【インタビュー】アリーナ・ジュジンスカ、「今まで学んできたことを凝縮したもので、私の楽器と個人的なつながりが最大限に発揮された作品」
BBE Musicから9月にアルバム『Reflections』をリリースするハープ奏者で、作曲家であるポーランド人の新鋭アリーナ・ジュジンスカ。自身のグループ、ヒップハープコレクティヴと共に彼女は、ハープを奏でながら多層なエフェクトとエレクトロニクスを駆使し、独特なサウンドを創造するアーティストであり、歴代のジャズ、ファンクとヒップホップ界の革新者たちに敬意を払おうと試み、自身が書き下ろすオリジナル作品と名曲のカバーを演奏している。
『Reflections』は、オリジナル楽曲と平行に彼女自身が多大に影響を受けた、ハープの演奏でジャズ史にその名を刻んだ先駆的な作曲家と、ハープ奏者であるドロシー・アシュビーが元々残した本題の「Soul Vibrations」なども含む作品の幾つかのカバーを隣り合わせた作品だ。
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■ハープの金色の柱と弦がとても美しく
■その瞬間、無我夢中になった
──あなたの出身地を教えてください。
アリーナ・ジュジンスカ(以下、アリーナ) 私は西ウクライナの、美しい歴史のある都市リヴィウにポーランド人とウクライナ人の家庭に生まれました。
──あなたは子供時代はどんな子供でしたか?
アリーナ 私はとても活発で好奇心旺盛な子で、幼い頃から演奏することが好きでした。幸運なことに、5歳のときに母親が私にピアノを教え始めたんです。それに演技やダンス、絵を描くことも好きだった。でも芸術が好きだったにもかかわらず、家を出て、友達とバドミントンやバスケットボール、フットサルをするためなら何でもしていました。
──初めて触れた音楽や楽器は?
アリーナ ポーランドとウクライナの文化では、“歌を歌う”という伝統が根強く存在します。それは私たちの遺伝子の中にあって、誰もが音楽を愛しています。私は祖母や家族、友人からたくさんの歌を聴いて育ち、学んできました。また私の父は素晴らしいテノール歌手であり、軍人であったにもかかわらず、家や家族の集まりでよく歌っていましたね。
──影響を受けたアーティストはいますか?
アリーナ 最初の音楽的なインスピレーションは、バッハやモーツァルトなどのクラシック音楽界の巨匠と、レッド・ツェッペリン、クイーン、ピンク・フロイドなどのロックですね。その後にビリー・ホリデイ、ニーナ・シモン、フランク・シナトラといったジャズ・シンガーに出会い、ポーランドのワルシャワに留学してからはコンテンポラリー・クラシック音楽界のポーランド人の作曲家ヴィトルト・ルトスワフスキやヘンリク・グレツキが大好きになり、またジャズをたくさん聴くようになりました。特にアリス・コルトレーンやジョン・コルトレーンの音楽はとても刺激的で、深く勉強するようにもなりました。聴きこんでいるアーティストはたくさんいて、自分用のミックステープ作りは10代の頃から習慣になってるんです。ちなみに今日のプレイリストには、ドロシー・アシュビー、ファラオ・サンダース、ジョー・ヘンダーソン、フェラ・クティ、Jディラ、カマール・ウィリアムズ、マッシヴ・アタックが入っています(笑)。
──さまざまな弦楽器がある中で最終的にハープを選んだ理由は?
アリーナ 私がハープを選んだ理由は、純粋な虚栄心から来ています。ピアノを習おうと音楽学校に行ったところで、ある日ハープが運ばれてきて、その金色の柱と弦がとても美しく見え、その瞬間ほかの楽器を演奏することが考えられなくなったほど無我夢中になったのです。まだ7歳だったのですが、どうしても習いたいと思いました。その後ハープの音色に惚れ込み、さまざまな奏法や効果を試すたびに、この楽器に幾度となく惚れ込みました。この楽器には無限の可能性があり、音の色も豊富なんです。
──ヒップハープコレクティヴの由来や結成のエピソードを教えてください。
アリーナ 私は昔からハープを中心に、強力なジャズが背景となっているグループを作りたいと考えていました。また、そのグループの中に異なる文化から影響を受けた音楽が存在していることも重要でした。ヒップハープコレクティヴは私の創造とアイデアを注入できるパワーの源であり、ロンドンは世界で最も多文化が集まっている場所のひとつなので、このようなグループを結成できたと言えると思います。
■ドロシー・アシュビーは
■私自身の人生におけるお手本
──2022年3月4日に第1弾シングル「Soul Vibrations」について教えてください。バンド編成ですがどのように作品は生まれたのでしょうか?
アリーナ ドロシー・アシュビーの楽曲「Soul Vibrations」は、私の新しいアルバムのオープニングを飾る曲です。この曲は、アシュビー嬢が作曲したオリジナル曲の素晴らしいエネルギーを保持しながら、追加のパーカッションとファンキーなリズムを生かし、さらに私自身の編曲した弦楽器のトリオを加えて、ソウルとのつながりを表現しようと試みています。
ドロシー・アシュビーの「Soul Vibrations」は、アートを通じて、生命とのつながりという深い意味を表しています。私が彼女の音楽を演奏したいと思った理由は、彼女が私に取ってお気に入りのアーティストのひとりであるだけでなく、私自身の人生におけるお手本でもあるからです。彼女は偉大なミュージシャンであるだけでなく、人権問題の活動家、黒人文化のプロモーター、情熱的な教育者でありながら、自身のラジオ番組も手がけ、また黒人の演劇の脚本家と多岐に渡る活動を行っていました。彼女のさまざまな活動に感化され、私は最初に彼女からハープの可能性、ジャズの中で真剣に扱われるようにしたことを学び、そしてその後に私自身のラジオへの情熱(19歳の時に私はウクライナのラジオ・インディペンデンスというラジオ局で初めて音楽番組を担当しました)へと繋がり、さらにウクライナの民主化や現在のロシアの戦争に対する戦いへの支援の熱意が芽生えました。私はこのニーナ・シモンのこの言葉を完全に信じています。「アーティストの役割は、世界の状況を自身の活動を通じて反映し、表現すること」であり、私はそうやって自分の人生を生きようとしているのです。
──配信で続いて発売される予定の第2弾シングル「Paris Sur Le Toit」はどんな作品ですか? またリミックスは誰がやられるのでしょうか?
アリーナ この曲は、パリでカマール・ウィリアムズと初めて行ったコンサートからインスピレーションを受けました。ファッション・デザイナーのステファン・アシュプールのショーで、ピガルの屋上で演奏したんです。ラッパーのSanityとTom They/Themに歌詞をつけてもらい、私のアルバムには2つのヴァージョンを収録する予定です。リミックスも楽しみです。プロデューサーたちは、完全に自由な発想で作ってくれましたね。2人とも以前からBBE Recordsとコラボレートしていたので、今回も特別なものになると信じています。
──第3弾にリリースされる予定のシングル「Afro Blue」と「Fire」はどんな楽曲でしょうか?
アリーナ 2曲共にアフリカ音楽特有のメロディとリズムの影響が秘めています。「Afro Blue」はジャズのスタンダードであり、「Fire」はジャズのサックス奏者ジョー・ヘンダーソンによる、かなり激しく即興演奏された作であり、2曲共に卓越された管楽器隊がフィーチャーされています。
──9月22日に発売されるアルバム『Reflections』について聞かせてください。
アリーナ このアルバムはコロナ禍で録音され、2ヶ月前にマスタリングされたばかりなんです。私は本作の制作過程すべて関わりました。私自身が作曲と編曲を担当し、自身のバンドと共に手がけたアルバムです。生楽器とエレクトロニクスを組み合わせたサウンドを聴くことができます。一流のミュージシャンに恵まれ、私が求めていた重みのある作品。かつ私が今まで学んできたことをすべて凝縮したもので、私の楽器と個人的なつながりが最大限に発揮されたものだと思います。
──ところでシャバカ・ハッチングスとカマール・ウィリアムズとのセッションのことを教えてください。
アリーナ ある暑い夏の日、パンデミック中、私たち3人はロンドンで最もクールと評されている地域のひとつであるショーディッチにある美しい小さな店に集まり、ただ皆で即興演奏して作りあげました。シャバカ・ハッチングスとカマール・ウィリアムズの2人とは以前から一緒に仕事をしていて、彼らのバイブスを知っていたので、とてもオーガニックでリラックスしたセッションになりました。
──ローレン・フェイスをフィーチャーしたバージョンもありますね。
アリーナ ローレンに会ったのは、カマールのこの曲「Hold On」のすべての録音とミキシングが終わった後のことでした。実はすべてのパートは別々に録音したんです。私はカマールとセッションを行い、彼が弾くピアノのコードに私が即興で音を重ね、そのひとつのセッションを元に彼がすべてをミックスしました。カマールはこの曲に対する素晴らしいビジョンを持っていて、ローレンの声をストリングス、サックス、ハープで支えるように見事にアレンジし、とても気に入りました。しっくりきました。
──イギリスの名門BBE Musicはあなたにとってどんなレーベルですか? あなたがロンドンに拠点を移したのも関係があるのでしょうか? 今はロンドンは音楽を制作するのに当たって居心地はよろしいでしょうか?
アリーナ BBEとの契約は私がロンドンで培った実績によりもたらした結果だと思います。 私は長年ここに住み、この街や他でも自身の印象を残そうと努力してきました。ニューヨークの後、ロンドンは居るべき、最高の街だと思います。
──相変わらずロンドンは音楽業界はエキサイティングでしょうか?
アリーナ さまざまなスタイルや伝統が集まって来ている感じがさらに身に締めていますね。。大きなるつぼの中にいるので、今後さらに良くなっていくと思います。ロンドンは眠ることを知らない(笑)!
インタビュー・高山康志/RUSH! PRODUCTION
翻訳・日高健介
「Soul Vibrations」
https://orcd.co/soulvibrations
アルバム『Reflections』
2022年9月22日(木)予定
◆アリーナ・ジュジンスカ オフィシャルサイト