【インタビュー】キズ・来夢、「ライヴをすることで生きていくことを赦される」

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■俺らはそこで何か残さないと、他に何も社会に貢献できない人間

──音楽を聴く時には癒しを求めている。自分で音楽をやる時にはどうですか? 激しい音楽をやりながら結果的には癒されているんでしょうか?

来夢:いや、癒されてはいないですね。疲れは増してますよ。

──キズが深くなっているというか。

来夢:あはは! でもみんなはどう思って聴いてるんですかね。そんなの考えたこともないんですけど。自分は疲れが増しつつも気持ちいいんですよ。あんだけバーッと吐き出して、思い切り歌ってるだけに、スッキリしてはいます。そういう意味では浄化になってるのかもしれないですけど、ライヴについてはとにかく、このメンバーとやるのがめちゃくちゃ楽しいというのが第一にあるんです。ひとりでやれって言われたらやんないです。めんどくさいですもん(笑)。誰も聴いてくれないんじゃないかって心細くなるし。

──なーに言ってんですか(笑)。でも根本にはやはり「バンドが楽しいからやりたい」というのがあるわけですね?

来夢:うん。なんか4人で何かやるのが楽しいんですよ。ステージでやることに限らず、みんなで同じ飯食って、同じスケジュール過ごして、馬鹿みたいに笑って。で、その堕落した人間たちが、30分とか1時間、本気出して巻き返すみたいな感じですね。そこでキメられなかったら、俺ら、ただのクズなんで(笑)。「ここでキメないといけない」っていう同じ意志を持ってるんですよ、4人全員が。ここでいいライヴができなかったらただのダメ男。そういった意味でも同じ意識ですね。これをやらないと俺らにはもう何も残ってないからマジでやろうな、ということなんです。自分たちのライヴだろうと、誰と対バンする時だろうと、俺らはそこで何か残さないと、他に何も社会に貢献できない人間だし。

──社会に貢献する。それはわかりやすいところでのチャリティみたいなことではなく、それこそキズのライヴを観に来る人たち、音楽を聴いている人たちに何らかの気付きをもたらしたり、何かを考える切っ掛けになったりすることを指しているわけですよね?

来夢:そうですね。まあ結果、どんな仕事だろうと……結局、誰かのためになってるようなことが仕事として認められてるわけじゃないですか。だからこそお金ももらえる。それは理解してるんですけど、俺ら、人のためになることなんて多分、音楽をやること以外に何もできないと思うんですよね。マジでできないですよ。人にやさしくすることも、誰かのために我慢するっていうことも。だからもう、音楽を、ライヴをキメないといけない。

──つまり、いいライヴをやることが社会貢献にも繋がるはずだ、と?

来夢:そうです。生きていくことを赦される。ライヴをすることで、このバンドが。ただ、自分で「ああ、これでもう赦された」とか思ったらもう駄目なんですよ。もっともっと自分にしかできないことをやっていかないと。だから、今は「リトルガールは病んでいる。」ってことを歌ってますけど、次にどういうことを歌って赦されようと思ってるんだろうなって、自分でも気になるんです。

──その時々に歌いたいことを歌っていきたいと口で言うのは簡単ですけど、この先どんなことを歌いたくなるかなんて、想像つかないはずですしね。

来夢:想像できないですね、自分が歌いたいことがどうなるのかも、見た目がどうなっていくのかも。『一撃』を見てても思うんですけど、3rd seasonでの自分は最初の頃と比べるとまったく見た目も違うじゃないですか。僕自身、想像つかないんですよ。あれをやりたいって当初から思ってたわけじゃないし。だから次にどういう僕が出てくるのか、自分でも怖いですもん。今の僕についてはもうこれでしかないと思ってますけど、自分が次にどうなっていくのかは想像もつかないし、それと共に考え方もまた変わっていくだろうと思うから、やっぱ怖いですよ。

──歌詞の内容ばかりではなく見た目の変化にもその時期の来夢さん自身の変化が映し出されている、ということなんですね?

来夢:そういうことです。うちのメンバー、ホントに仲いいんですけど、実際「次、どうなるんだろう?」「この先はライヴ、どうなるんだろう?」みたいな話をしていて……たとえば僕、レッチリ(RED HOT CHILI PEPPERS)が好きなんですけど、最終的にはあんなふうに脱いでるんじゃないか、とか。白塗りで脱いでそうだよね、みたいなことを言ってて(笑)。

──かつて前衛的と言われた彼らの音楽もいまやピースフルなものという印象になっていますけど、キズにもいつかそんな日が来るんでしょうか?

来夢:うわー、どうだろう? そういう音楽をやって何万人も集まってくれてたらいいんですけど、僕はそういう歌を歌って大観衆を集められるような大きな人間じゃないので……多分それはないと思います(笑)。

──でも逆に、来夢さんが常にその瞬間の気持ちに忠実なことを歌い続けていった結果、ピースフルな歌を歌うことがあるとすれば、それは世の中が平和になった時ということになるのかもしれません。

来夢:ああ……。どうなんだろう? 僕、実はスラム街が大好きで、いろんな国のそういう街を歩いてきたんですけど、そういう場所でこそ、ものすごくポップでいい曲が流れてたりするんですよ。だから治安が悪くなればなるほど音楽は逆にポップになっていくのかもしれない。わかりやすい愛が歌われるようになるというか。

──日常から欠落しているものを歌に求めているから、でしょうか?

来夢:多分そうなんじゃないか、と。僕はそういうイメージで捉えてるんです。逆に治安のいい場所のほうが凝ったものが流れていたり。日本もそうじゃないですか。ただ、そこでだんだんと治安がちょっと悪くなってきて、ストレートなワルい音楽だったり、ヒップホップとかの波がまた来てたりするわけで、ホントに面白いぐらい人間ってわかりやすいものだなって思いますね。だからこそ今、ニセモノの痛みだったりニセモノの傷っていうのがめくれ出してるんだと思う。それがこのコロナ禍で炙り出されてきたというか。コロナのせいじゃないんです。コロナ禍でみんないったん冷静になって、考えてみたら「違うんじゃないか?」ってことになってきたというか。

──世に溢れているものに疑いを持つようになった、と?

来夢:そうです、そうです。そうやってどんどん炙り出されてるのかなって思います、日本の音楽が。


──興味深い視点ですね。ところでこの先には日比谷野外大音楽堂でのライヴも控えているわけですけど、普通、こんな局面であれば「あのオープンな空間でピースフルな1日をみんなで分かち合いたい」みたいなところに話が落ち着くべきなんでしょうが、どうもキズの場合はそういう感じにはなりにくいというか。

来夢:ははは! なにしろライヴのタイトルが<そらのないひと>ですからね。

──せっかく空の広がりを感じられる場所でのライヴなのに。

来夢:そうですよね。でも、空のない人もいるんで。そこで何を伝えるかって言ったら、ちょっと今はわかんないですけどね。でも、この時期に僕らにしかできないことをやりたいとは思ってます。それ以外のことをやる必要はないんで。他の人たちにもできることじゃなく、キズにしかできないことをやりたいですね。今回も、これからも。

──野音自体に特に思い入れがあるわけではないんですよね?

来夢:全然ないです。僕ら、最初にインタビューを受けた当時からそうだったんですけど、1stワンマンが池袋のEDGEでやれればいいってずっと言ってたんですね。でもEDGEじゃ観に来たい人が入りきらないし、みたいな。そうやって大きくなってきてるだけなので、そこが目標とかそういうことじゃ全然なくて。むしろ、どこでもいいんです。100人規模のライヴハウスとかでも全然いい。ただ、今の時点ではまだ想像しきれないですけど、実際に野音でやってみた後にはやっぱ違うことを言ってると思うんですよ。やり終わった後で言いたいことというのが絶対あるはずだから。その時の自分はもう今の自分と同じではないし、それが自分という人間なので。

取材・文◎増田勇一

11th SINGLE「リトルガールは病んでいる。」

2022年8月31日 リリース

【TYPE A】
DMGD-025A (CD+DVD) 4,400円(tax in)
※“キズ Ballade session”Premium Ticket 総数120枚限定封入
※12Pブックレット封入
[CD]
1. リトルガールは病んでいる。
2. 日向住吉
[DVD]
キズ 単独公演「天獄」 2022.5.14 日本青年館ホール
1. 地獄
2. ストロベリー・ブルー
3. 鳩
4. ラブソング
5. レモンティー

【TYPE B】
DMGD-025B (CD)
1,650円(tax in)
[CD]
1. リトルガールは病んでいる。
2. 日向住吉
3. 症状その⑵

発売元:DAMAGE

<キズ 単独公演「そらのないひと」>

2022年10月9日(日) 日比谷野外大音楽堂
開場 16:30 / 開演 17:30

[チケット]
前売¥6,000 (税込)/当日¥7,000 (税込) 全席指定

・一般発売
イープラス/ローソンチケット/チケットぴあ
2022年9月17日(土)10:00

◆キズ オフィシャルサイト
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