【インタビュー】kobore、世界、感情、物語を彩るサウンドアレンジが絶妙な最新アルバム『Purple』

■みんながこのアルバムを聴いたら何色になるんだろう
■いろいろな色の曲を混ぜていったらその人ならではの色になるよ

――この2年間はバンドにとってなかなか大変な状況だったはずですけど、着々と前に進めているんですね。できる限りライブをやっていましたし。

佐藤：そうですね。「ライブを絶対にやるなと言われていないのだから、できる範囲内でやる」というのを貫き通しているだけなんですけど。「何をやれないのか？」よりも「何をやれるのか？」をバンドとしてずっと探してきた結果、そうなりました。

――制約があってもベストを尽くすのは、koboreの基本姿勢？

佐藤：はい。それを「コロナのおかげ」と言うのも何かが違いますけど、自分たちが何をやりたいのかが、より明確になった気がしています。

――なるほど。バンドとして着々と進化している姿は、今までになかったスタイルのコーラスが盛り込まれた「グッドバイ」にも表れていると思います。

佐藤：この曲は、ライブでもドラムの伊藤克起がコーラスに参加することになります（笑）。「コーラス足りないなあ。どうしよう？」「俺、歌う！」ってなったんですよ。やれる幅が広がるって、やっぱりバンドにプラスになりますね。

――作風が広がった結果、彩りが豊かなアルバムにもなっていますが、『Purple』というタイトルもそれが理由ですか？

佐藤：そうなんです。僕、絵具を使う授業とかで何色を混ぜても、最終的にはバケツの水が紫になるという特殊な色の使い方をしているみたいで（笑）。「みんながこのアルバムを聴いたら何色になるんだろう？　いろいろな色の曲が入っているけど、混ぜていったら最終的にその人ならではの色になると思うよ」というような意味を込めて、このタイトルにしました。僕の場合、それは紫なので『Purple』なんですよね。



――去年リリースしたEPは、『Orange』でしたよね。

佐藤：夕焼けみたいなEPになればいいなと思って、あのタイトルにしたんですけど。色シリーズは、今後もやるかも。言い方は悪いですけど楽なので（笑）。僕、タイトルを考えるのが結構苦手なんですよ。

――今後、『Gold』とかがリリースされる可能性もあるんですか？

佐藤：あるかも（笑）。

――（笑）。歌詞に関しても様々な切り口がある作品ですが、「キュートアグレッション」は独特なテーマですね。キュートアグレッションって、かわいいものをいじめたくなる心理でしたっけ？

佐藤：はい。なかなか歌詞では描かないテーマなのかもしれないですね。

――《受話器の先にワープして　君を抱きしめたい》が印象的です。今は固定電話をほぼ使わないですし、受話器を手にする機会もないですから。

佐藤：僕は自分でバイトをして料金を払える高校生になるまで携帯電話を持たせてもらえなかったんです。いつも家の電話を使っていたんですよね。好きな女の子が学校の連絡網で僕の次だったので、そんなことも思い出しながら書きました。恋愛の初々しさが受話器っていうワードを使うと出るのかなと。

――作風の多彩さは、「Fly」でも感じます。田中さんと一緒に作曲したんですね？

佐藤：はい。2人で色をつけていくような作業でした。気だるい感じと、聴いていると心地よくなる音ハメをかなり意識したので、隙間がないくらいいろんな要素で埋めているんです。隙間が多い時はメロディや歌詞で埋めたり、文字数がもっと欲しい時は英語を使ってみたりとか。

――サウンド作りの面白さにますます気づくようになったのは、やはり今作の大きな成果ですね。

佐藤：本当にそうですね。前まではずっとDTMを信じてこなかったのに（笑）。「無理無理！　俺らはできない」みたいな感じだったんですけど、やってみたら「今の時代はすごいな」って思いました。携帯が1個あるだけで何曲も作れちゃうし。

――スマホに最初から入っているDTMソフトで、かなりのことができちゃいますからね。

佐藤：そうなんですよ。例えば「MARS」は僕が作ったデモの段階で、ほぼ完成形になっていました。コロナ禍で時間がすごくあったから、使い方を調べながら学習しました。

――DTMを導入すると、アレンジの試行錯誤もやりやすいですよね？

佐藤：そうなんです。スタジオに入って「こういう音を入れてみて」とか言葉で伝えているとキリがないので。自分で実際に作ってみて聴いてもらうと話が早いです。スタジオでみんなで集まって、その場の勢いで作る良さももちろんあるし、たまにはやりたいんですけど、「良い音源を作る」ということに関してDTMはズバ抜けていると、今回やってみて思いました。

――今作の中の「勢いを感じるサウンド」を挙げるならば、田中さんが作詞作曲をした「勝手にしやがれ」ですね。

佐藤：はい。他の曲でいろいろなサウンドをやっているからこそ、こういうのが引き立つのかなと。ほぼ「せーの！」で録って、直しもほとんどしていないです。かなり泥臭さを追求したサウンドですね。

――ライブが思うようにできない状況に対するフラストレーションが伝わってきます。

佐藤：これ、コロナ禍で一番精神的にきつかった時に歌詞を書いたって言っていました。

――「きらきら」も田中さんが作詞作曲をしていますが、途中からストリングス、ブラスが加わったりもするドラマチックな展開ですね。

佐藤：彼は映画が好きなので、そういうイメージだと思います。「最後に1つの物語が終わった感じにしたい」って言っていました。「開けたおもちゃ箱を閉めた」というイメージで、最後にオルゴールっぽい音になっています。今までのkoboreにない感じがまさに表れている曲ですけど、「赳が歌ったらkoboreになる」と信じて僕に歌わせてくれたんです。仕上がったものを聴いて「完璧だ！」って喜んでくれたのが嬉しかったです。

――「勝手にしやがれ」もそうですが、この2年くらいの世の中に対する想いが反映されているのも、今作のリアリティだと思います。「微睡」と「ピンク」も、そういうことを描いていますよね？

佐藤：はい。「微睡」はコロナの影響でライブがなかなかできなくなってインスタライブが流行り始めた時期に歌詞を書いたんですよ。「インスタライブをやるくらいだったら感染症対策を徹底するためにお客さんを2、3人とかにしてライブハウスでやればいいのに」って僕は思っていたんです。ライブハウスがどれだけいろんなことをちゃんとやっているのかを、僕たちバンド側も証明し続けないといけないですから。微力かもしれないですけど、そういうことを積み重ねるバンドが集まれば大きな力になるはずだと思っていました。僕たちがいろいろなライブハウスに行ってライブをするのが、ライブハウスに対する一番の恩返しにもなるはず。そう思っているので、ツアーはずっと可能な限りやり続けています。

――次の全国ツアーは4月から7月にかけてですから、かなりじっくり各地を回ることになりますね。

佐藤：そうなんです。めちゃめちゃ楽しみですね。

――ライブ会場の規模が着々と大きくなってきていて、リスナー層も広がっている最近のkoboreですから、カラオケで歌っている人もいるみたいですよ。

佐藤：自分で言うのも変ですけど……歌うのは難しいかも（笑）。でも、今回のアルバムだったら「Tender」とかを歌っていただきたいですね。みなさんが歌ってくれているのを聴きたいです。カバーしてくれているのとかも、すごく楽しいんですよ。koboreが広まっている実感にも繋がっています。

取材・文：田中大


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