【インタビュー】磯山純、音楽プロデューサー小倉良との親密な共同作業で生まれた最新曲「幸せな何かと聞かれたら/MITO!」
意外に思える組み合わせだからこそ、そこから生まれる音楽は特別な輝きを持ってリスナーを魅了する。茨城県水戸市在住、地元に根付いた音楽家として人気フェス<I.S.O.FES.>を立ち上げるなど、精力的に活躍するシンガーソングライター磯山純。90年代の松田聖子の大ヒット「あなたに逢いたくて~Missing You~」をはじめ、多くのヒット曲を手掛けてきた音楽プロデューサー小倉良。共に茨城県出身という縁で知り合い、親密な共同作業を重ねてきた二人が送り出す最新曲が、磯山純のニューシングル「幸せな何かと聞かれたら/MITO!」に収められた2曲だ。出会いについて、楽曲について、ライブについて、そして未来の展望について。いつも作業しているという小倉良の自宅スタジオを舞台に、なごやかな語り口の中に真摯なメッセージを込めた、二人のトークに耳を傾けよう。
■「いつか水戸でフェスをやるんで来てください」と
■車の中で寝泊まりしながら全国を回りました
――お二人は、いつぐらいからのお付き合いですか。
磯山純(以下、磯山):3年ぐらい経ちますね。
小倉良(以下、小倉):私が茨城放送の番組をやっているんですよ。それで知り合ったんです。
磯山:最初に番組のディレクターさんが小倉さんに、「茨城で歌っている子をゲストに呼んでもいいですか」と言ってくださって、その方が僕のディレクターさんに話を伝えて、「小倉さんが来てくれって言ってるよ」と言われたんですけど、「それ、本当に僕のことですか?」と(笑)。ドアを開けて小倉さんに会うまで、本当に僕なのかな?と思っていました。
小倉:ここ(東京・自宅スタジオ)で番組を録っているので、「東京まで来てくれますか」と言ったら来てくれたんです。それで、「今度一緒に作ってみる?」という話になった。
磯山:とんとん拍子でした。当時僕は、自分のバンドのバンマスを探していたんです。そういう話を小倉さんにさせていただいたら、「いいよ」と言ってくださって、「じゃあ一緒に曲作る?」「ぜひぜひ」「じゃあアルバムも作っちゃおうか」みたいなことになって、その日のうちに決まりました。
――小倉さんが、彼の書いた曲、歌声を聴いた第一印象は?
小倉:「ああ、こういう音楽をやってるのね」っていう感じですね。でも自分が(プロデュースを)やるなら、自分の感じが入らないとつまらないから、「こういうふうにしてもいいなら、やってみる?」みたいな感じです。
磯山:持って行った楽曲に関して、「ここはもっとこうしたほうがいいんじゃないか」とか、たくさん言われました。
小倉:厳しくダメ出しはしましたよ。1枚目のアルバム(2020年『heartport』)はそうでもないかな。でも「2枚目(2021年『Sing for you』)をやるんだったら、もっと頑張ろうか」と言って、けっこう厳しくやりましたね。
磯山:怒られてるわけではないんですけど。たとえば歌詞も、僕の中では何回もブラッシュアップして、小倉さんにも送ってるんですけど、いざレコーディングでスタジオに着いてから「ここの歌詞だけどさ」って、当日に言われるわけですよ。
小倉:メロディもね。プロデューサーによって正解は何個もあるんだけど、自分がやる以上は自分のやり方でないと意味がないというか、それをやれるかどうかが大事なので。いつも言ってるんだけど、「プロフェッショナルとやるのはそういうことだ」と。「エルメスに行って、グッチみたいなデザインが欲しいとは言わないだろう」と。それは言いましたね。
――それまでって、プロデューサー的立場の方はいらっしゃったんですか。
磯山:もともと二人組でやっていた時には、やってくださる方がいました。小倉さんのプロデュースもされていた、木崎賢治さんという方です。
小倉:木崎さんを知ってるって言われて、びっくりしちゃった。
▲磯山純
――磯山さんにとって小倉さんはどういうタイプのプロデューサーですか。
磯山:僕の勝手な感じ方ですけど、小倉さんはより「音楽な感じ」がしています。歌詞の物語がどうこうというよりは、ミュージックの面が強い方だと思います。
――これまで共同作業で2枚のアルバムを作って、どんな進歩を感じていますか。
磯山:自分で言うことではないですけど、「歌がうまくなったね」とお客さんに言われることが増えました。そう思ってもらえるのはうれしいです。
小倉:もちろん、やったぶんだけ成長していると思いますよ。でもこういうものって、永遠にやらなきゃいけないので終わりはないんです。これからも、どんどん成長してもらいたいなと思います。
▲「幸せは何かと聞かれたら / MITO!」
――そして今回シングルリリースされる2曲も、小倉さんの全面プロデュースですね。しかもそのうち1曲は、小倉さんの作詞作曲という。
磯山:「MITO!」という曲ですね。
小倉:あれはね、ミュージシャン特有のおふざけと言いますか、ある意味、ミュージシャンはみんな好きなんですよ。ふざけてるけど音楽は真面目にやっている、それを一回やってみたらいいんじゃないかな?と思ったので。
磯山:もともと毎週、今は隔週、このスタジオでYouTubeの番組を撮らせていただいてるんですけど、そこで小倉さんが「次はオリジナル曲をやってみよう」と言ってくださって、「曲を作ったから歌ってみないか」と。一番だけできている「MITO!」を歌って、せっかくだから形に残そうということで、フルコーラスで作っていただきました。
――「MITO!」は、最初のほうを聴くと、「あれっ、演歌かな?」と。
小倉:わざとやってるんです(笑)。そこが楽しいんです。なんだこれ?と思って、でもかっこいいのがいいんです。「ダフトパンクよりかっこいいぜ」みたいなね。
▲小倉良
――確かに、曲調ががらりと変わって後半のファンキーな部分は、ダフトパンクと張り合ってますね(笑)。
小倉:「MITO!」は、けっこう悩んだんです。茨城ロボッツ(B.LEAGUE)や水戸ホーリーホック(Jリーグ)など、歌詞にチーム名を出しちゃっているから、文句言われたらどうしようかなと。でも、すぐに確かめてもらったら、水戸の人が水戸を応援する歌だから、二つとも「全然OKです」と言ってくれました。
磯山:僕は茨城ロボッツの応援歌も歌っているので、オーナーさんに連絡させていただいて、聴いていただいたらすぐに返事をくれて、「応援してくれてありがとう」ということだったので。ホーリーホックの広報の方にもご連絡させていただいて、「名前を出していただいてありがとうございます」ということでした。
小倉:良かった。でもそうだよね、ドルチェ&ガッバーナが許されるんだから(笑)。
磯山:ジャンルが違いますけどね(笑)。
小倉:真面目にふざけている、とてもミュージシャン的な歌だと思います。しかも「MITO!」って、磯山くんにしか出せない曲でしょう。神奈川県の人が出す意味はないし。
磯山:そうですね、僕は「水戸の魅力宣伝部長」というものをやらせてもらっているので。もともと二人組で音楽活動をしていて、解散して一度音楽を離れた僕が、もう一回やろうと思ったのは、震災があって茨城が大きな被害を受けたことがきっかけなんです。僕らが高校生の頃は水戸の街に人が溢れていて、友達もできたし、お店の方々と仲良くなることもできたんですよ。それがどんどんなくなって、駐車場ばかりが増えて行って。大型ショッピングセンターができたりもしましたけど、水戸の街に人が来ない状況になっているなと思って、もう一回水戸で、音楽で頑張ろうと思ったんです。
小倉:大変だよね。
磯山:茨城、水戸の観光パンフレットとCDを持って、「いつか水戸でフェスをやるんで来てください」と言いながら、全国を回りました。車の中で寝泊まりしながら。
小倉:偉いよね。なかなかできることじゃない。
――それがのちに<I.S.O.FES.(イソフェス/茨城総合物産音楽フェスティバル)>へとつながっていく。
磯山:そうです。県外の人が茨城に行く動機を作るために、地元の産業やお店を紹介するようなフェスにしたいと思って、まずはそこから始めました。茨城の食と音楽の総合物産展ということで始めたのが<I.S.O.FES.>です。
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