):「American Vintage II」って、“フェンダーというものを教えることができる"んです。ヴィンテージという言葉は知っているし、すごいとか高価というイメージがあったとしても、「何がヴィンテージ?」という話が「American Original」では説明しにくかったんですよね。でも今回は、時代の移り変わりとともに代表的なモデルがフィーチュアされていますから、フェンダーのギターの始まりから話ができる。こういうラインナップはいいですよね。

中尾(三木楽器):コアなファンの方や精度の高いヴィンテージリイシューを求められる大人のお客様にはカスタムショップをご案内しますから、むしろ若年層のお客様に紹介したいですよね。ヴィンテージとか、60年代のストラトとか50年代のテレキャスとか言われても全然イメージが沸かないような、そもそもフェンダーのルーツ自体を知らない方達に向けて、いろいろなことを伝えていくにはとても良いラインナップ。そこからヴィンテージファンやカスタムショップのユーザーになっていただく人を開拓し育むという点においても、すごく良いと思います。

柳津(ギタープラネット):若い方には色で購入を決める方もいらっしゃいますから、カラバリが増えたのも嬉しいところ。すごく需要があると思います。

牧(イケベ楽器):うちのお店はヴィンテージはほとんど扱っていないので、年式の違いによる特性などをお客様に伝えるシーンはあまりないんですけど、「American Vintage II」って54プレベとか66ジャズベとか結構マニアックですよね。ヴィンテージってものすごく高価ですしモノもないので、触れることもできないどころか、下手すると興味も持たないんじゃないかって思うんです。テレベなどはTHE BACK HORNの岡峰さんがテレべシェイプのものを激しいライブでも使えるような実用性の高い仕様で使っていたりして、若い子も知っているシェイプかもしれませんが、こういうヴィンテージモデルが出ると「テレべって本当はこうだったんだよ」という話ができますよね。若い子が気に入るか気に入らないかは別ですけど、「これがあるから今がある」ことが分かるんです。


イケベ楽器 牧氏

──自分の機材がロック史の中でどのような位置にいるものなのかを知ると、次への一歩が明確になる気がします。

吉岡(ギタープラネット):そこで聴いてきた音楽がフラッシュバックしたら最高ですよね。「あ、あの音だ」みたいな。私は今リーバイスのジーンズを履いていますけど、これはリーバイスの中のアメリカヴィンテージみたいなシリーズで1966年の505を再現したものなんです。今ではいろんなデニムがありますけど、もともとオリジナルのリーバイスがあって、そこから便利になっていろんなブランドが出てきてモダナイズされていった歴史がある。オリジナルを知ると派生の意味がわかりますよね。オリジンを知らないと何が合っているのか判断ができないから、自分の中の筋を通すみたいな気持ちでこういうものと向き合うと基準ができる。「American Vintage II」に触れれば「7.25"R(指板のアール)ってやっぱこうなんだな…フラットなラジアスってありがたかったんだな」とか「22フレットまであるのってどうなんだろう」「ロッキングチューナーってどうだろう、でも意外と2点支持ブリッジじゃなくても自分はいいな」とか「音はこっちのほうが好き」とか…そういうみなさんの基準もアップデートされていきますよね。

──全く同意です。

吉岡(ギタープラネット):今や情報にあふれていますから、知識として知っちゃっていると「じゃあ自分に合わないな」と思っちゃう。シンクロトレモロってチューニング狂うからヤダなとか、テレキャスターのオクターブって合わないからちょっとな…みたいな。いやいやいや、それは違うんだよって(笑)。

──結論までショートカットできるのはいいことだけど、途中経過を知らないのは損ですね。

吉岡(ギタープラネット):試行錯誤してみ?チャーやジェフ・ベックがすごいのってそこだよ、って。

──ちなみに私が履いているジーパンはリーバイス511ですけど、なんとのびのびジーンズ(ストレッチ)なんです。ギターで言えば機能てんこ盛りモダン系初心者向けモデルですね(笑)。



吉岡(ギタープラネット):時代に合っているというのはそういうこと。昔ながらのジーパンはめちゃくちゃ色落ちしますから、白シャツとは絶対一緒に洗えない。ユーザーフレンドリーではないですよね。ギターの場合、今どきエフェクターを使わない人はいないので、配線とかスイッチはユーザーフレンドリーになっているけど、プレイヤビリティーは伝統そのものです、みたいなコンセプトが「American Vintage II」ですね。

──それが現在のフェンダーが考える、ヴィンテージモデルのあり方なんですね。

吉岡(ギタープラネット):この7.25"Rを触ると、カスタムショップの9.5"Rっていいじゃんってなるかもしれないし、これでいいじゃんってなるかもしれないし。

中尾(三木楽器):僕は結構7.25"R派なんですよね。

吉岡(ギタープラネット):他の製品群に影響を与えると思うんです。以前お客様で「American Original」を何本も持っている方がいたんですけど、レリックは嫌でピカピカがいいけど9.5"Rがいいからという理由だった。今回の「American Vintage II」のほとんどのモデルが7.25"Rですから、「American Original」の個性は今でも生きていて風化しない。そこはちょっと嬉しいポイントでしたね。そもそも1970年代も当時はさんざん色々言われたりもしたわけですけど、時間が経ったらめっちゃいいよねってなっている。フェンダーって、そういうモノづくりに対するガッツがありますよね。

──そもそも7.25"Rの魅力ってどういうところにあると思いますか?



中尾(三木楽器):やっぱり握った時のグリップ感。フィット感がありますよね。Rの分だけ木材の質量も確保できますし、フレットも小さいことで金属音とか雑味もないので、ネック鳴りはいいかなという印象はあります。

──逆に7.25"Rのデメリットは?

中尾(三木楽器):弦高を落とせないところですね。

西岡(イケベ楽器):自分は弦高を落としたいので、7.25"Rのフェンダーはリフレットして9.5"Rにしました(笑)。フレットはナロー系のヴィンテージフレットにしますけどね。ただ「American Vintage II」は7.25"Rなのに、弦高を下げなくても全然大丈夫なんですよ。普通そのまま弦高を下げると1弦14Fチョーキングで音が途切れちゃうんですけど、「American Vintage II」はフレットが高いので弦高を下げなくても全然弾きにくくない。しかもローポジションでは丸みがあってコードが押さえやすい。このフレットはベストマッチだと思います。

吉岡(ギタープラネット):ジョン・メイヤーのシグネチュアでも7.25"Rのモデルがありましたけど、きちんと受け入れられていますから、お客様の空気も変わってきている気がします。あまり弦高を気にしない人が多くなってきたのかもしれない。

西岡(イケベ楽器):確かに、最近は「弦高下げてくれ」ってあまり言われなくなったかもしれない。

中尾(三木楽器):最近はフレットの処理の精度も上がっているので、7.25"Rでも大きな影響はないのかな。

西岡(イケベ楽器):みんな上手に弾けるようになっているだけなのかも。

吉岡(ギタープラネット):みんな上手いですよね。

──何故みんなそんなに上手くなったんですかね。

吉岡(ギタープラネット):学ぶ場が増えたからじゃないですか。YouTubeとか。検索すれば何でもわかりますから。

西岡(イケベ楽器):誰も本とか買わないですもんね。初心者の方に教則本を勧めても「いや大丈夫です」って。

──でも弾き心地とか触った感じとかケースを開けたときの匂いとか、ネットではわからないこともたくさんあるわけで。



柳津(ギタープラネット):ハードケースを開けたときのにおい…いいですよね。接着剤の匂いなのかラッカーの匂いなのかわからないですけれど。あれはエモい(笑)。カリフォルニアの匂いですね。あの重い木のケースをやっとの思いで家に持って帰って、パカっと開けたときの、部屋の中がアメリカの空気になるあの体験…味わってほしいですねぇ。

──「American Vintage II」が登場したことで、フェンダーのさらなる展開も期待できますね。

吉岡(ギタープラネット):昔、「American Vintage」にHotRodというシリーズがあって、サテンネックでリアハムだったりとか、実用性重視のカスタムが施されたバージョンがあったんですね。そういう展開を期待したいですね。

西岡(イケベ楽器):1970年代のフェンダーがたくさんの改造を受けてきたというものを、「American Vintage II」で再現してもらうと面白いですね。

吉岡(ギタープラネット):今回でもかなりマニアックなところを攻めていますけどね。一番びっくりしたのが、63テレキャスターのマホガニーボディ。クリムゾンレッドトランスパーレントのマホガニーボディってやばくないですか?ステファン・スターン(マスタービルダー)が好きで作ってたけど。


1963 Telecaster クリムゾンレッドトランスパーレント

中尾(三木楽器):これは、1963~1964年の1~2年しか存在していないものですよね。オリジナルの実機は見たこともない。

吉岡(ギタープラネット):こんなマニアックなところをやってくるから、「American Vintage II」のプロダクトマネジメントした人は変態ですよ。

──譲りたくないこだわりがあったんでしょうね(笑)。それにしても当時どうしてテレにマホガニーを使用したんでしょう。

吉岡(ギタープラネット):…なんででしょうね、ギブソンへの対抗心なんですかね。

中尾(三木楽器):1968年のシンラインではマホガニーが使われていますけど、それよりもだいぶ前でほとんどマホガニーは使われていない時代ですからね。

──試行錯誤やチャレンジの産物だったんでしょうか。

吉岡(ギタープラネット):そういう意味ではいろんなイレギュラーがありますよね。1965年製のブロンドのストラトでメイプル・ボディを見たことがあります。木目がアッシュじゃなくて、すごく重くて音もバキバキで。

──「American Vintage II」では、カラーリングによってアルダーかアッシュか材が変わるモデルもありますが、このあたりのサウンドへの影響はどうでしょう。


フェンダー公式オンラインショップ限定モデル(特別カラー)の一部、左から1957ストラト ヴィンテージブロンド、1961ストラト フィエスタレッド、1963テレ 3トーンサンバースト、1973ストラト エイジドナチュラル

吉岡(ギタープラネット):もともとレオ・フェンダーって、木目が見えるフィニッシュならアッシュ、塗りつぶしはアルダーでという合理的な発想ですよね。でも、音を比べて選ぶというのはいいですよね。そもそも材の違いで好きな方を選ぶなんて、ヴィンテージでは無理な話ですから。

月山(三木楽器):今、カスタムショップがすごく高騰していて60万円とか80万円とかちょっと前のマスタービルダーぐらいの価格になってきて、マスタービルダーは100万円を超えている。となるとヴィンテージ仕様のUS製フェンダーは「American Vintage II」あたりが求めやすくなる。あと、今回発表されるモデルと別に、マニアックなリミテッドモデルが出たりするとおもしろくなりそうですね。例えば、プレベってネックが太いんですが、Aネックと呼ばれるジャズベースと同じネック幅のネックを使った仕様のプレべがヴィンテージフェンダーに存在していて需要もあるんですけど、今のラインナップで細身のネックがついたプレべはmade in japanのハマ・オカモト・モデルくらいしかないんですよね。カスタムショップでオーダーすると80万円以上しちゃうので、そんなマニアックなリミテッドモデルを「American Vintage II」から出してくれたら嬉しいですね。

──ヴィンテージの良さを礎に、多くの方のニーズに沿ったモデルがうれしいなということですね。

吉岡(ギタープラネット):オリジナルの50年代モノにフロイドローズなんてつけたら実刑判決ですから(笑)。

──ロックンロールはそうであってほしいけど(笑)。だからこそ「American Vintage II」には夢を乗せられますね。そのまま使うもよし、手を入れるも良し。そうやって音楽が作られてきたのは歴史が証明していますし、ギタリストの数だけ「American Vintage II」には未来がある。

中尾(三木楽器):過渡期のちょっとマニアックな仕様だったりとか、64年、65年とかのラウンド指板&トラロゴの需要もあるでしょうし、バリエーションの幅は持たせやすいんじゃないでしょうかね。期待のシリーズになると思います。

吉岡(ギタープラネット):今回は、バインディングテレキャスターもないし。

中尾(三木楽器):ですね。あとジャガーとかも。ジャズマスターもバインディング&ブロックポジションという結構マニアックな仕様の1機種だけなので、今後も期待ですね。個人的にはコロナドとか復刻してほしいですけど(笑)。

吉岡(ギタープラネット):スターキャスターとかド変態方向(笑)?いずれカラバリも増えると思うので、シェルピンクとかアズテックゴールドとかも出るといいなあ。

西岡(イケベ楽器):オールラッカー・モデルが欲しいです。

中尾(三木楽器):それはカスタムショップじゃないですか(笑)?

西岡(イケベ楽器):カスタムショップはもう高すぎるので、そこをなんとか「American Vintage II」で(笑)。

吉岡(ギタープラネット):三木楽器&ギタプラ&イケベ楽器の3社合同でオーダーしますか(笑)。



──今後のお客さんの声や反応も楽しみですね。

中尾(三木楽器):優れた演奏性とか高い機能性を持ったシリーズは別途ありますから、「American Vintage II」と銘打った以上はヴィンテージを深掘りして欲しいなとは思います。

吉岡(ギタープラネット):それこそ「マホガニーボディなんてあったんだー」と興味を持って「このモデルって、実はそういうレガシーをリスペクトしたものだったんだ」とか、理解が深まったらいいですね。

──BARKSでは「American Vintage II」に改造の魔の手を染めたユーザーからの【俺の楽器・私の愛機】投稿なども楽しみ。

吉岡(ギタープラネット):いいですね。それやってほしいな。

西岡(イケベ楽器):「American Vintage II」は、最近のモダンで現代的なモデルではないフェンダーの歴史を知れるシリーズなので、お店に来て年式ごとに歴史をたどってチェックして試してください。とにかく弾き比べて自分に合うものを探してほしい。このシリーズを通してフェンダーを知ってもらいたいし、何か聞きたいことがあればお気軽に声をかけて欲しいです。ネット上でも色んな情報が得られますけど、実際触ってもらうと本当に全部違うことが分かるので。

牧(イケベ楽器):フェンダーサウンドという王道を感じてほしいですよね。フェンダーロゴの楽器を手にしてチェックしてもらいたいです。



吉岡(ギタープラネット):いろんな選択肢がある中で、あえて昔からの伝統を保っているアメリカのメーカーのヴィンテージ・リイシュー版というものを感じていただければ、自分の音楽人生がより豊かになっていくんじゃないかと思いますので、こういうアナログなものを触れてみてください。

柳津(ギタープラネット):今回は機種がたくさんありますので、時間をかけて「ローズとメープルどっちがいいですかね」っていう選択肢などをお客様にたくさんご案内していきたいな。

中尾(三木楽器):それぞれの年式の特徴がしっかりとらえられているサウンドなので、ロックの歴史を彩ってきた名機というものを体感できると思います。オリジナルトーンを実感いただいて、フェンダーのギターがどういったものかを知っていただきたいですね。

月山(三木楽器):ベースに関しては待望のラインナップが出ましたが、実際に店頭で手にしないとわからないところがたくさんあると思いますから、がっつり弾いていただいて試してみてください。うちにはヴィンテージもありますから、実際比べてみてどうなのか、どっちがいいのか…そこは好みもありますし、必ずしもヴィンテージが本物・正解というわけでもないんです。そのあたりも確かめにご来店いただけたら嬉しいです。

──音楽シーンを牽引してきたモデル達ですから、そこには夢がたくさんあるなあ。

吉岡(ギタープラネット):back numberとかもめっちゃヴィンテージ使ってましたし、Official髭男dismもそうですよね。ああいう音を聴いているティーンエイジャーが欲しい音を求めたら、ここに辿り着くと思います。



協力◎イケベ楽器、ギタープラネット、三木楽器
取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)

◆57ストラトが43,000円(1957年当時の新品価格)で購入できる体験型ポップアップイベント
◆フェンダー・オフィシャルサイト

What's Ikebe?

「We are Musicians!! 奏でようぜ、人生」池部楽器店は良い楽器を通じてお客様に笑顔になっていただけるよう、またお客様の音楽生活が充実したものになるよう、約40年に渡り努力して参りました。各楽器にフォーカスした専門性の高いリアル店舗の展開を軸として、インターネットによる通信販売においても豊富な情報量と迅速な対応を目指しております。
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池部楽器店 渋谷旗艦店 イケシブ

ギタープラネット

エレキギター、エレキベース、アコースティックギター、クラシックギター、ウクレレを扱うJR御茶ノ水駅から徒歩30秒の総合楽器店です!フェンダー日本製、メキシコ製、USAはエレキA館1階、2階はお取り扱い実績日本一を誇るフェンダーカスタムショップフロア!当店YouTube「GUITAR PLANET CHANNEL」にて毎週土曜夜9時から動画放送中!
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ギタープラネット

三木楽器

・アメリカ村店
地下鉄御堂筋心斎橋駅より徒歩5分、アメリカ村のど真ん中に位置する三木楽器アメリカ村店は国内最大級の売り場面積と在庫数を誇る4フロア構成のエレキギター専門メガストアです。2Fはアジア初のフェンダー公式SHOP in SHOPとなるFENDER SHOP in MIKI GAKKI AMERICAMURA、専門店ならではの圧倒的な品揃えで、レギュラーモデルは勿論、新製品等もいち早く店頭にてご確認頂けます。
・ベース専門店
ビギナークラスからハイエンド・ユーズド・ビンテージまで全てのベーシストに満足いただける商品構成と知識豊富なスタッフが常駐するベース専門ショップ!フェンダーベースはカスタムショップからスクワイヤーまで幅広くラインアップしており、常時100本以上の在庫で展開しております。リペアブースも完備しご購入後のアフターケアもばっちりフォローいたします。
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三木楽器アメリカ村店

三木楽器ベース専門店 MIKI BASS SIDE

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