【インタビュー】SKY-HI、その思考の根元
■自分はネガティブを見捨てなかったことによって
■それを昇華させて、財産に変えられた
──SKY-HIさんはこれまで実際いろんなネガティブとも向き合いながら活動をしてきたと思うんですけど、エッセイの「はじめに」の最後で“今、僕は本当に幸せな日々を送っています”と書かれていたのがすごく印象的でした。
SKY-HI:悩みとか不安は常に尽きないというか、むしろ昔より増えてるとさえ思う(笑)。なんだけど……いまインタビューでしゃべってる自分と、ステージに立ってる自分と、社長として社員やスタッフに接する自分と、アーティストにプロデューサーとして接する自分と、全部がすごくシームレスというか、ちゃんと繋がってるし、「誤解が少なく生きれている」という実感があるので、それがすごく楽だし、楽しいです。自分が頑張りたいことと、自分の周りにいる人間が頑張りたいと思っていることも、いまのところはずれがないから、それはすごく幸せなことだと思うし、そうあってほしいと思いながら、もがき続けて、あがき続けて、15年経って晴れることもあるんだなって、いますごく感じてますね。
──それこそ「Be My Self」というか、ありのままの自分でいることができて、周りにそういう自分を受け入れてくれる人がいることが「幸せ」だということを実感している?
SKY-HI:おっしゃる通りですね。なので、アーティストとしていま何を書こうかと思ったときに、前までの「ありのままでいられる方がよくない?」っていうところから、「ありのままでいれることっていいよ」って言えるようになったから、ちゃんと経験が伴って、説得力も変わってくると思っていて。いまは本当に時間がないんだけど、でもそういう曲を作っていきたいと思いますね。
──SKY-HIさんは昔からありのままでいたと思うし、ありのままでいようとしてたと思うけど、それでも「アイドルなのか? ラッパーなのか?」というカテゴライズに苦しんできた。でもいまはどんな立場であれ「SKY-HI」としてそのままを受け止める人が増えていて、そこの転換は非常に大きなものですよね。
SKY-HI:すーーげえ楽(笑)。そういう自分を愛してくれる周りの人たちにも日ごと恵まれていってる感じがすごくあるし。まあ、もともとの性格もあるからさ、文字面だけを見たら、すごくネガティブに感じられることも書かれてるじゃないですか?
──BMSGの設立に至るまでの、SKY-HIとしての活動に感じていた葛藤を綴っている最初の章は特に、ネガティブに捉えられる部分もありますよね。
SKY-HI:でも自分のできる限り、すごくポジティブにネガティブと向き合ってきたと思うし、いまに関しては確実に、ネガティブに対してポジティブに向き合えてるから、それを最初に言っておきたいと思って、だからさっき言ってもらった一行を書いたんです。
──以前はネガティブに捉えがちだった経験を生かして、BMSGを設立して、BE:FIRSTをはじめとした各アーティストをプロデュースして、それがこれだけ世の中に受け入れられているというのは、ネガティブをちゃんと昇華できた実感もあるんじゃないかなと。
SKY-HI:ですね。ネガティブに感じる心がなかったら、やれてないことがいっぱいあったと思うから、それはすごく感謝してます。当時のファンに自分がネガティブな状況にいると感じていたことを理解してもらうのは難しかったと思うし、ずっと応援してくれてた人のなかには、自分がそういう発言をすることで傷つく方もいらっしゃると思うから、そこは本当に申し訳ねえと思いつつ、でもそこで嘘をついて、「みんなのおかげで幸せです」って言うのは、そっちの方が不誠実な気がする。リアルで友達にそれやられてたら結構きついじゃないですか? 毎日一緒にいるような子が何かしらネガティブな気持ちを抱えていたら、ごまかされるよりも、「今ネガティブなんです」って言ってほしいし、それを言えないのであれば、それを言えない環境の方がおかしいと思うし。じゃあ、みんながそれを言いやすいのはどういう形なのかって、それを考えた結果がBMSGだったりもして。
──なるほど。
SKY-HI:「ネガティブ」というとあっちゃいけないこと、悪いことと捉えられがちなのがよくなくて、自分はネガティブを見捨てなかったことによって、それを昇華させて、財産に変えられたと思うから、それは訴えていきたいですね。ネガティブは本当にヒントなんですよ。生きててネガティブな気持ちになることがひとつでもあるなら、それをネガティブに感じなくなるためのアクションをひとつでも起こすことができたら、むしろ大きな実りを連れてきてくれる。ネガティブは大事にしたいと思います。
──コロナ禍というのももちろん大きなネガティビティを抱えているわけだけど、それをいかにしてポジティブに捉えるかが、これから先の晴れ間に繋がっていくでしょうからね。
SKY-HI:コロナ禍は本当に多くのものを変えましたよね。ただ、一回これまでの「当たり前」が洗い流されたので、シンプルに「ベストは何か?」を考えるのにすごく適した時代になっていると思うんです。これまでは「何で?」を考える時間もなく、何となくのこうあるべき、これをやるべきを勝手に作って、それを更新しないまま生きてきちゃったから、年々息苦しくなってたような気がするんですけど、それが一回洗い流された。そういう意味ではすごくポジティブな面もたくさんあると思うし、何かを始めたり、何かを訴えていくにはすごくいい時代だと思います。
──そういう時代だからこそ、このエッセイが出る意味もすごくあるなと。
SKY-HI:ホンマそやなと思います(笑)。これまでも自分がずっと言ってきたことが、コロナ禍になって以降、共感性を増したと感じていて。それがいいことなのか悪いことなのかは何とも言えないですけど、やり続けるもんだなとは思いましたね。
──エッセイのなかにはいまの時代に対する提案も様々な側面から書かれていますが、個人的に印象に残ったのは「学びのあるエンタテイメント」の重要性についてでした。「夢を見させる」こともエンタテイメントの重要な側面のひとつだけど、SKY-HIさんとしてはエンタテイメントを通して現実に得られるものがあってほしいと思っていて、いずれはBMSGとしてメッセージ性のあるショーもやりたいと書かれていました。
SKY-HI:エンタテイメントの何が素晴らしいかって、人間が持ってる心のドアを全開けするじゃないですか? その人の趣向とそのエンタテイメントのマッチング度合いによって、開くドアの数が限られてくるとは思うけど、ヤバいときは本当に全開きするんで。
──それこそ、踊ってるときはかなり開いてますよね。
SKY-HI:そうそう。で、ドアがパカッと開いてるときって、全てを受け入れやすいときだと思うんです。エンタテイメントが高揚感をもって人の心にリーチしてるときに、そこで渡せるものってすごく大事な気がするんですよね。そうやって世の中はいい方向に変わろうとしていくし、変わろうとしてきたと思う。趣味で好きにやるならそれはそれでいいと思うけど、エンタテイメントをする、それで人の心にリーチすることを生業として選んだのであれば、開けただけの責任はなきゃいけないと思う。ライブを観る前と観た後で、観た後の方がちょっと良い感じの人になっていないと、それは責任の放棄に感じてしまう。
──なるほど。
SKY-HI:もちろん、ステージに立つ人間は「どうやったら楽しんでもらえるか」が最初にきていいと思うけど、せっかく来てもらったからには、ライブを観た後のその人の人生がいい方向に転がるように、自分には何が伝えられるだろうっていうことに対して、真剣に向き合わないといけないと思う。特にボーイズグループとか、自分自身もそうだと思うんだけど、何かしらのアイドル性みたいなもの、特に視覚の要素は五感のなかの80%を占めるっていうし、そういったものも含めて人に訴える存在はその人のドアを開ける可能性が高いからこそ、絶対考えなきゃいけないと思う。
──現在開催中の<八面六臂>のツアーは、そういった意味でもすごく手応えがあると書かれていましたね。
SKY-HI:手応えありますね。自分の音楽に対する求心みたいなものって、忙しくなればなるほど強くなっていくから、没頭とか没入の度合いが、コロナ前よりはるかに高くなったのは確かで。今までは一曲目が始まってから、徐々に入っていくっていう風にやってたけど、今は一曲目のイントロがかかった瞬間から入れるから、音楽との距離が近くなってるんだなって。そうやって没入すればするほど、そこにいてくれる人に対する愛情も増して、一人ひとりの顔を見ながら、何を言うべきかを考え、おそらくそこに適した言葉を吐けていると思うから、音楽家としてすごくいい時期がやってきた気がしますね。
──一時期のライブについては、お客さんと「目線が合ってない感じがした」とも書かれていますが、それで言うと、いまは目線がぴったり合っている?
SKY-HI:合ってる…とこちら側が感じれる事は以前より多くなったと思います。『THE FIRST』が自分にくれた恩恵のひとつって、ありのまんまの自分が映っちゃったことで。後半のほうに映ってる部分を切り取られちゃうと、「はじめに」でも書いたけど、ちょっと聖人君子的な側面が強くなっちゃうかもしれないけど、序盤のほうとかどう見てもヤバいやつだし(笑)。そういうのも含めてもう出ちゃってるから、人間的な誤解がなくやれてるので、それはすごく楽しいですね。
──最後に大きな質問になりますが、「学びのあるエンタテイメント」に関連して、SKY-HIさんがいま一番届けたいメッセージを、端的に話していただけますでしょうか?
SKY-HI:端的に言うと……大きな質問には大きく返すと、「みんな幸せになっていい」ってことな気がしますね。「これはこうだから我慢しなきゃ」とか「これはこうだからしょうがない」とかって、一朝一夕に変えられないことが多々あるとは思うんだけど、でもみんな幸せになっていいはずだし、みんな幸せになろうとしていいと思うし、そうした方がいいと思う。じゃあ、「幸せになる」ってどういうことなんだろうっていうのを、我々は楽曲なりパフォーマンスなりで、具体的に発信していく役目があると思っています。
取材・文◎金子 厚武
写真◎大野 隼男(えるマネージメント)
『晴れるまで踊ろう』
著者:SKY-HI
定価:1,650円(本体1,500円+税)
予約サイト:https://www.amazon.co.jp/dp/4594090834
◆SKY-HI オフィシャルサイト
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