【ライブレポート】NUL.、アルバム『EVILA』を掲げた全国ツアースタート
6月中旬、<LIVE TOUR 2022 "EVILA”>の限定ヴィジュアルがTwitter、オフィシャル・ウェブサイトで公開された。“3人のNUL.が5人体制に?”──そんな勘違いをした人も中にはいたかもしれないが、それは早合点というもの。つまりは、HIZUMI(Vo)、MASATO(G)、岸利至(Prog)のメンバー3人に加え、ベースのKOHTA(B/Angelo)、石井悠也(Dr)が加わった5人体制で全国ツアーを行う、という発表に伴って撮影されたものなのだ。
そんなトピックを省いても、ここまで大々的な全国ツアーはNUL.にとって実は初めて。ライヴへの期待度の高さは、チケット発売からほどなくソールドアウトする会場が続出するという状況が示すとおりである。しかも8月20日、ツアー初日の渋谷Guiltyでのライヴはニューアルバム『EVILA』の発売前夜とあって、文字で表現しがたい緊張感に包まれていた。というのもライヴの先行物販で手に入れて持参したCDプレーヤーで聴いたところで、物理的な問題で予習レベルには到底及ぶわけもなく、知っているのはこれまでに発表されてる数曲プラス、ラジオ等でオンエアされた数曲のみという状況でのライヴだったから。
ちょっと乱暴な気もするが、NUL.に弄ばれることをよしとするファンがいたのも事実であり、そういったオーディエンスの反応がブーメランとなり自分の元へと返ってくることはメンバーも承知の上だったはずだ。
◆ライブ写真
ライヴが始まる前はいつだって会場には期待と高揚感が渦巻いている。だけど今夜は特別。というのはアルバム発売前夜ゆえ、触れたことのない新曲満載のメニューになることは容易に予想されるからだ。
先日、オフィシャルYouTubeチャンネルで公開された2ndアルバム『EVILA』のタイトル曲「EVILA」のミュージックビデオを繰り返し観て会場へ来た人もいるだろう。あるいはラジオでオンエアされた数曲を手がかりにアルバムに想いを馳せつつ、新曲を身体全体で浴びてやると意気込んで足を運んだ人もいたかもしれない。恐らく大方のファンが予想したとおり、ライヴのオープニングを飾ったのはアルバム同様、「EVILA」だった。そして続々と『EVILA』の曲が演奏されていく──しかし、ここではセットリストに沿って事細かにリポートするのは差し控えておこう。何しろ本ツアーは幕を開けたばかり、争奪戦で勝ち取ったチケットを握りしめてる人たちの楽しみを奪うのはナンセンスではないかと思うから。そんな配慮をしつつ、印象的なシーンを断片的にお伝えしよう。
前半戦に演奏されたバンド色の強いスリリングなナンバー「ジル」ではオーディエンスは自然に身体を揺らし、拳を上げて大盛り上がり。その反応は期待どおりとメンバーは心の中でにんまりしていたことだろう。ツアー前、HIZUMIにインタビューした時に「これ、絶対ライヴで盛り上がりますよね」と笑顔で言っていたとおりの光景が目の前に広がったのだから。この手の8ビートの曲は、音楽の感度がいいNUL.ファンにしてみれば余裕でノレちゃうよ、といったところか。ただ、気をつけなければいけないのは、随所に仕掛けられているトラップ。そういった部分でお客さんたちのノリが散けてしまうのも、アルバム発売前夜ならではの光景だ。そんな客席を観てメンバーは心の中で、ほくそ笑んで楽しんでいたのかも。その他の真っ新の曲の演奏では手探りしつつ、2コーラス目では曲に合わせて身体を動かして拳を上げて、というのが見受けられた。
また本ツアーで注目を集めていたことのひとつに、今年1月にAngeloが無期限活動休止になって以降、7か月ぶりにステージに立つKOHTAの存在がある。サポートという立ち位置を十分に理解して、寡黙にアンサンブルの土台を支える姿勢はある意味KOHTAらしいプレイスタイルだが、「From deep underground」の、ここぞ!のポイントではポーン!とステージ前面に出てきたのだ。それがわりとライヴ前半戦だっただけに、ファンも一気にテンションマックス。もし声出しOKのライヴだったのなら、演奏中でもワーッ!とかキャー!とか歓声が起こっていたのは間違いない。
それと、レコーディングでも参加している「死遊の天秤」、アルバムのラスト曲「SUNBREAK」でのMASATOとKOHTAの息が合ったユニゾンも見どころのひとつ。時に2人が向かい合いアイコンタクトしながらオクターブ違いの同じ音譜をなぞっていくシーンが要所要所であるのも、本ツアーのハイライトといえそう。同じ時代、同じシーンで鎬を削ったバンドマン同士が時を経て一緒に音を奏でる姿は微笑ましくもあり、ちょっと胸が熱くなったりもする。
以前も幾度かNUL.のサポートをしているドラムの石井悠也。実はアルバムのレコーディングに参加していることもあり、そのプレーをライヴでしっかり観て味わう、といった楽しみ方もできる。ただ、音源すべてに生ドラムが入っているわけではないから、生ドラムとNUL.のデジタルサウンドがステージ上で、どう融合し、どんな化学変化が起こるのか? 石井悠也の持つドラムのキャラクターと申し分ないテクニックで4人を引っ張って行く様も注目したいところ。
そして、すべてのサウンドを統括する岸利至も新しい側面を見せている。シャッフルの「GREEDY BLOOD FEUD」ではスティックでパットを叩くという華やかでアクティヴなパフォーマンスなど、そんな岸の動きにノせられてファンも新曲というハードルをなんなく飛び越えて思い切り楽しんでいたのは天晴れとしかいいようがない。
さらに心静かに聴き入っていただきたいのが「灯願華」のイントロのフレーズ。音数の少ないこの曲では、HIZUMIの消えてなくなりそうな柔らかで優しくて物悲しい唄は、岸の生み出す温もりのあるカウンターメロディによって、よりドラマティックに展開していく。そして曲始まりから終盤へ向けての盛り上がり、1曲中でのダイナミクスはぜひ生で感じていただきたいものだ。
音源をしっかり聴き込み、身体の染み込ませてライヴに臨むファンにも新たな発見は必ずやある。そう断言できるのは、この曲のこの音は打ち込みなのか? MASATOのギターなのか? 音源だけでは判断しにくい音、実際のプレーをライヴで観て答え合わせできる部分がいくつもあるからだ。
ツアーに先立ってインタビューを行ってる筆者は『EVILA』を繰り返し聴いてライヴを観たのだが、それでも、この音はMASATOのギターだったんだ、と改めて気づかされる箇所がいくつもあった。その1つが「Noname SPECter」の間奏部分の奇妙な音。長年、MASATOを追ってるファンですら見抜けないかもしれない。それもそのはず、本作で彼は新しい機材を幾つも導入しているからなのだ。当然、これまで聞き覚えのあるMASATOのギタープレーを手がかりに『EVILA』を読み解けるわけがない。
今までにないサウンド、プレーに挑み、新たな試みが詰め込まれている本作を聴いてライヴへ行く前にあれこれ考えを巡らせつつ、実際のプレーで確認する、そんなライヴの見方もあり。マニアックな話になるが、ギターや機材に詳しい人は帰り際、ステージ上のMASATO足元機材チェックもお忘れなく。
「こんばんは、NUL.です。アルバム、やっと完成しました。まだそんなに聴けてない状態だと思うのでノリもわからないと思うから、好きなメンバーがノッてるのと同じような感じでノッてもらえたら楽しめると思います。全力で楽しんでいってください。俺らも全力で楽しむんで。よろしく!」
そうライヴMCの第一声でアルバム完成の喜びをストレートに言い放ったHIZUMI。アルバム『EVILA』を制作することで、10数年もの間、ずっと抱えてきたモヤモヤが昇華されたそうだ。“生と死”という重いテーマを掲げて書き上げた歌詞、それを表現するために1曲1曲、唄い方を変えた本作、中でも筆者が極めて新しさを感じたのは「灯願華」の今にも消えそうな繊細な唄声だ。声を張り上げ叫ぶ曲も並ぶセット・リスト中、耳目を集めることは間違いないだろう。そういったHIZUMIの新境地といえるこの唄が、ライヴのどこで聴けるのか? ライヴの流れの中で、どんな役割を果たしてくれるのか? その瞬間を心のどこかで待ち構えていてほしい。
また、今さら?と言われそうだが、本作で、あらためて無機質なデジタルサウンドとHIZUMIの声質の相性のよさに気づかされる。曲目が重複するが例えば「EVILA」のサビの部分のロングトーン。デジタルサウンドが一世を風靡した80年代洋楽を彷彿させるのだ。NUL.をスタートさせた頃の唄声よりも、より伸びやかなのはステージからも十分感じられる。そんな彼の成長は、いろんな唄い方に挑戦したことでもみてとれるし、ヴォーカリストとしてひと周り大きくなったことは、ニアリーイコール、NUL.の成長にも繋がっていると言えなくはない。
これまで幾度となくライヴで観てきた「BLACK SWAN」も、またちょうど3年前、NUL.が動き出した一発目の曲「XStream」も、今夜はパワーアップした演奏で体感できた気がする。
新曲においては、ライヴ前にアルバムを聴いてイメージされた世界観が、より立体的なものとなり、ライヴを観る人たちを包み込んでくれる。クールで無機質なデジタルサウンドに秘められた熱がステージ越しにダイレクトに伝わってくる。
難しいことは抜きにして。とにかく、NUL.の3人にKOHTA、石井悠也を加えた5人の音が化学反応を起こしている瞬間を肌で感じ取り、メンバーのプレーにただただ身を委ねればいい。妙に身構えることなく自由に楽しむ、それこそライヴの醍醐味なんだ、と教えてもらったライヴでもあった。
最後になるが、サポートのKOHTAとHIZUMIは長年に渡って親密な交流があるゆえ、ステージ上でのやりとりにも期待してよさそうだ。ちなみに、渋谷Guiltyでは、KOHTAがNUL.ファンを思いつき(いや、考えてきたのかも)で“ヌラー”と呼びはじめ、HIZUMIが「KOHTAさん、なんかそれ、ヌメッとしてませんか?」と突っ込みを入れるシーンもあった。“ヌラー”発言に関しては、多くのお客さんから“ヤダー”と拒否反応を示していたことも付け加えておこう(笑)。今後のツアーで、ヌラーという呼称は定着するのか? はたまた、あえなく却下されて、ヌラーという言葉すら幻のごとく消え去ってしまうのか? KOHTA発案の呼称の行く末も静に見守っていきたいところだ。
とにかく。サポートにKOHTA、石井悠也を迎えて行われる<LIVE TOUR 2022 “EVILA”>は見どころ満載。1本1本、ライヴを積み重ねるにつれ、5人が生み出す音のグルーヴ感が増していくのは間違いない。コロナ禍というご時世もあり、ヌルッと活動3周年を迎え、4年目に突入したNUL.の今を、アルバム『EVILA』とライヴでぜひ体感してほしい。
取材・文◎増渕公子[333music]
写真◎@Lc5_Aki
<LIVE TOUR 2022 “EVILA" >
8月20日(土)渋谷Guilty (終了)
8月27日(土)名古屋Heart Land(Sold Out)
9月04日(日)仙台Space Zero(Sold Out)
9月10日(土)大阪RUIDO
9月11日(日)姫路Beta(Sold Out)
10月1日(土)横浜Bronth
◆NUL. オフィシャルサイト
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