【コラム】米津玄師、映画『シン・ウルトラマン』主題歌「M八七」はなぜ人々の心の琴線に触れたのか

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米津玄師(よねづけんし)が手がけた、映画『シン・ウルトラマン』主題歌「M八七」(エムハチジュウナナ)が、ロングヒットを記録している。舞台は、禍威獣(カイジュウ)と呼ばれる謎の巨大生物が現れ、そんな存在が日常となった日本。ウルトラマンの世界観を現代に置き換えてリプロダクションしたのが本作だ。すでに、映画『シン・ウルトラマン』は興収40億円を突破し、大ヒットを記録している。来場者も、当時のテレビ放送を知る50代から最新シリーズに馴染みの深い10代まで、幅広い世代が鑑賞している。結果、SNS上でも独自の考察などが話題に上がり続け、主題歌「M八七」は再生回数増となるなど、大ヒット中の映画との相乗効果が生かされた展開をみせている。

映画がヒットした背景には、ウルトラマンという日本を代表するポップアイコンによる昭和カルチャーへの羨望、そして令和時代に寄り添った最新テクノロジーによる再構築というテーマがある。数字が伸び続けているのは、昨今、昭和カルチャーや平成カルチャーに憧れるムーブメント、新鮮なる懐かしさ=ニュートロといった現象に注目が集まる社会背景も無視できないだろう。

特撮テレビドラマ『ウルトラマン』の初回放送は1966年7月17日だった。そんな時代に、創意工夫を凝らしてアナログな技術をフル回転して作ったのだから恐れ入る。特撮ヒーローものではあったが、しかしながらその物語性は、決して子供騙しではなかった。大人が見ても納得できる勧善懲悪だけではない作家性。『ウルトラマン』の実質的美術監督としてウルトラマンをデザインした成田亨による、怪獣=混沌、ウルトラマン=秩序といった着想から、仏像の古式微笑にも通ずる、ギリシア彫刻のアルカイック・スマイルから発想を得たウルトラマンの造形や、怪獣・メカなどデザインの独創性とその魅力。そんな作品を『エヴァンゲリオン』シリーズの庵野秀明、平成『ガメラ』シリーズを手がけた樋口真嗣という、『シン・ゴジラ』のタッグらが手がけたらどうなるのか?

そんな“if:もしも”な企画から誕生したのが、映画『シン・ウルトラマン』であり、主題歌に起用されたのが米津玄師「M八七」である。

テレビ放送時、『ウルトラマン』の主題歌といえば、勇ましいリズムが印象的なオリジナル楽曲「ウルトラマンの歌」を思い出す方は多いはずだ。しかし『シン・ウルトラマン』では、新たな物語への継承のアイコンとして米津玄師が抜擢された。

▲「M八七」

ここ10年、低迷した日本の音楽シーンを孤軍奮闘、塗り替えたチェンジメーカーが米津玄師だ。そんな孤独の戦いは、ウルトラマンの活躍にも重なってみえる。

米津玄師の歌唱、メッセージからは、劇中、多くは語らないウルトラマンの心情が聞こえてきた。地球へ降り立った際、逃げ遅れた子供を助けるために命を捧げた主人公、防災庁・禍威獣特設対策室(略称:禍特対(カトクタイ))に所属する神永新二のために自らの命を与えたウルトラマン。

結果、ウルトラマンと神永新二は一心同体。バディとなった。“輝く星は言う 木の葉の向こうから 君はただ見つめる 未来を想いながら”という歌詞フレーズから、悲しみや怒りを感じながらも自らの手で明るい未来を手に入れる決意、大切なもの=地球を守るという真っ直ぐな想いが伝わってくる。なにより、米津作品において新境地ともいえる歌声の力強さが圧巻だ。米津玄師は、本作「M八七」のジャケットも自身で描いている。前述した成田亨による、カラータイマー無しヴァージョンの作画をオマージュしたイラスト作品だ。

そもそもウルトラマンは、56年間にわたって受け継がれてきた日本を代表するポップカルチャーである。しかも、怪獣を退治するのみならず、怪獣にも存在意義を与え、ただただ倒すのみならず助ける、といった概念をも作品に与えたのがウルトラマン・シリーズの凄みだ。

「M八七」で歌われる歌詞は、自問自答、そしてウルトラマンと人間との会話のようにも聞こえる。

“君が望むなら それは強く答えてくれるのだ
今は全てに恐れるな痛みを知る ただ一人であれ(米津玄師『M八七』より)“


映画のラストシーン。「M八七」の歌詞が解き放つ、ふたりの別れを描いた感情は、人類を守り、困難へと立ち向かう様に共感するウルトラマンを愛する世代へと届いた。皮肉や風刺が通じづらいと言われる現代。米津玄師は、ストレートに力強い歌として届けることを選択したのだ。



心の奥底からエネルギーを湧き起こす力強い歌声とサウンド。壮大なストリングスが冴え渡るアレンジメント、転調するドラマティックな楽曲展開、泣きのコード進行、サビでの攻めたエモーショナルなヴォーカリゼ―ションは、映画とのシンクロ率を増幅する機能となった。劇中、人間ではないが人間として生活を続けてきたウルトラマンの孤独な戦い。多くを語らないウルトラマン。そんな、なんとも言えない内面の機微を米津玄師は「M八七」にて力強い歌詞で描ききった。米津玄師が、表現したテーマは孤独だった。ウルトラマンが抱えていた途方もない重圧を、米津玄師はまっすぐな言葉で解放したのだ。

結果、「M八七」に込められたタイトルの意味や経緯、パッケージで表現された米津玄師の手によるウルトラマンのイラスト。そして、人間として潜伏し、禍威獣へと立ち向かったウルトラマンの孤独の本質を歌詞で言い表すなど、映画作品や時代背景などへの理解度の深さが、コアなウルトラマン・ファンからも評価を得た。こうして、日本を代表するポップカルチャー、トップ同士の奇跡のコラボレーションによって語り継がれるべき傑作「M八七」は誕生したのだ。

文◎ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

■シングル「M八七」

発売中

【ウルトラ盤 初回限定 (CD+レーザーカプセル+リフレクターケース)】SECL2758-9 ¥2,200(税込)
【映像盤 初回限定 (CD+DVD+シルバーデジパック)】SECL2760-1 ¥1,980(税込)
【通常盤 初回限定 (CD+紙ジャケ)】SECL2762 ¥1,210(税込)
▼CD収録楽曲
1. M八七 ※映画『シン・ウルトラマン』主題歌
2. POP SONG ※PlayStation(R)CM曲
3. ETA
▼DVD収録内容 (映像盤のみ)
1. POP SONG Music Video
2. POP SONG Music Video (Sound Effect)
3. POP SONG 8bit Teaser
4. Pale Blue Music Video
5. 死神 Music Video

■法人特典:M八七 ミラーステッカー
※特典は各店舗共通で先着となります。数に限りがあります。ECの場合は「特典あり」の商品を選択ください。

映画『シン・ウルトラマン』

大ヒット上映中

出演:斎藤 工 長澤まさみ 有岡大貴 早見あかり 田中哲司 / 西島秀俊
   山本耕史 岩松 了 嶋田久作 益岡 徹 長塚圭史 山崎 一 和田聰宏
企画・脚本:庵野秀明
監督:樋口真嗣
音楽:鷺巣詩郎
主題歌:「M八七」米津玄師
製作:円谷プロダクション 東宝 カラー
制作プロダクション:TOHOスタジオ シネバザール
配給:東宝
公式サイト:shin-ultraman.jp
公式Twitter:@shin_ultraman

■<米津玄師 2022 TOUR / 変身>

09月23日(金・祝) 東京・東京体育館
09月24日(土) 東京・東京体育館
open15:30 / start17:00
10月04日(火) 大阪・大阪城ホール
10月05日(水) 大阪・大阪城ホール
open16:30 / start18:00
10月08日(土) 兵庫・神戸ワールド記念ホール
10月09日(日) 兵庫・神戸ワールド記念ホール
open15:30 / start17:00
10月18日(火) 愛知・日本ガイシホール
10月19日(水) 愛知・日本ガイシホール
open16:30 / start18:00
10月26日(水) 埼玉・さいたまスーパーアリーナ
10月27日(木) 埼玉・さいたまスーパーアリーナ
open16:30 / start18:00
▼チケット
・指定席 ¥8,800(税込)
・ファミリー席 ¥8,800(税込) / お子さま(3歳~15歳) ¥6,600(税込)

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