【インタビュー】ZAQ「歌詞に歌わされるのではなく言葉の意味を伝えるために感情を乗せて歌う」

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2022年10月24日にアーティストデビュー10周年を迎えるZAQ。1月から9ヶ月連続でのリリースが決定しており、その第二弾となるのが、2月16日にリリースされるTVアニメ『薔薇王の葬列』第1クールエンディングテーマ「悪夢」だ。作品に寄り添って作られたタイトル曲「悪夢」について、たっぷり話を聞いた。

■主人公リチャードが宿命付けられた
■運命に抗う姿を描こうと思いました


──「悪夢」は、なかなかに暗くて重い曲でした……。

ZAQ:それに尽きると思います(笑)。

──TVアニメ『薔薇王の葬列』第1クールエンディングテーマとなりますが、どのように作っていったのでしょうか。また、アニメサイドからはどんな要望がありましたか?

ZAQ:まず原作を読ませていただいたんですけど、ものすごく暗くて。人間関係もドロドロしていて、絵が綺麗すぎるからこそ表情の細かさがダイレクトに伝わってきて、結構影響を受けてしまったんですよ。メンタルがズーンと沈んでしまって、作曲も手が付かない感じだったんです。3日間くらい悪夢も見続けたから、もうタイトルはそのまま「悪夢」でいいやと、実体験をもとに決めました(笑)。曲はローテンポで、「暗く」という注文がアニメサイドからあったので、自分的には壮大というか、真面目な音を使ってテンポを落としていくという作り方をしました。

──ゆったりとしたテンポの曲にしてほしいということだったのですか?

ZAQ:というよりは、病んでいるというニュアンスですね。そこから4曲提出して4曲目が採用されたんですけど、自分的には遅いと思っていたものも、明るいから、もっともっと落として、もっと暗くしてほしいということだったので、その落ちきったものが4曲目だったんです。ただ、その中でもメロディーは美しくありたいと思っていました。

──メロディーの美しさは確かに感じました。

ZAQ:歌謡曲テイストというか、日本の歌のような感じは意識していましたね。サビで歌い上げるような曲調というか。

──でも、実際は歌い上げていないですよね?

ZAQ:そうなんです。表情も無表情というか。2コーラス目の最後のほうは表情をつけるようにしていますけど、1コーラス目はとにかくテクニックに頼らず、とつとつと歌うことを心がけていたので、それは難しかったです。


──感情を開放して歌うイメージがあるZAQさんが、抑えて歌うというのは大変そうです。

ZAQ:初めての挑戦だったんじゃないかな。説得力を持つシンガーソングライターになるというのがポリシーで、歌詞に歌わされるのではなく、言葉の意味をちゃんと伝えるために感情をしっかり乗せて歌うことをずっとやってきたんですけど、今回は無表情で歌うということをしているので……。だからスタジオのブースも真っ暗にして録っていました。

──暗くして歌ったのですか?

ZAQ:そうです。でも私、どの曲も真っ暗にして歌っているんですけどね(笑)。歌詞も自分で書いているから別に見なくてもいいんですよ。だからずっと目をつむって真っ暗にして歌っています。アッパーな、ド明るい曲でもそうやっているんですけど、そのほうが没入感が増すんですよね。注意力散漫症なので(笑)、何かが目に入るとそれを見ちゃうんですよ。

──確かに暗いほうが集中できるかもしれないですね(笑)。歌詞については、<あの日 世界は消えた>からの冒頭3行が絶望的だったのですが、どこを切り取ろうと思ったのでしょうか。

ZAQ:切り取り方としては、作品の主人公であるリチャードの生まれ持った環境から宿命付けられている運命に抗う姿を描こうということで、フルコーラスを聴いていただければ、もがいている姿が映し出されるようになっています。

──MVが公開になったんですが、それが絵本風の仕上がりになっているんですね。

ZAQ:それは曲に起承転結がはっきりあるからで、リチャードが生まれた瞬間から、アニメの1クール分までを順を追って描いているんです。だから<あの日 世界は消えた>から、王を目指す物語は始まっているんですよね。



──歌詞自体が物語のように時系列になっているんですね。

ZAQ:そうなんです。その作り方も私にとっては珍しいもので、結構最初に結論を言いがちなんですけど、今回は絵本風・物語風の構成にしました。だから、夢から覚めるまでがずっと“悪夢”ですという感じ。

──アニメを見た流れで、この曲を聴いたとき、すごくリンクしていると感じたのは、作品に寄り添った歌詞だからこそなのですね。

ZAQ:アニメは展開がすごく速いし静かさもあるんですけど、原作はもっと激しくて表情も怖いんですよ。女性の作家さんが描く女性の怖い描写って本当に怖いんです。ヒステリックだしドメスティックだし、恐ろしい!って思うんですけど、そこがピカイチカッコ良かったんですよ。

──先程美しいメロディーと言いましたが、同時に怖さも感じられたんですよ。

ZAQ:それはポイントのひとつかもしれない。美しさと醜さが同居している作品というか。リチャードって生まれた環境も複雑で、男女2つの性を持つから難しい存在だったりするんですけど、その中で美しく、そして醜く踊り続けるリチャードというのが本当に素敵で、私の癖に刺さるといいますか(笑)、かなり好きな作品だったんです。

──怖さとか醜さを音楽で表現するためには、アレンジも大事だったのでしょうか?

ZAQ:大事だと思います。だから今回、編曲を石川智久先生に頼んだんです。実は自分でできるだけやろうとめっちゃ頑張ったんです。でも、どうしてもZAQが選ぶ音って明るいんですよね。音選びとか使う場所とか、SEもなんだか素直なんです(笑)。

──陽な感じはあるかもしれない。

ZAQ:そうそう(笑)。だからミステリアスにならないっていう。たぶんそういう性格なんでしょうね。猪突猛進、天真爛漫みたいな。なのでこれは石川先生の力を借りようと思ってお願いしたら、飛び道具的なSEだったり、ちょっと狂った音が入っていたり、ストリングスで泣かせにきたりしてくれて。

──そこは細かくお願いしていったのですか?

ZAQ:いや、とにかく暗くしてくださいと言ったくらいです。コード進行に関しては私もこだわっていたので、そこはデモを生かしてほしいとお願いしましたけど、基本的にはずっと一緒にやってきている石川さんにお任せでした。でも途中まで私がアレンジしたものも、何かのタイミングで公開できればいいなとは思っています。

──SEの音は本当に不気味というか、怖さがありました。

ZAQ:石川さんもプログレ的なものが得意だったりするので、ヘンな音が箇所箇所に入っていたりするので、それは本当にお上手だと思います。

──アレンジで気になったのは間奏のピアノの旋律で、美しくも儚くて、そこから2番までピアノが鳴っているところが印象的でした。

ZAQ:それは私のデモにあったものですね。忘れられた荊棘の森で踊り狂う鳥というのをイメージしていたんですけど、リチャードが踊っている様子をピアノで表現するために入れた感じです。2コーラス目からはビートも入ってきて、緊迫感が出てくる流れになっているんです。

──コーラスも厚くなっていきますよね? そこが表現が合っているかわからないですが神秘的で。

ZAQ:コーラスはレコーディングのときにその場で考えていったものですね。1コーラス目はコーラスを入れずに、主メロだけをストーリーテラーとして歌っているんですけど、2コーラス目からはコーラスも重厚になっていくのでゴシックっぽかったりするんです。だから神秘的という表現はそういうことなのかなと思います。輪唱していたりするので(笑)。

──そうなるとフルコーラスで聴いてほしいですね(笑)。

ZAQ:そうなんですよ! でも最近は5秒で飽きるなんて言われますから、私も頑張らないと……(笑)。

──サブスク時代にクリエイターが抱える悩みですね。短い曲じゃないと最後まで聴かれないという。

ZAQ:私はDメロに一番言いたいことを詰め込むタイプなので、Dメロが心臓部分なんです。だからそこまで聴いてほしい(笑)。それもあって最近はAメロ始まりが多いんです。早くみんなの心を掴むというのは私も意識しているところではあります。しかもそのメロディが良くないと聴いてもらえないので、メロディの強さというのは大事だなと。

──実際に、冒頭からひきつけられるような楽曲にはなっていたと思います!

ZAQ:今回は自分のやりたいようにやってしまった感じもしますが、作品が好きだったので、あと5曲くらい書きたいなと思うくらいでした(笑)。

──4曲も提出していたのに!

ZAQ:さらに書きたい(笑)。これまで明るい曲をたくさん作ってきたし、作家としても明るい曲を求められることが多く、あまり人の心のインサイドに寄った歌詞を書いてほしいと言われたことがなかったんですけど、こういう暗い、吐露したい気持ちはいくらでも出てくるなぁと思いました。

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