【コラム】あの日の記憶を呼び覚ます、『十五少女』が描く世界
“大人になる瞬間があるって信じてるのは、子供だけだ。”
架空都市で生きる15人の少女の成長を描くサイバーパンク・ジュブナイル『十五少女』。2021年4月1日に本格始動した本プロジェクトは、エイベックス、講談社、大日本印刷(DNP)の3社からなる合同チーム・子供都市構想によって運営されている。音楽と音声ドラマをエイベックスが、15人の少女の物語を描いた小説/漫画を講談社が、そして、ミュージックビデオやショートアニメなどの映像や、バーチャルライヴを行なうための仮想空間(メタバース)の制作をDNPがそれぞれ担当。音楽(=可聴化)、物語(=可読化)、仮想空間(=可視化)の3つを掛け合わせたメディアミックス展開をしていくというプロジェクトなのだが、その構築された世界観に、とにかく驚かされる。
主人公である15人の少女が暮らしているのは、“彼方の世界(あちらのせかい)”と呼ばれているパラレルワールドで(我々が暮らしている世界は、作中では“此方のセカイ(こちらのせかい)”と呼ばれている)、その世界では避けて通れないひとつの決まり事がある。それは、“彼方の世界”で生きるすべての子供達は、12〜19歳の間──つまり20歳を迎える前に、“子供都市行きのバス”に乗らなくてはならないということ。子供達を迎えにくる“大人バス”は、毎年8月31日にやってくることだけは知らされているのだが、自分が何歳の時にバスがやってくるのか、本人に知らされることはない。『十五少女』は、大人バス“火具鎚十二号”に乗り込んだ、年齢も生い立ちも異なる15人の少女が、大人になるために今を犠牲にしていく旅路を描いた物語だ。彼女達はその道中で何を思い、大人になっていくのか。そして、大人バスの最終目的地である“子供都市”は、はたしてどんな場所なのか。それらはすべて、謎のベールに包まれている。
メディアミックスプロジェクトでもある『十五少女』には、各界で注目を集めているクリエイターが集結しているところも大きな魅力のひとつだ。『十五少女』が暮らす彼方の世界観は“サイバーパンク・ジュブナイル”と謳われている通り、テクノロジーが過剰なまでに発達した、美しくもどこか退廃的なヴィジュアルで描かれている。キャラクターデザインを担当したのは、AdoやEve、キズナアイを始めとした様々なコラボレーションで熱い視線を注がれている、ケイゴイノウエ。グラフィックデザインは、近未来的なアプローチとヒップホップのグラフティを組み合わせた作品が好評なゆうたONEが務めている。国内外から注目を集める2人のクリエイターがタッグを組んだのは、この『十五少女』が初とのことだ。
また、物語面については、現在、講談社が運営する文芸ニュースサイト「tree」にて、小説の無料掲載がスタート。各登場人物が、大人バス“火具鎚十二号”に乗車するまでの前日譚が公開されているのだが、執筆したのは『ルヴォワール』シリーズや、『Fate/Grand Order』のゲストシナリオライターも務める円居 挽と、『毎年、記憶を失う彼女の救いかた』で第54回メフィスト賞を受賞した望月拓海の2人。現在、小説では4人の登場キャラクターの生い立ちが明らかにされている。
そして、音楽面について。プロジェクトの本格始動と同時に発表された「逃避行」を皮切りに、続々と関連楽曲を発表。死をテーマに掲げ、全6曲を約26分間ノンストップで駆け抜けるシネマティックな1stEP『HATED』から約1年。配信楽曲を挟みながら、8月10日に2ndEP『ASTRONOTES』がリリースされた。本作は、前述の前日譚小説のテーマソング集になっており、収録全6曲の楽曲制作およびプロデュースを、ボカロPのichikaが手がけている。
『ASTRONOTES』は、心にぽっかりと広がる孤独の宇宙を漂うように少女達が歌う「漂流」から幕を開けると、そこからはエモやギターロックを土台にした、パワフルで、胸を強く締め付けられる感傷的なバンドサウンドが、少女達の過去の記憶や傷を抉るようにかき鳴らされ続ける。そして、それは“此方のセカイ”に住む我々にとっても、蒼い感情に直撃するものであり、遠いあの日の記憶を呼び覚ますようなものにもなっている。
たとえば、“舵を切ればいい 簡単なことだなんて 誰かは言うけど 声は届かない”という「アトム」の歌い出しは、人の気持ちも考えずに一方的に相手の意見を押しつけられて気持ちが沈むあの感覚が湧き上がってくる。この曲は前日譚小説「竹虎レオナの場合」「猿飼サキの場合」のテーマソング。どちらの物語にも中心にあるのは、いじめ問題。主人公は各々の現状に葛藤を抱きながらも、いじめの元凶に復讐を果たしていく様が描かれているのだが、そんな彼女達の心情と、エモーショナルなサウンドが凄まじいシンクロ率を見せている。また、EPを締め括る「Eureka」は、前日譚小説「秋子エミと秋子ナミの場合」のテーマ曲。タイトルの「Eureka」は、何かを発見した時に使う感嘆詞で、“私は見つけたぞ”という意があるのだが、親に愛されずに育った双子の歪な愛情と、幸せになるために見出した“ひとつの答え”を、3拍子で叩きつけるかのように繰り広げられる。
楽曲によって、歌唱に参加しているキャラクターが異なるのだが、中盤に据えられた「アッシュ」には、15人の少女が全員登場。疾走していくバンドサウンドに刻み込まれた“大人になったら 今が終わったら 忘れて往くのだろうか”という歌詞は、本作『ASTRONOTES』であり、ひいては『十五少女』という物語の核ともいえるフレーズかもしれない。漂う諦念感と、その中でも埋もれることなく鈍く光る祈りが交錯する言葉達が、目まぐるしく入れ変わっていく15人の歌声で表現されている。尚、各キャラクターを演じるCVはすでに発表されており、佐藤日向、芹澤優、富田美憂、前田佳織里、Machicoなど錚々たる顔ぶれが並んでいるが、歌唱担当は現在未公表。こちらはいずれ発表されることになるだろう。
ここからさらなる展開を見せていく『十五少女』だが、運営元である子供都市構想の発表によると、火具鎚十二号に搭乗した15人の少女の旅は、すでに終了しているとのこと。一体どういうことなのかと首をかしげてしまうかもしれないが、ここが『十五少女』の肝でもある。
『十五少女』というプロジェクトは、“彼方の世界”に実在する15人の少女(=15SJ)の記憶を、彼女達のアバター(=仮想少女)が再現し、それを“此方のセカイ”で暮らす我々が目撃するという構造が取られている。それもあって、このプロジェクトのファンネームは、“傍観者”。運営は、最終目的として掲げている「火具鎚十二号の全旅程」のアニメーション化を実現すべく、“傍観者”の反応を日々数値化/計測しながら、様々なコンテンツが生み出されていくことになっている。
現在は年内にVRライヴの開催を予定しているとのことで、今後はXR技術を活用したエンターテイメントとして広がりを見せていく場面もあれば、謎に満ちた物語が進んでいくにつれて、傍観者による考察合戦が白熱していくこともあるかもしれない。それでいて、EP『ASTRONOTES』や、前日譚小説で描かれているような“彼方の世界”で生きる少女達の物語であり心情は、同世代の少年少女はもちろん、モラトリアム期間をとうに終えた大人達にも強く訴えかけてくるものが、確実にあると思う。
果てしなく広く、どこまでも深い世界を持ちながらも、我々の心情に限りなく近い『十五少女』プロジェクト。その可能性はいまだ未知数だ。
文◎山口哲夫
New EP「ASTRONOTES」
DL/Streaming:https://15shoujo.lnk.to/ASTRONOTES
01. 漂流
02. Alien
03. アトム
04. アッシュ
05. 春とレム
06. Eureka
現在進行形のキミ/過去完了形のキミ/全ての若者へ捧ぐ惨歌。
人生でたった一度の最後の夏--その感傷を描く。
大人になり切れないでいる自分だけが、
周囲から取り残されていくような感覚でいる主人公。
それは、いつか(或いはかつて)の僕だ。
前日譚小説
現実と虚構。
セカイとあなた。
十五少女の大人バス乗車前夜。
作:
円居挽 /「ルヴォワール」「キングレオ」シリーズ
望月拓海 /「毎年、記憶を失う彼女の救いかた」など
https://tree-novel.com/works/96b8b411b4810f421a503bb4ac16a8f7.html
◆十五少女 オフィシャルサイト
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