【インタビュー】Bimi、破壊、愛、闇、日常、過去という5つのテーマを掲げたEP『Cynicism』
俳優として『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage、ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズンなど数々の舞台で活躍する廣野凌大によるアーティストプロジェクトBimi。2021年6月にデジタルシングル「Tai」でデビューし、以降コンスタントにリリースを重ねるだけでなく、2022年には東名阪ツアーを成功させるなど、着実な活動を続けている。そんな彼の最新作が、2022年7月にリリースされた5曲入りEP『Cynicism』。“冷笑主義”という意味を持つ言葉を掲げた今作では、破壊、愛、闇、日常、過去という5つのテーマを掲げた楽曲を収録している。バラエティに富みながらもどこか仄暗さを感じさせるトラックと、刹那的で息苦しさを吐き出すようなリリックとフロウ。ヒップホップの枠にとらわれない音楽表現を妥協なく追及し続けている。アーティスト活動を開始し1年以上経った彼は、どういうマインドで音楽とどう向き合っているのだろうか。これまでの歩みから現在まで、じっくりと話を聞いた。
■音楽で盛り上がれてお客さんが素直になれる場所が作れるなら
■ジャンルはなんでも良かった。全部取り入れて自分のものにしたい
――18歳で俳優デビューなさったBimiさんですが、中学時代はアーティストを目指していたそうですね。
Bimi:そうなんです。小6の終わりぐらいにモテたくてギターを始めて(笑)。
――ははは。早熟で。
Bimi:小学校でギターをやっている人間はいなかったので、人と違うことをやってる人はカッコいいっていう厨二病的な発想ですね(笑)。あとよくTVとかでも“子どもの時にやっときゃよかった”と言っている大人がたくさんいたので、子どもながらに“じゃあ俺は子どものうちからやりてえな”と思ったんです。
――そこから音楽にどんどんのめり込んでいくと。
Bimi:車の中でいつもグリーン・デイやセックス・ピストルズが流れているような家庭だったので、最初のうちはパンクロックが好きでした。中学2年生ぐらいに友達とまずコピバンを組んでバンドを始めて。友達経由で日本のロックを聴くようになって、SiMやcoldrainをめっちゃ好きになりました。それで文化祭やライヴハウスでライヴをやるようになって――そこから僕のパンク精神が培われていきました。やっぱり音楽をやっている人って、動機が“モテたい”から変わる瞬間があるじゃないですか。
――そうですね。
Bimi:僕の場合、それが高校2年生の終わりくらいだったんです。どうしたらもっと、俺は音楽が好きなんだ、こういう音楽が好きなんだと主張できるんだろう、と方法を探すようになりました。
――それがなぜ俳優の道に?
Bimi:じつは今の事務所にも、音楽がやりたくて応募したんです。でもその時に“どんなに曲が良かったとしても、普通にデビューしただけでは売れない”、“人気の出ていない人の歌は聴かない”とはっきり言われたんです。そこで僕も確かにそうだなと思ったんですよね。誰もが知る国民的アーティストだって、ライヴハウスでものすごい数のライヴをしてやっと売れていったわけで。いくら情熱が大事だとはいえ、情熱しかない俺が曲出しても売れるわけがない。そしたら事務所が“いきなり音楽だけに絞らなくてもいいんじゃない?”と俳優のオーディションを紹介してくれたんです。
――そのオーディションを受けて、めでたく合格なさったと。
Bimi:それ以降ありがたいことに俳優のお仕事を途絶えずいただけていて。ほんとあの時、事務所から俳優のオーディションをすすめてもらって良かったなと思うんです。というのも、俳優の仕事は音楽もうまくなれる場所だなと思ったんですよね。
――と言いますと?
Bimi:俳優は自分にはない、その役や物語の中にしか存在しない感情を演じて、それを自分なりに解釈して増幅する職業なんです。人に届けるという意味でも音楽ともよく似ていて、それが音楽の表現力にもつながっていることを実感しています。だから俳優の仕事もすごく楽しいんですよ。たとえば悲しい曲を悲しい顔をして歌うのは意外と難しいけど、それができるのは俳優をやってきた自分の強みだと思っています。18歳から俳優1本に集中してきたからこそ自信もついたし、事務所にすごく感謝しています。
――そして満を持して2021年6月にアーティスト活動がスタート。絶えず俳優のお仕事もあるなか、動き出すことになったきっかけとは?
Bimi:やっぱり俳優をやりながらもずっと、自分主導でアーティスト活動をやりたい気持ちがあったんです。そんなふうに悶々としながら日々を過ごしていて……それで自分のイベントの配信の時だったかな? 仲の良いメイクさんにメイクをしてもらっているときに宇宙の解説動画を観ていたんですよ。
――宇宙、ですか。
Bimi:それを観ながらメイクさんに“銀河において地球は豆粒で、僕らなんて目に映らないくらいちっぽけですよね。こんなちっぽけなやつが、自分のやりたいことを抑えてんのとかまじ無理っすよね”と漠然とした気持ちをどんどん話していって――その流れでパッと“誰かとラップしたいんですけど、トラックメーカーさんいないですかね?”と訊いて。そのメイクさんは人脈が広い方なので、すぐ“ひとり知ってるよ”と言ってくれたんです。どうやらそのトラックメイカーさんも、以前そのメイクさんの前で宇宙の話をしていたらしくて。
――へええ。すごい偶然。
Bimi:それが主にうちのトラックを作ってくれているDJ dipさんなんです。すぐにそのメイクさんとdipさんと僕の3人で焼肉に行って、宇宙の話とかスピリチュアル系の話をして。そのまま知り合いのバーに飲みに行って朝5時ぐらいまで盛り上がって――初対面とは思えないくらい、ほんといろいろな話をして。そのなかでdipさんが“1回トラック書いてみるから、ひとまずラップ乗せてみて”と言ってくれて。それでどっちかがかっこよくねえなと思ったらやめようか、という話になったんです。そしたらトラックがすぐに送られてきて、俺もその日に返して――それがデビューシングルの「Tai」なんです。
――BimiさんもDJ dipさんも“これはやばいぞ”と思われた。
Bimi:そうです。これはリリースするしかないなと思ったので、そこからは早かったですね。MVを撮るために自分で映像監督を探して、そのなかで巡り合ったBLAT WORKS FILMという九州の映像制作会社のKota Onoくんに撮ってもらいました。いろんな巡り合いですぐに「Tai」が完成して、そこからBimiというプロジェクトが走り始めたんですよね。
――Bimiさんがずっと心中でたくわえていた音楽欲が爆発して、俳優の活動のなかで出会ったメイクさんからDJ dipさんを紹介されて、その結果即座に曲ができてBimiの活動が始まった。漫画のようにドラマチックで、運命的なスタートですね。
Bimi:ふとしたきっかけからのスタートではあるんですけど、その後良い感じに転がったし、1年以上経ってさらに良い感じになってってるなと。その自覚はありますね。
――でもなぜ10代の頃から一貫してBimiさんのやりたいことが音楽だったのでしょう? 俳優としても多忙なことに加え、Bimiさんはもともと特技や趣味が多すぎるので。
Bimi:そうなんですよ、昔から器用貧乏なのがコンプレックスで。どんなこともやってみたらある程度できちゃうんです。俳優もオーディションを受けてみたら一発で合格して、それからずっとお仕事をいただけている。もちろん俳優の仕事はできる限り力を尽くしてはいるんですけど、こうしてお仕事をもらえているのは支えてくれるスタッフさんや応援してくれる皆さんのおかげなんですよね。だから僕には“自分で努力して掴み取った”という経験がないんです。でも音楽だけは、やってもやってもなかなか振り向いてくれない。ほんとに俺の好きなものだけが振り向いてくれないんです。
――いちばん好きなことだからこそ追い求めるし、追い求めれば追い求めるほど届かないことを実感するから、どんどんのめり込んでしまう。
Bimi:それがすごく楽しいんです。やっぱ人生ってたまんねえなって思いますね。器用だからできることと、努力して手に入れたものは似ているようで全然違って。やっぱり努力して手に入れたものは本物なんですよ。だからこそ自分のできることは全部磨いていきたいし、いろんな経験をしていきたい。それも全部リリックに落とし込めますしね。人間としての幅は、発信する音楽に直結すると思う。
――経験が多いと、いろいろな表現も出てきますしね。
Bimi:そうですよね。でも“いろいろな経験をしていない”というコンプレックスを抱えてる人にしか書けないリリックもあると思うんです。それがうらやましいと思っちゃう(笑)。ないものねだりなんですけどね。だからいろんな価値観を持った人とフィーチャリングをして、自分にないものを取り入れたいなとはずっと思っています。
――Bimiさんは冒頭で俳優のお仕事について“自分にないものを取り入れる”とおっしゃっていたので、いい意味で欲張りなのでしょうね。
Bimi:うん、全部知りたいんですよね。実際に経験したことでないと言えないし、発言の説得力がなくなっちゃう気がするんです。説得力のある人間でいたいんですよね。
――ラップという表現方法を選んだのも、『ヒプノシスマイク』での俳優のお仕事と通ずると思いますし。
Bimi:というのも、バンドは高校卒業のタイミングで諦めたんです。バンドマン仲間が全員就職しちゃったので、仲の良い人とやれないなら面白くないなって。俳優をやりながら音楽をやりたいと思っていたけど、その期間にバンドを組めるような人と出会えなかったんです。これは明らかに僕のコミュニティ不足でしたね。それでひとりでも歌えて、メッセージを伝えられるならラップやヒップポップかなと。でも自分の音楽は、ヒップポップでもないし、ロックでもないなと思うんですよね。
――たしかにヒップホップとロック、どちらの成分も含んでいて、枠にとらわれないアプローチではあると思います。
Bimi:青森の民謡を取り入れた曲もあるし、どれもいろんな音楽の要素を取り入れていて。どこに分類するんだろう? っていつも自分で思っちゃう。それくらい自由に好きに作らせてもらっています。自分のやりたいことをやるならバンドでなくてもいいなと思ったし、それを一緒に体現してくれる人が欲しかった。音楽で盛り上がれる場所、お客さんが素直になれる場所が作れるなら、ジャンルはなんでも良かったんですよね。いいなと思ったものは全部取り入れて、自分のものにしたいんです。
――ヒップホップにはサンプリングやフィーチャリングの文化もあるし、Bimiさんのやりたいこととの親和性も高かったのだろうなと思います。そしてやりたいことの実現のためには、ご自分と波長の合う人の存在が不可欠だったのも、バンドではなくソロプロジェクトとして始動した大きな要因になっているということですね。
Bimi:僕は厨二病をこじらせてるので(笑)、変に寂しがり屋なんですよ。音楽をやっているのも、鳥やセミが鳴いて求愛行動をするのと同じなんですよね。つながりを求めるために、寂しさを埋めるために音楽をやっているし、それがないと寂しさが埋まらない。芸術は心を豊かにしてくれるし、苛立ちや感情をコントロールするためのものだと思っているんです。同じ音楽を聴いている人間は仲間だと思うし、その仲間とエンタメな場所が作れたら、それが世界平和にもなると思うんです。生命としての自分の声に従って生きたほうがうまくいくんだよ、と社会と乖離した場所で伝えたいんですよね。
――そのメンタリティは曲にも表れていると思います。
Bimi:僕はよく“リリックが過激だ”と言われちゃうんですけど、僕のことだけに限らず“なぜこの人はこういう言葉を使うようになったのか”という経緯を見てほしいですね。そこが大事だと思うんです。奇をてらってるだけだと思われちゃうのは、僕もリリックを書く身として情けないんですけどね。それでも感じたことを音楽に乗せて、問題提起はしていきたいです。
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