【インタビュー】川崎鷹也、大切にしたいものや今強く思うことが詰まった2ndアルバム『カレンダー』
■本当に大事なものは学生時代に抱いた希望やわくわく感
■根拠のない無敵感に隠れているんじゃないかなと思うんです
――そのマインドは「Young Song」にもつながるのではないでしょうか? セルフライナーノーツにも“あの頃に本当に大切なものはある気がする。絶対に忘れたくないし忘れてはいけないもの”と書かれていましたし。
川崎:うんうん。学校を卒業してからフリーターをして、会社員になって部下も持って、結婚をして子どもも生まれて――26年間いろんな人生をしてきたけれど、本当に大事なものは学生時代に抱いた希望やわくわく感、根拠のない無敵感に隠れているんじゃないかなと思うんです。やっぱり社会人になると、どうしてもビジネス的観点は切っても切れなくなるじゃないですか。そんなものが一切必要なかった時の気持ちは忘れたくないし、忘れてないか? と問い掛けも含めて作ったのが「Young Song」です。
――以前「サクラウサギ」のインタビューでも高校時代のお話をたくさん聞かせていただいたので、川崎さんにとってその時期は宝物なのでしょうね。
川崎:友達と会うために、笑い合うために学校に行って、放課後にカラオケに行って――何気ない青春時代がすごく楽しかったんですよね。でも過去に戻りたいとは1ミリも思わないんですよ。今の自分の人生がいちばん楽しいと思っているし、“あの時の気持ちを忘れてはいけない”という意味で高校時代が大事なんですよね。
――“あの頃の気持ち”をもう少し具体的に説明していただくことはできますか?
川崎:未来のことも時間のことも考えずに過ごして、友達の家に泊まってジュースとお菓子で朝まで他愛のない話をして……何気ない日々が楽しかった時の気持ちや景色かな。放課後に教室の机の上に座って、夕日が差し込んできたくらいの頃に先生から“帰れ”と言われたり、授業中に居眠りして頭を叩かれたり、“男子さっさと着替えて”と女子に注意される瞬間とか(笑)。文化祭、体育祭、卒業式とかではないんですよ。
――たしかに、大きな行事は大人になっても同じような経験ができるけれど、学生時代の何気ない日々を送ること難しいかもしれません。
川崎:その当時はその良さに気付けなかったけど、大人になると掛け替えのないものになって、でもどんどん忘れていってしまう。大切なのに、すごく儚いものだと思うんです。それを曲として残したかったんですよね。だから自分の曲を歌うと、過去の出来事やその当時の自分の感覚を生々しく思い出すんです。忘れたくないことを曲にしているんだと思います。それはこの先も曲げたくないですね。
――高校入学から10年経った、26歳という年齢だからこそ“あの時の気持ちを残したい”という思いは強くなったところも?
川崎:そうかもしれませんね。とにかく僕が残したいものを曲には詰め込んで。だからそういう意味では、聴いてくれる人に共感してもらいたいとか、自分の気持ちをわかってほしいとか、申し訳ないけれど相変わらず一切思っていないんですよね……。僕の周りにいる大切な人たちがわかってくれればいいというか。日々の思い出や記憶を写真に残すように曲を作っている。それを周りのみんなと一緒に楽しめたら、それでいいんですよね。
――リスナーの顔色をうかがって曲を作らないからこそ、音楽に対してピュアでいられるのではないでしょうか。
川崎:そうなのかなあ……。いつまでピュアな曲歌えますかね?(笑)。
――ははは。これまでのご自分が作った“道しるべ”が教えてくれるはずです(笑)。何気ない日々の大切さは、「ありがとう、ありがとう」にも綴られています。
川崎:当たり前の日々って、もともと当たり前ではなかったものだと思うんですよね。夕暮れの帰り道も、朝のあいさつも、ごはんを食べ終わって二人で“ごちそうさま”と言う瞬間も、月日を重ねていくとどんどん当たり前になって、噛みしめる間もなく過ぎていく日々になってしまう。当たり前でなかったものが当たり前になったからこそ、そういう瞬間を大事にしたいし、そんな時間がいちばん幸せだな……と感じるんですよね。
――この曲を聴いて、大切な人との食事中、空になったお茶碗に無言で手を差し出された瞬間を思い出しました。
川崎:ああ~いいですね! そういうことです!!(笑)。意識せず自然と出てくる目配りや気遣い、心遣いって全部愛情だと思うんです。からっぽのお茶碗に気付くのも、そこに手を差し出すのもそうだと思う。僕はそういう、邪念がない人の行動や自然な愛情で包まれた空気感が好きなんですよね。
――“ありがとう”と感謝を伝えるのはシンプルだけどとても大事なことだと教えてくれる曲だとも思います。
川崎:奥さんに伝えたい気持ちはたくさんあるんだけど、やっぱり着地点は“ありがとう”だったんですよね。“毎日のように愛や感謝を伝えるの恥ずかしくない?”なんて言われたりしますけど、言葉にしないと伝わらないことはたくさんあるし、毎日伝えていくと慣れます(笑)。お互いピースでいられるなら、恥ずかしくても伝えたほうがいいと思うんです。恥ずかしいのは一瞬だけですしね。
――気持ちを言葉で伝えられない赤ん坊のお子さまの立場から、奥様への感謝を伝えたのが「ぼくのきもち」ですよね。
川崎:そうです。やっぱり、育児って大変なんですよ。目を離したら命を落としてしまうかもしれない生き物との暮らしなので、自分たちに掛かる負荷もものすごく大きい。でも彼らは泣くことで自分の気持ちを訴えて、死にもの狂いで生きているし、世の中のママもすごく頑張っている。それで子ども目線の曲を書こうと思ったんです。
――子育てに奮闘するお父さんお母さんを救う曲だと思いました。お子さんがこんなふうに考えてくれているかも、と思うだけで親御さんはだいぶ心が軽くなるだろうなと。
川崎:僕のスケジュールが埋まったことで奥さんの育児の負荷が大きくなって、すごくしんどそうだったんです。育児ノイローゼになる人が多いことにも納得しました。大きな泣き声には“生んでくれてありがとう”の気持ちが入っているんじゃないかな……入っていたらいいな……入っていないと僕らは頑張れません!(笑)。そんなことを思いながら書きました。自分のリアルな子育てを歌詞に落とし込んだ、育児をしているからこそ書けた曲です。奥さんのために書いたけど、聴いてくれたお父さんお母さんが誰かひとりでも“ここまで育てて良かった”と思ってくれたらいいなって。
――赤ちゃんの言葉にならない気持ちを、ゴスペル的な壮大なコーラスで表現するのもロマンチックです。
川崎:ゴスペルっぽくしたいと僕からお願いしたんですよね。本当はいろんな人の声を入れて作ろうかなと思ったんですけど、讃美歌みたいに包み込めるようなアレンジにしたかったので、僕の声で分厚いコーラスと広がりのあるストリングスで構築していきました。どの曲もアレンジチームのみなさんが僕の思いを汲んでくれて、その人でなければできない表現をしてくださったお陰で化学反応が起きました。
――「明日未来」の弾き語りかと思いきや、どんどん仲間が増えてくるアコースティックテイストのサウンドも小粋です。
川崎:SDGsのタイアップ曲でもあるので、かなり広い視点で歌詞を書いていて。“空の下でみんなつながっている”とみんなが思っていればもっと世界が平和になるし、そのメッセージがアレンジでも出せたらいいなと思ったんです。せめて自分の周りの人や、僕の曲を好きで聴いてくれる人には同じような感覚でいてくれたらうれしいな、という思いを込めています。キャンプファイヤーをしながらみんなで手をつないで歌うイメージですね。
――全曲が曲に込められた思いを音で担うアレンジが施されていると思います。ラストの「道しるべ」が弾き語りなのもこだわりなのだろうなと。
川崎:自分の芯にあるものは弾き語りなので、全曲弾き語りで成り立つ曲にしているのと、やっぱり最後の「道しるべ」は自分のギターで締めくくりたかったんですよね。パワーとパッションだけで体当たりする弾き語り曲もあれば、アレンジの力で世界がよりくっきりと色づいた曲もあって、僕も弾き語りでは聴いてくれる方に語るように歌って、バンドアレンジでは音に負けないようにまっすぐ伸びやかに歌うから、歌の全然スタンスも違って。このアルバムで今までの僕とこれからの僕を楽しんでもらえたらなと思います。
――曲によって関わる人や編成が変わったり、ひとりで演奏したり。そういうところも、なんだか川崎さんの日々の暮らしそのもののようですね。まさしくカレンダーをめくるようなアルバムです。
川崎:あ、たしかに。いい表現ですね(笑)。1曲1曲が届きやすい世の中で、リスナーさん一人ひとりがプレイリストを作る時代に、エゴかもしれないけど曲間の秒数までこだわって、ライヴのセットリストのつもりで曲順を考えたんですよね。
――「カレンダー」から「僕と僕」の振れ幅の大きさに、川崎さんのエッジーで型破りな面が出ているなと(笑)。
川崎:あははは。本当は「Young Song」を2曲目にしようか悩んだんですけど、2曲目で一旦弾き語りで内省的な世界に沈めることにしました(笑)。これまでの人生を振り返った曲と、今のリアルな曲と、これからの人生を見据えた曲。アルバム1枚を通して自分のストーリーを感じてもらえたら、そこで何かをもらってくれたらと思います。このアルバムとワンマンで自分のホームに帰って年の瀬を締めくくれるのも良かったなと思っていて。やっぱり僕にとってはステージが大事なんです。まだまだ難しい世の中ですけど、これからも“ライヴっていいな”と思ってもらえるステージができたらと思いますね。
取材・文:沖さやこ
リリース情報
2021.12.15発売
通常盤(CD)WPCL-13349 価格¥2,600(税抜価格¥2,364)
初回限定盤(CD+DVD)WPZL-31924/25 価格¥3,200(税抜価格¥2,909)
<収録曲> ※共通
M1.カレンダー
M2.僕と僕
M3.Young Song
M4.ヘイコウセカイ
M5.あなたへ
M6.ありがとう、ありがとう
M7.明日未来
M8.僕のきもち
M9.道しるべ
◇初回限定版特典映像
・「カレンダー」Music Video
・JKT/MV Shooting Making Movie
・Special Acoustic Studio Live
ライブ・イベント情報
12月18日(土) 東京・ヒューリックホール東京
2022年1月15日(土) 大阪・なんばHatch
チケット
全席指定 ¥6,000
学割チケット ¥4,500
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