【インタビュー】Bimi、破壊、愛、闇、日常、過去という5つのテーマを掲げたEP『Cynicism』
■僕は音楽で気休めの場所を作りたいんじゃなくて
■本質を解決できる場所を作っていきたい
――2022年7月にリリースされた最新EP『Cynicism』は、破壊、愛、闇、日常、過去の5つのテーマそれぞれ沿った5曲を収録しています。このコンセプトはどのように決まっていったのでしょう?
Bimi:最初は何もコンセプトとかは考えていなかったんです。トラックを聴いて自分がライヴでパフォーマンスしてる姿を想像して歌詞を書いていく。自分が気持ち良いようにやるだけでしたね。そしたらそれぞれテーマが違う曲ができて、曲が揃ってから『Cynicism』というタイトルをつけました。
――なぜ“冷笑主義”という意味を持つタイトルをつけたのでしょう?
Bimi:制作中の自分のモードが結構皮肉的というか(笑)、なんなんだよこいつらって感じの感情のままに書いた曲だったんです。それは大きな口を叩いて売れてない自分に対する苛立ちとか、自分に対する皮肉でもあるし、まだ俺の曲聴かないの?という世間への皮肉もあれば、他のアーティストさんに対して“俺こういう曲作れますよ”や“足元いつでもすくわれちゃいますよ?”という宣戦布告的な意味の皮肉でもあるし――総じて皮肉っすね。日本人らしい風刺的な考えの曲がいっぱい作れたと思います。
▲EP『Cynicism』
――90年代のミクスチャーロックを思わせる「weapons」や、「Orange」のようなセンチメンタルなポップソングなど5曲それぞれで音楽性は異なりますが、作品全体で発信しているのはデビューシングル「Tai」のマインドに近い印象を受けました。
Bimi:やっぱり僕の基本的なマインドは「Tai」なんですよね。「Orange」みたいな聴きやすいを書いたのは、“こういう曲はいくらでも書けるよ”という皮肉でもあるんです。「Orange」であなたに寄り添えるけど、寄り添ってくれるアーティストなんていっぱいいるよね? そもそも“寄り添うこと”は正義なんですか? という問題提起でもあるんです。今の時代はすぐにいろんな曲が聴けるから、意味をじっくり考えて聴く人が少数派だとも思うし、15秒で曲のすべてがわかっちゃうぐらいの聡明なリスナーもすごく多い。これも皮肉ですね。自分のテイストを濃く出した「weapons」は電波に乗せられないのも皮肉ですよね(笑)。
――(笑)。「weapons」はヒップホップの世界では受け入れられるけれど、世間では受け入れてもらえない。でもBimiはそれだけではなく、「Orange」みたいな音楽も発信できるアーティストでもある。Bimiに関係するものそれぞれで、振れ幅の大きさを感じます。
Bimi:世間一般と、それを憂いている人たちの間をちゃんとつなぎたいという気持ちはありますね。それは別に政治的思想ではなく、考え方も身を置く環境も違う人間同士がどうすればみんな幸せに生きられるんだろう? という問題提起でもあって。それについてちゃんと考えられるようなライヴもしたいし、寂しさが埋められるような場所を増やしていけたらなと思うんです。たぶんそういう場所がないと、このままだとみんな心を病んでしまう。それが加速すると悲しいことが起こってしまうかもしれない。うつを患っている日本人、すごく多いじゃないですか。
――そうですね。
Bimi:でもこの世の中だとそうなっちゃうよね、と思うんです。僕は“皮肉”と面白おかしく歌っているけど、僕の言っていることは全部本質だと思うよ、とは伝えていきたい。でもなかなか歌詞をじっくり考察してくれる人はいない。だからリスナーの人のフィーリングにどう訴えかけていくかが勝負だと思ってますね。
――Bimiさんなりに、音楽で多くの人とコミュニケーションを取りたいと。
Bimi:自分の思っていること、みんなの思っていることを共有したいんですよね。みんなのことを知りたい。100%は難しいけど、少しでも教えてほしいし、それで解像度を上げさせてほしい。“この人はこういう人なんだ”ってちゃんと理解したいんです。それを知っているほうが人生は面白い。そしたら助けたいと思った時に助けられるし、助けが必要な時は助けを求められるし。うん、寂しがり屋なんですよね。
――Bimiさんが音楽を通して向き合っているのは、普段の生活で目を背けてしまいがちな険しい、厳しい場所なのかもしれないと、お話を聞いていて思いました。愛をテーマにした2曲目の「LOVE」も、キャッチーなセクションだけで成立するとも思うんです。でも敢えてダークな側面を多く描いている。
Bimi:しんどいから本質から目を背けるって、鎮痛剤でしかないんですよね。治療にはならない。もちろん夢を見せられることは素敵ですよ。何も考えずに踊れて楽しめる、好きになれるって超すげえことだし、それも正義だと思う。でもそればっかりやっていても、毒はずっと排出されることなく身体のどこかにたまっていく。その毒に気付くのは、身体から溢れた時なんですよね。
――ああ確かに。騙し騙し過ごしてきて、知らず知らずのうちに悪化しているというのはよくあることです。
Bimi:やっぱり狭いコミュニティの中で悪意を向けられ続けると、メンタルがすっごいやられちゃうんですよね。自分の中にたまっている毒は、みんなに見せていいものだと思うんですよ。“俺こんな人間なんだけど、それでもみんなとうまいこと付き合いたいんだよね。どうしたらいいかな”と言える場所があったほうがいいし、そういう社会になればいいと思うんです。僕は音楽で気休めの場所を作りたいんじゃなくて、本質を解決できる場所を作っていきたい。だから普段の生活が楽しくて俺の曲が必要なくなったら、それは素晴らしいことだと思うんです。そういうアーティストでありたいと思ってます。
――真正のリアリストなんだなと。
Bimi:アーティストや俳優という夢を見せる職業をやっていて、やっぱ夢なんてないなって正直思っちゃうんですよ。だからディズニーランドみたいに夢を見せる時はとことん見せようと思うし、中途半端な夢の見せ方がいちばん残酷だと思う。芸術は現実を生きる人の力になるものであって、表現者が現実からの逃げ道を作るべきではないと思うんです。
――Bimiさんの音楽で心の毒と向き合う勇気をもらえる人は、今の世の中にたくさんいると思います。
Bimi:そうなんですよね。だから見つかってほしいんです。どこかの誰かがフェスとか出してくれないかな。
――隅々にまでポリシーが貫かれていますものね。「Tai」のMVでも、Bimiさんは実際に墨を飲んだとのことで。あれは墨を飲んだ人でないと出せない気魄だと思います。
Bimi:いや、あんなの大したことないんですよ。メリットがないからみんな飲まないだけで、別に誰だって墨くらい飲めるんです。でもそういう意味のないこと、生産性のないことをやるのが面白いんですよね。音楽は衣食住のような生命維持活動と直結してないし、言ってしまえば生産性はない。でも生産性がない“娯楽”だからこそできることがある。俺はそのためなら、自分の命をがんがん使っていきたいんですよね。墨すんげえ美味しくなかったですし(笑)。
――(笑)。ガチ墨汁だったんですね。
Bimi:イカ墨とかじゃなくて市販の墨汁ですからね(笑)。撮影の後に胃洗浄しました。墨汁飲むのはおすすめしないです(笑)。
――わかりました(笑)。『Cynicism』はEPというまとまったかたちでコンパイルされているからこそ、この1年でBimiさんが培ってきた音楽経験や、Bimiさんが音楽でやりたいことがダイレクトに伝わってくる作品でした。12月にリリースされるアルバムもどうなるんだろうと期待が高まります。
Bimi:僕らしいアルバムになると思います。コラボ相手の人もすごく良い感じだし、やっぱ自分のやりたいことを続けていると、人が人を連れてきてくれるんです。周りのみんなのおかげで仲間が増えてくるんだなと実感しています。だから僕はBimiというプロジェクトのフロントマンとして突っ走っていかなきゃいけないなと。僕がピッチャーで、みんなが盤石の守備というか。そういう状況は楽しいですね。
――心強い仲間が増えて、ストライクがんがん決めていけそうですね。
Bimi:がんがん三振取っていきたいっすね。僕は関わってくれた人みんなを幸せにできればと思っているので、俳優業も音楽も妥協せずにやっていきたいんです。そもそも、自分が楽しいと思うことをやっているだけですからね。楽しくなかったらすぐやめるから。芸能は寂しい気持ちを和らげてくれる場所だし、音楽では自分と向き合えて、共鳴できる仲間を探す場所。だから今はすごく充実しています。
――それができるのも、器用貧乏だからかもしれません。
Bimi:あははは、結局行きつく先はそこなんですかね。世の中は生きづらいし、妥協して生きようとしたら生きられる。でも自分は妥協するのも嫌だし、みんなにも妥協してほしくない。だから音楽をやりたいんですよね。
取材・文:沖さやこ
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