【イベントレポート】<いい音爆音アワー>、特別編を全編公開

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1970年代から音楽制作ディレクターとして、また2001年以降は音楽配信事業などで日本の音楽シーンを駆け抜けてきたふくおかとも彦。彼が主宰する<いい音爆音アワー>は、レコード音源(広義の録音音源)に敬意を込めて「いい音かつ爆音で聴くことによって、レコードやCDに込められた音楽の本来の姿を、その微妙なニュアンスも含めて味わおう」という趣旨のトーク&リスニング・イベントで、2010年12月から続く人気企画となっている。

2021年10月には、このイベントの内容を再構成した書籍『いい音爆音アワー the BOOK』を出版。それを受けて、12月15日、下北沢のニュー風知空知での“Vol.122”は、<『いい音爆音アワー the BOOK』出版記念スペシャル~楠均、そのドラマー人生の真実に(ちょっとだけ)迫る!~>と銘打った特別編として開催された。

そのタイトルからもわかるように、『いい音爆音アワー the BOOK』に掲載した楽曲を改めて聴き直し、同書の概要に触れるとともに、ゲストにドラマーの楠均を招き、取り上げた楽曲にまつわるよもやま話と、彼のドラマー人生についても語り合うといった趣向である。


定刻を過ぎると、「こんばんは」とふくおかが唐突に挨拶。すぐさまゲストの楠を呼び込むと、楠が「今日はお招きいただいて…」と登場し、イベントが幕を開けた。

楠は1980年代に在籍していたバンド:くじらでプロデビューを果たしたが、そのときのディレクターがふくおかだったそうで、それ以来、親交が続き、「ふくちゃん」「くすちゃん」と呼び合う仲なのだとか。「プロになれたのはふくおかさんのおかげ」と楠が感謝の言葉を述べつつ「でも、そのせいで僕はもうひとつの大事な可能性をきっと逸している」と笑いを誘い、会場は早くも和やかな雰囲気となった。



「今日は本の各チャプターから1曲ずつ取り上げて、聴いていきたいと思います」と、改めてふくおかがこの日の趣旨を説明すると、いよいよ1曲目へ。まずは、「Chapter 1 涙もんのギターソロ」からDire Straitsの「Sultans of Swing(悲しきサルタン)」が選曲された。しかしながら、

「僕も学生時代からドラムを嗜んでいたんですよ。でも、楽器の中ではギターが好き」(ふくおか)
「僕もギターが好き。Amとか弾けるよ」(楠)

といった具合に、曲がかかる前から話が脱線気味なのはご愛嬌といったところか。ようやく曲がかかると、壁のスクリーンに「Sultans of Swing(悲しきサルタン)」のジャケット写真や、Dire Straitsのアーティスト写真が映し出されていく。

曲が終わると、ふくおかは「この人がマーク・ノップラーで…」といった具合にスクリーンの写真をレーザーポインターで指しながら曲を解説。


▲ふくおかとも彦


▲楠均

「ピックを使わないで、演奏しているんですよね」(ふくおか)
「だから当時はロックっぽくないなって思った。リズムもタイトで、なんだか不思議な感じがした」(楠)と2人は曲の感想を語り合っていく。さらには、
「でもさ、当時はリズムがタイトだと思ったけど、今の耳だとけっこう揺れているよね。今はこういう演奏が許されない時代。若い子はクリックで作られた音楽を聴いて育っているから、YMOを聴いてもタイトだとは思わないんじゃないかな」(楠)と、リズム感の進化論とでもいえそうな話へまで発展していった。

このように曲を聴いては感想を語り合うというスタイルでイベントは進行していった。

加山雄三の「白い砂の少女」がかかると、

「典型的な8分の刻みだよね」(ふくおか)
「ギターの音、すごく良いよね!」(楠)

The Beatles「Martha My Dear」では

「これは変拍子で1拍あまるんだけど、そうは聴こえないからすごい!」(ふくおか)
「民族音楽からの影響なんじゃないかな」(楠)と、2人の音楽談義も白熱していった。


曲中は観客もリズムに合わせて身体をゆすったり、逆に目を閉じて聴き入ったりと、思い思いにリラックスして音楽を楽しんでいる様子。それは大きな音に包まれる快感を堪能しているかのようでもあった。

もちろん、楽曲に対しての話だけではなく、副題にもあるように、合間には楠のキャリアにも言及。印象的だったのはふくおかがくじらをスカウトしたときの話。

「初めてくじらのライブを観た時、マイクを使っていなかった。段ボールやフライパンを打楽器にしていて、すごく不思議なライブをやっていた」と、くじらがいかに個性的なバンドだったのかを語ると、「デビュー前が一番人気があった(笑)」と楠が笑いを誘う。だからこそ、ふくおかにはデビュー後のくじらがもっとブレイクしてほしかったという後悔の念のようなものがあるようで、「もうちょっと売れてしかるべきだった」といった趣旨の発言を何度もしていた。くじらはふくおかの音楽人生の中でも、ひときわ思い入れの強いグループのひとつなのだろう。



書籍に掲載した曲を聴くというのがこの日のメインテーマだったが、それとは別にゲストの楠も3曲をチョイス。「自身のプレイが収録された音源で好きなものから1曲」というお題でくじらの「こいこい」(ライブ)を、「大きな影響を受けたドラマーの音源から1曲」としてLittle Feat「Fat Man in the Bathtub」(ドラムはリッチー・ヘイワード)、「こいつはすごい、まいったと思うドラマーの音源から1曲」としてSly & the Family Stone「In Time」(ドラムはアンディ・ニューマーク)を紹介した。

ちなみに楠は「こいこい」のライブテイクは「自分の演奏云々ではなく、初期の衝動が感じられる曲。すっごく若々しい(笑)」、「Fat Man in the Bathtub」は「16分のハイハットを片手でやるのかと驚いた」、「In Time」は「アプローチにびっくりした」と選曲理由を語っていた。


トークが盛り上がり過ぎ、かなり時間がおしてしまった模様で、後半は曲を途中でフェイドアウトする状況となってしまったが、なんとか最後の曲に。この日を締めくくったのはハナ肇とクレージーキャッツ「スーダラ節」。昭和を代表するコミックソングのひとつとして知られるが、演奏は宮間利之とニューハードが担当。「当時の最高のジャズバンド。でもニュアンスが日本人らしくてすごい。カウント・ベイシーでも絶対このニュアンスは出せない」と楠がこの曲のすごさを力説して、イベントは大団円となった。

ふくおかと楠の音楽談義は、尽きることがないといった様子で、話が次々と展開していき、どんどん引き込まれてしまった。そこには、気の置けない仲間だからこその信頼関係も感じられたし、長きにわたり日本の音楽界に携わってきた者としての深い見識と矜持のようなものも感じられ、実に有意義な時間となった。なにより、ヘッドフォンではなく、全身で音楽を体感する心地良さは何ものにも代えがたい。このイベントが長く続いている理由がわかったような気がした。

今回の特別回全編はBARKSのYouTubeチャンネルで公開中だ。なお、書籍『いい音爆音アワー the BOOK』はAmazonで購入可能となっている。

文◎竹内伸一



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▲いい音爆音アワー the BOOK


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