【インタビュー】kobore、世界、感情、物語を彩るサウンドアレンジが絶妙な最新アルバム『Purple』
11曲が収録されている最新アルバム『Purple』は、音楽に対して真剣に向き合い続けているkoboreの姿が鮮やかに刻まれている作品だ。今までの彼らの曲を聴いたことがあるリスナーは、作風の広がりを強く感じるに違いない。描かれている世界、感情、物語を彩るサウンドアレンジが、各曲に対して絶妙に施されている。このようなアルバムとなった理由とは何なのか? 佐藤赳(Gt.Vo)が語ってくれた。
■勢いだけに頼るのではなく
■もっと音楽に近づくことができたのかな
――アルバムの全体像に関して、何か考えていたことはありました?
佐藤赳(以下、佐藤):あまりテーマとかは作らないようにしているんです。テーマを作ると「そういう曲しか作れない病」みたいな感じになっちゃうので(笑)。基本的には「自分たちにとって新しいものを詰め込もう」というのを念頭に置いて作っていました。
――サウンド面に関しては、空間系のエフェクターを使った広がりのあるテイスト、穏やかなテンポ感、程よいペースのダンサブルさが発揮されている作品という印象があります。
佐藤:意識はしていなかったんですけど、たしかにそういう感じがありますね。ベースの田中そらと一緒に曲を作ることによって新しい風が生まれたというか。あまり激しいサウンドではない曲を歌ったり、演奏することに対する怖さみたいなものがなくなったんだと思います。「とにかくやってやろうぜ!」みたいな熱量も大事なのかもしれないですけど、静かで沸々としたものがある感じも表現できるようになったというか。
――制作面での田中さんとのコンビネーションも、より深まったんですね。
佐藤:はい。引っ越して、彼の家がめちゃくちゃ近くなって。歩いて5分くらいなんです。今はスマホでも曲のデモをかなり作り込めるし、それを持って行って一緒に録音をしたりもできるんですよね。かなりの頻度で僕の家で一緒に作っていました。
――「勢いだけで押し切らない」みたいなこともできるようになってきた理由に関しては、どのように考えていますか?
佐藤:「こういうのをやれば盛り上がる」という「ニーズに応えている感」に抵抗があるというか(笑)。自分たちがやりたいことをやるのが本来の音楽、バンドですから、そういうことを追求していった結果、今回のアルバムが出来上がったと僕は感じています。だから頼るものが変わってきたというか。勢いだけに頼るのではなく、もっと音楽に近づくことができたのかなと思っています。
――例えば「ジェリーフィッシュ」は身体を揺らして踊りたくなるサウンドですけど、穏やかな印象がするんですよね。
佐藤:「行き過ぎちゃうとkoboreっぽくなくなっちゃうけど、やりたいことをやらないと意味がなくなっちゃう」というバランスをすごく考えました。バランス感は、今回のアルバムを作る上で試行錯誤をしたところですね。
▲『Purple』【初回限定盤】
▲『Purple』【通常盤】
――どの曲もギターリフがすごく綺麗で、それも曲の奥行きに繋がっている気がします。
佐藤:リフに関してはみんなでじっくり考えたんです。ベースがギターリフに対していろいろ意見を言うくらいのバンドですから(笑)。
――(笑)。「ジェリーフィッシュ」のリフもすごく良いですね。イントロが40秒くらいあって、それも印象的だったんですけど。
佐藤:すぐに歌が始まらないイントロが長い曲も、もう怖くないというか。「こういうのも楽しんでもらえるはず」と感じられるようになりました。
――イントロをじっくり聴かせる曲は、作り手にとっては怖さもあるんですか?
佐藤:そうなんですよ。しかも「ジェリーフィッシュ」はアルバムの1曲目なので、メンバー内でも結構不安でした(笑)。でも、こういう曲が欲しかったんですよね。
――歌詞は、不安が募る夜の様子を描いていますね。
佐藤:はい。歌詞に関しては今までのkoboreの夜の曲の感じが強いのかもしれないです。でも、サウンドや展開のアプローチの仕方が違うんですよね。イントロも長かったりで、壮大というか。今までの夜の曲が「寄り添う」というイメージだったとするならば、「壮大」「遠くに投げる」ということなのかも。「ジェリーフィッシュ」は、そういう点でもkoboreにとって新しいタイプの夜の曲です。
――壮大というのは納得です。「きらきら」もそういう印象ですから。
佐藤:先ほど、空間系のエフェクトのかかった曲が多いということもおっしゃっていましたけど、「よりステージが大きくなったkoboreを聴いていただきたい」というのもあるんです。大きいステージでライブをやらせていただく機会が増えていますし、それがこういう曲を作ることに繋がっているのかもしれないですね。「激しい曲をやらなくてもみんなを引き付けられるボーカル力を身に着けたい。そういう力がついていることを証明したい」という気持ちも僕の中にありますから。
――バンド全体としても、そういう自信がついてきた感覚があります?
佐藤:はい。メンバー全員で一緒に階段を上がってきた感じがすごくあるので。
――おそらく「MARS」も、そういう変化を経たからこそ形にできた曲ですよね?
佐藤:そうですね。これは「めちゃくちゃシンプルな曲を作りたい」というのがあったんです。もともとはかなり作り込んでいたんですけど、最終的には全部削ぎ落しました。他の曲もそうですけど、今回は音を歪ませてはいるんです。でも、他にはあまりない歪みというか。そういうギターの音作りもじっくりやりました。
――音作りに関しても、勢い任せではないということですよね?
佐藤:はい。楽器ってストレートに歪ませるとかっこよくはなるんです。でも、歪ませずにかっこよさを出すためには、引き立つフレーズが絶対に必要なんですよ。「シンプルな料理だけど、そこにこれを少し加えると、めちゃくちゃ味が引き立つんだぜ」みたいなことを全員で試せたアルバムの楽曲制作だったと思います。
――バンド全体のサウンドアレンジ力の進化も、今作には表れていると思います。
佐藤:ありがとうございます。僕よりも他の3人がそういうことがすごくできるようになってきているので。作った曲に対して、「あいつらに託したらもっと良くなって返ってくるんじゃない?」というのをすごく思うようになっています。
――「この曲、大化けしたなあ」と感じている曲はあります?
佐藤:かなりありますね。録ってミックスする前はまだわからなくても、大体の曲がミックス後に「なるほど!」ってなりましたから。例えば「ピンク」は、「良い意味でめちゃくちゃチープな音にしたいよね? あんまり補正しないで、ただただシャカシャカさせたい」と、そらと話しながら作っていたんです。でも、作っていく内にそれは違うと感じるようになって、「夢にどんどん深く落ちていく」というようなイメージの音に変えることになったんです。だからミックスをし直してもらいました。かなりリヴァービーで、ボーカルにエコーもかけるという今までのkoboreにあまりなかったこともしたんですけど、「これだ!」ってなりましたね。
――レコーディングの経験を積んできた中で、録り音に対する意識も高まってきたんでしょうね。
佐藤:そうなんだと思います。僕らはずっとライブが活動の中心だったのでライブハウスで良い音を作ることをずっと考えてきたんです。でも、「スタジオで良い音が鳴らせないのに、ライブハウスで良い音を鳴らせるわけがない」という考え方になりました。
――「Tender」も気持ちよいサウンドです。
佐藤:この曲、僕もすごく気持ち良さを感じています。インストアの時に初めてやったんですけど、「ずっと歌っていたいな」というくらいの気持ち良さがあって。こういう音をライブでも表現できるようになったのが嬉しいです。
――「Tender」は、メロディも良いですね。とても温かい雰囲気を感じます。
佐藤:ちょっとずつ音階が下がっていく感じとか、最後にちょっとだけ部分転調をさせて切なさを出すっていうのをやってみたかったんです。その結果、「切ないいメロディ」みたいな独特な曲になりましたね。
――「彗星」も独特なテイストですね。寂し気だけど温かい質感ですから。
佐藤:僕がこのアルバムで一番好きな曲です。この曲の歌は声を張っていないんですよ。「高い声を出せば良い曲になる」みたいな考え方から脱却をしたくて。メロディの良さ、展開で聴かせる曲にしたかったんです。
――「ジェリーフィッシュ」とかの話にも繋がることですが、力を入れ過ぎずに豊かなフィーリングを表現するというのが、今作の大きな成果みたいですね。
佐藤:そうだと思います、今までは「力を入れないとかっこよくない」という感覚だったので。それがどれだけ間違った考え方なのかを、このアルバムを作る中で何回も感じました。メンバー同士でそういうことを口に出して話したりはしないですけど、各々が気づいていると思います。
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