【インタビュー+機材紹介】五味孝氏が語る、T-BOLANサウンドの変わらぬ本質「より血の通った音楽に」

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T-BOLANが3月14日、6枚目のアルバム『愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~』をリリースする。オリジナルアルバムとしては1993年12月に発売された『LOOZ』以来、約28年ぶり。先ごろ公開した森友嵐士インタビューでは、アルベルト=アインシュタインが晩年、娘のリーゼルに宛てたと言われる手紙のキーワードが“愛の爆弾”(※諸説あり)であり、かつてその手紙を読んだ森友が、コロナ禍の現代にこそ「このメッセージを伝えたい」と制作した作品が、「愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~」だということが明かされた。

◆五味孝氏 (T-BOLAN) 画像

アルバムコンセプトやアートワーク、1990年代と2022年をつなぐ作品であることが語られた森友インタビューに続いて、五味孝氏に語ってもらったのは全13曲のサウンド、プレイ、イクイップメント。「僕はギタリストとして不器用かもしれない」という言葉の裏には、自由に大胆に自らのスタイルを築き上げてきた彼ならではの哲学がある。一聴して五味孝氏とわかるサウンドを確立しながらも、その探究心は1990年代から現在まで研ぎ澄まされ、進化はとどまるところを知らない。アルバム『愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~』に溢れる力強さ、激しさ、繊細さをレコーディング使用機材からも紐解く、ロングインタビューをお届けしたい。

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■どうしてもヒネリたくなってしまう
■結果、R&Rが香るものになっている

──新しいアルバムを作るにあたって、テーマやコンセプトなどはありましたか?

五味:僕には特になかったです。歌詞のテーマとかアルバム全体で表現したいことは森友(嵐士/Vo)の中にずっとあったみたいですが、そういう話をちゃんとしたことはなかったかな。というか、復活してアルバムをリリースするところまでいけると思っていなかったんです。

──と言いますと?

五味:アルバム『愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~』収録曲で、復活以降、一番古いものは2012年の「声なき声がきこえる」になるのかな。T-BOLANはそこから本格的に再始動して、シングルとかも何度かレコーディングしてきたけれど、これまでアルバムという具体的な話は出なかったんです。でも、このパンデミックに「今、何を届けることができるのか。30周年という節目でもあるからアルバムを作ろう」ということになって。アルバム制作は予想していなかったので、「マジで?」っていう(笑)。今回はそういう流れだったので、事前にコンセプチュアルにテーマ設定をしてのアルバム制作ではなかったんです。


▲Duncan Telecaster Type
 五味が20歳の頃から愛用し続けている絶対的メイン。アッシュボディーや薄い塗装など自身のオーダーによる1985~1986年製のセミオーダーモデルだ。太さとキレのよさを併せ持った上質なトーンに加え、ドライブサウンドに対応するため、ブリッジプレート部などにハウリング対策が施されていることもポイント。ブロンドフィニッシュやメイプル1ピースネック、指板のRやV型グリップは50年代のヴィンテージに近く、モダンスペックも兼ね備えた逸品といえる。アルバム『愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~』ではほぼ全曲で使用した。

──機が熟して、自然とアルバムという話になったんですね。では、曲を揃えていく中でアルバムの指針になった曲はありましたか?

五味:アルバムタイトルにもなっている「愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~」だと思います。この曲には、森友が今一番伝えたいメッセージが込められているから。ただ、ボーカリスト的な視点ではそうだろうけど、ギタリストからすると歌詞に込めた思いよりも、サウンドのことが先に浮かんでくるので。だから楽曲面の話になりますけど、「愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~」はアルバム用に作ったわけではなくて、僕が持っていた曲をブラッシュアップしていったもので。ずっと森友に、「こんなのができたよ」って曲を渡し続けていた中から、「この曲をやろうよ」と。そこからアレンジやメロディーを少し変える作業に入って、今の形まで持っていきました。

──そうやって作った曲に、“コロナ禍だからこそ、愛というものをもう一度クローズアップして、相手を思いやる気持ちを発信したい”という森友さんの思いが込められた歌詞が乗って完成したんですね。「愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~」もそうですが、今作を聴いて、T-BOLANはロックンロールテイストをスタイリッシュに仕上げる手腕に長けていることを改めて感じました。

五味:いやいや(笑)。それはどうなんでしょうね?

──たとえば「Re:I」や「俺たちのストーリー」「Crazy Me Crazy U」といった曲を聴くと、それがわかります。それに、ブルースやロックンロールの匂いを醸し出しているのはギターだという印象を受けました。

五味:僕は昔から、「ブルース好きですよね?」ってインタビューとかでよく聞かれるんです。でも、もちろんブルースは好きだけど、根っこにブルースがあるかというと全然違っていて。洋楽ではなくて、邦楽からギターに入ったんです。


▲Fender Telecaster
 1961年製のヴィンテージは、今回のレコーディングでは使用されなかったがライブで活躍。フェンダー製でローズ指板ということもあって、前出のダンカンとは音色のテイストが異なり、ライブではそこを活かして使い分けているとのこと。テレキャスター特有のトレブリーさとヴィンテージならではの温かみを併せ持った良質なトーンが魅力だ。指板の装飾は「リペアマンの友達にイタズラで星型のシールを貼られました(笑)」とのこと。

──五味さんのルーツは?

五味:小学校4年生のときにDOWN TOWN BOOGIE WOOGIE BANDが出てきて、すごくカッコよくて。同級生と掃除の時間にホウキをギターに見立てて振り回しながら(笑)、「中学生になったらバンドを組もうぜ」という話をしていたんです。和田静男さんというギタリストはブルース畑の方なので、そこからの影響はあると思いますが、僕自身がブルースを深く追求したことはなくて。途中からディープ・パープルをはじめとする洋楽も聴くようになったけど、一番好きなのはずっと邦楽だったんです。音楽番組『ザ・ベストテン』とかを観まくってましたから(笑)。そういう少年だったので、なぜ僕にブルースを感じてくれる人が多いのかは自分ではよくわからないんです。和田静男さんのカラーが僕の根底にあることや、ペンタトニックスケールを使うことがわりと多いからですかね。

──個人的には五味さんのギターの粘りやアメリカンな雰囲気、泣きのフレーズなどからブルース/ロックンロールを感じます。

五味:意識しているわけではなくて、僕が弾くと自然にそういう感じになるみたいです。だから、匂いを醸し出しているって言ってもらいましたけど、そういうことなんでしょうか。僕が洋楽から入っていたら直球のロックンロールにいっていたかもしれないけど、そうではないので、どうしてもヒネリたくなってしまうという。たしかに、T-BOLANにはもっとロックンロールにアレンジを寄せても成立する曲があるけど、そうはしたくないんです。その結果、ロックンロールが香るものになっているんじゃないかなと思いますね。


▲Fender CustomShop Stratocaster
 カスタムショップのマスタービルダーであるジョン・クルーズが手掛けたモデル。1960年代のストラトキャスターをモチーフにしたレリックで、アルダーボディー、ローズ指板、3プライピックガードなどを採用。1960年代のモデルはヴィンテージ系ストラトキャスターの中で最も太い音がすると言われている。アーミングを活かすために「A BRA CADA BRA ~道標~」と「Re:I」で使用。

──そのスタイリッシュさがT-BOLANの魅力のひとつになっていることは間違いないです。では、今作のロックンロールテイストの楽曲の中でも、特にお気に入りの曲を挙げるとしたら?

五味:サウンド的な面で言えば「Re:I」ですね。これもアルバム用に作ったというわけではなくて、3~4年くらい前、タイアップ用として原曲のデモを森友に渡していて、「これをやろうよ」ということになった曲です。

──2018年の<T-BOLAN 30th Anniversary LIVE「the Best」~励~>で初披露された新曲ですね。原曲はどのように?

五味:昔はアコギを弾きながらラジカセに録音して、「こんな曲を作ったよ」って森友に渡していたんですけど、今は、それなりにアレンジして渡します。

──「Re:I」は、ちょっとUKの匂いがありますね。

五味:僕も森友もそうだけど、U2が好きなんですよ。だから、UKというかU2的な匂いが出ていますよね。全体のサウンド感もそうだし、ディレイをかけたギターを散りばめているのもそう。そういうアプローチを活かしつつ上手く形にできたんじゃないかなと思ってます。

──やはりいろいろな音楽を聴かれているんですね。幅が広いといえば、少しファンキーで、ブラスセクションを導入した「NO CONTROL ~警告~」もアルバムのいいアクセントになっています。

五味:元WANDSのキーボーディスト大島こうすけ君が書いた曲で、アレンジも彼にお願いしました。1990年代にも「新しい感じを採り入れよう」ということで、2回くらい大島君のアレンジをトライしたことがあるんですよ。残念ながら当時は世に出ることにならなかったんですけど、彼のファンキーな感じが僕は好きなんです。楽曲コンペで彼の曲を選んだら、今回お願いできるということで。まずは何もリクエストせずに、作ってもらったらすごく良かった。曲調的にもギターの面でも、また新しいところにいくことができたかな。大島君曰く、「ギターは自由に弾いてください」ということだったんだけど、そのわりには決めフレーズが多かったんですよ(笑)。だから、この曲のギターはいつもの自分とはまた少し違ったテイストになっています。

──ギターも含めて新たなT-BOLANに触れられる1曲といえますね。この曲のレコーディングはスムーズに?

五味:T-BOLANの中では異色な曲だけど、僕はファンキーなものとかカッティングが好きなんですよ。意外に感じるかもしれないけど、ポール・ジャクソンJr.とか本当のブラコンからも影響を受けているんです。もちろん、ナイル・ロジャースも好きだし。20歳くらいのときに組んでいたバンドのメンバー全員が、ブラックミュージックが好きで、「こういうのをコピーして」と言われてカッティングを練習したり。カッティングは単にコピーするだけだとノリが出ないんです。“同じことを弾いているのに、なぜ自分はこの人のようにならないんだろう?”って研究したり、彼らからいろんなことを学びました。

◆インタビュー【2】へ
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