【インタビュー】廣瀬洋一、新作『33』は数秘術によるHEESEYそのもの
HEESEYのソロ第3作が完成した。3月3日に発売されるこのアルバムは『33』と題されていて、見事に3ずくめなのだが、この数字はいったい何を意味しているのか?
凝り性で、何かに興味を持ち始めるととことん追究しないと気が済まない質の彼だけに、きっとそこには何か特別な意味があるはずだし、今回ばかりは得意の駄洒落などではなさそうだ。
作品自体は、これまで以上に得意技に磨きを掛けつつ、音楽的な広がりと深みを増しながらも、あくまでロックンロール・アルバムとしての娯楽性を失わない楽しさいっぱいの密度濃い1枚に仕上がっている。というわけで、この作品の素性について解き明かすべく、2月下旬のある日、たっぷりと語ってもらった。
──そろそろ新たなソロ作を、というのは前々から考えていたことだったんですか?
HEESEY:そうですね。そもそもTHE YELLOW MONKEYは2020年の東京ドーム公演が終わった時点で充電期間に入るというか、そこでいったんお休みしようと前々から決めていて。それがコロナの影響で公演自体が延期や振替になったり、いろいろと変更が生じたりしてしまって。で、そういった一連のライヴが2020年の末までに終わったので、そこでまずTYOの楽曲のセルフ・カヴァーを作りたいなと思ったんですね。
──2021年4月に発売された『TYO YEARS』のことですね?
HEESEY:ええ。結局、2020年の春以降はコロナがどういうことになるかも見当がつかなかったし、あんまり人と会えないような状況でもあったから、家にこもってできることをやろうと思って。そこでいきなり3枚目のソロ・アルバムに向けて動き出すよりも、まずは手っ取り早いセルフ・カヴァーのほうから手を付けようと考えたわけです。もちろんその前から曲のアイデアはいくつかあったんですけど、曲作りに本腰を入れ始めたのは、2021年の誕生日ライヴが終わった頃からでしたね。
──ソロ第2作にあたる『ODYSSEY』は旅というテーマに基づいたアルバムでした。今作に取り組むにあたっても、何かテーマやコンセプトみたいなものはあったんですか?
HEESEY:僕はどっちかというとテーマとかアルバム・タイトルを先に決めて何か作るというやり方ではなく、作業を進めていく途中で急にテーマが閃いたりするタイプなんですね。『ODYSSEY』の時もそういう感じだったんです。今回の場合、まず作り始めようとなった時、コロナ禍というのは相変わらず続いていたので、そこで自分なりに思っていたこと、コロナの世の中になって考えてきたことなんかをちょっと出してみたいな、と思って。
──今しかないはずの感覚みたいなものを作品に反映させたかった、と?
HEESEY:そうですね。それこそ1曲目の「NEW DAYS」とかにも繋がるんですけど、状況的に虐げられた生活を強いられたり、かと思えばテロとかもあったりする世の中じゃないですか。そこで常に「そろそろ新しい時代が来ないかな」と感じてる部分がみんなあるはずだと思うんです。もちろんそれは「早くコロナが終わんねえかな」ということでもあるんですけど、そういった新しい時代の到来を待ち遠しく思う気持ちみたいなものを反映させたかった。同時に「新しい扉が開かないかな」という期待感ばかりじゃなく「だったら俺が開いてやるぜ!」みたいな部分というのもあるし。なんか、今回のウィルスが蔓延することで、いろんなことが根本から覆されちゃったようなところがあるじゃないですか。そこでまた時代がちょっと変わっちゃったというか。人々の距離感とか、世の中の風潮とか、常識まで変わってしまった。だから良い意味でも悪い意味でも時代の変わり目みたいなタイミングにあるのかな、みたいなことを考えながら書いたんです。
──アルバム自体がその「NEW DAYS」に始まり「NEXT NEW DAYS(New Days Reprise)」で幕を閉じる。新しい時代というのが、このアルバムのテーマでもあるわけですね。
HEESEY:そうですね。その「NEXT NEW DAYS(New Days Reprise)」のことを先にばらしちゃうと、要するに今は良くない意味での変化の時期かもしれないけど、「また次の新しい時代が始まるよ」ということなんです。輪廻するように転がり続けていくもの、春夏秋冬のように巡って来るものというか。そこで「次はどんな時代になるのかな?」という希望や期待を込めたところもあるし、時代がどんなふうに変わろうと変わらないもの、続けていきたいもの、相変わらず自分のど真ん中にあるはずのものというのを見つめ直してみたというか。時代が変わっていく中で、これまでやってきたのと同じようなものでも違って聴こえてくるようなところがあるんじゃないかとも思ったし。
──そこで素直にアルバムのタイトルも『NEW DAYS』にすればわかりやすいはずなのに、『33』という意味がありそうでなさそうな表題が掲げられています(笑)。HEESEYさんのことだから駄洒落か語呂合わせ、もしくはこんな時代について「さんざん」だと言っているのかな、と思っていたんですけど実は全然違うようですね?
HEESEY:うん。3がふたつ並ぶとどうしても「さんざん」になってしまう。でも全然違うんですよ。それこそ自分が33歳になったのは1996年のことで、THE YELLOW MONKEYのすごく長いツアーがあったりもして、バンドにとってもすごいターニング・ポイントになった年だったんですね。で、当時は結構自虐的に「もう33歳だし、歳も取ってさんざんだよ」とか言ってたんですけど(笑)、そういう発想は良くないな、と。今回の歌詞を見てもらうとわかるはずですけど、僕、わりと縁起を担ぐほうなんで。
──存じております。わりと、という次元ではないと思います。
HEESEY:ははは、物事を悪いほうに捉えるのは江戸っ子としては良くないぞ、と。だから33という数字については〈さんざん〉ではなく〈さんさん〉だと思うことにしたんです。太陽がさんさん、あるいは美空ひばりさんの「愛燦燦」ですよね。そうやって、良い方向に寄せて考えたほうがいい。3がふたつ並ぶと、それこそ三々九度とかもあるじゃないですか。おめでたい数字だと思うんですよ。
──ええ。三々七拍子というのもありますし。
HEESEY:そうそう。なんか3というのはラッキーナンバーみたいなところがある。しかもそれを2つ並べたらもっとラッキーになるはずだし。
──しかも〈33〉という数字は、数秘術によるHEESEYさん自身のナンバーなんですよね?
HEESEY:ぞろ目はレアらしいんです。数秘術というのは占いの一種で、今回のレコーディング中に、エンジニアの赤波江さんが教えてくれたんです。作業中に「HEESEYさんはやっぱ発想がぶっ飛んでるというか、突飛なことを言いますよね。やっぱ33だからですよね」「えっ?」みたいなやりとりがあって。その時に数秘術というものを知って、「これはちょっと面白いぞ」と思って嵌まっちゃって。ホントは歌詞書かなきゃいけない時期だったのに調べまくって、そこで「そうか、ちょうどまだアルバム・タイトルも決めてなかったし、3枚目だから『33』でいいじゃないか」ということになって。THE YELLOW MONKEYのアルバムも『9999』で数字が並んでたけど、まあいいか、と(笑)。
──そこでも偶然、関連性が生まれたわけですね。HEESEYさんは元々、占いとかを信じるほうなんですか?
HEESEY:良いことだけ信じます(笑)。やっぱり縁起を担ぐほうで、しかもお調子者なんで、「当たってねえな」と思うこととか悪いことは忘れるようにしてます。
──都合のいい信じ方というか、超ポジティヴな受け止め方というか(笑)。僕もその数秘術というやつについて調べてみたんですけど、〈33〉というナンバーの人は「独特の存在感を持ち、若いうちは地に足がついていないが、精神性が高く愛情深い」そうで、「思いを傾ける対象の幅はかなり広く、通りすがりの人でも困っていれば助ける」タイプだそうです。「根が真面目」「独自の感性を誇りに思っている」というのもあるようですね。確かにすごくHEESEYさんの人物像に重なるところが多々あります。
HEESEY:ね。その「独自の感性を誇りに思ってる」というところなんかは特にそうだと思う。昔から「変わり者だね」とか言われると褒められてるように感じてたし(笑)。そういう都合のいいところも結構当て嵌まるんじゃないかと思ったし、調べてみればみるほど当たってるので、これはもうアルバム・タイトルにするだけじゃなく曲も書いちゃえと思って。それで「33」という曲も作ったんです、そのことをテーマにしながら。
──ちなみに〈33〉の人というのは「リーダー・タイプではないものの柔和な人柄が愛されやすく、天然発言が面白いので独特なポジションを確立する可能性がある」そうですよ。
HEESEY:ひゃははは。まあ数秘術の話ばかりするのもナンですけど、僕の場合〈33〉であると同時に、3と3を足した〈6〉でもあるそうなんですね。で、その〈6〉は調和を意味するらしいんです。つまり子供っぽくて無邪気な〈33〉と真逆の側面も最初からある、と。「わーい」とはしゃぐ自分がいるのと同時に、衝動を上手くまとめようとする自分もいる。その両者が自分の中でせめぎ合ってるみたいな二面性があるらしいんです。
──無邪気さと理性が交互に顔を出す、みたいな。
HEESEY:そうですそうです。調和を取ろうとする〈6〉の力というのも、それはそれで有益だと思うんですよ。たとえばバンドの中で複数の意見があった時に、それをどうにかまとめようとする気持ちが働くわけで。まあ数秘術にもいろんな流派みたいなものがあるようで、調べてみるといろんな解釈が出てくるんですけど、ほとんどに共通してるのが今、話に出たようなことなんですね。だから自分の中で混乱することがあったり葛藤をおぼえたりすることがすごくあるのは〈33〉と〈6〉が同居してるからなんだな、という理解に至って、「なんでそこまでわかってくれるんだ。ありがとう、数秘術」みたいな(笑)。そこでちょっとウルウルしちゃった部分もあるくらいなんです。長年の葛藤の正体がわかった、みたいな。
──そうやって何かに興味を持ち始めると、とことん調べてしまうのもHEESEYさんらしいところですね。さきほどの「根が真面目」というのにも繋がってきますけど。
HEESEY:そう、それもこの数字の人の性格だそうで。だから今回の場合、「NEW DAYS」というのはこのご時世ゆえのものでもあるんだけど、僕自身が〈33〉という数字と出会ったことで新しい日々が始まったというところにも重なっていて。これも自分にとって新たな時代の始まりなのかな、と思うんです。そういうことを自覚して、覚醒を経た後の時代というか。レコーディング中に〈33〉について知って、そういう理解を経たことから、やっぱり今回はとにかく好き勝手にやろう、と。〈6〉の調和はちょっと脇に置いといて、ふたつの3の欲望が赴くままにアルバムを作ったほうが絶対に個性が強調できて、自分ならではの持ち味をガンガン出せるはずだと思ったんですよ。言葉ひとつ、音ひとつを選ぶにしてもすべて思うがままというか、閃いたまんまでいいんだと思えたんですよね。だからある意味、この数字との出会いがそうさせてくれたところがあるし「俺は33なんだ」と思いながらレコーディングを全部まっとうできたような部分があるんです。
──同時に、どんなに〈33〉の自分がやりたい放題やっても、最後には〈6〉の自分が出てきて上手くまとめてくれるはずだ、みたいなところもあるはずで。
HEESEY:そう。どっかにやっぱり無意識のうちに〈6〉の調和させる力が働くところがあるはずだから。
──まさにそういうアルバムだと思うんです。一言でいえば当然ロック・アルバムですけど、さまざまなジャンル感の曲たちが混在しているし、また新たな形を発明していたりもするし。
HEESEY:とりとめもなく、閃くがまま思うがままに作った結果ですね。
──せっかくの機会なので各曲について聞かせてください。やっぱり「NEW DAYS」での幕開けというのがすごく象徴的なんですが、これは2曲目の「ROCK'N'ROLL SURVIVOR」が先にあったうえで作られたものなんですよね?
HEESEY:そうです。「ROCK'N'ROLL SURVIVOR」ありきで。そこに続いていく序曲みたいなものにしたかったんです。ミニマムなんだけど音は分厚くて、すごく濃厚でシンプルな短いもの。そういうオープニングにしたかったんですよね。
──ある意味、クイーンの「We Will Rock You」的な空気も感じさせられます。
HEESEY:まさに。それはちょっと意識の隅にありましたね。こういう曲でアルバムが始まるというのには、ちょっと往年のロックの美学みたいな部分もあるし、アルバムの冒頭で今なりの想いを伝えたかったというのもあったし。
──それに導かれて「ROCK'N'ROLL SURVIVOR」が始まる。この曲がアルバム制作全体を通じての鍵になったようなところがあったわけですか?
HEESEY:そうですね。曲の破片みたいなものはこの曲ができる前からいくつかあったんですけど、「ROCK'N'ROLL SURVIVOR」が歌詞もない状態で曲として生まれた時に自分でも思ったのは、こういう時代、コロナで常識が変わるようなところがあろうと自分の好きなものは変わらないし、自分のど真ん中にあるロックンロールをやりたいということで。まさしくそういう曲ができたから、これはアルバムの核になるんじゃないかと思えたし。で、そういうロック・アンセム的なものを作るにあたって、ちょっと世相を反映させる意味でsurvivorという言葉を使って。要するにロックンロールでこの時代をサヴァイヴしていこうぜ、ということなんです。ちょっと夢物語というか理想論っぽくはあるんですけど、自分の想いと世相がリンクしている感じがあったし、考え方としてもこれが自分のど真ん中だなと思えたんで。しかもこの曲で、今まで出せていなかったロックンロール感みたいなものを形にできた気がするんです。コアな部分は変わらないんだけど表現の仕方としてちょっと新しいなあ、と感じる部分があって。
──いかにもHEESEYさんらしく感じますけど、同時にHEESEYさん自身にとって新しくもある。変な話、ど真ん中すぎるものをやることを、敢えて避けてしまうことってあると思うんですよ。これまでこういった曲がありそうでなかったのは、そのためでもあるかもしれません。
HEESEY:まさしく。実は今日、絶対そのことを言おうと思ってたんです(笑)。そんなふうに思って作った曲がいっぱいあるんですよ、特に今回は。
──たとえば初めてソロ・アルバムを作る時って、「ああ、HEESEYはこういうやつなんだ」というのを伝えたいのと同時に、それが見え過ぎてしまうのも避けたいというか。
HEESEY:うん。なんかちょっと違う味を披露したくもなるし「いや、そんなに簡単にわかられてたまるか」みたいな気持ちも以前はあったし(笑)。
──意外性も欲しいですしね。でもこのご時世、心底好きなことをやらないでどうする、というのがある。つまり『33』は、「こういう曲を一度は作らないと後悔するぞ」というような曲が詰まった作品でもあるわけですね。そしてその表題曲の「33」はメランコリアの入ったロックンロールというか。それもHEESEYさんの得意とするところですよね?
HEESEY:僕の中ではちょっと「ヨーロッパの風が吹く」みたいな感じというか(笑)。しかも若干、北欧寄りの感覚なんです。たとえばABBAみたいな北欧のポップスに通ずるメランコリックさとか、ヨーロッパ(=バンド名)のなんとも言えないもの悲しさみたいなのに惹かれるところが自分にはあって。ただ、過去にもそういう曲はあったんですけど、もうちょっとダンス寄りに持って行っちゃってたり、違う味付けをしたりしてたんですよね。だけど今回はもっとストレートなアプローチでそういうのをやってみようと思って。そういう曲をやりたいなと思ってたところで〈33〉という数字と出会ったので、この曲を「33」にしてしまおうということになったんです。
──歌詞にもその〈33〉という数字が意味するものがちりばめられています。
HEESEY:やっぱり今にして思い返すと、「数秘33」は自分的に相当あるあるだったんでしょうね(笑)。ただ、そればかり書くとあまりに自分本位になり過ぎちゃうかな、とも思ってたんですよ。聴いてくださる人たちの大半は〈33〉じゃないわけで。だけど結局は自分本位というか、自分をわかってもらおうとしてる歌詞になっちゃいましたね(笑)。
──自分本位というと語弊がありますけど、ちょっと自虐ネタも入ってますよね。
HEESEY:うん。自虐を交えた自己紹介。自分の数秘ナンバーを知った上での「自己紹介2022」ですね、これは。結局、自分が好きなんでしょうね。だから、この期に及んでもまだ自分をわかってもらおうとしてるんです(笑)。
──そして次は「RALLY ROULETTE ROLL」。これはむしろ「ラリルレロ」と呼ぶべきでしょうか?HEESEYさん流の語呂合わせというか駄洒落も、ついにここまできたかという感じで。
HEESEY:そうそう。前から「駄洒落とライムは一緒だよ」と言ってきましたけど、これはまさにその極みですね。なんか意味がわからない歌詞というか、ホントにライムだけで押し切るような歌詞の曲を作ってもいいんじゃないかな、と。そういうのがあっても面白いんじゃないかなと思って。たとえば“Let it roll”という言葉をよく洋楽の歌詞に出てきますけど、僕らは“レリロー”みたいに言うじゃないですか。そんな歌詞でも面白いかな、と。で、“レリロー”でいいなら“ラリルレロ”でもいいんじゃないかと思って、“ラリルレロ”って何度か口に出してるうちに、この言葉に辿り着いて。卓球とかレースにもあるラリー、そしてルーレットは回るものだからロールしていく。なんか意味を成すな、と思って。で、ルーレットだからギャンブル方向ね、みたいな歌詞の作り方だったんです。人生にも行動にもギャンブルっぽいところあるよね、という。ただ、それってロックにおける昔ながらのベタなテーマのひとつじゃないですか。昔の僕だったら、悪いやつらのロックの典型みたいなありきたりなものとして、むしろ絶対避けてたと思うんですよ。でもなんか、今だったら時代的にも一周回って面白いんじゃないかな、と。ちょっとした「ロックってこうだよね」っていう部分。そうやって、これまで出さなかった部分を出してるというのは、さっきの話とも共通してるところですよね。
──語呂合わせから発想したものがちゃんとしたテーマになっているのがすごいですよ。
HEESEY:てへへ(照笑)。せっかく語呂合わせから書き始めたんだし、せっかくだからアイウエオもガギグゲゴも入れちゃおうと思って、なんか意味のありそうな漢字を適当に当て嵌めていって。そのへんは歌詞カードを見て楽しんでもらえればな、と思います。
──こうしてさまざまな匂いのロックンロールが並ぶ中、次の「雨音のララバイ」では世界が一転します。これまでになかったジャジーな楽曲ですが。
HEESEY:ジャズってやっぱりミュージシャンとしてどこか憧れるところがあって。しかもベーシストだと、自分の色を発揮しやすいカテゴリーだったりもするし、年齢を重ねるほどに「やっぱジャズってカッコいいな」と思ってるところがあって。いつか自分的な、ロック的なアプローチでジャズっぽい曲を作ってみたいなという願望は、実は前々からあったんです。だから曲としてできあがったのは今回なんですけど、あのイントロの感じとかは結構前から温めてきたもので。今回は演奏の編成も敢えて少なくして、本当にカルテットでやっていて、ダビングとかもせずに「せーの!」で録りました。しかも、ベースでこんだけソロ弾いたのも初ですね。ギター・ソロがないんですよ、この曲。本来ギター・ソロが出てきそうな箇所がベース・ソロになってるんです。初めてのジャズへのアプローチで、しかも初めてこんなに長いソロ。自分でもちょっと驚きではあったんですけど、結果的には「俺がジャズ弾くんだったらこんなふうに聴かせたいな」というものがちゃんと素直な形でできたので、そこでの満足感がすごくあります。
──いつかやりたかったことをやるうえで、機が熟していたというのもありそうですね。さて、次の「オンリーワンラヴソング」はオールディーズ的な匂いの漂う曲。コーラスはカタカナで表現すると「ワッシュワリワリ」でいいんでしょうか?
HEESEY:よーく聴くと「ブラッシュワリワリ」ですね、これは。頭にちっちゃい「ブ」が入ってる感じ(笑)。それはともかく、やっぱりロカビリーとかオールディーズはすごく好きだし、そういう香りというのに惹かれるところがあるんですよね。ビートルズにしろキャロルにしろ、そういったものは背景にあるじゃないですか。当時親しんできた歌謡曲とかにもそういう要素はすごくあったし。それこそ大瀧詠一さんとかが関わった曲とかね。そういうテイストをちょっと盛り込みたいな、というのがありました。歌詞を書くうえでも、そういったオールディーズ感を意識しましたね。ラヴソングという言葉もすごくベタなものじゃないですか。だけどその言葉自体も、同時代性というか、オールディーズの時代を思い起こさせるものとして使っていて。しかもそれはLove Songじゃなくてカタカナ表記にしたかったんです。
──続いては「HIPPIE ROSE」。真ん中の“PPIE”を除くとHIROSE、つまりHEESEYさんの名字になります。
HEESEY:そうなんです。初めて外国に行った頃、ホテルのロビーで名前を呼び出された時に、フロントの人がHIROSEを読めなくて、「ヒ、ロージィ?」みたいに言ったんですよ。「えっ?」と思って。そういえば俺、名前の中にROSEが入ってるんだよなあ、と気付かされたんです。「俺、薔薇かあ」と(笑)。でも、それこそ薔薇ってロックのいちばんベタな花じゃないですか。自分の名字にROSEが入ってるのはカッコいいけど、さすがにそれはちょっとこっぱずかしくて使えねえな、とずっと思ってたんです。でも、もういいだろう、と。
──ついにここで禁断の薔薇に手を出した、と。
HEESEY:そうそう(笑)。なんか薔薇ってバッチバチにロック感の典型的なものだと思ってたし、もしくは沢田研二さんとか布施明さんの世界になっちゃう。だけどこれももう一周回ってOKになったというか、ここまでくるともう全然照れ臭くもなんともないや、みたいな。歌詞も“ROSE”が呼んでくれたものですね。実は最近、お袋が亡くなったんですね。年が明けて、アルバムを作り終えてからのことだったんですけど、それまでもずっと入院していてもう長くないだろうなというのがあって。で、僕も来年には還暦ということになるんですけど、ある意味、廣瀬の名前を受け継ぐというか。父親のほうはもう20年以上前に亡くなってるんですけど、その名前をこれから受け継いでいくんだという意識がどこかにあったのと、名前だけじゃなく自分の中の薔薇、つまり自分の中の大切なものをこれからも持ち続けていきたいという気持ちが重なったところがあって。その薔薇というのも、ずっと受け継いできたものだと思うし。
──その話を聞くと、歌詞の聴こえ方も少しばかり違ってくるように思います。そうした意味深長な曲の次に登場するのが「THUNDER GATE SHUFFLE」です。雷門シャッフルですね、つまり舞台は浅草(笑)。
HEESEY:下町生まれなもんで(笑)。なんか悪い感じ、怪しい感じの曲が欲しいと思って曲先行で作ったんです。こういうシャッフル・ビートってグリッター・ロックとかグラム・ロックにはつきものだったりするじゃないですか。ゲイリー・グリッターとか、スージー・クアトロとか。ああいうビートの曲は大好きだし、THE YELLOW MONKEYにも自分の過去にもそういう曲はあるんですけど、それを今なりのヴァージョンにして、ちょっと変わった歌詞というか、自分ならではの歌詞を載せてみたいなと思ったんですね。で、たまたま『TYO YEARS』の時に雷門のあたりで撮影させてもらったりしたんですけど、ああいう下町感とか東京のカッコ良さ、粋な感じというのは元来自分が好きなものだし、ああいうデンデデンデデンっていうビートには日本の祭り太鼓感もあるじゃないですか。そこで、ちょっと洋楽ロックの持ってる怪しげな感じを日本的に表現できないかなあと思った時に、妖怪とかばくち打ちの悪いやつとか、そういうのが祭りになるとみんな勢ぞろいする、みたいなのが浮かんできたんです。そういう“悪いやつ感”というのを、あくまで日本語で表現したかったんですよね。江戸前っぽく。なんか怪しげなんだけど「カッコいいね」みたいな。
──「いよっ」と声をかけたくなるような。
HEESEY:そうそうそう。そういう歌詞にしたかったんです。言葉を選ぶのが大変でしたけど。でも、こういう洋楽チックな曲に敢えて英語を載せない、むしろ和モノで行くというところにこだわったんです。他の曲にも結構出てくるんですけど、仏教用語みたいなものまで。これもまた今までは避けてたことなんですよね。逆に、こういう日本っぽさを英語でやれないかなと昔は思ってたわけです。でもそこで敢えてロックの歌詞では使わないような「極楽浄土」とか「抜苦与楽」とか「傾奇者」とか「数寄者」とかっていう日本語を多用しました。
──思い付きで面白い言葉を並べているだけかと思いきや、ちゃんとトータルな統一感があって意味のあるものにしているのもHEESEYさんならではの部分だと思います。そこは〈33〉の人ならではの「お調子者だけど根は真面目」なところが出ていると思います。
HEESEY:あはは、そうですそうです。一度嵌まっちゃうとガーッとのめり込んでいくところもそうだし。
──そして次は「SAMBA No.9」です。前作ではポルカがありましたが。
HEESEY:今回は浅草繋がりでサンバです(笑)。やっぱりワールド・ミュージックの面白さというのに惹かれる部分もあって。そのままやっちゃうとホントに土着的なものになり兼ねないですけど、そこに自分の好きなロックとか歌謡曲とかいろんなものを合体させる面白さというのを、前回の「POLKKA No.5」で見出してしまって。前回は55歳当時だったので「No.5」にしましたけど、今年は59歳になるんで「No.9」にして、しかも9曲目に配置したんです。しかもキーワードでもあるふたつの3を掛けると9になるし。
──そのへんの細かいこだわりもHEESEYさんらしいです。そして次が「スーパーハイパーウルトラエクストラ」。要するに超すごい単語ばかりが並んでいますが。
HEESEY:うん。この言葉は以前、TYOをやってる時に、ツアー・タイトルとして使っていたんです。なんか面白い言葉だからいつか曲にしたいなと思っていて、実際、曲としては2ndアルバムを録り終えたぐらいの頃にはあったものなんです。この形にまとめたのは最近なんですけどね。自分流の直球なポップなロックンロールをロカビリーテイストにしてみました。歌詞とかにもそれを落とし込んで、なけなしの金で土曜日に精一杯のお洒落をして彼女をデートに誘う、みたいな。そういう50年代、60年代的なティーンエイジャーのストーリーの現代版というか。だから男の子目線の歌詞と女の子目線の歌詞が交互に出てきたりもするんです。
──なるほど。この景気のいいムードが次の「INFINTY OF MY GROOVE」で一転します。ブリティッシュ・テイスト漂う「バラード寸前のバラードになりきらない曲」という感じですが。
HEESEY:そうですね。このタイトルは自分の造語みたいなもので。去年の誕生日、58歳になった時に、8を横にした∞(無限大)の記号をモチーフにして、無限大のグルーヴという意味の言葉を58歳になった自分のキャッチフレーズにしたんですね。誕生日ライヴで、そういうグッズも作ったりして。で、この言葉自体が自分の生きざまに通ずるものだし、歌詞にできるはずだな、と思い立って書いてみたんです。グルーヴってもちろん音楽的、楽器的なノリも指すわけですけど、人間の性格的な部分、「あいつのノリってこういう感じだよね」っていう意味でも使えるものだと思うんですよ。今、こんな時代でこんな状況になっていて、リアルとヴァーチャルが交差してるところがあって、画面越しでもリモートとかでいろいろできるようになってるじゃないですか。でもなんか、そういうのが進むほど生のライヴで聴いて欲しいという気持ちが強くなってくるし、「結局、俺のノリってそういう感じなんだけど」というのがあるんです。このグルーヴは無限大のものとして続いていくものであって欲しいし、そうしていきたい。これはそういう曲で、結果、バラードではないんだけども最後に合唱するのが似合う感じに仕上がったんです。
──マスク越しでもいいからライヴで合唱したいところですよね、この曲に限ったことじゃありませんが。さて、アルバムの物語はここで閉じるんだけども、そこからまた冒頭へと導いていくかのように「NEXT NEW DAYS(New Days Reprise)」が続いていく。歌詞には、これまでに登場した各曲タイトルが並んでいて、ちょっと映画のエンドロール的でもあります。
HEESEY:まさにエンドロールですね。収録曲の全部のタイトルをヒップホップっぽいリズムに乗せていって。その結果、この曲だけ全編英詞になってるんです。
──ここからまた「NEW DAYS」に戻ってもう一周聴きたくなります。そしてこのアルバムに伴うツアーも3月26日の仙台公演を皮切りにスタートします。ツアーにはアルバム制作と同じ顔ぶれで臨むことになるんでしょうか?
HEESEY:うん。このメンバーでツアーを、ということを前提にアルバムを作ったところがあるんで、彼ら(菅大助:G、おおくぼけい:Key、大山草平:Dr)と一緒に回ります。もうなんか、敢えて言い切っちゃいますけど、このアルバムから全曲やろうと思っていて。もちろんこれまでの2枚のソロ・アルバムからもピック・アップはするんですけど、あくまで『33』をメインにしたツアーがやりたいし、まさしく「ニュー・アルバムを引っさげてのツアー」と言えるものにしたいと思ってます。ツアー・タイトルも<ROCK'N'ROLL SURVIVOR>なんですけど、要するに「一緒にサヴァイヴしようぜ」ってことです。これが皆さんの特効薬になったらいいな、と思いますし。ホントにあの曲の歌詞そのままに、免疫上げることや滋養強壮に繋がるような(笑)。
──アルバム制作の動機も、この先のツアーの動機も一致しているわけですね。
HEESEY:そうですね。それこそ「おまえ、ロックンロールがワクチンになるとでも思ってんのかよ?」と言われるかもしれないし、ちょっと夢見がちな歌詞だなとは自分でも思ってたんですけど、やっぱり好きなものを楽しむことが免疫力を上げるところってホントにあるみたいで。普段からハッピーな気分でいたり、物事を楽観的に捉えたりすることで、自分から特効薬が湧き出てきたりするようなところがあるそうなんです。だったらもう、ホントに気持ちから上げていこうじゃないか、と。そうやってみんなでサヴァイヴァーになろうぜ、というツアーなんで、みんなにもそのつもりで足を運んでもらえたらな、と思ってます。
取材・文◎増田勇一
廣瀬“HEESEY”洋一『33』
PML-2006
[収録曲]
1.NEW DAYS
2.ROCK'N'ROLL SURVIVOR
3.33(Double Three)
4.RALLY ROULETTE ROLL
5.雨音のララバイ
6.オンリーワンラヴソング
7.HIPPIE ROSE
8.THUNDER GATE SHUFFLE
9.SAMBA No.9
10.スーパーハイパーウルトラエクストラ
11.INFINITY OF MY GROOVE
12.NEXT NEW DAYS(New Days Reprise)
CDショップ特典
・Amazon:メガジャケット
・タワーレコード:ステッカー(TOWER RECORDS ver.)
・セブンネット:ステッカー(セブンネット ver.)
・応援店:ステッカー(応援店 ver.)
・HMV:ポストカード(HMV ver.)
・楽天ブックス:ポストカード(楽天ブックス ver.)
・Sony Music Shop:ポストカード(Sony Music Shop ver.)
<HEESEY TOUR 2022『ROCK'N'ROLL SURVIVOR』>
3月27日(日)栃木 HEAVEN'S ROCK 宇都宮 VJ-2
4月2日(土)広島 SIX ONE Live STAR
4月3日(日)福岡 DRUM SON
4月9日(土)愛知 ell.FITS ALL
4月10日(日)大阪 Music Club JANUS
4月16日(土)東京日本橋三井ホール
東京公演以外:All Standing(立ち位置マークあり)¥5,500(税込)
東京公演:全席指定¥6,600(税込)
※一般販売:2022年2月26日(土)~
SUPPORT MEMBER
・Guitar:菅大助
・Keyboard:おおくぼけい
・Drums:大山草平
◆廣瀬“HEESEY”洋一オフィシャルサイト
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