【インタビュー】Reol、『第六感』を切り拓いた「いちばん大きな交差点に出るということ」
■仕事やプライベートで人と関わるなかで
■どうしてもメメントモリというのは考える
──「第六感」は、曲作りとしてはどういうところからスタートしているんですか?
Reol:これはサビのメロディから作りました。その後にビートを作って、という感じですね。
──デモ段階でどのあたりまで作り込んでいくんですか。
Reol: CM(『BOAT RACE 2020』イメージソング)尺で流れたサビの部分、あれがデモのようなものでしたね。打ち込みなので、プリプロのようなものがないからデモというデモもない。タイアップの話をいただいてCMとして使われるとなると、サビから作ったほうがいいとなるんです。とはいっても、もちろん別にAメロから作ってもいいし、自分がどこから助走をつけたらうまくいくかみたいなことを試した結果、「第六感」はサビからできたという感じでした。
──曲や編曲を一緒にやっているGigaさんとはもう長く作品を重ねてきていますが、ふたりの間で、今回より突き詰めたいところなどはあったでしょうか?
Reol:正直、お互いがどういう音楽を聴いて、何がしたいかは阿吽の呼吸でわかるというか。音楽を作る以外のシーンで会話をすることも多いので、今この音楽にはまってるな、とかもお互いにわかった上で制作に入るので。ここはこれをリファレンスにしてとかは、ほぼ必要がないですね。
──では、KOTONOHOUSEさんやGeekboyさんなど新しい方とはどうでしたか?
Reol:KOTONOHOUSEくんとかGeekに関しては、自分自身の個性からかけ離れてない人選をしたつもりですね。たぶん、チェックしてる音楽が自分と似ているだろうし、自分がいいなと思ったものをいいと思う方たちだろうなという勘があって頼んでいるところがある。だから、こちらに寄っていただくというのはなかったんです。好きなブランドが似てるみたいな感覚ですかね。
──好きな感覚が共有できているから大丈夫みたいな。
Reol:そうです、この人もモード系だからみたいな。そういう感覚で近寄っていったので。ここのフィルはどうしたいとか、細かな音符的な話はしますけど、すり合わせとか、大枠での話は特にはしなかったですね。
──KOTONOHOUSEさんはどういったところからの人選ですか?
Reol:私はもともとSoundCloudとかを漁るのが好きで、フューチャーポップとかフューチャーハウスみたいなジャンルがあることも知っていたんですね。ああいうジャンルの方たちの音楽性や音の作りは、とてもボーカロイドに近いんですよ。ageHaでDJをしているようなクラブイベントって、たぶんボカロシーンとも親和性があると思うんだけど、意外と交わらずにきているなと思って見ていて。気になっていたという感じで、お声がけしました。
──実際どんなやりとりをしたんですか?
Reol:一回打ち合わせをして。あとは私、人と会って曲を作ることが基本的にないんです。誰かが部屋にいると曲が作れなくて(笑)。
──そうなんですね。
Reol:はい。データでやり取りをするだけ。誰かが部屋にいると気配が気になってしまって曲ができないので、誰にもいてほしくないんですね。マネージャーさんや友だちとかももちろん無理だし、お母さんとかでも無理なんです。外的なやり取りみたいなものが入ってくると、音楽が作れなくなってしまうので、データを書き出すまでLINEも見ないし。スイッチが違うんでしょうね。人とコミュニケートすることと、自分の孤独から何かを抽出する作業が、工程としてまったく違うから。カメラマンの人が暗室に誰も入れないというのと同じだと思います。
──徹底したプライベートと尋常でない集中力が必要な作業なんですね。KOTONOHOUSEさんが編曲を担当した「白夜」は美しい曲になりました。サウンド的にはどういうイメージで作っていきましたか?
Reol:「白夜」はアプリゲームへの書き下ろし曲だったので、オーダーがあったんです。そのオーダーから、ミドルバラードで壮大な感じを求められているんだろうなと解釈して。BPM 90くらいの曲は、これまで作ってこなかったんですけど、ここで一回やってみてもいいかなと。
──サビで曲の景色がぐっと広がる高揚感やエモーショナルさがあって。そのなかに、“生きろ”という叫びが響くのが印象的です。
Reol:ゲームサイドには1コーラス分をお渡しするという話だったので、2番以降で転調させたりとか。こんな展開になるとは私も思っていなかったんですけどね(笑)。ここまでメッセージ性が強く出てくるとも、あまり思わずに作っていたので、結果としてそうなったという感じですね。
──何が自分からこの強い言葉やメッセージを引き出したと思いますか?
Reol:結構私はニュースなども見るほうだし、世の中の動向を追っている部分もありつつ、自分が仕事やプライベートで人と関わるなかで、どうしてもメメントモリというのは考えることなんです。
──死生観ですか。
Reol:私は17歳の時に父親を亡くしているんですが、死んだ直後くらいに曲を作りはじめるようになって。私にとってすごく人間の死というのが身近にあるというか、その瞬間に身近になってしまったんですね。どうしても切っても切り離せない。初めて音楽を作ったときからずっと、そういうものと自分の音楽が表裏一体にある感覚なんです。
──「白夜」もそうですが、悲しみ苦しみ、孤独を描きながらも、希望が感じられます。
Reol:聴いてくれる人に対して、マイナスとプラスを行き来しながらも結果的にはプラスに振れたいというのはありますかね。それはどんな曲においても。
──「ミュータント」と「Nd60」の編曲をしているGeekboyさんはイギリスを拠点とするプロデューサーでDJで、国内外のさまざまなアーティストを手がける人ですね。
Reol:解散してしまったんですがf(x)というK-POPのガールズグループが好きで。私、クレジット厨みたいな感じなんですよ。ニコニコ動画とかボカロシーンとかで育つと、誰が作ったかというのを見るんですよね。むしろメジャーシーンってミュージックビデオとかでもクレジットをあまり載せなかったりするから、ディレクターとかもちゃんと載せてよって思うことがあるんです(笑)。だからK-POPも、誰がコライトしているかとか、誰が作曲や編曲を手掛けているんだろうと気になって調べていくなかで、私が好きな楽曲、琴線に触れた楽曲にGeekboyが関わっていることが多くて。これはお願いしてみようかなっていう。「Nd60」のような、“THE K-POP”のダンサブルな感じもやりたかったので。すごくマッチしましたね。
──「Nd60」はどういう感じで曲作りが始まっていったんですか?
Reol:ネオジム磁石の存在を知って。このタイトルはそのネオジム磁石の記号なんです。ネオジム磁石は世界最強の磁石と言われていて、なんでもくっついちゃう。なんでもくっついちゃう磁石っていうところから私が妄想したのが、人間にとってのそういうものって、七つの大罪(キリスト教における、人を罪に導く欲望)なんじゃないかなと思って。惹かれたくないけど、惹かれてしまうものっていうのが、タナトスだったり、エロスであったり、怠惰であったり、憤怒であったり。そういうものと近しいと思って。ただ七つの大罪に対して、エモーショナルな切り口で曲を書いている方はたくさんいると思ったので、私はそこをポップに、あまり裏テーマがわからないように書こうっていうのがコンセプトでした。
──言われて初めて気づく感じでした。まず、リズムが飛び込んでくるという心地よさが先にあって、言葉でグルーヴを生むという音的な感覚が強かったので。
Reol:そうだと思います。
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