【ライブレポート】岸洋佑「この2年は悔しい思いをしたけれど、バカみたいに歌っています」
「日本を元気にするために東京から全国へ足を運ぶ!」をコンセプトにした全国ツアー<47(よんなな)Life is an Adventure with Crew>の開催を発表したシンガーソングライターの岸洋佑。これは、キャンピングカーを使って47都道府県を回り、各地でフリーライブを開催するという壮大な計画で、発表直後から話題を呼んでいる。4月2日、3日には、東京・渋谷ストリーム前 稲荷橋広場にて、計6回のフリーライブを行い、注目の全国ツアーがいよいよ開幕した。今回は、渋谷でのライブから、3日の3回目(17時~)の模様をお伝えしたい。
定刻の10分ほど前になると、広場の歩道橋下に設えたステージに岸がふらりと登場。この日は雨模様で、加えて気温もかなり低いという野外ライブにはあいにくのコンディション。岸は「みなさん、無理しないでくださいね」と、雨の中、傘を差しながら彼を待っていた観客を気遣いつつ、サウンドチェックへ。アコースティックギターを爪弾きながら、一青窈の「ハナミズキ」をリラックスした面持ちで歌い上げていく。その伸びやかな歌声は、本番への期待感を高めるに十分なものだった。「手がかじかむ(笑)」と観客に語りかけたりしながら、開演時間になるのを待っていたが、寒い中で観客を待たせているのも忍びなかったのだろう、「もう始めましょうか」とフライング気味にライブをスタートさせた。
一旦、ステージの脇に下がると「(マイクの前まで来たら)あ、ついに来た!って感じで拍手してくださいね(笑)」と観客を笑わせ、改めてステージに登場した岸は、まずはアカペラでツアーソング「スターマイン」の冒頭パートを力強く歌い上げる。その歌声はピークに達したが、ここで何やら不穏な雰囲気に。本来であれば、間髪入れずにバックトラックが流れて曲の本編へとつながる構成なのだが、機材トラブルで音が出ないようだ。「どうですか?」などとPAスタッフとやり取りをしつつ、しばし状況を見守ったが改善が見られず、「じゃあ、曲順を変えましょう」と、弾き語りからライブをスタートさせることに。彼が1曲目に選んだのは秦基博の「鱗」。少々スモーキーな歌声が実に艶っぽく、本家の「鱗」とは一味違う魅力に溢れた歌唱で観客を魅了し、トラブルでざわついた場の空気を一変させたのが見事だった。
続いて、気を取り直し、改めて「スターマイン」のアカペラパートを歌い上げるものの、機材は復旧せず。「じゃあ、次も弾き語りで」と、今度はオリジナル曲の「バカ」をギター1本で披露。冒頭で「こんな状況も楽しんで」と観客に語りかけていたが、それは自身にも言い聞かせているようでもあった。また、間奏では「不思議なアクシデントもあるけど、お互い頑張ろうという思いを込めて歌います」と力強く宣言。これは今回のツアーにかける彼の意気込みだろう。この先も、おそらく各地でいろいろな出来事に遭遇するだろうが、このように臨機応変に対応していける彼ならば、すべてを良い方向に変えて、素晴らしいライブを繰り広げてくれるのではないだろうか。
ここでついに機材が復旧。三度、「スターマイン」のアカペラパートを熱唱すると、今度はしっかりトラックが流れ出し、アップテンポなビートに乗せて力強い歌声を聴かせた。サビでは、岸が手をふり挙げる振りを披露し「一緒に!」と促すと、観客は傘の中で小さく手を振り上げて応えて、楽し気な雰囲気が広まっていった。歌い終えると、ひと際大きな拍手が沸き起こり、それが周囲のビルなどにこだまし、何だか摩訶不思議な雰囲気になったのも印象的だった。
なんと早いもので、次がラストの曲に。最後は何を歌うか思案している様子の岸は、「音源で歌うのと、弾き語りとどちらがいい?」と観客に問いかけ、多数決で決めようと、どちらかに手を挙げてもらうことに。「どちらにも挙げていない人は、どういうこと(笑)?」と笑わせて、結局「あんまり激しくない曲で」と、最後は弾き語りでのオリジナル曲「僕の大切なキミへ」を選択。軽快にギターをかき鳴らしながら、これまで以上に伸びやかな歌声を渋谷の街に響かせた。間奏ではギターのストロークに強さが増していき、演奏に熱気が帯びると、エンディング間際には、ツアーに使うキャンピングカーが背後を走り抜けるという奇跡的なサプライズも飛び出して、ライブは幕を閉じた。
「この2年は悔しい思いをしたけれど、バカみたいに歌っています。応援してもらえたら嬉しいです」との言葉を遺して、岸はステージを去っていった。その言葉通り、愚直なまでにまっすぐな彼の歌声は、ストレートに相手の心に訴えかける力に溢れていたように思う。雨は降り続き、底冷えする悪環境、さらに機材トラブルも発生するという過酷な状況だったが、そんなことを忘れさせてしまう、見事な熱唱だった。
文◎竹内伸一
4月2日ツアー初日より
全国47都道府県を周るキャンピングカー、ADRIA MATRIX
◆岸洋佑オフィシャルサイト