【対談連載】ASH DA HEROの“TALKING BLUES” 第13回ゲスト:N∀OKI [ROTTENGRAFFTY]
■とんとん拍子で売れたバンドでもないから
■地獄やったですよ、2005年から2010年は
──あのとき(<京都大作戦2016〜吸収年!栄養満点!音のお野祭!〜>)の源氏ノ舞台ではトリの10-FEETのライブが始まったというのに、牛若ノ舞台を観に来ていたお客さんは誰も動こうとしなかったから。
N∀OKI:みんなが、“どうなるんやろう!? 見届けたい”という状況になったんですよね。
ASH:ロックフェスの伝説ですね。
N∀OKI:“The BONEZ、持っとるなー”って思ったよな。電源が復旧してライブ再開したとき、もの凄い盛り上がったじゃないですか。観ていたお客さん全員の記憶に一生残るような時間になったと思う。これぞライブっていう。“あっ、勝ったな、コイツら”と思いましたから。あと、これは表に出てない話ですが、The BONEZのJESSEがステージで乗ってたお立ち台って、P.T.P.のKがずっと使っていたものなんです。そういうこともあって、“空の上からKが嫉妬している”みたいな話にもなり(笑)。
ASH:スゲー。P.T.P.のK君のお立ち台だったというのが、すごい話ですよ。
N∀OKI:しかもJESSEは「初めて使った」と言ってたかな。
ASH:それでK君が「俺も混ぜろ」みたいな。漫画みたいなハプニングですね、それ。ちょっとワクワクしますよね、そういうとき。そういう予想外のことって、俺、好きなんですよ。
N∀OKI:牛若ノ舞台にいたヤツらは最後の最後まで一人も去らなかったと思うよ。それくらいのシーンだった。でも俺は打ちのめされてたという。“もっとやらないと、自分は情けない、チクショー”と思いながらステージから降りたんですよ。“今まで磨いていたのに、ああいう場で俺はひっくり返されてる”って、自問自答してましたね。ちょっと飲んでたらスパーンとイケたんやけど、いきなり呼ばれた感じで。ちょっと震えてたんすよ、お立ち台の上で。しかもKのお立ち台だし。
ASH:それにマイクが使えないとなると、確かにキツいっすね。呼応するからこそ、フリースタイルラップのライムが出て来るってところもあるだろうし。
N∀OKI:そう。お客さんの反応で自分も乗っていくってのはある。でもあのときは全てが一方的やったから。でも、いいふうに伝わってたみたいで嬉しいっすね(笑)。俺の中では、“俺はしょぼいな”って感じやったんで。それにあのとき、JESSEの人差指の上にカマキリがとまりましたからね。それも“コイツは持ってるな”と(笑)。
ASH:そのカマキリはK君じゃないっすか(笑)。
N∀OKI:“<京都大作戦>のあの場にカマキリなんて、そんないるもんでもないで”っていう。しかもあれだけ人いる中で、JESSEの人差指にとまるっていう。カマキリ伝説です(笑)。
ASH:フェスとかロックバンドって、謎のミラクルは起こりがちですよね。
N∀OKI:そうやね。でもスタッフや媒体の人から、「あれは美しかった」と言われました。バンドマンがみんなで、電源が復旧するまでつないでいくということが。
──途切れさせなかったですから、ラップで。
N∀OKI:そうですよね。お客さんを退屈させないように、みんなでフリースタイルラップしていって。
ASH:ROTTENGRAFFTYもそういう系のエピソードとか多くないですか? 昔、ツアー中に車が燃えたとかありましたよね(笑)?
N∀OKI:あったよ。でもカマキリがとまるファンタジーな感じじゃない(笑)。ガチ事件やんか(笑)。
──それはどういう?
N∀OKI:東名の足柄インターで給油して、そのまま東京に向かう途中、燃えてましたね(笑)。その車はNOBUYAが買ってきたんですよ。すっごいウイングが付いてて、車内に豪華シャンデリアがついた謎の族車みたいなバンで。「オマエ、何を買ってきてん」って(笑)。まぁ、ROTTENGRAFFTYはまあまあおかしいバンドやし、これでライブハウス乗り付けたらイケてるかもなって。俺ら、アホなんで(笑)。革シートやから、乗り心地は快適やったんですね。ところが、走ってたらゴムの焼ける匂いが車の中に立ち込めて。路肩に寄せて車の下を見たら、すでに火が滴ってて。オイルとかじゃなくて火、というのがヤバいんですよ(笑)。「これマズイで、荷物を早く降ろせ!」ってことになって。スピーカー8発入りのベースキャビネットなんてクソ重いはずなのに、火事場のクソ力って本当やった。みんなで瞬時に降ろしてたから(笑)。ついに運転席が燃えて、次にバンの真ん中ぐらいがバーン!と燃え始めて、すごい黒煙が上がり出して。そのときまだ、物販入ったプラスチックケースが1個だけ車内に残ってたんですよ。バンドにとって物販グッズはお金と一緒じゃないですか。そうしたらNOBUYAが、当時のローディに「マル、行ってきて」って。
ASH:「俺が行く」ではないんだ。NOBUYA君は(笑)。
N∀OKI:そうそう(笑)。マルも“嘘でしょ!?”みたいな表情になって(笑)。マルが走っていく姿、俺にはスローモーションで見えてたからな(笑)。“もしマルが爆発に巻き込まれたら、毎年、俺はここに来ないと”と思いながら。だってバックドラフトみたいに火がボカーンとなってたからね。結果、マルは荷物を抱えながら倒れるように戻ってきて。その後、だいぶ経ってから消防とかが来て、俺らは次の中井インターってところまで運ばれて。夜逃げみたいに荷物とか機材も積み上げられてたんだけど、俺らは機材を円にして、その真ん中でトランプしてましたね(笑)。
ASH:もう映画みたいじゃないですか!?
N∀OKI:それが漫画『BECK』にもつながるんですよ。俺、ハロルド作石さんにROTTENGRAFFTYのジャケットを描いて欲しくて、手紙を書いたんです。そうしたら「おもしろい、ちょっと話を聞かせてほしい」って返事が来て、僕らのツアーに帯同したり。ツアーバンドが泊まるホテルってどんなとこなの?とか、機材車ってどうなってる?のとか。『BECK』があれだけリアリティがあるのは、ハロルド作石さんが本当にバンドマンに付き添ってツアー廻ったり、機材車に一緒に乗ったりしてたからなんです。俺らの機材車が燃えた話も『BECK』に使われてて(笑)。ああ、燃えて良かったなって思ったり(笑)。
ASH:すごいエピソード。いや、ROTTENGRAFFTYは『BECK』みたいなバンドだなって勝手に思ってて。リアルタイムで高校生のときに読んでたから。
N∀OKI:でも『BECK』のラッパーの千葉がフリースタイルバトルに出てたから、俺も出たというわけじゃないから。
ASH:いや、逆ですよね。N∀OKIさんが『UMB』出た話が漫画に反映されたのかなって。
N∀OKI:いや、その話はハロルドさんは知らないと思う。機材車爆発したのが2002〜2003年なんで。でも20年以上続けてたら、絶対にバンドって不思議なエピソードとかおもしろい事件はあると思うんですけどね。
ASH:うん、長く続けていると確かに。特にライブハウスを主戦場にずっとツアーをしているバンドはそうですよね。
N∀OKI:俺ら、とんとん拍子で売れたバンドでもないから。今でも売れたと思ってないし。地獄やったですよ、2005年から2010年は。
──それは思うようにいかなかった期間で?
N∀OKI:そう。メジャーとも事務所とも契約がない丸腰の期間で、リリースも何もない。『UMB』に出たのもその時期なんですよ。とりあえず自分を磨かないとダメだって。
──そこでバンドで生きて行くことを決めたわけですか?
N∀OKI:とにかく苦しい、しかなかったんで。ずっとトンネルの暗闇の中で、出口が全然見えない。だから次にリリースしたものが泣かず飛ばずやったら、もう終わろうと思ってたんですよ。これしかないと思ってやってきた最後の作品、と決めて出したのが2010年のアルバム『This World』。
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