【ライブレポート】変幻自在のNUL.
手を替え品を替え、ライヴで毎回、何らかのサプライズを仕掛けてくるNUL.。前回のハロウィンではゾンビメイクで登場したが、2022年一発目のライヴは何で驚かせてくれるのだろうか? そんな期待を胸に会場へ足を運んだファンも少なからずいたことだろう。
今回もコロナでいろいろ制限される中、定員いっぱいのファンが見守る中、<NUL/ live 2022“KARMA-AGNOSTIC”>の幕が落とされた。
◆ライブ写真
演奏はライヴタイトルにもなっている「Karma-Agnostc」からスタート、「From Deep Underground」へとテンポを上げていく。リズムに合った岸利至(Prog)の身体の揺れも大きくなり、MASATO(G)のエッヂの効いたギターサウンドもガンガン耳を攻撃してくる。かと思えば、気持ちを鎮めるようなHIZUMI(Vo)の唄と静寂なサウンドが逆に不気味に思えたり。
1曲中で繰り返し展開される、音圧とテンションの激しい落差が、オーディエンスの心を揺さぶっていく。さらに、VJチームによる視覚的な効果がNUL.の世界観をより立体感のあるものに形作っていく。今はまだコロナによる様々な規制があるものの、オーディエンスは直にNUL.のサウンドを浴び、曲に合わせ身体を動かして、時に手をステージへと差し出したりと、それぞれ自由に楽しんでいる様子。
「盛り上がってますか? まだ声は出せないけど、俺たちも精一杯やるんで。気合いを飛ばしてもらえば(みんなの想いは)伝わると思います」──HIZUMI
そう会場に呼びかけた後、「Seed in the Shell」へ。人気ナンバー「Black Swan」では哀愁を帯びたサビにオーディエンスも酔いしれる。退廃的で無機質な世界観に盛り込まれた一滴のハートフルなエッセンス。それが聴く人、観る人の心を鷲掴みにしているようだ。
「Another Face」「Ground Zero」では静の部分を表現、2021年8月のライヴからメニューに加わったプログレ要素たっぷりの「Instrumental(仮)」ではHIZUMIが吠えて狂気な雰囲気を醸し出しつつ、一旦静まった会場の温度を上げてから「Kalima」、ダンサブルな「I don’t seek,I find」と続けフロアを踊らせる。
そして、換気も兼ねたMCタイム。サポートメンバー、石井悠也(Dr)、岸、MASATOとMCを回していく途中で、MASATOの身に何らかのアクシデントがあったのか、iPadをHIZUMIに渡してステージから去ってしまう。彼の不在中、岸とHIZUMIにマイクが託され、今後のツアーや新譜のことについて展望を語ったり、iPadでコメントを拾ったり、配信カメラを意識してリアルタイムで画面の向こう側のファンに呼びかけたりしていたが、思いの外、MCタイムが長引いたため、HIZUMIと岸は石井悠也をステージの前へ呼び出すという暴挙に出る。
石井悠也は「ステージ前面で話すなんて、ほぼ初めてですよ! これ、公開処刑じゃないっすか!」と言い戸惑っていたようだが(MCの内容については配信ライヴでご確認を)、ファンにとって嬉しくて楽しい貴重な時間だったのは間違いない。
しばらくしてMASATOがステージに戻りライヴ再開、「POISON EATER」から「XStream」まで熱量の高いナンバーをたたみかけ本編を駆け抜けた。アクシデントを除けば、いつもどおりのNUL.のライヴ。このままの調子でアンコールが行われるのか?と思いつつ、ほとんどのオーディエンスはアンコールを求める拍手をしていただろう。しばらくして、ツアーTシャツに着替えてメンバーが再び定位置に着く。
「これから「Halzion」って曲をやるんですけど、「Halzion」といえば誰かな?」というHIZUMIの謎かけで会場は「まさか…」という雰囲気に。そこへ登場したのはdefspiralのベース・RYOだ。コロナ禍でなければ、ここで大きな歓声が上がったのだろう。そのぶん、興奮と歓喜の声は、盛大な拍手に変換されて会場を包み込み、待ってましたとばかりにオーディエンスはRYOを迎え入れる。
そして初めて5人体制で演奏された「Halzion」。その編成のまま「nomad」「Plastic Factory」の計3曲が演奏され、大いに盛り上がりを見せた。また、配信が終了した後、ダブルアンコールで「XStream」も演奏されたのは会場に来てくれた人だけのお楽しみとなったことを付け加えておこう。
ライヴを重ねるたびに、NUL.の音楽がお客さんたちの皮膚から細胞の中へとどんどん浸透していってるように感じる。時にドラムを入れて、時にベースも入れて、時に3ピースで。ライヴでのNUL.は変幻自在だ。それができるのも、デジタルサウンドとギター、唄、その3本柱でNUL.の音楽が確固たるものとなっているからこそ。
また、3人という変則的かつ余白のある自由度の高い編成ゆえ、いろんな魅せ方でオーディエンスを楽しませることができるし、その変化に富んだライヴをメンバー自身も楽しんでいるのかもしれない。頭の柔らかいNUL.のこと、これからも我々を驚かせてくれることだろう。
ライヴのMCで話題に上った、次のツアーや2ndアルバムも気になるところ。ということで、もう少しヒントをもらおうと、今夜のライヴの感想、今年の展望について、ライヴを終えたばかりのメンバーに直撃インタビューを行った。
◆ ◆ ◆
【終演後メンバーコメント】
■岸利至(Prog.)
今年初めてのライヴ、久々な感じがするかな?と思いステージにあがりましたけれど、意外とそれはなかったですね。制作やトーク配信でメンバーには会ったりしていたので。結果、構えることなくライヴの世界に自然に入り込め、セットリスト最高潮のところでは、アドレナリン出まくりでした。ただ、予期せぬトラブル、ハプニングがいくつかあり、また、まさかの長時間MCも(笑)。MCは、お客さんが失笑でもしてくれたら救われたんでしょうけど、今、声を出せないから、常にドッ白け状態(笑)。なかなかハードでした。でも、そんなハプニングもちょっと面白かったです。
特筆すべきは、「Halzion」のコーデイングに参加してくれたdefspiralのRYO君がライヴに参加してくれたこと。お客さんにはいいサプライズになったと思うんですけど、いつかRYO君と一緒にやりたいよねって、メンバーでよく話していたんです。レコーディングでは1度も会うことなくリモートで参加してもらって、一旦、そこで音源は完成したけれど、僕らとしては今回、ステージ上で一緒に演奏したことで、真の 『Halzion」感がありました。
今回のドラマーを加えたスタイルはNUL.ライヴの最高な形の一つで、これからもツアーで進化させていきますが、ツアー後はまた違ったアプローチを模索していきます。HIZUMIがステージで夏のツアーをやりたいって言ってましたけど、まあ言ったからにはそれを目標に、2nd アルバム制作~2nd Tour 実施に向けてがんばります。
■MASATO(G)
NUL.始動から2年ちょっと経って、ライブは何度かやったきたけど、やっとこの環境に馴染んできたなと今回のライブで感じました。というのは今まで、自分がやってきたバンドとNUL.を比べると、ライヴ環境がかなり違うからなんです。サウンド面でもそうだし、ライヴでイヤモニ(=イヤーモニター)を使っていることもそうだし。俺、これまでイヤモニが嫌いだったんですよ(笑)。それがNUL.のライヴを重ねることで慣れてきたというか、身体に馴染んできたというか。それもあって、ライヴもより楽しくなってきたとんじゃないかと。
あと今夜に関しては、レコーディングで参加してくれたRYOと、NUL.のMASATOとして一緒にステージに立てたのは楽しかった。実は「Halzion」のレコーディングでベース弾いてくれない?とオファーした時から、俺の中では考えていたんです、レコーディングを受けてくれるなら、ライヴもやってくれないかな、と。それが今回やっと実現した感じですね。やっぱり、生ベースが入るとグルーヴ感がスゴく変わってくるんで。
もちろん、3人のNUL.のライヴも面白いし、ゲストドラマーを入れた4人体制のライヴも面白い。だけどベースが入ったバンドスタイルのライヴにはまた違った楽しさがあるんです。なので、このバンドのスタイルでも機会があればまたやりたいですね。NUL.は3人ユニットで、ガチッとしたバンド編成じゃないから遊べるっていうのもあると思うんですよ。3人ユニットであることを逆手にとって、今後も、いろいろ試しながらライヴができたらって思ってます。
■HIZUMI(Vo)
アンコールでも言いましたけど、RYOくんがTRANSTIC NERVEをやっていた頃から彼のベースが大好きなんですよ。だからレコーディングで「Halzion」のベースを弾いてくれることになった時、タイミングをみてステージで弾いてよ、と前々から打診していたんです。で、今夜は2022年一発目のライヴだし、サプライズ的な要素が何かあったらいいな…ということでRYOくんに来て弾いていただきました。
完全にシークレットにしておこうと、ライヴの本編ではベースのセッティングやRYOくんの機材は徹底的に隠して(笑)。もし、いつもと違う機材が何かしらあったら、勘のいいお客さんに気づかれそうじゃないですか? それじゃあせっかくのサプライズも意味がないですから。ベースアンプは本編からステージにあったんですけど、あれはNUL.のライヴ・セッティングではデフォルトです。いつも、ベースアンプからシンセ・ベースの音を出してるんですね、迫力を出すために。
今回、単純に前から考えていたことが形になったのは嬉しかったですし、ベースが入るスタイルでのライヴは、やっぱりテンション上がりました。ずっとバンド畑で育ってきてるんで、生ベース、生ドラムが入ると自ずとテンションも上がるというか。ギアが1段上がる感覚に近いのかな。きっと、ライヴ配信で観てくれてた人にも、俺のテンションが上がったこと、感じ取れたんじゃないかな?と思います。匂わせることもなくサラりとサプライズをやっちゃうのが、NUL.だと思うんです。俺らはたまに、そういうサプライズも用意してるんで、一瞬たりとも見逃さないでほしいですね。
今年はツアーもやりたいし、自分の名前がクレジットされるような作曲にも挑戦しようと思ってます。俺の曲がNUL.の作品に加わったら、また新たなNUL.の一面を見せられるはずですから。ライヴだけじゃなく、音源制作でも各々が新しい挑戦ができればいいな、そのためには自分も成長しなきゃなって思ってます。次はどんなサプライズが待っているか? 俺自身もNUL.を楽しんでいこうと思ってます。
◆ ◆ ◆
<NUL/ live 2022“KARMA-AGNOSTIC”>は2月13日23時59分までアーカイヴで視聴可能。
https://twitcasting.tv/nulofficial/
取材・文◎増渕公子[333music]
写真◎@Lc5_Aki
ライブスケジュール
2022年 2月13日(日)大阪十三GABU
◆NUL. オフィシャルサイト
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